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02 潜入捜査
08 Vesta (空席)
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迎えの自動走行車は窓の外が見えないようになっていた。すでに座標がセットされていて、俺が乗り込むとそのまま滑るように走り出した。
不安だ。
一人で出かけるということ自体があまり無かった。二人乗りのオートキャリアの隣の席の空間。普段ならバルが座っていた。
……大丈夫。いつでも、少なくともバルの声は聞ける。
ブリングの画面を見る。時間がゆっくりと進んでいく。オートキャリアに乗り込んでから四十五分。どこかに車が停まってドアが開いた。
「ようこそ、ヴェスタ」
普通の一軒家に着いた。ここが? 目の前には濃い焦茶の髪の男性と、赤に近いピンクの髪の女性が満面の笑みで待ち構えていた。
「ここで、着替えてくださいね、ヴェスタ。そのブリングも置いてください」
これは想定通り。服を全部着替えさせられる。ブリングも取り上げられてしまう。たぶんもうGPSも機能してはいないだろう。
「あなたは放射能汚染区域の特殊作業員だったの?」
「そうです」
「かわいそうに。辛かったわね。レプリカントはそんな風に、ヒューマンがやりたがらない過酷な仕事を押し付けられてしまう。これを変えないといけない。こちらに来て」
またオートキャリアに乗せられる。服は制服のような印象。軍服?
「どこに行くんですか?」
「私たちのキャンプの一つ。今、百人近くのレプリカントたちが3つのキャンプに分かれてくらしているのよ。そこで次の作戦を考えて、レプリカントたちを救出し解放する」
「すぐに作戦に加わることができるんでしょうか?」
「しばらくはキャンプの生活に慣れてもらわなくちゃね」
キャンプ。30人規模が生活できるようなところが三箇所も。どうして捕捉できないんだろうか。三つとも街中じゃないのは確か。街中なら攫われたレプリカントの画像照合で見つかってる。カメラが設置されてないような辺境なんだ。
どのくらい走ったのか。また車はどこかに止まった。
「ここは第二キャンプ。ここで他のみんなと生活して、まずは慣れてね」
車から降りる。ヤギの声が聞こえた。顔を上げると、畑や牧草地が広がる牧歌的な風景が広がっていた。すごい。
「自給自足しているの。夢みたいでしょ?」
「新しい人?」
奥に見えたクリーム色の建物の中から、すらっとした深い紺色の髪の人が出てきた。
「ヨールカ。これが今日来た人、ヴェスタ。色々教えてあげて」
「よろしくお願いします」
こんな風になってるなんて。まず建物の中に案内された。建物にはホームキープドロイドのガーゴがいて、身の回りの世話をしてくれるけど、基本は集団生活。食事は食堂で食べる。各々の部屋は四人部屋になっていて、ベッドがパーティションで区切られているので、ある程度プライバシーが保たれる。作戦に関与していない間は畑や動物の世話をする。新しく入った人はまずこれ。
「ブリングとか、一切触れないんですか?」
「貸し出ししてるよ。プロジェクションとかも見たいでしょ? 小型のだけどね、自分のベッドで見られるよ。あまり大きな音はやめてね」
「コールはできる?」
「それはできないんだ。機能制限してる。この場所がわかっちゃうようなことはできない。みんなを守るためだからね、わかってね」
なるほど。予想はしていた。やっぱり、一度ReLFの中に入ってしまうと、普通の通信はできないんだ。
「今日はもう遅いから夕食を取って寝てください。ブリングの貸し出しだけ案内するね。シャワールームは食堂の向かい。これは好きに使っていいから」
夕食を食べて早速ブリングを借りる。確かに食堂は二、三十名が一斉に食事できるくらいの席がある。ここにいるのはみんな自分の意思で参加した人たちなのかな? 聞いてみたかったけど、今日は案内役のヨールカがずっと一緒だったから遠慮した。
「あなたの部屋はここ。あなたで三人目の部屋。四人部屋だから、そのうちもう一人入ると思う。えーと……ハイドラ、カッシュ」
ベッドのパーティションの中から、オレンジ色の髪の女性と金髪の男性が出てきた。女性が向いのベッドの上の段から。男性が俺に割り当てられたベッドの下の段から。女性はかなり胸やお尻が大きい。厚ぼったい唇。男性の方は精悍な顔つきで、どこか兵士を思わせる。
「ハイ。メイル? フィメイル?」
「男性タイプです。ヴェスタです」
「よろしく」
「あたしがハイドラ。風俗店のキャストでね。やってられないわって」
「俺はカッシュ。介護用でオーナーのケアをしていたんだが、オーナーが亡くなって」
「俺は第三種で特殊作業員でした……。宜しくお願いします」
頭を下げる。これから色々と聞き出さないと。うまくできるかな……。この間ザムザさん……ザムザと話してて思ったけど、俺って壊滅的に、人と話した経験値が少ない。うその前職もなんとなく言いづらい。
ベッドに入って早速ブリングをつけてみる。説明された通り、こっちから情報発信するようなツールは全て使えなくなっている。でも動画やニュース記事はかなり自由に見ることができる。適当に動画をつける。音はどれくらい漏れるのかな?
