Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

文字の大きさ
92 / 229
03 トライアル (3)Vesta & Baltroy

09 Baltroy (殺人犯的思考)

しおりを挟む
 一人目の被害者。街中の化粧品の販売員。現場の画像を端末に映し出した。美人だ。デスマスクを見ても隙のない化粧。首を絞められたせいで舌が飛び出しているけど、それ以外はマネキンみたいだ。死姦されている。

 次。こちらはステーション近くにある企業の受付嬢。45歳だが、年齢調整で十代後半に見える。これも首を絞められて窒息死した後、死姦されている。一人目との違いは、服をはだけられたまま放置されていること。一人目の時はたぶん、本当にスカートを捲り上げ陰部だけ出してやって逃げた。二人目は体中を弄ったんだろう。なんというか、犯行に余裕が出てきている。

 三人目。これは刺殺。かなり部屋が荒れて見える。そこら中に血が飛び散っているが、残念ながら、加害者の血液は見つかっていない。全部被害者の血。
 おそらく最初の一撃が致命的で、ろくに反撃もできずに部屋の中を逃げたんだろう。被害者はヨガインストラクター。髪が腰まであったらしいが、遺体はばっさり切られている。直前のクラス指導の時は長いままだったので、犯人が切って持ち帰ったと考えられる。

 四人目はレプリカント。ステーション近くの病院の看護師をしていた。第三種公務員。これが一番凄惨。三人目と同様、刺殺と見られる。右前方から肝臓まで到達する深さの刺創。腹を裂かれたり、目をくり抜かれたりしたのは絶命してから。

 よくできるもんだ。絞殺遺体なんて、決して生きてる時ほど綺麗じゃない。そうまでして無抵抗にしたいのか? まあこの辺の心理はわかる必要はないだろう。芯から理解できても困る。

 俺たちに期待されてるのはレプリカントの被害者の件についての考察。こっちが持ってる情報の中で犯人に結びつきそうなやつをザムザに渡してやらなければならない。

 殺されたレプリカントの名前はリリナス・ネア。外見年齢は23歳の設定。AI支配率は34%。納品から一年半で払い下げられて第三種になっている。
 発注者の方を念のため調べてみたが、彼女が払い下げられる少し前に死亡している。もともと彼女には看護師としての手技がインストールされていたようだったので、発注者の看護用に購入され、発注者の死亡とともに親族が払い下げたと見るのが妥当だろう。さて。

「ヴェスタ。何か思いつくか?」
「うーん。どうして三人目からは刺殺になったのかな?」
「絞殺がめんどくさくなったからかなと。絞殺は力がいるし、時間がかかる。その分抵抗もされる。他の殺し方をしてみたくなった可能性もある」
「なるほどね。他の殺し方か。じゃあ四人目からなんでいきなりお腹を開いたり目をくり抜いたりしたんだろう。エスカレートしただけにしては突飛じゃない? 三人目は同じ刺殺でも髪の毛だけなのに」
「そうだな。確かに急に飛んだ感じがあるな。うーん、例えば、他の三人でもやりたかったけど時間がなかったとか」
「3人目の被害者のときは余裕ありそうだけど」
「そうかも知れない。でもな……」
「でも?」
「こういうやつの気持ちはわからないからな」
「それを言っちゃうと推理にならない」
「まあそうだ」

 四人目でいきなり猟奇度が上がってるのは確かなんだ。何か、そういうスイッチを入れた要因はあるわけだ。なんだろう。三人目と四人目で何が違う?

「やっぱり四人目がレプリカントだからか?」

 もう一度リリナスの納品書を確認してみる。詳細。看護師の知識及び手技をプレインストール。サーモ、血圧測定、温湿度計つき。サーモか。

「サーモも夜目が光るな。これってどうなってる? 年がら年中サーモで見えるのか?」
「ううん、意識的に落とすことができるよ。見え方がややこしくなるから、普段はサーモでは見てないな」
「夜は?」
「俺は暗視しちゃうけど、サーモだけの人はどうなんだろう。サーモで暗闇を見たら、人が来たりするのはわかりやすそうではあるけど」
「お前あんまりサーモ入れた甲斐がないな」
「ちょっとは役に立ってるよ」

 リリナスはだから、外見でレプリカントだとわかったはずだ。レプリカントだから何をしてもいいと思った? 被害者たちの生前の画像を並べてみる。全員が陶器のような肌。びっしりと生え揃ったまつ毛。ちょっときつい美人たち。

「画像だけ見ると全員レプリカントみたいに見えるな」

「間違ったんじゃない?」

「ん?」
「レプリカントを殺そうとして、間違ってヒューマンを殺しちゃったんじゃない?」
「なるほど。実にレプリカント人権保護局の捜査官ぽいコメントだな。俺たちはその線を考えてみるか」

 レプリカントを連続で殺傷する事件は、対象がヒューマンの事件よりずっと多い。ヒューマンを殺傷するより比較的刑が軽かったり、そもそもヒューマンから攻撃されると死に物狂いでの抵抗がレプリカントにはできないから。人権の無いのを選んで殺して回っていたやつもいた。これは器物損壊にしかならないから、すぐに放免になった。

