Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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03 トライアル (2)エア・ランナー

06 Vesta ("make" love)

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 一度キスして、その次の週もアラスターは同じように長いキスをした。その次の週は当直明けだったから練習はなし。二回目はあまり驚かなかったし、涙も出なかった。一回目は泣いてしまって、アラスターがものすごく慌てて申し訳なかった。家に帰ってバルの顔見たらまた涙が出てきた。

 あれは何だったんだろうな。

 そして、今日だ。今日は整備をするんだって。フライト時間には入らないけど、やらないと受験できない。説明も聞かなきゃならないし、実物も見ないとダメ。だからアラスターの家に行く。

 十時半に家の前に無人のオートキャリアが迎えにきてくれて、乗るともう座標が設定してあった。アラスターの家は近い。ここも社宅なのかな?

 停まったところで降りると、アラスターが目の前に立っていた。

「待っててくれたの?」
「何階なのか言ってなかっただろう」

 すっと手を取ってエレベーターに連れて行ってくれる。変な話だけど、アラスターといるとお姫さまになったような気持ちになる。お伽話のやつ。アラスターの部屋は最上階だった。

「ここも社宅?」
「ううん。ポートがあるところじゃないとだめだから、自分で借りてる。おいで」

 招かれて入る。広い。南側が半円形の出窓になっていて、コックピットみたい。街が見下ろせる。ワンルームだけど、広さがあるからゆったりしている。

「すごい! この部屋が空を飛んでるみたい」
「はは。そんな感じなのが気に入ってね。喉乾いてない? 何か欲しかったら言ってね。うちのホームキープドロイドはランプだよ」

 間仕切りや観葉植物で空間が少し区切られている。観葉植物の影、左手の奥に大きなベッドが少しだけ見える。右手側にプロジェクションとソファがある。ソファに座るように促される。

「ランプ、コーヒーをくれるかな。今日はお客様もいるよ」
「承知しました。大切なお客様ですね」

 ふふ。うちのレッダならなんて言うかな。承知しましたとか、聞いたことないな。ホームキープドロイドは家によって性格が違うみたい。

 すぐに真っ白なカップにいい香りのコーヒーが注がれて運ばれてきた。アラスターがソファの前のローテーブルに受け取る。

「ゆっくりやろうか。整備はそんなに難しくないよ」
「どのくらいできないとだめなの?」
「できないと死んじゃうってレベルかな。必要最低限」

 アラスターが自分のブリングを開いた。動画が流れ始める。「エアランナーが故障したと思ったら」。

 まずスタート時のエラー表示の内容。燃料切れ……燃料を入れること。レベル不正……ランナーの下に何も挟まってないか確認すること。何かあれば取れば解決。マップ受信不能……通信をリセットしてみること。それでだめならコールセンターへ。操縦桿のロックが外れない時……。

「一番はこれね」

 アラスターが緊急事態のところに差しかかったとき、ブリングを指さした。

「緊急脱出の方法は覚えておいて。ランナーごと落ちたら死んでしまうからね」

 脱出は座席ごと。シートベルトを確認し、座席を一番後ろまで下げてエマージェンシーボタンを押す。座席にパラシュートが内蔵されていて、ある程度の高度になると勝手に開く。

「これは絶対テストに出る。後で本物も確認するよ」
「はい」

 一通り説明動画を見終わると、屋上のポートにランナーを見に行った。アラスターのランナーはいつもぴかぴか。

「アラスターが磨いてるの?」
「ランナーお掃除マシーンはないからね」

 好きなんだな。ほんとに。座席について一番後ろに席をずらしてみる。エマージェンシーボタンはモニタの真横にあった。何度も乗っているのに気が付かなかった。

「モニタが生きていれば、モニタにもエマージェンシーボタンが表示されるはず。どっちを押しても構わない」
「はい」

 屋上には、他にも何台かランナーが停められていた。アラスターのと同じくらいのが多い。

「ここはワンルームだから一人か二人で住んでる人ばかりなんだ。エアランナーも小型だね」
「そうなんだね」

 飛ばないのがもったいないくらい天気がいい。午後から飛びたいな。アラスターに促されて部屋に戻る。ランプがサンドイッチを用意していた。

「ありがとう!」
「どういたしまして。いつでもどうぞ」
「ふふ」
「どうしたの? ヴェスタ」
「アラスターに似てる。ランプが。礼儀正しいところとか」
「そうかな? でもそう言う話は聞いたことがあるね。ユーザーに似てくるって」

 レッダもそうなのかな? バルに似てる? バルと二人だけで何か話してる時があるよね。何を話してるのかわからないけど。

「先週当直だったの?」
「そう。初めて。本当は去年のうちに入らないといけなかったんだけど、出張の任務とか入っちゃってうやむやになって」
「バディと二人で?」
「うん。でも結構遅くまで仕事してる人いるし、バルは寝ろって言うから普通にただ泊まって帰ってきた感じ」
「はは。いいねそれ」
「ほんとはだめだよね? そんなの。バルに悪かったなあ」
「いいんじゃない? バルは体力あるからね。起きててもあまり辛くないんじゃないかな」

