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08 デモンストレーション
23 Baltroy (たねあかし)
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『やあバルトロイ。どう? 決まった?』
「決まった」
反吐が出そうになる。でも仕方がない。もうこれ以上、ヴェスタの周りをこいつにうろつかれるわけにはいかない。ヴェスタがシャワーを浴び始めたのを見計らって、アパートの一階ロビーの隅まで来ていた。
「わかった。条件を飲むから二度と家に来たりするんじゃない。ヴェスタにも手を出すな」
『ふふ。妬けるね。そんなに大事なのか。あのオナホールが。まあいいよ。お前が一人でシコシコやる分には気にしないってことにするよ。じゃあ連絡する。呼び出すから必ず来いよ』
コールを切る。うんざりする。ゴーシェにも、自分にも。でもこれであんな夢は見なくなるかもしれない。俺にとって一番嫌なことは起こらない。ヴェスタが………。
エレベーターのドアが開くと、目の前に心配そうな顔のヴェスタがいた。
「ヴェスタ」
青い髪。でも目の前にいるだけで安心する。もう少なくともゴーシェは彼を殺さない。
「どうした? 部屋に戻ろう」
ヴェスタを促すと、ヴェスタの髪は部屋に近づくに従って青白く燃え上がった。これは………。
バタンと玄関のドアが閉まる。これは、怒っている………。
ばれた? いや。ヴェスタに何かできるはずはない。二度ともそういうタイミングで、そういう場所からコールしたはずだ。リビングに入るとヴェスタは椅子に座ることもせずにこちらを睨みつけてきた。
「バル。何か隠してるだろ」
「隠してない」
「絶対に嘘だ!」
「隠してない!」
「なんで! なんでも話してみろっていつも言うのはバルだろ! 俺が何も言わないと怒るくせに」
「隠してないって言ってるだろ!」
「絶対に隠してなくない! バルは! バルなら! 俺を一人にしないって言ったのに一人でどっかに行ったりしない! 警官訓練所でだってだ! 例えレッスンがつまんなくても、絶対に同じ部屋の中にはいる! 今だってそうだ、俺が一人で部屋から出たら、今までのあんたなら絶対に俺を叱るはずだ!」
「……」
「『そろそろ大丈夫だと思う』? あんたは確証もないのにそんなこと言わない! そんな事を言うのは、俺がもう狙われないって知ってるからだ! 馬鹿にするなよ! あいつとどんな取引をした! 俺の一番嫌な事をあいつはするって言ったのはバルだろ! なんでわかんないの……」
「ヴェスタ」
「俺の一番嫌なことは、怪我することでも死ぬことでもない……バルが俺を裏切ることだ……。バディだろ? 恋人だろ? ………違うの?」
ヴェスタの目から涙が溢れた。
「………ごめん」
「ごめん?」
裏切り。まあそうだ。思い至らなかった。ヴェスタを殺させないことばかり考えてしまって。ヴェスタが青緑の瞳を見開いて俺の目を覗き込んだ。
「もしかしてもうやっちゃったの?」
「ふっ」
ヴェスタ……。
「あのな。それこそいつやるんだよ。お前にべったりだっただろ。まだやってない。会ってもいない。コールで2回話しただけだ。アウト? セーフ?」
「……ギリギリセーフかな……」
「良かった」
ヴェスタの涙を指で拭き取る。髪の色が少し落ち着いてきた。でもまだだいぶ青い。バレるもんだな……。いや。ヴェスタ相手にいつかバレないわけがなかった。
「悪かった。ほんとに」
「ばか」
「正直、ゴーシェは怖いんだ。何をしてくるかわからなくて」
「……だからちょっと疲れちゃった?」
「いや……」
俺が弱いだけだ、と言うと、ヴェスタは背中まで腕を回して抱きしめてくれた。ぎゅっと抱きしめ返す。細くて壊れそうな体。これを失うのが怖すぎて、俺が我慢した方がましだと思ってしまった。
「……バル、どんな取引をしたの」
「お前に手を出させない代わりに、俺をあいつの好きにさせる……」