下のベッドのパーティションをトントンと叩く。
「何?」
カッシュが顔を出した。
「音が……今ブリングで動画見たいなと思ったんですけど、イヤフォンとかした方がいいのかなって。気になりますか?」
「あ。このパーティション、かなり防音するからそのまま見ても大丈夫だよ。俺も見てたよ。気づかなかったでしょ? 絶叫でもしなきゃ大丈夫」
「ありがとうございます」
と言うことは、バルと話しても大丈夫ということだ。念のために動画を流しっぱなしにしながら、ベッドに潜り込んでぎゅっと親指の付け根を押す。
「バル」
『ヴェスタ』
バルの声を聞いたら、すごく離れてるってことを実感して泣きそうになった。今日の昼間まで一緒にいたのに。
『大丈夫か?』
「……大丈夫。結構環境はいいかも。プライベートなスペースもあるし。やっぱりブリングとか着てきた服とかは全部没収」
『そうか。まあそうだろうな。これとバグは気付かれてない?』
「うん。今のところはね。写真いってる?」
『何枚かはな。でも全くわからん。農場みたいに見えるけど……』
「うん。農場のとなりの研修所みたいな施設にいるんだよ。30人くらいで生活してて、こういうとこがあと二カ所あるんだって。明日から農作業するみたい」
『はは。農作業って。お前できんの?』
「ふふふ、どうだろ。やってみるね」
『がんばれよ』
通信終了。囁くような声。内緒話みたい。胸があったかくなる。たったこれだけのことで。たぶんバルの方はなんとも思ってない。でも安心して眠れる。
不安だ。
一人で出かけるということ自体があまり無かった。二人乗りのオートキャリアの隣の席の空間。普段ならバルが座っていた。
……大丈夫。いつでも、少なくともバルの声は聞ける。
ブリングの画面を見る。時間がゆっくりと進んでいく。オートキャリアに乗り込んでから四十五分。どこかに車が停まってドアが開いた。
「ようこそ、ヴェスタ」
普通の一軒家に着いた。ここが? 目の前には濃い焦茶の髪の男性と、赤に近いピンクの髪の女性が満面の笑みで待ち構えていた。
「ここで、着替えてくださいね、ヴェスタ。そのブリングも置いてください」
これは想定通り。服を全部着替えさせられる。ブリングも取り上げられてしまう。たぶんもうGPSも機能してはいないだろう。
「あなたは放射能汚染区域の特殊作業員だったの?」
「そうです」
「かわいそうに。辛かったわね。レプリカントはそんな風に、ヒューマンがやりたがらない過酷な仕事を押し付けられてしまう。これを変えないといけない。こちらに来て」
またオートキャリアに乗せられる。服は制服のような印象。軍服?