「今回の件で、夜に目が光ってるのがレプリカントだってわかったんだよね?犯人は」
「まあ。わかったかも知れない。犯行時刻は午後七時半だから、暗闇の中待ち伏せか何かで部屋に押し入ったとして、光ってるのはわかったんじゃないかな」
「だから目をくり抜いたんだよね? きっと」

 そうか。

「お前結構……」
「何? だからね、ステーションで夜に目が光る俺が立ってたら、目をつける可能性はないかな?」
「待て。待て待て待て。だめだからな。囮捜査は基本的にだめって前も言ったよな?」
「潜入はよくてこれはダメってのは意味がわからない!」
「潜入はレプリカントの中に入るだけなんだから大人しくしてりゃ死なないだろ! これは大人しくしてても殺されるんだよ」
「殺される前に助けてくれりゃいいじゃん!」
「そううまく行くかよ! だめなもんはだめ。大体お前はなんだってそんなに囮になりたがるんだよ!」
「だって簡単じゃん! 俺レプリカントだし!」
「お前を囮に使うくらいなら俺がなった方がましだ! 怪我したら死ぬくせに。てか実際死にかけたくせによ。勝手に乗り込んで。しかも2回も!」

 ヴェスタはぷいと自分の席に戻ってしまった。本当になにか手を考えないと。次の犯罪が起こる前に止められればベスト。まだレプリカントは一人目。

 確率として一番高いのを考えてみよう。体液の登録がないなら18歳未満だ。そして学校があるはずだ。たいていは。どんな行動をする? 街を歩く女たちの顔を見て、好みのを探す。放課後。犯行時刻は? 資料を確認してみる。七時半から九時。被害者たちが家に帰る時刻。

 ステーションの近くの職場ばかりなら、ステーションで物色してるんだろう。学生なら長時間ステーションにいても怪しまれない。四人目から一ヶ月だ。そろそろ次に手がかかってしまうんじゃないか。








  
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

肩甲骨に薔薇の種(アルファポリス版・完結済)

おにぎり1000米
BL
エンジニアの三波朋晴はモデルに間違われることもある美形のオメガだが、学生の頃から誰とも固定した関係を持つことができないでいる。しかしとあるきっかけで年上のベータ、佐枝峡と出会い、好意をもつが… *オメガバース(独自設定あり)ベータ×オメガ 年齢差カプ *『まばゆいほどに深い闇』の脇キャラによるスピンオフなので、キャラクターがかぶります。本編+後日談。他サイト掲載作品の改稿修正版につきアルファポリス版としましたが、内容はあまり変わりません。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

恋人はメリーゴーランド少年だった。

夏目奈緖
BL
溺愛ドS社長×ツンデレ高校生。年の差恋愛。社長からの告白と束縛に戸惑う高校生。すれ違いばかりの片想いから恋人同士へ。ひねくれもの天使的な高校生と心を閉ざした会社社長との年の差BL。中山夏樹(18)は従姉妹の結婚式の2次会で、倒れてきた酔っ払いの下敷きになり左手に怪我を負った。助けてくれたのが、会場レストラン経営の黒崎ホールディングス代表取締役社長・黒崎圭一(33)。左手の抜糸がすむまで黒崎の車で送迎されることになった。黒崎は誰にも心を開かない。夏樹も同じである。しかしながら、夏樹は黒崎の前だけは自分の意思とは反対に、本音を吐き出す。2人は孤独を抱えており、夏樹は黒崎に惹かれていく。黒崎は夏樹に一目惚れし、執着する。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

【BL】『Ωである俺』に居場所をくれたのは、貴男が初めてのひとでした

圭琴子
BL
 この世界は、αとβとΩで出来てる。  生まれながらにエリートのαや、人口の大多数を占める『普通』のβにはさして意識するほどの事でもないだろうけど、俺たちΩにとっては、この世界はけして優しくはなかった。  今日も寝坊した。二学期の初め、転校初日だったけど、ワクワクもドキドキも、期待に胸を膨らませる事もない。何故なら、高校三年生にして、もう七度目の転校だったから。    βの両親から生まれてしまったΩの一人息子の行く末を心配して、若かった父さんと母さんは、一つの罪を犯した。  小学校に入る時に義務付けられている血液検査日に、俺の血液と父さんの血液をすり替えるという罪を。  従って俺は戸籍上、β籍になっている。  あとは、一度吐(つ)いてしまった嘘がバレないよう、嘘を上塗りするばかりだった。  俺がΩとバレそうになる度に転校を繰り返し、流れ流れていつの間にか、東京の一大エスカレーター式私立校、小鳥遊(たかなし)学園に通う事になっていた。  今まで、俺に『好き』と言った連中は、みんなΩの発情期に当てられた奴らばかりだった。  だから『好き』と言われて、ピンときたことはない。  だけど。優しいキスに、心が動いて、いつの間にかそのひとを『好き』になっていた。  学園の事実上のトップで、生まれた時から許嫁が居て、俺のことを遊びだと言い切るあいつを。  どんなに酷いことをされても、一度愛したあのひとを、忘れることは出来なかった。  『Ωである俺』に居場所をくれたのは、貴男が初めてのひとだったから。

処理中です...