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03 トライアル (2)エア・ランナー
08 Vesta (罪悪感)
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ホルスターのカバーを開ける。まだ銃には触れない。目の前にホログラムで数字が浮かぶ。テンカウント。3・2・1……
ゼロ! 銃を引き抜いて飛び出てきた的を撃つ。当たると的が跳ねる。いくつかは外した。一分間、次々に的があちこちから出続ける。だんだん反応が鈍くなる。あともう少し……最後の一体を外す。ブザーが鳴る。エンド。
「どうしたヴェスタ」
横で見ていたバルが茶々を入れる。先週の約束通り、バルに射撃場に連れてきてもらったけど、かなりスコアが低い。半分当たってない。
「やばい……」
しばらくやってなかったから。でも銃撃戦になるような現場に同じく行ってないはずのバルは9割当てている。膝に手を置いて肩を落とす。我ながら、これは駄目だ。
「もう一回」
「待てヴェスタ。これ付けて」
バルが手のひらだけのグローブを渡してくれた。
「どうして?」
「お前、軽いから銃の反動が大きいんだよ。俺の倍疲れるんだ。それは衝撃を吸収してくれるやつ。試しにつけてみな」
嵌めると掌底が厚くできている。しっくりくる。
「それから」
バルが後ろに回って俺の両腕を取る。構え。
「ほら。お前右の肩が下がってる。肘も伸びてない。気が付いたか?」
「わかんなかった」
「これでやってみな」
バルはぽんと両肩を叩いてまたセーフゾーンに戻った。髪の色が変わる。アラスターと付き合ってるのに、バルが触れると緑色になってしまう。
また一分間のトライアルが始まる。ホルスターから銃を抜いて構える。グローブのおかげで格段に楽になった。撃っても肩が揺れない。ぶれないから落ち着いて撃てる。かなり当てられている感じがする……ブザー。スコアが出る。
「すごい上がった……」
76。ほっとした。でもまだまだ。
「もう一回」
「休みな。ただ繰り返しても駄目だ」
「でもすごい下手くそになっちゃったから」
バルはちょっと考える仕草をした。
「じゃあ、楽しくやろう。今日は休日なんだからさ。来いよ」
ぱっと射撃場を出てしまったバルを走って追いかけると、彼は呼んでいたオートキャリアの行き先を変えた。セントラルゲームセンター。ブースに入る。
「セーブデータは全部アラスターが持ってるんじゃないの?」
「うん。だからって俺たちがニューゲームしちゃいけないわけじゃないだろ」
バルが自分のカードをリーダーに読ませる。
「何モードにする? ベリハ?」
「ふふっ」
バルはにやっと笑って本当にベリーハードを選んだ。
「これが一番難しいの?」
「これをクリアするとエクストリームってのが出るらしい。ほんとか嘘か知らないけど、それをクリアするとヘルってのが出るんだと。ほら。訓練。ホルスターに銃を収めろよ」
ゲームが始まる。シーンはノーマルと同じジャングルだけど、めちゃくちゃ動きが速いゾンビが突然飛び出してくる。ホルスターから抜いて撃つ。
「頭。ど真ん中だぞ」
「わかってる」
3発連射して一発当たる。ちゃんと当てないと。リロードばかりしていられない。
「肩を下げるな。両肘を伸ばしてグリップ。絞れ!」
「はい!」
クリティカルのコンボが出る。いい感じ……これはモデルガンで反動がないからだけど。すごいスピード感。敵の動きが早いから、進むのも速い。木々をかき分けてボスが出てくる。
「覚えてるか? 弱点」
「ノーマルだと頭」
「3面までは同じだよ」
攻撃後の硬直中に二人でボスの頭を蜂の巣にする。あっという間にクリア!
