Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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08 デモンストレーション

16 Vesta (圧力と乾燥)

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 考えることがたくさんある。全然進まない。22人の赤毛の行方不明者たち。コールしてみようか。5年以上も前の話だから、どんな反応をされるのかはわからない。でもなんでもやってみよう。

「こんにちは。レプリカント人権保護局のC571098rpです」

 遺体はミイラ化していたけど、別な遺体と接していたところなんかは、水分を含んでしまってだめになっていた。他の遺体は白骨化。何が違ったのか……。

「5年前に行方不明になっているキャシー・ワーレンバーグさんの件について……」

 丁寧に話を聞いていく。どんな状況でいなくなったのか。どんな特徴があったのか。

 たいていは届出に書かれた内容が全てだ。新しい情報は出てこない。中にはもう取り下げて欲しいと言う人もいる。別なのを買ったから。もう家族がいるから。

 少し嫌になってしまう。あと8人聞かなくちゃ。

「ヴェスタ。髪が青いよ。どうしたの?」

 ユミンが通りすがりに声を掛けてきた。

「ねえ、この間バルトロイに最近どうなのって聞いたら、結婚するって言ってたけどそうなの? おめでとう!」
「うーん……。まあ、まだだよ。ねえ、ミイラになっちゃった人の身元を探してるんだけど……手がかりがなくて。首がないから顔もわからないんだ。何か手がかりになるようなことはないかな」
「それはそれは。難問ね」
「珍しいでしょ? どうやってミイラにしたのかな? そこからわからなくて」

 ユミンはふふっと笑った。

「わたしはよく野菜をミイラにしちゃうわ。冷蔵庫の中に入れっぱなしで……」
「冷蔵庫?」
「そう。低温で乾燥してるせいで腐らないで萎びてしまうのよね。正確には、乾燥してる・・・んじゃなくて乾燥する・・んだけど」
「何が違うの?」
「うーん、冷蔵庫の中って気圧が一定なわけ。密閉されている。そのドアを開けると気圧が変化するのね。その変化で物質の中から水分が押し出されてしまうのよ」
「それで、乾燥せざるを得ないってこと?」
「そういうこと。だから例えばすごーく大きな冷凍庫でもあれば、簡単にミイラができるかもね」
「そうか……ありがとう! ユミン」
「またお茶しに来てね」

 ユミンはひらひらと手を振って検査室の方に消えて行った。鑑識にコールする。

「例えば、遺体が冷凍されたりしていたら死亡推定日時は変化しますか?」
『そりゃしますよ。腐敗の進度によって推定するわけだから、途中で腐敗が止まってましたと言われたら』
「冷凍されていたことは遺体からはわからない?」
『冷凍庫から出されてすぐならわかるでしょうがね。完全に解凍になっててさらに腐敗が始まったらわからないな……ああでも、謎は解けるね』
「謎は解ける?」
『骨がスカスカな件。凍って溶けて』
「ありがとう!」

 一歩前進だ。全然進まなかったから。ユミンのおかげで。

「バル」

 バルのデスクに行くと、バルはブラウンの髪の男性の抽出をしていた。画像リストが長いのが遠目にもわかる。
 俺たちはどうしてもこういうマスデータの中から何かを拾うのが多い。もしかすると局長から得意だと思われているのかもしれない。得意なわけではない。投げ出さないだけ。俺が来る前からのバルのスタイル。

「……どのくらいあるの」
「1万6000……とちょっと。でも見た目ほどじゃない。画像から個人を特定してフィッシュトルネードの社員IDと照合するだけ。ダブってるのもかなりある」
「あのさ……一回、フィッシュトルネードに行かない? 確かめたいことができたんだ」
「いいね」

 バルも飽き飽きしていたみたいだ。すぐにアポイントを取って出かける。フィッシュトルネードの支社は遺体のあった倉庫からそんなに離れていないところにあった。広い。大きな建物がいくつか、広大な敷地に点在している。

「何が見たい」
「冷凍庫! と貨物用のオートキャリア」

 会社名からもわかるように、フィッシュトルネードは魚の販売を主な事業としている。あらゆる魚をあらゆる所に。それができるのは各地にあるフィッシュトルネードの支社に、海から上がったばかりの魚が冷凍されて直送されてくるからだ。つまりこの敷地にある大きな建物のいくつかは、巨大な冷凍庫というわけだ。

