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03 トライアル (3)Vesta & Baltroy
20 Baltroy (緑)
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翌朝、目を覚まして部屋の中をよく探してみたら、ベッドカバーの上にバグが一個転がっていた。監視が外れたわけだ。やれやれ。着替えようとしてはたと気がついた。男物の服も靴もない。
「……しまった」
かと言って、昨日の女物のスーツを着て局に行くのは死んでも嫌だ。仕方ない。
『おはよう、バル』
「よう、ヴェスタ。お前もう局? あのさ。昨日に引き続きでほんと悪いんだけど……」
ついでに時間休も申請しておく。こんなことで使うことになるとは。ヴェスタまで巻き添えだ。
部屋にはもちろんレッダはいないので、自分でなんでもしないといけない。インターンの時以来になる。十年ぶり? なんてこった。昨日は部屋に入ってからデリバリーで夕食を取ったけど、自分で作った方がましだな。外に出られないから朝飯も食えない。考えてなさすぎた。
小一時間で部屋のインターフォンが鳴った。
「バル。来たよ」
「ありがとう。助かった」
ドアを開けるとヴェスタがすっと滑り込んできた。袋を二つ持っている。大きめの袋と、小さくて角ばった袋。
「こっちが着替え。こっちが朝食。レッダから」
「うわ! すげーなあいつ。ありがとう!」
「なんだか不思議な……何にもない部屋だね」
「まあ、どうせ仮住まいだからな。生活感がないよな」
正確に言うと、家具も食器も何もかも揃ってはいる。ただモデルハウスみたいに、人の気配がない。犯人に追跡されても怪しまれないように、形だけ整えた部屋。
「でもこれだけ整えるのはやっぱ、連邦捜査局すげーなと思うよ」
「そうだね。うちだけでは無理だったね。どうだった? 犯人から何かあった?」
「あったよ。ほら、テーブルの上にバグが転がってるだろ」
「すごい。さすが」
「これで引っ掛けられなかったら全部無駄になるところだ。良かったよ」
レッダの朝食はスモークサーモンとチーズとフェンネルのサンドイッチとコーヒーだった。においを確かめてからかじりついた。ぎりぎりのところを攻めてくるなあいつ。でもよくわかってる。食えるしうまい。
ヴェスタが正面の椅子に座っている。なんだか懐かしい眺めだ。でも疲れた顔をしている。白い指が頬にかかる髪を掻き上げ、耳にひっかけた。
「あ」
「ん?」
「髪。そこだけ戻した?」
「あ!」
淡い黄色の髪の中に、ちょっとした線みたいにグリーンが入っている。
「……そう。こないだバルに聞かれて、何色なのかなって」
「全部戻すわけにいかないのか?」
わかりやすくて好きだったんだけど。
「アラスターがすごく気にするんだ。そんなにいつもいつも緑なわけじゃないんだけど、ちょっとでも青いと」
アラスターらしい。気持ちはわかるけど。
「今度からはそこを見ればいいわけだ」
「ふふふ、こんなとこ見ないだろ」
「でもお前、集中するとすぐそうするだろ」
「そう?」
緑で安心した。少しはアラスターと話せたのかな。
「あのさ。もしバルが良かったらなんだけど、これしばらく続くだろ。ここで暮らさないといけないよね」
「うん」
「だから、昨日今日みたいな、荷物の持ち帰りと朝ごはん届けるの、やらせてくれない?」
ん?
「なんで? ここ結構あるだろ、お前んちから」
「まあね。でもちょっと早く出るだけだから」
ちょっと? 俺の出勤時間に間に合わせようと思ったら、一時間は早く出ないといけない。こいつの「ちょっと」ってどれくらいの単位なんだ?
「だめかな? 迷惑?」
「いや。助かるよ、すごく助かる。でもお前の負担がさ」
「じゃあ、そうしたいな」
「かなり朝早くなるだろ? 夜も定時ってわけじゃなくなるし……アラスターは大丈夫なのか?」
「……だって仕事だろ? だめなのかな?」
こいつ、ちゃんと話せてないのか?
