Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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02 潜入捜査

04 Vesta (イントロダクション)

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 火曜日が来た。ドキドキしながらバルとミーティングルームで待っていると、俺よりも一回り大きい、アッシュグレイの髪をした男性が入ってきた。そばかすがある。もっと切れ者っぽい人をイメージしていたけど、むしろ飄々とした印象。この人が連邦捜査局の?

「改めてになるけど、ザムザ・ホープです。宜しく。あなたがヴェスタ? 髪の色変えた?」
「どうも……ヴェスタ・エヴァーノーツです。髪は、すぐ色が変わってしまうから染めました」
「バルトロイ・エヴァーノーツです」
「失礼ですけど、対遇?(※同性間の夫婦のこと)」
「それ何か関係あります?」
「いや。ないです……単なる興味」
「……登録の時に面倒だったから俺のファミリーネームにしただけ」

 そう。そうなんだよね。最初にバルのファミリーネームを付けてもらってることを知った時は嬉しかったんだけど。面倒だっただけ。

「では早速。まず、我々はチームなので隠し事はなしで。守秘義務の誓約書に手を」

 三人で誓約書に手を置くと、スキャンされて生体認証された。

「はい。ではこちらの持ってる情報を出しましょう。と言ってもほとんどわかってない。ニュースなんかでやってるのとあまり変わらないね。イレプリカの情報はゼロ。ただヒントは見つかったところ。この子」

 ザムザさんのブリングに一人の少年が映し出される。黒い肌、青い目、金髪。

「彼は先日逮捕された。もともとはAI支配率65%のレプリカントで、とある金持ちの愛玩用だった。解放戦線の襲撃を受けて誘拐されたレプリカントの一人。でも発見時は自分が解放戦線の戦士だと主張。25件目の爆破の実行犯。プログラムの書き換えが疑われる」

 プログラムはパスコードがないと書き換えられない。

「ご存知の通り、パスコードはレプリカント本人しか知らないし、教える気にならないと聞き出すこともできない。どういうやり方をしているのか……これも解明したい。でも第一の目的は、リーダーのイレプリカの確保。居場所が全くわからない。容貌も不明。実は普通に街で暮らしているヒューマンの可能性すらある」
「あいつらはどうやってヒューマンとレプリカントを見分けてるんだろう」
「それもわかってないんだ。でも綺麗にレプリカントだけ攫っていく。例のコードを使ってるのかと思ったんだけど、そうでもない。コードを言っても?」

 バルが頷くと、ザムザさんはへえと言った。

「『DEXM コール パスコード』。これを言うと……」

 ちらとこっちに視線が飛んでくる。

「……本当に平気なんだな。普通のレプリカントならこれを言われると動作が止まって定型で『あなたにはお答えできません』かパスコードを言ってしまうかのどっちかだけど、これで見分けてるわけでもないらしい」
「動作が止まるってどれくらい?」

 俺が聞くとバルが答えた。

「そんなに長くはない。30秒くらいかな」
「これを聞いても動けるなら好都合だ。潜入方法なんだけど、こちらでヴェスタさんの身分証を用意した。あいつらが好きな『技能を無理矢理インストールされて働かされている』身分証だ。この身分をもとに、公開されている連絡用IDにコールしてほしい」

 レプリカント解放戦線では、随時『自由に目覚めた』レプリカントを解放するために、いくつかの連絡用IDを公開している。このIDは海外IDなので購入者は不明。でもコールはできる。

「今までに実は三回ほどコールしたことがある。一度目はヒューマンの捜査官から。二度目と三度目は連邦捜査局で雇用していたレプリカントから。でも戸籍の提示を求められる。一人目はそれで弾かれて、二人目は戸籍はクリアだったが、保証期間内だからだめだった。あっちの言い分としては、保証期間というのはレプリカントの人権を認めていない制度の最たるもんだってことなんだな。それが終わらないうちは仲間に入れないと。
 もう一人は全部クリアで、呼び出しに応じさせてGPSを付けて送り出したが、妨害電波を流してるらしくて追尾できず行方不明になってる」
「じゃあ、俺がコールすれば高確率で中には入れるってこと」
「そうだな。問題は無事に帰って来られるか」

 バルともう少し話をしたいと思った。まだちゃんと頭に入って来ない。

「ザムザさん、すみません。少し時間をいただけますか。バルと……バディとちゃんと考えたいので」
「それは、もちろん。こちらとしてもこの程度しか情報がなくて申し訳ない。あなたのタイミングで構いません。お二人の活躍はさっきファイルを見せてもらいました。すごいね。レプリカントでAIが入ってなくても捜査官なんてできるんだ」
「ホープさん、かなり失礼だな。レプリカントは基本的にヒューマンと変わらない」