「お待ちしていました」

 俺たちを案内するために待っていたのは、綺麗な女性だった。ブルネットの長い髪。

「この支社の支社長代理のモーガン・ドルーです。どちらをご案内しましょうか」
「よろしくお願いします。まず冷凍庫を拝見したいのですが」

 俺が言うと、彼女はちょっと顔を曇らせた。

「この敷地には5つの建物がありまして、一つが管理機能のある社屋、一つが加工工場になっていますが、後の三つは全て冷凍倉庫で……」

 試しに一番近くの冷凍倉庫に連れて行ってもらう。体育館くらいの大きさがある。モーガンが社員証で扉を開けると、一瞬の間をおいて冷気がぶわっと吹き出してきた。

「……広い!」

 見渡す限り天井まで高く積まれたコンテナ。厚手のカーテンのようなもので仕切られている。

「この中に十分以上いらっしゃるのであれば、防寒着を貸し出します」

 十分ではとても見切れない。これがあと二つ……

「ちょっと考えさせて下さい。貨物用のオートキャリアは見られますか?」

 オートキャリアの方は倉庫の裏手にたくさん停められていた。貨物用のオートキャリアは担当者に固定?

「固定ではないです。手前にあるキャリアからどんどん指定の積荷を積んで出発するシステムなので、乗り手が選ぶこともできません。本日は100台ほどが出ています」

 駐車場には残った貨物車が50台ほどもあるだろうか。全ての白い車体に、会社のロゴが入っている。魚のマーク。

「ここにあるうちは全て解錠されていますので、中をご覧いただいても構いません」

 お言葉に甘えてドアを開けてみる。空っぽ。でも壁が厚い。さっき見たコンテナ一つ分ががぴったり収まるくらいの広さ。

「厚みがありますね?」
「そうです。貨物部は遮熱になっています。冷凍の魚を積みますので」
「積荷は先程のコンテナごとですか?」
「配送先によってさまざまです。多種類を少しずつといったオーダーの場合は、もっと小さなコンテナを沢山入れることになります。魚一種類につき一つのコンテナですね」
「ありがとうございます……。最後に、この人物に心当たりはありますか」

 バルからもらっていた、山の中の防犯カメラに映っていたブラウンの髪の人の画像を見せる。

「うーん……写りが悪くて……。流通部の者に見せてみます」
「よろしくお願いします。また何か伺いたいことができましたらご連絡差し上げると思います。本日はありがとうございました」

 少し糸口が見つかった気配があった。公用車に乗り込むと、案内されている間ほとんど喋らなかったバルがふっと髪に触った。

「ご機嫌だな。収穫はあった?」
「あった! たぶんね、遺体は冷凍されてたんだと思う」
「冷凍か」
「そう。だから一斉に殺されたんじゃないんだ。誘拐された順にすぐに殺されて、冷凍されたんだ。そして一度に冷凍庫から出されて捨てられた。そう考えればいなくなった時期と死亡推定時期の差が開いている理由になる」
「なるほど。そして?」

 そして。

「あの冷凍倉庫のどこかに遺体があったんじゃないかな……家には置けないだろ。3人も人がはいるような冷凍庫なんて」
「明日から遺体探しに通うか?」
「うーん、気になるのがどうして二週間前に遺体を出したのかってこと。新しい遺体を入れたかったのか、もっと別な理由があったのか」
「別な理由」
「例えば、そこに遺体を入れておけなくなったとか。だって新しい遺体を入れたかったなら、一体だけ捨てたらいいと思わない? 一気に3体捨てるのはさ、何か理由があったんじゃないかな。一気に3人殺したから3体捨てたっていうのはないと思うんだ。
 何かの理由で冷凍倉庫から全部出さなきゃいけなくて、車に積んで運ぶ。凍った遺体をただ載せると霜で車が濡れるから、布で包む。体液が漏れるのが嫌だったんじゃないんだ」

 くっとバルが笑った。

「何でお前は犯罪者の気持ちがわかるんだ」
「だって! 普通に考えたらさ……」
「いや。面白いなと思って。そうだな。その通りだ」

 冷凍倉庫。冷凍倉庫の中身を出さなきゃいけない時って何だ?

「それからさ、バル! 防犯カメラからの照会画像、いちいち確認しなくていいよ! あの日車を使った114人のうちの誰かなんだろ。1万6000分の一を探さないでさ、114分の1を探したらいいだろ。フィッシュトルネードに写真を出させよう」
「そうだな。なんでか思いつかなかった」
「もう……」

 最近ぼんやりしてるからだ。

「……今日、陸軍式格闘術のセミナーだけど、バルは休んだら?」
「なんで?」
「疲れてるように見える」
「俺は疲れないよ」

 そうかな?

 そんなことないよね。






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