「絶対嫌だ」
「俺も嫌だ」
「いつ? 何回?」
「さあ。あっちから連絡してくるらしい」
ヴェスタはしばらく俺を抱きしめたまま黙り込んでいた。さすがだよな、ゴーシェは。俺の一番されたくないこととヴェスタの一番されたくないことを見事に撃ち抜いてくる。そういう才能かよ。
「ねえ、バル」
「ん?」
「ゴーシェが俺を殺そうとするのは、俺が弱いからだ。あいつの中では。でも俺には俺の戦い方がある。そのステージでは俺の方が強いはずだ」
「何か思いついたか?」
「うん。通行人を舐めてもらったら困るからね」
ヴェスタの指示は明快にして難題だった。
「ゴーシェから呼び出しがかかったら、約束通り行くんだ。そして、ゴーシェにうまく捕まってほしい」
「捕まってほしい?」
「そう。ゴーシェにはバルに危害を加える理由がある。彼はバルから冤罪で捕まえられた被害者なんだ。公的には。殺人犯扱いされて住むところを追われた、いわばバルに人生をめちゃくちゃにされた人。バルをどうかしてやりたいくらい憎むことだってあり得るだろ」
「まあむかつくけどな」
「ふふ。おかげでそれを逆手に取れる。例えば、ゴーシェにバルが拉致監禁されてたりすれば、冤罪の恨みによる犯行って筋書きが成り立つんじゃない? だからできるだけわかりやすく監禁されてほしい」
「………わかりやすく監禁?」
「手錠でもかけられてくれよ」
「あのな!」
「そうなら誰が見ても立派な監禁だろ!」
自分の恋人ながら、考えることの大胆さに笑えた。できるだけでいいって。失敗したらどうするんだよ。
「手錠なあ……。自分で掛けるか」
「それはダメ。ゴーシェが罠だと気づいてしまう。ゴーシェに掛けさせるんだ。その上でゴーシェを引き留めて。ずっと位置は捕捉するから、15分か20分か……」
「簡単に言うけど……」
「わかってる。ベストはって言うこと。最悪、二人で部屋にいるだけでもいい。俺が踏み込むまでなんだかんだ言って引き延ばして。とにかく……」
「うん」
「やんないで」
「俺だって死んでも嫌だね」
「決まった」
反吐が出そうになる。でも仕方がない。もうこれ以上、ヴェスタの周りをこいつにうろつかれるわけにはいかない。ヴェスタがシャワーを浴び始めたのを見計らって、アパートの一階ロビーの隅まで来ていた。
「わかった。条件を飲むから二度と家に来たりするんじゃない。ヴェスタにも手を出すな」
『ふふ。妬けるね。そんなに大事なのか。あのオナホールが。まあいいよ。お前が一人でシコシコやる分には気にしないってことにするよ。じゃあ連絡する。呼び出すから必ず来いよ』
コールを切る。うんざりする。ゴーシェにも、自分にも。でもこれであんな夢は見なくなるかもしれない。俺にとって一番嫌なことは起こらない。ヴェスタが………。
エレベーターのドアが開くと、目の前に心配そうな顔のヴェスタがいた。
「ヴェスタ」
青い髪。でも目の前にいるだけで安心する。もう少なくともゴーシェは彼を殺さない。
「どうした? 部屋に戻ろう」
ヴェスタを促すと、ヴェスタの髪は部屋に近づくに従って青白く燃え上がった。これは………。
バタンと玄関のドアが閉まる。これは、怒っている………。
ばれた? いや。ヴェスタに何かできるはずはない。二度ともそういうタイミングで、そういう場所からコールしたはずだ。リビングに入るとヴェスタは椅子に座ることもせずにこちらを睨みつけてきた。
「バル。何か隠してるだろ」
「隠してない」
「絶対に嘘だ!」
「隠してない!」
「なんで! なんでも話してみろっていつも言うのはバルだろ! 俺が何も言わないと怒るくせに」
「隠してないって言ってるだろ!」
「絶対に隠してなくない! バルは! バルなら! 俺を一人にしないって言ったのに一人でどっかに行ったりしない! 警官訓練所でだってだ! 例えレッスンがつまんなくても、絶対に同じ部屋の中にはいる! 今だってそうだ、俺が一人で部屋から出たら、今までのあんたなら絶対に俺を叱るはずだ!」
