Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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04 (e)VAC(u)ATION

09 Vesta (悪くない?)

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 朝食は普通のトーストと目玉焼き、そして少しのサラダだった。それでもあの足の悪いおばさんが杖に身を預けながら支度してくれているのを見ると、申し訳ないくらいだ。

「今夜は泊まるのかい?」
「うん、しばらく頼むよ」

 バルは普通に言った。

「昼間、どうするの?」
「いつもなら何もしないでぶらぶらするんだけどな。お前エアランナーで来てるだろ? どっか連れてけよ」
「ふ……」

 何これ。無茶振り? ブリングで現在地を見てみる。かなり東側。もう少しで。もう少し飛べば。

「海! 海に行こうか」
「お」

 バルと海に行きたいと思ってた。こんな風に叶うなんて。近くの海岸を探す。遠くない。バルのエアバイクに乗ってランナーを置いたポートまで行って乗り換える。バルを後ろに乗せてると思うと緊張する。初めてだ。目的地を大体で座標指定して操縦桿を引く。ゆっくり舞い上がる。風もいい。すぐにオートに入ってくれる。

「ほんとに運転できんだな」
「がんばったんだよ!」

 バルは何も言わなかったけど、唇の端をあげたのがミラーに映って見えた。空から見るとこの街は本当に小さい。俺たちが住んでいる街の何分の一?

「どうしてこの街にしたの?」
「んー、たまたまだな。ルート152を何も考えないで下って、疲れたなあ休みてえなって思ったところがここだったんだよ」
「ふふ。いい加減……」
「でも悪くないだろ」
「うん」

 悪くない。今日もバルとふたり。全然悪くない。不思議。いつも二人なのにね。なんだか特別な感じがする。

 砂浜に着陸する。降りてみてわかったけど、砂の粒が大きい。アラスターと行った海岸は真っ白で綺麗だったけど、ここは砂が濃い灰色に見える。

「あんまりきれいな海岸じゃなかったね」
「そうかな。充分」

 立った感じもしっかりしている。足が取られる感じがあまりしない。砂が熱い。潮のにおい。

 バルが海に歩いていく。遠くに波乗りをしている人が見える。白い大きな鳥。灰色を帯びたブルーグリーンの海。靴と靴下を脱いで海に近づく。

「足の裏痛い……」
「砂が粗いな」

 海に足をつける。引き波に足を撫でていく砂も、まるで肌を削っていくようだ。

「前にアラスターと行ったとこはもっと綺麗だったのになあ」
「アラスターはいい場所知ってるからなあ。敵わない・・・・よ」
「そういえばアラスターと話したよ。元気そうだった」
「そうか。仲直りした?」
「仲直り……」

 どういう意味の?

「俺たちは友達だったらよかったねっていう結論になった」
「ふーん……」

 バルには敵わない。とどめを刺したのはバルだとアラスターは言った。バルも俺をみてるの? どんな風に?

 潮風が強くなってきた。波が高い。

「バルは……」

 昨日の写真のバルを思い出す。一人のバル。

「たくさん彼女とかいただろ? どうしてここにはいつも一人で来てたの」
「たくさんて」

 バルは眉間に皺を寄せて笑った。

「母親があんなだから、とっとと結婚しちまいたいとは思ってたけどな。そういえば連れてきたことなかったな。どうしてかな……」

 波の音が聞こえる。なんで俺は連れてきてくれたの。ほんとに聞きたいのはそれ。

「俺うるさいからここに連れてくるほど続かなかったってのはある。婚約したこともあったんだけどなあ」

 うるさいかな? うるさいと思ったことがない。

「付き合い切れないって振られるんだよ。面倒だからな、俺は」
「面倒? どこが?」
「お前は俺が普通だと思ってるからさ。アラスターと暮らしてた時、楽だっただろ?」

 全然楽じゃなかった。

「相手が女だとにおいがだめな時期もあったし……。あと浮気されるとすぐわかっちまって」
「浮気する子なんかすぐわかって別れた方がいいじゃん」
「はは。お前が言うなよ。まあ、俺も前科者だけど」

 バルの言い方はすごく軽かったけど、ぐさっと来た。

「俺は浮気しない!」
「浮気しないやつは彼氏がいるのに他の男の部屋に来たりしねえよ」
「………」

 だって。

「俺………」

 どこから説明したらいい? バルはそんな説明聞きたくないかなあ? 俺ってもうだめなのかな?

「おい、落ち込むなよ……蒸し返して悪かったよ」

 ずっとずっと最初っからバルのことしかほんとには好きじゃない。アラスターとのことは俺が間違ってたと思う。バルが好きで好きでしょうがない。浮気じゃない。バルだけ。

 ぱんとバルの手が俺の肩を軽く叩く。元気出せ? 切り替えろ?


 俺って馬鹿だ。


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