「え? ベリハ?」
「お前うまいよ」
バルが手のひらを俺に向ける。ハイタッチ! 続けたかったけど、オートキャリアの予約が解除になってしまいそうだったから家に戻った。頭が空っぽになった。楽しかった。
ブリングにメールが来ていた。アラスターからで、明日は雨で風もあるけどやってみる? とあった。アラスターに会うのは嫌じゃない。一緒にいて楽しい。セックスも気持ちよかった。エアランナーの練習も進めたい。でもどうしてなんだろう。
後ろめたい。
雨が横殴りに降っていた。屋上の庇の下で待っていたけど、かなり濡れてしまった。こんな中飛べるかな? 俺。今日は何時間飛べるんだろう。早く免許を取ってしまいたい。
どうして? アラスターが好きなのに? 免許を取れなければずっと一緒にいられるのに? 自分の気持ちがわからない。ひゅうと軽い音がして、灰色の雲の下に真っ白なエアランナーが現れた。アラスターだ。笑顔を作って駆け寄る。
「待った? ごめんね。ポートで動かなくなっちゃったランナーがあってなかなか飛べなくて」
大きな手が差し出される。手を伸ばすとぐんと力強くコックピットに引き込んでくれる。会うと嬉しい。
「思ったより風が強いね。難しいかも知れない」
「でもやってみる」
かちんとロックを外す。風の圧が手のひらに来る。ゆっくりと操縦桿を引く。風を押さえ込むように。重い。加減を忘れそうになる。途中まで上がる。もう少し。機体がぐらっとする。もう少し……。高さは足りたけど、オートが入らない。
「雨と風だからオートは無理かも知れない。マニュアルでやる?」
「やる。目的地は?」
「この天気だからね。ご飯食べに行く感じにしようか。イーストロードはどう?」
「行ったことない」
「じゃ、行こうか」
操縦桿を抑えながらマッピングして飛ぶ。オートは入らないけど、風は一方向だからなんとか飛べる。
「高度に気をつけて。雨の日は知らないうちに下がってることがある」
今日は気をつけなきゃいけないことが多い。返事をする余裕がない。近くに他のエアランナー。これにも注意しておかないと。黙々と操縦してしまう。三十分のフライト。ポートに停まれるのがまだまし。雨の中着陸するのは得意なことに気がついた。
「は……できた」
「集中してたね」
「限界かも。これ帰りもって考えると」
「食べて少し休んでから考えよう。俺が運転してもいいんだよ」
レストランは食べたことのない外国の料理だった。東の方にあった国の郷土料理だったんだって。
「面白い野菜。見たことない。不思議なにおいだね。バルは食べられないかもなあ」
「バルはね。外国のよくわからないものはだめかも知れないね。ハーブでも平気なものもあるみたいだけど」
「面白いよね。あじさいの葉っぱのにおいもだめなんだよ。あじさいの葉っぱのにおいって言われてもわからないよ!」
「ははは。世界が違うよね。大変そうだなと思うけど」
いつかバルにも試してみて欲しい。アラスターといろんなところに行ったけど、バルも連れて行きたい。バルにはどんなふうに見えるのか教えてほしい。
「ねえ。その髪はどうなってるの?」
「え?」
「今、青緑から緑色になった。どうだとそうなるの?」
「ああ。これは……」
嬉しいと、緑に。
バルの話をしたから。バルのことを考えたから。
「……俺にもよくわかんないんだ。いつの間にか変わってるんだよ」
ピカッと光った気がして窓の外を見た。雷の音。近い。
「ひどい天気になったね。帰りは俺が運転するね」
「そうだね。お願い」
「……うちに寄ってもらってもいいかな? ちゃんと送るから」
「うん」
久しぶりに後部座席でエアランナーに乗った。バケツをひっくり返したような雨と雷。こんな中でもアラスターは飛べるんだね。
まだ昼間なのに街は暗い。雨が流れるガラスの向こう側で、ビルの窓窓に明かりがついている。ぼんやりと眺めていた。
「どうしたの? 黙り込んで」
「すごい雨になっちゃったなって。それに、俺がうるさいと気が散るでしょ?」
「大丈夫だよ。なんなら雷が当たっても大丈夫」
「そうなの?」
