Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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02 潜入捜査

06 Vesta (ファースト・ステップ)

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 ザムザさんからのメールは正直びっくりしたけど、断る理由が見つからなくて、バルに断って二人で夕食に行った。バルではない誰かと夕食を取るのは初めてだった。

 待ち合わせの場所に行くと、ザムザさんが私服で待っていた。くたっとしたジャケット、細身のパンツ。俺をすぐに見つけて大きく手を振ってきた。ステーション近くのかなりがっつりしたメニューのダイナーに入った。

「急に声かけて悪かった?」
「いえ。まあびっくりはしたかな……」
「バルトロイは何も言わなかった?」
「言わないよ、ただのバディだから」

 何で誘われたのかな? ザムザさんは普通にむしゃむしゃと気持ちいいくらいに肉を口に運んでいる。

「うまい! うまくね?」
「うん、うまい。うちはレッダなんだけどあんまり匂いが強いものは作らないんだよね…なんか新鮮」
「なんで?」
「バルが……」

 匂いが強いのがダメで、と言おうとしてはっとした。あまりバルは人に知られたくないんだった。

「あんまり好きじゃないから」
「一緒に住んでんだ?」
「うん、俺のオーナーだし。ずっと」
「家でも職場でも一緒?」
「そうです」

 なんでこんなに聞いてくるのかな。あんまりこういうことを人と話したことがないから、どこまで話すのが普通なのかわからない……。職場の人たちはみんな大体知ってることだから、あらためて誰かに話したことがなかった。

「ザムザさんはバディいないんですか?」

 この人のことも聞いてみる。どういう人なんだろうか。

「ザムザでいいよ。バディはいるよ。でも今はちょっと……」

 彼は困ったような顔をして少し唇の端を上げた。

「留守にしてるんだよね。ちょっと困ったやつでさ。なあ、バルトロイとは去年から組んでるんだろ。どんな感じなの?」
「どんなって……」
「最初からうまくいった?」
「全然うまくいかなかった! もう家でも職場でもピリピリすることたくさんあったし……」

 思わず口をついて出た。そういえばこんな愚痴みたいな話も人にした事がなかった。バルが最初は全然信用してくれなかったこと。自分がレプリカントだからなのかと悩んだこと。悩んでいるうちに腹が立ってきて飛び出してしまったこと。

「はははははは! 家出! 聞いたことない……!」
「だって本当にむかついたんだもん! こっちは必死で考えたのにさあ! 全然聞きゃしないから」
「でもバディは続けたんだ? どうして?」
「だって! なんだかんだ言ってバルがいないとさ……全部バルが教えてくれたし、バルに何度も助けてもらったし、すごく頼りになるんだ。バルがいれば何にも怖いことなんかないって。バルとならさ……」

 ふと、空のワインの瓶がテーブルにあることに気がついた。だいぶ飲んでいた。

「バルのこと、尊敬してるんだ。かっこよくてさ。ほんとにあの人がオーナーでバディで良かった……。だから失敗できないんだよね、今回。俺ずっとあの人のそばにいたいから……」

 バルトロイが好きなんだね、とザムザが言ったのは覚えている。なんて返したのかは覚えてない。でもすごく楽しかった。オートキャリアが日付が変わった頃に家に着いて、ふらふらで部屋に戻った。バルがまだリビングにいたのでびっくりして、急いでシャワーを浴びに行った。酒臭いよなって。

 後のことは覚えていないけど、翌朝目が覚めたら自分のベッドだったのでほっとした。喋りすぎたかも、と思ったけど、ザムザには悪い感じがしなかった。





「結構痛いと思う」
「はい」

 バルの手に自分の左手を差し出す。バルの手は分厚くて大きい。太い注射針のようなものがぶつっと人差し指と親指の間に刺さった。

「……っ」

 さらにぐりっと何かが押し込まれた感触があった。血がつうと流れて落ちる。

「はい。おしまい。しばらく触るなよ。出てきちゃうから」

 バルは俺の手に再生パッチを貼ってくれた。そして続けて自分の左手の同じ場所に、自分で注射針を打った。まゆひとつ動かさない。

「痛くないの?」
「痛い」

 パッチを貼ろうと思っていたのに、針を抜いたらすぐに穴が塞がってしまう。

「耳に当ててみな」

 バルが自分の皮下の通信機を親指でぐっと押した。

「聞こえるだろ」

 バルの声が確かに自分の左手の異物から聞こえる。

「あとで自分でもやってみな。どう押せば通信が入るのか。いつでもなんでもいい。とにかく連絡してこい。焦るな。いいか、一番大事なことは、生きて帰ってくる事」
「うん」

 バグの設定も済んだ。これで行かなくちゃいけない。ザムザにも念のため知らせて、連邦捜査局が用意したブリングを持つ。バルがブースから手を振った。怖い。でも大丈夫。

 頷いて手を振り返した。頑張ろう。

 警戒されないように、一人で街の公園まで出た。コール。コール音と自分の心臓の音が聞こえる。怖い。誰かに繋がる。

『はい』

「レプリカント解放戦線ですか?」

 ちょっと左手の親指の付け根に触れる。大丈夫。一人じゃない。







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