Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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03 トライアル (1)マリーン探し

02 Vesta (払い下げ)

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 何度見たかわからないファイルをまた開いてみる。

 マリーン。30%のレプリカント。現在の登録は第三種公務員。連邦捜査局の受付職員だった。インストールされている技能は秘書技能、会計書記、接遇。3年前から連邦捜査局で働き、半年前にレプリカント解放戦線に入った。

 先日のイレプリカの逮捕劇で、各地のキャンプにいたレプリカントのうちAIが書き換えられたもの、無理矢理連れてこられていた者はレプリカント人権保護局に保護され、AIをデフォルトに戻され元の職場に返された。
 でもマリーンは見つからなかった。ReLFのメンバーにも居場所がわからなかった。だからマリーンはそれっきり。どこにいて何をしているのかわからない……。

 だいぶ探した。画像検索はもちろんしたし、コールもしてみた。ReLFの幹部で逮捕されたレプリカントにも面会に行って尋ねもした。でもわからなかった。
 マリーンは次の標的となる企業の選定待ちで、一般のレプリカントのふりをして街の人たちに紛れ込んでいた。そこでReLFが瓦解してしまったので、彼女はただ放り出されてしまったのだ。
 プログラムを書き換えられているというのがどのくらい記憶に影響があるのかはわからない。でも彼女は戻っても来なかった。

 手詰まり……。

「ねえ、バル。画像照合しても全然最近のが引っかからないのってどういうこと?」
「いくつか考えられる。一つには防犯カメラがあるような街に寄り付いてないんじゃないかってこと。二つ目は死んでる。三つ目は引きこもってる。要するに、画像を撮影されない生活さえしてりゃ出てこないよ。後は物理的に顔が変わったとかな。でもこれは骨格ごと変わらないとな」
「じゃあさ、もしプログラムが書き換えられたら、記憶もなくなってしまうと思う?」
「人工脳の記憶領域にある思い出なら残ってるんじゃないか。実際、ラライサには残ってたみたいだよ」

 どうしよう。バルに話してみようか? バルに話したら一瞬で見つかったりして。

「どうした? ReLFの話?」
「うん。えーと、ReLFにいた人で、他のみんなが保護された時には見つからなかった人がいるんだ。どうしてるのかなって」
「ふーん。保護対象だな。調べてみよう。今ちょうど大した案件もないし」

 基本の画像照合とコール。コールは通信不能。きっとReLFに入ったときに取られたままになってるんだろう。

「ブリングは持ってるんだろうけどな。ReLFからの連絡も取れなくなるだろ。個人IDに紐づいたやつは返してもらってないんだ。プリペイドのやつを買ってるのかも」
「そっか……。どうすれば連絡取れるかなあ」
「連絡を取りたいのか? 保護したいんじゃなくて?」
「両方かな?」

 ふっとバルが笑った。なんだそれ。友達?

「友達っていうか……」

 バルは自分のデータをぱっと開くと、検索をかける。マリーン・トーマソン。四年前に作られたレプリカント。女性型で、綺麗な人だ。豊かな金髪。深い青い目。オーナーはマドラ・デュナン。

「別なプログラムに書き換えられても記憶があるなら、オーナーのところに行ったかも知れない」
「え……でも三年も前に」
「うん。マドラ・デュナンはマリーンを政府に払い下げてる。ただ、政府が引き取ったからって記憶を消すわけじゃないからな。実際、第三種になってからオーナーに会いに行ってストーカー行為で逮捕されるレプリカントもいる」
「……」
「というか、はっきり言って他に手がかりがないんだよ。とっかかりはなんでもやってみよう」

 マドラ・デュナンにコール。出ない。

「仕方ない。応答待ちにしておこう」
「……あのさ、保証は一年でしょ? 政府への払い下げは? 期限はあるの?」
「ないんだ。いつでも。でも実際は、やっぱり発注してからまあ、3年以内くらいが多いよ。それ以上になるとレプリカントの方も手に職を付けてたりして、払い下げられるよりは出ていきますってなるみたいだな」