「どこに行くんですか?」
「私たちのキャンプの一つ。今、百人近くのレプリカントたちが3つのキャンプに分かれてくらしているのよ。そこで次の作戦を考えて、レプリカントたちを救出し解放する」
「すぐに作戦に加わることができるんでしょうか?」
「しばらくはキャンプの生活に慣れてもらわなくちゃね」
キャンプ。30人規模が生活できるようなところが三箇所も。どうして捕捉できないんだろうか。三つとも街中じゃないのは確か。街中なら攫われたレプリカントの画像照合で見つかってる。カメラが設置されてないような辺境なんだ。
どのくらい走ったのか。また車はどこかに止まった。
「ここは第二キャンプ。ここで他のみんなと生活して、まずは慣れてね」
車から降りる。ヤギの声が聞こえた。顔を上げると、畑や牧草地が広がる牧歌的な風景が広がっていた。すごい。
「自給自足しているの。夢みたいでしょ?」
「新しい人?」
奥に見えたクリーム色の建物の中から、すらっとした深い紺色の髪の人が出てきた。
「ヨールカ。これが今日来た人、ヴェスタ。色々教えてあげて」
「よろしくお願いします」
こんな風になってるなんて。まず建物の中に案内された。建物にはホームキープドロイドのガーゴがいて、身の回りの世話をしてくれるけど、基本は集団生活。食事は食堂で食べる。各々の部屋は四人部屋になっていて、ベッドがパーティションで区切られているので、ある程度プライバシーが保たれる。作戦に関与していない間は畑や動物の世話をする。新しく入った人はまずこれ。
「ブリングとか、一切触れないんですか?」
「貸し出ししてるよ。プロジェクションとかも見たいでしょ? 小型のだけどね、自分のベッドで見られるよ。あまり大きな音はやめてね」
「コールはできる?」
「それはできないんだ。機能制限してる。この場所がわかっちゃうようなことはできない。みんなを守るためだからね、わかってね」
なるほど。予想はしていた。やっぱり、一度ReLFの中に入ってしまうと、普通の通信はできないんだ。
「今日はもう遅いから夕食を取って寝てください。ブリングの貸し出しだけ案内するね。シャワールームは食堂の向かい。これは好きに使っていいから」
夕食を食べて早速ブリングを借りる。確かに食堂は二、三十名が一斉に食事できるくらいの席がある。ここにいるのはみんな自分の意思で参加した人たちなのかな? 聞いてみたかったけど、今日は案内役のヨールカがずっと一緒だったから遠慮した。
「あなたの部屋はここ。あなたで三人目の部屋。四人部屋だから、そのうちもう一人入ると思う。えーと……ハイドラ、カッシュ」
ベッドのパーティションの中から、オレンジ色の髪の女性と金髪の男性が出てきた。女性が向いのベッドの上の段から。男性が俺に割り当てられたベッドの下の段から。女性はかなり胸やお尻が大きい。厚ぼったい唇。男性の方は精悍な顔つきで、どこか兵士を思わせる。
「ハイ。メイル? フィメイル?」
「男性タイプです。ヴェスタです」
「よろしく」
「あたしがハイドラ。風俗店のキャストでね。やってられないわって」
「俺はカッシュ。介護用でオーナーのケアをしていたんだが、オーナーが亡くなって」
「俺は第三種で特殊作業員でした……。宜しくお願いします」
頭を下げる。これから色々と聞き出さないと。うまくできるかな……。この間ザムザさん……ザムザと話してて思ったけど、俺って壊滅的に、人と話した経験値が少ない。うその前職もなんとなく言いづらい。
ベッドに入って早速ブリングをつけてみる。説明された通り、こっちから情報発信するようなツールは全て使えなくなっている。でも動画やニュース記事はかなり自由に見ることができる。適当に動画をつける。音はどれくらい漏れるのかな?
下のベッドのパーティションをトントンと叩く。
「何?」
カッシュが顔を出した。
「音が……今ブリングで動画見たいなと思ったんですけど、イヤフォンとかした方がいいのかなって。気になりますか?」
「あ。このパーティション、かなり防音するからそのまま見ても大丈夫だよ。俺も見てたよ。気づかなかったでしょ? 絶叫でもしなきゃ大丈夫」
「ありがとうございます」
と言うことは、バルと話しても大丈夫ということだ。念のために動画を流しっぱなしにしながら、ベッドに潜り込んでぎゅっと親指の付け根を押す。
「バル」
『ヴェスタ』
バルの声を聞いたら、すごく離れてるってことを実感して泣きそうになった。今日の昼間まで一緒にいたのに。
『大丈夫か?』
「……大丈夫。結構環境はいいかも。プライベートなスペースもあるし。やっぱりブリングとか着てきた服とかは全部没収」
『そうか。まあそうだろうな。これとバグは気付かれてない?』
「うん。今のところはね。写真いってる?」
『何枚かはな。でも全くわからん。農場みたいに見えるけど……』
「うん。農場のとなりの研修所みたいな施設にいるんだよ。30人くらいで生活してて、こういうとこがあと二カ所あるんだって。明日から農作業するみたい」
『はは。農作業って。お前できんの?』
「ふふふ、どうだろ。やってみるね」
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