「アラスターと話した?」
「この件はまだ。でもこの前のはちゃんと話したよ」
「そうか。この件もちゃんと話せよ。誤解されないように」
「うん」
「……しまった」
かと言って、昨日の女物のスーツを着て局に行くのは死んでも嫌だ。仕方ない。
『おはよう、バル』
「よう、ヴェスタ。お前もう局? あのさ。昨日に引き続きでほんと悪いんだけど……」
ついでに時間休も申請しておく。こんなことで使うことになるとは。ヴェスタまで巻き添えだ。
部屋にはもちろんレッダはいないので、自分でなんでもしないといけない。インターンの時以来になる。十年ぶり? なんてこった。昨日は部屋に入ってからデリバリーで夕食を取ったけど、自分で作った方がましだな。外に出られないから朝飯も食えない。考えてなさすぎた。
小一時間で部屋のインターフォンが鳴った。
「バル。来たよ」
「ありがとう。助かった」
ドアを開けるとヴェスタがすっと滑り込んできた。袋を二つ持っている。大きめの袋と、小さくて角ばった袋。
「こっちが着替え。こっちが朝食。レッダから」
「うわ! すげーなあいつ。ありがとう!」
「なんだか不思議な……何にもない部屋だね」
「まあ、どうせ仮住まいだからな。生活感がないよな」
正確に言うと、家具も食器も何もかも揃ってはいる。ただモデルハウスみたいに、人の気配がない。犯人に追跡されても怪しまれないように、形だけ整えた部屋。
「でもこれだけ整えるのはやっぱ、連邦捜査局すげーなと思うよ」
「そうだね。うちだけでは無理だったね。どうだった? 犯人から何かあった?」
「あったよ。ほら、テーブルの上にバグが転がってるだろ」
「すごい。さすが」
「これで引っ掛けられなかったら全部無駄になるところだ。良かったよ」
レッダの朝食はスモークサーモンとチーズとフェンネルのサンドイッチとコーヒーだった。においを確かめてからかじりついた。ぎりぎりのところを攻めてくるなあいつ。でもよくわかってる。食えるしうまい。
ヴェスタが正面の椅子に座っている。なんだか懐かしい眺めだ。でも疲れた顔をしている。白い指が頬にかかる髪を掻き上げ、耳にひっかけた。
「あ」
「ん?」
「髪。そこだけ戻した?」
「あ!」
淡い黄色の髪の中に、ちょっとした線みたいにグリーンが入っている。
「……そう。こないだバルに聞かれて、何色なのかなって」
「全部戻すわけにいかないのか?」
わかりやすくて好きだったんだけど。
「アラスターがすごく気にするんだ。そんなにいつもいつも緑なわけじゃないんだけど、ちょっとでも青いと」
アラスターらしい。気持ちはわかるけど。
「今度からはそこを見ればいいわけだ」
「ふふふ、こんなとこ見ないだろ」
「でもお前、集中するとすぐそうするだろ」
「そう?」
緑で安心した。少しはアラスターと話せたのかな。
「あのさ。もしバルが良かったらなんだけど、これしばらく続くだろ。ここで暮らさないといけないよね」
「うん」
「だから、昨日今日みたいな、荷物の持ち帰りと朝ごはん届けるの、やらせてくれない?」
ん?
「なんで? ここ結構あるだろ、お前んちから」
「まあね。でもちょっと早く出るだけだから」
ちょっと? 俺の出勤時間に間に合わせようと思ったら、一時間は早く出ないといけない。こいつの「ちょっと」ってどれくらいの単位なんだ?
「だめかな? 迷惑?」
「いや。助かるよ、すごく助かる。でもお前の負担がさ」
「じゃあ、そうしたいな」
「かなり朝早くなるだろ? 夜も定時ってわけじゃなくなるし……アラスターは大丈夫なのか?」
「……だって仕事だろ? だめなのかな?」
こいつ、ちゃんと話せてないのか?
「アラスターと話した?」
「この件はまだ。でもこの前のはちゃんと話したよ」
「そうか。この件もちゃんと話せよ。誤解されないように」
「うん」
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