 そうなんだ。

 自分ではそういうことをなるべく調べないようにしていた。だって嫌だもん。バルと離れる話は。それに、俺はAIチップが入ってないから、他のレプリカントたちみたいに後から仕事の技術をインストールしてもらうことができない。バルから離れたら、生きていけないんじゃないかと思う。そんな替えの利かないレプリカントなんて。

「おい、なんて顔してんだよ。お前には関係ない話だ。払い下げる気はねえよ」
「あ、うん。いや……マリーンはどうして払い下げられたんだろ」
「さあ。びっくりするくらいつまんないことで払い下げるやつもいるし。金がそこそこあればまた発注できるからな……そこは考えなくていいんじゃねえの?」

 バルにはわかんないよね。俺たちにしてみれば他人事じゃない。ReLFに行ってわかったことは、俺たちはみんなオーナーから離れたら行き場所がないってことだ。ヒューマンがどうこうとか、思想がどうこうであそこにいた人は一人も見なかった。オーナーがいなくなったり、ひどい扱いをされてどうしたらいいかわからなくて来た人ばっかりだった。

 何で捨てられるのか、何が悪かったのか……。いつだってそれは最大の関心ごと。
 今はバルは払い下げないって言ってくれるけど、例えば俺がもうバディの仕事をできなくなったら? もっといいバディが──例えばバルと同じようにハイブリッドの人が現れたりしたら? 俺はどうやって生きていったらいいんだろう。

 折り返しのコールがある。バルが取る。マドラ・デュナンだ。

「こんにちは。折り返しありがとうございます。レプリカント人権保護局のA492090rpです。少しお伺いしたいことがあります」
『レプリカント……マリーンのことですか』
「はい。マリーンさんはそちらにいらっしゃいませんか? 訪ねてきたりとか」
『彼女が? こちらには来ていないです。あの…実は、マリーンにまた会いたくて。こちらでも探しているんです。見つかったら居場所を教えていただけないでしょうかね? 払い下げた後は一切教えてもらえなかったものですから』
「……それはできないですね。基本的に、払い下げるというのは」

 バルの声は落ち着いていたが、少し怒っているのがわかった。

「もう不要であるということですし、その判断をされたわけですよね。マリーンさんご本人があなたに会いたいと希望されれば別ですが、こちらが積極的にあなたにお知らせすることはありません」
『……ですよね』

 コールはそこでぷつりと切れた。

「ああ。しまったな。印象悪くしちまった。もしマリーンが訪ねてきても教えてくれないぞ」
「でもすっとした。ありがとう」
「次はお前がかけたらいいのか。知らないふりして」
「ふふ」

 改めて彼女の画像を眺める。綺麗な人だ。目元が優しい。こんな綺麗な人でも……。

「お前がもし、ぽんと放り出されたらまず何をする? 何に困る?」

 バルが急に聞いてきた。そんな。

「露頭に迷うよ。何から手をつけたらいいのかすらわからないな」
「そうかな? お前は結構うまくやりそうだけど……ちょっと真剣に考えてみな。今までは誰かの指示で動いてたわけだ。でもある日ぷっつり指示がなくなる。連絡も来ない。どうする?」

 うまくなんて何もできない。バルがもし話してくれなくなったら。

「……知ってる人に聞いてみるかな……何か知らないか」
「なるほど。次は? 知り合いもわからないって言ったら?」
「会いに行く……」
「誰もいなかったら?」
「えーと……とりあえず生活を続ける? たまに連絡してみたりとかしながら」
「ふむ。そうすると何に困る?」
「うーん、お金かなあ。働かないといつまでも暮らしていられないよね」
「だよな。レプリカントの女性が比較的簡単につけて、しかもプリペイドのブリングでも大丈夫な職は……」
「……風俗」