「……」
「『そろそろ大丈夫だと思う』? あんたは確証もないのにそんなこと言わない! そんな事を言うのは、俺がもう狙われないって知ってるからだ! 馬鹿にするなよ! あいつとどんな取引をした! 俺の一番嫌な事をあいつはするって言ったのはバルだろ! なんでわかんないの……」
「ヴェスタ」
「俺の一番嫌なことは、怪我することでも死ぬことでもない……バルが俺を裏切ることだ……。バディだろ? 恋人だろ? ………違うの?」
ヴェスタの目から涙が溢れた。
「………ごめん」
「ごめん?」
裏切り。まあそうだ。思い至らなかった。ヴェスタを殺させないことばかり考えてしまって。ヴェスタが青緑の瞳を見開いて俺の目を覗き込んだ。
「もしかしてもうやっちゃったの?」
「ふっ」
ヴェスタ……。
「あのな。それこそいつやるんだよ。お前にべったりだっただろ。まだやってない。会ってもいない。コールで2回話しただけだ。アウト? セーフ?」
「……ギリギリセーフかな……」
「良かった」
ヴェスタの涙を指で拭き取る。髪の色が少し落ち着いてきた。でもまだだいぶ青い。バレるもんだな……。いや。ヴェスタ相手にいつかバレないわけがなかった。
「悪かった。ほんとに」
「ばか」
「正直、ゴーシェは怖いんだ。何をしてくるかわからなくて」
「……だからちょっと疲れちゃった?」
「いや……」
俺が弱いだけだ、と言うと、ヴェスタは背中まで腕を回して抱きしめてくれた。ぎゅっと抱きしめ返す。細くて壊れそうな体。これを失うのが怖すぎて、俺が我慢した方がましだと思ってしまった。
「……バル、どんな取引をしたの」
「お前に手を出させない代わりに、俺をあいつの好きにさせる……」
「絶対嫌だ」
「俺も嫌だ」
「いつ? 何回?」
「さあ。あっちから連絡してくるらしい」
ヴェスタはしばらく俺を抱きしめたまま黙り込んでいた。さすがだよな、ゴーシェは。俺の一番されたくないこととヴェスタの一番されたくないことを見事に撃ち抜いてくる。そういう才能かよ。
「ねえ、バル」
「ん?」
「ゴーシェが俺を殺そうとするのは、俺が弱いからだ。あいつの中では。でも俺には俺の戦い方がある。そのステージでは俺の方が強いはずだ」
「何か思いついたか?」
「うん。通行人を舐めてもらったら困るからね」
ヴェスタの指示は明快にして難題だった。
「ゴーシェから呼び出しがかかったら、約束通り行くんだ。そして、ゴーシェにうまく捕まってほしい」
「捕まってほしい?」
「そう。ゴーシェにはバルに危害を加える理由がある。彼はバルから冤罪で捕まえられた被害者なんだ。公的には。殺人犯扱いされて住むところを追われた、いわばバルに人生をめちゃくちゃにされた人。バルをどうかしてやりたいくらい憎むことだってあり得るだろ」
「まあむかつくけどな」
「ふふ。おかげでそれを逆手に取れる。例えば、ゴーシェにバルが拉致監禁されてたりすれば、冤罪の恨みによる犯行って筋書きが成り立つんじゃない? だからできるだけわかりやすく監禁されてほしい」
「………わかりやすく監禁?」
「手錠でもかけられてくれよ」
「あのな!」
「そうなら誰が見ても立派な監禁だろ!」
自分の恋人ながら、考えることの大胆さに笑えた。できるだけでいいって。失敗したらどうするんだよ。
「手錠なあ……。自分で掛けるか」
「それはダメ。ゴーシェが罠だと気づいてしまう。ゴーシェに掛けさせるんだ。その上でゴーシェを引き留めて。ずっと位置は捕捉するから、15分か20分か……」
「簡単に言うけど……」
「わかってる。ベストはって言うこと。最悪、二人で部屋にいるだけでもいい。俺が踏み込むまでなんだかんだ言って引き延ばして。とにかく……」
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「俺だって死んでも嫌だね」
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