 そうなのかな? バルの体のこと、実はあまりよく知らない。ハイブリッドで検索してみたけど、遺伝子の発現は人それぞれで、一律ではないってことしかわからなかった。わかるのは、バルは傷の治りが早くて嗅覚がすごいってことくらい。あとは歳を取らないらしいこと。

 俺たちレプリカントも歳を取らない。テロメアっていう細胞分裂をカウントする構造がヒューマンと違っていて、摩耗しないようになってるから。

 アラスターの顔を見る。アラスターはヒューマンで年齢調整してないから、年相応に老いている。目元の細かい笑い皺。皮膚が張りをなくして柔らかくなっている。二重が深い。でも優しいいい顔。

 どんな過ごし方をするとこんな顔になるのかな。こんな聖人みたいな。俺たちは経験や年齢を姿に重ねていくことはできない。

「どうしたの?」

 アラスターが俺の視線に気がついた。慌てて目を逸らす。

「ごめん。アラスターってどういう人なんだろうって思って」
「そうだね。そういうの全然話してなかった。でも俺は別に話すこともないんだ。昔から空を飛んでみたくて、結果的にパイロットになっただけだよ」
「どうして空を飛んでみたかったの?」
「気持ちよさそうだったから。単純にね。空を飛ぶ夢って見たことない? 好きなところに気分良くさ。あれを現実に持ってきただけ」
「いいね。夢を実現したんだ」
「文字通りにね」

 アラスターが俺の髪に手を伸ばした。少し緊張する。三度目なのに。次に何が起きるかはわかってる。キスだ。ちゅっと小さな音がする。一度唇が離れる。次はもっと深くなる。舌先で口の中を嬲られる。アラスターが覆い被さるようにソファに俺を優しく押し付ける。

「……っ」

 服の中にアラスターの手が入り込む。

「アラ……ス…タ……」

 待って。待って? アラスターの目がちらっとこっちを見る。待たない。目がもう待てないと言っている。

「は………! やめ……」

 荒い息をしたアラスターは、かちゃかちゃとベルトを外して俺のボトムを引き下ろした。少しだけ熱を持ち始めたそれを口に含む。

「!」

 熱い口の中。転がされて吸われる。先を舌が割るように舐める。嘘………。脚が震えて、アラスターの頭を挟んでしまう。手が明るいブラウンの髪を掴む。やめて! 声にならない。ジュ、ジュといやらしい音が聞こえる。恥ずかしい。指がじわじわと入ってくる。待って。待って……

 ぴたっとアラスターが止まる。ほっと息をつく。やめてくれた……。次の瞬間、がばっと抱き上げられる。植物の影の広いベッドにゆっくり降ろされて、目尻の涙を拭かれる。そしてまたキス。

「ヴェスタ。好きだ。愛してる」

 そんなことを言われると……。

 アラスターが手に何かを塗る。その指をまた中にゆっくりと入れてきた。滑らかに入ってくる。

「………あ!」

 また、今度はもう勃ってしまったそれを舐め上げられる。指がかき回す。頭がめちゃくちゃになる。散らばる。アラスターも服を脱いだ。ああ。優しいキス。 

「ごめんね、もう我慢できない。君の肌が……」

 ずんと入ってくる。目がチカチカする。

「……すぐいっちゃいそうだ」

 アラスターの言葉に耳が犯される。小刻みに、時々大きく中を突かれる。

「……は……ん…んっ」
「声を聞かせて……ヴェスタ。我慢しないで」

 だって。こんな……。

 半円の出窓から日差しがさんさんと降り注いでいる。ベッドの軋む音。肉と肉のぶつかり合う音。

「あ……」

 俺は何をしているの?

 涙がシーツに落ちていく。アラスターが首筋を強く吸う。いやらしい腰の動き。来るのがわかる。アラスターも上り詰めている。

「ヴェスタ! 愛してるよ」

 俺の体を包むようにアラスターの体が覆う。中に溢れるほど出されたのがわかる。俺もアラスターの腹を汚している。キス。まだ中にあるアラスターのが、また芯を持ってくる。

「もう一回……いいか…な?」

 腰が溶けそうに熱くなっている。熱く潤んだアラスターの瞳。祈るような声。この人は俺のことを本当に愛してるんだ。俺も応えないといけない。

「うん……いいよ」

 アラスターの背中に腕を回す。

「っ……あ……」

 じゅぷじゅぷと出し入れされるたびに卑猥な音が聞こえる。体を捩る。片足を抱えられて横から入れられる。肩を優しく噛まれる。

「……ふ」

 深いため息。指が体中を撫でていく。

「ヴェスタ……」

 俺のことが好きなんだね……。

「俺もアラスターが好きだよ」
「……ッ」

 ぐっと背中から抱きしめられる。痛いくらい。本当に、好きだよ。








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