 バルは端末でまた別なリストをぱっと開いた。キャンディ・ロリータ、バニーズヘイブン、ドールズホール……いかにもな店名がずらりと並んでいる。

「これはレプリカントを雇用してる風俗店のリスト……一部だけどな。こっちに隠れて雇ってるところは腐るほどある。そもそもマリーンはレプリカントであることを隠してるかも知れない。でもないよりマシだろ。コールと画像で確認したいところだけど、直球で聞いても教えてくれない。店の方は店子を手放したくないからな。どう聞くかって話」

 どう聞くか。自分のところにマリーンがいると話したくなってしまうような尋ね方……。

「雑誌の取材とか? 金髪・ブルーアイ……条件にあった子の紹介をお願いする?」
「いいね。リストの下から半分に俺がコールするから、お前はリストの上から半分にかけてくれるか」

 条件は金髪、ブルーアイ、背が高いこと……。マリーンは175センチある。女性としては目立つだろう。

「こんにちは、『キュリオシスタ』という雑誌の記者ですが、ご相談がありまして、よろしいでしょうか」

 次々にコールしていく。すぐに条件通りの店子の画像を返してくれるところもあれば、少し待ってくれと言われることもある。驚くほどたくさんの金髪・碧眼の女性がいる。みんなレプリカント? 画像の中で艶やかに微笑む女性たち。

 俺もバルから捨てられたら、こんな仕事するのかな?

 まだレプリカントがいなくて、世界歴を使ってなかったくらい昔はこういう仕事は殆どが女性の仕事だったらしい。今は男性も女性も同じくらいやっている。誰か知らない、初めて会うような人とキスしたり体に触れ合ったりする仕事……。考えてぞっとした。嫌だ。受け付けない。

「こんにちは、レプリカント人権……あ」

 間違えた!

『はい? レプリカント? 何?』
「……あの」
「すみません。雑誌のキュリオシスタの記者なんですが、今レプリカントの風俗店の特集記事を作ってまして、どなたかキャストをご紹介いただけないですか?できれば金髪とか画像映えする子がいいんですけど」

 バルが横からさっと割り込んでくれた。ごめん……。

『そういうことなら、ちょっと声かけてみますんで。折り返しますね』

 コール終了。

「どうした? 油断?」
「ごめん! ありがとう」
「まあ、毎日コールしまくってるもんな。仕方ねえよ。俺もやったことある」

 変なことを考えるからだ。焦ったから髪が白っぽくなる。もう……。でも、風俗に行くのは嫌だ。何かできることを探さなきゃ。


 一日でものすごい数の金髪・碧眼の女性の画像が集まった。各店舗に必ず一人はいたし、ある店では大半がそうだった。人気があるんだ。

「うーん……」

 画像を見ながらバルが唸った。下着姿の女性たち。トップレスのもある。なんだか落ち着かない。

「いねえな。レプリカントなのを隠してるのか、こっちが知らない店にいるのか、別な仕事してるのかな」
「他にどんな仕事につけるのかな?」
「そうだな……資格がありゃ介護、看護。あれは機械だと嫌がる人がいるからいつでも人手不足。男なら土木系かな……」
「土木? そんな仕事、アンドロイドとかロボットがしてるんじゃないの?」
「大手はね。人間にやらせない。でも今でも日雇いで人力でやってるとこも多い。アンドロイドやロボットを使おうと思えば現場に合わせてプログラムを組めるエンジニアやプログラマが必要になるだろ。そういうのを雇って設備投資するよりは、食い詰めの労働者で回すってとこは今でも沢山ある……使い捨てだ」

 バルが画面から画像を消した。

「別な手を考えないとな」
「ごめん。俺のことなのに」
「暇よりはましだ。探そう。気になるんだろ。保護対象には違いないんだから。謝るなよそんなことで」





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