「放電するようになってるから」
またピカッと光る。しばらくしてがらがらと音が追いかけてくる。考えないようにする。何も考えない。
アラスターの家に着く。南の半円の窓も滝のような雨。途切れない水の流れの向こうに街が歪んで見える。
「ヴェスタ。いい?」
後ろからアラスターに抱きしめられる。雨の音さえ入らない部屋。唇を重ねる音だけ。大きな清潔なベッド。考えない。ただ集中して。
──集中して。
──余計なこと考えんな。集中して。
「………っ」
──まだいねえか。好きなやつなんて。ほんとは好きなやつとすることなんだぜ、これ。
考えないで。思い出したくない。
「好きだよ」
考えちゃだめ。この優しい人を傷つけたくない。俺はこの人が好きなんだから。
「……俺も好き」
これがバルだったらなんて。
ゼロ! 銃を引き抜いて飛び出てきた的を撃つ。当たると的が跳ねる。いくつかは外した。一分間、次々に的があちこちから出続ける。だんだん反応が鈍くなる。あともう少し……最後の一体を外す。ブザーが鳴る。エンド。
「どうしたヴェスタ」
横で見ていたバルが茶々を入れる。先週の約束通り、バルに射撃場に連れてきてもらったけど、かなりスコアが低い。半分当たってない。
「やばい……」
しばらくやってなかったから。でも銃撃戦になるような現場に同じく行ってないはずのバルは9割当てている。膝に手を置いて肩を落とす。我ながら、これは駄目だ。
「もう一回」
「待てヴェスタ。これ付けて」
バルが手のひらだけのグローブを渡してくれた。
「どうして?」
「お前、軽いから銃の反動が大きいんだよ。俺の倍疲れるんだ。それは衝撃を吸収してくれるやつ。試しにつけてみな」
嵌めると掌底が厚くできている。しっくりくる。
「それから」
バルが後ろに回って俺の両腕を取る。構え。
「ほら。お前右の肩が下がってる。肘も伸びてない。気が付いたか?」
「わかんなかった」
「これでやってみな」
バルはぽんと両肩を叩いてまたセーフゾーンに戻った。髪の色が変わる。アラスターと付き合ってるのに、バルが触れると緑色になってしまう。
また一分間のトライアルが始まる。ホルスターから銃を抜いて構える。グローブのおかげで格段に楽になった。撃っても肩が揺れない。ぶれないから落ち着いて撃てる。かなり当てられている感じがする……ブザー。スコアが出る。
「すごい上がった……」
76。ほっとした。でもまだまだ。
「もう一回」
「休みな。ただ繰り返しても駄目だ」
「でもすごい下手くそになっちゃったから」
バルはちょっと考える仕草をした。
「じゃあ、楽しくやろう。今日は休日なんだからさ。来いよ」
ぱっと射撃場を出てしまったバルを走って追いかけると、彼は呼んでいたオートキャリアの行き先を変えた。セントラルゲームセンター。ブースに入る。
「セーブデータは全部アラスターが持ってるんじゃないの?」
「うん。だからって俺たちがニューゲームしちゃいけないわけじゃないだろ」
バルが自分のカードをリーダーに読ませる。
「何モードにする? ベリハ?」
「ふふっ」
バルはにやっと笑って本当にベリーハードを選んだ。
「これが一番難しいの?」
「これをクリアするとエクストリームってのが出るらしい。ほんとか嘘か知らないけど、それをクリアするとヘルってのが出るんだと。ほら。訓練。ホルスターに銃を収めろよ」
ゲームが始まる。シーンはノーマルと同じジャングルだけど、めちゃくちゃ動きが速いゾンビが突然飛び出してくる。ホルスターから抜いて撃つ。
「頭。ど真ん中だぞ」
「わかってる」
3発連射して一発当たる。ちゃんと当てないと。リロードばかりしていられない。
「肩を下げるな。両肘を伸ばしてグリップ。絞れ!」
「はい!」
クリティカルのコンボが出る。いい感じ……これはモデルガンで反動がないからだけど。すごいスピード感。敵の動きが早いから、進むのも速い。木々をかき分けてボスが出てくる。
「覚えてるか? 弱点」
「ノーマルだと頭」
「3面までは同じだよ」
攻撃後の硬直中に二人でボスの頭を蜂の巣にする。あっという間にクリア!