 ずっと仏頂面だったバルがますます眉間に皺を寄せて言った。ザムザさんは眉尻を下げてちょっと笑った。

「……いや、悪い。そうですよね。それはよく知ってるんです。でも実際、AIチップなしのレプリカントなんて本当にいると思わなかったのでね…」





「さて。作戦会議だな」

 いつもの通り、バルのブースでバルの隣から端末を覗き込んだ。

 潜入捜査。目標はイレプリカの正体を突き止めること、捕まったレプリカント達の居場所の特定と保護。俺が解放戦線に入りたいレプリカントを装って内部に入り込む。連邦捜査局が用意した俺の身分は第三種公務員、高濃度放射能汚染地域の特殊作業員。AI支配率は25%ということになっている。

「もし、パスコードを言うことになったら」

 ザムザさんと対面で話した時、彼はスタンドアロンのAIチップを差し出してきた。

「これはうち連邦捜査局で秘密裏に作ってもらったレプリカント用AIチップ。これのパスコードを言うこと。間違えずに記憶してもらいたい。八桁の数字とアルファベットの組み合わせになる」

 もしそれでこのAIチップの書き換えが起これば、どんなプログラムになるのかを知ることができる。

「バルは潜入捜査はしたことある? あるか。記者としてインタビューとかやってるよね」
「あんなんはただの下見だよ。言ってるだろ、記者が核心に触れたらだめだって。こんな本格的な潜入はこの部署でやったことないな。GPSが使えないのはやばい。居場所がわからないわけだから、すぐに助けに行くこともできない」
「連絡は無理なのかな」
「いや……」

 たとえば、向こうも普通の通信ができなきゃ困るだろうから、コールしようと思えばできるかもしれない。でもこれまで捕まったレプリカントたちから一切連絡が来ないことを考えると、おそらくブリングみたいな通信機器は取り上げられるんだろう。

「俺たちもめったにやらないけど、皮膚に埋め込むタイプの通信装置がある。5ミリ×10ミリくらいのカプセルになってて、ここ」

 バルが親指と人差し指の間を指した。

「ここに埋め込む。強く押せば音声通話はできる。でも入れる時と抜く時痛い」
「俺は痛くてもいいよ」
「じゃあ、発注しておく。あとは撮影と居場所のプロットができればいいんだけどな」

 たぶん体一つでそれをやるのは無理。じゃあどうすれば?

「まあ無理か……撮影用のバグを付けて歩くことかな」
「撮影用のバグ?」
「超小型のドローン。3ミリ×5ミリくらいのやつ。静止画しか撮影できないけどな。これは在庫がある」

 バルはデスクの引き出しから小さなプラスチックケースを出した。中にカラカラと音がする小さな種のようなものがいくつか入っている。

「アプリで撮影対象を指定すると追尾して一定間隔で撮影する。でも壊れやすいし、本当に虫と間違えられてよくはたき落とされる」
「ふふ」
「ハハ。笑ってる場合じゃねーぞ、頼みの綱だ。あと小さすぎてバッテリがあまり持たない。二日くらいで次々交換しないと。ま、撮影間隔にもよるけどな」
「交換は俺がやるの?」
「お前に同じ設定をかけたやつを持ち歩いて貰うのが一番なんだけど。見つかって取り上げられるかもしれないな……体に仕込めないかユミンに相談してみよう」
「この、特殊作業員て何するの?」
「放射能に汚染された土壌の洗浄と改良。これ」

 バルが端末に動画を映し出す。男が宇宙服みたいなものに身を包み、朽ち果てた建物の隙間を縫うように、何かの薬品をホースのようなもので撒いている。

「放射能が強くて人が住めなくなったところを、放射性元素沈下剤を撒いて放射線量を下げる。この仕事は三ヶ月くらいで交代になるはずだけど、それ以上やると長生きできない。ヒューマンはやりたがらない」
「なるほどね……」
「あとはどう脱出するかじゃないか。ズルズルタイミングを伺うよりは、目的を達成したらすっと抜けるのがいいと思う。状況によるけど。連絡をもらえたら迎えに行くからどこででも抜けてくれ。アラスターにエアランナーを回してもらうこともできるし」

 少しほっとした。バルと話すといつも頭が整理される。不安がふっと軽くなる。自分が何をすればいいのかわかる。やっぱりバルと一緒でなければ自分はダメだと思う。ただ………。

 バルは誰と一緒でも大丈夫なんだろうな。

 局長の言う通り、バルのことをもっともっと加速させることができるような有能な人がそばにいた方がいいのかも知れない。バルから一つ一つ説明されなくても全部わかってて、自分から動けるような人。俺のことをこんなにも動かせるんだから。

「じゃあ、埋め込み式の通信機が届いたらReLFにコールかな」
「たぶん二、三日で来るな。バグも追加で頼むか」

 少し安心してデスクに戻ると、ザムザさんからメールが来ていた。なんだろう。また何かわかったのかな? 開いてみると、良かったら飯でも一緒に、と書いてあり、時間とダイナーのマップが添えられていた。






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