「え? ベリハ?」
「お前うまいよ」
バルが手のひらを俺に向ける。ハイタッチ! 続けたかったけど、オートキャリアの予約が解除になってしまいそうだったから家に戻った。頭が空っぽになった。楽しかった。
ブリングにメールが来ていた。アラスターからで、明日は雨で風もあるけどやってみる? とあった。アラスターに会うのは嫌じゃない。一緒にいて楽しい。セックスも気持ちよかった。エアランナーの練習も進めたい。でもどうしてなんだろう。
後ろめたい。
雨が横殴りに降っていた。屋上の庇の下で待っていたけど、かなり濡れてしまった。こんな中飛べるかな? 俺。今日は何時間飛べるんだろう。早く免許を取ってしまいたい。
どうして? アラスターが好きなのに? 免許を取れなければずっと一緒にいられるのに? 自分の気持ちがわからない。ひゅうと軽い音がして、灰色の雲の下に真っ白なエアランナーが現れた。アラスターだ。笑顔を作って駆け寄る。
「待った? ごめんね。ポートで動かなくなっちゃったランナーがあってなかなか飛べなくて」
大きな手が差し出される。手を伸ばすとぐんと力強くコックピットに引き込んでくれる。会うと嬉しい。
「思ったより風が強いね。難しいかも知れない」
「でもやってみる」
かちんとロックを外す。風の圧が手のひらに来る。ゆっくりと操縦桿を引く。風を押さえ込むように。重い。加減を忘れそうになる。途中まで上がる。もう少し。機体がぐらっとする。もう少し……。高さは足りたけど、オートが入らない。
「雨と風だからオートは無理かも知れない。マニュアルでやる?」
「やる。目的地は?」
「この天気だからね。ご飯食べに行く感じにしようか。イーストロードはどう?」
「行ったことない」
「じゃ、行こうか」
操縦桿を抑えながらマッピングして飛ぶ。オートは入らないけど、風は一方向だからなんとか飛べる。
「高度に気をつけて。雨の日は知らないうちに下がってることがある」
今日は気をつけなきゃいけないことが多い。返事をする余裕がない。近くに他のエアランナー。これにも注意しておかないと。黙々と操縦してしまう。三十分のフライト。ポートに停まれるのがまだまし。雨の中着陸するのは得意なことに気がついた。
「は……できた」
「集中してたね」
「限界かも。これ帰りもって考えると」
「食べて少し休んでから考えよう。俺が運転してもいいんだよ」
レストランは食べたことのない外国の料理だった。東の方にあった国の郷土料理だったんだって。
「面白い野菜。見たことない。不思議なにおいだね。バルは食べられないかもなあ」
「バルはね。外国のよくわからないものはだめかも知れないね。ハーブでも平気なものもあるみたいだけど」
「面白いよね。あじさいの葉っぱのにおいもだめなんだよ。あじさいの葉っぱのにおいって言われてもわからないよ!」
「ははは。世界が違うよね。大変そうだなと思うけど」
いつかバルにも試してみて欲しい。アラスターといろんなところに行ったけど、バルも連れて行きたい。バルにはどんなふうに見えるのか教えてほしい。
「ねえ。その髪はどうなってるの?」
「え?」
「今、青緑から緑色になった。どうだとそうなるの?」
「ああ。これは……」
嬉しいと、緑に。
バルの話をしたから。バルのことを考えたから。
「……俺にもよくわかんないんだ。いつの間にか変わってるんだよ」
ピカッと光った気がして窓の外を見た。雷の音。近い。
「ひどい天気になったね。帰りは俺が運転するね」
「そうだね。お願い」
「……うちに寄ってもらってもいいかな? ちゃんと送るから」
「うん」
久しぶりに後部座席でエアランナーに乗った。バケツをひっくり返したような雨と雷。こんな中でもアラスターは飛べるんだね。
まだ昼間なのに街は暗い。雨が流れるガラスの向こう側で、ビルの窓窓に明かりがついている。ぼんやりと眺めていた。
「どうしたの? 黙り込んで」
「すごい雨になっちゃったなって。それに、俺がうるさいと気が散るでしょ?」
「大丈夫だよ。なんなら雷が当たっても大丈夫」
「そうなの?」
「放電するようになってるから」
またピカッと光る。しばらくしてがらがらと音が追いかけてくる。考えないようにする。何も考えない。
アラスターの家に着く。南の半円の窓も滝のような雨。途切れない水の流れの向こうに街が歪んで見える。
「ヴェスタ。いい?」
後ろからアラスターに抱きしめられる。雨の音さえ入らない部屋。唇を重ねる音だけ。大きな清潔なベッド。考えない。ただ集中して。
──集中して。
──余計なこと考えんな。集中して。
「………っ」
──まだいねえか。好きなやつなんて。ほんとは好きなやつとすることなんだぜ、これ。
考えないで。思い出したくない。
「好きだよ」
考えちゃだめ。この優しい人を傷つけたくない。俺はこの人が好きなんだから。
「……俺も好き」
これがバルだったらなんて。
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