相対間引力 subliminal gravity

黒遠

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 正月が終わって学校が始まった。

 くおんは少し実家に帰って、すぐ戻ってきた。あまり実家に興味がないらしい。俺はものすごく先生たちに受験のプレッシャーをかけられていた。早くね?もうそんな言う?

「みやっちは大学どこにすんの?」
「近いとこ」

 学校でも何人か普通に話せる友達ができた。今更な感じはあるけど。
 くおんと話すようになってから、俺ってこういう話できるんだなとか、しゃべってこんなに笑えるんだとか人を笑わせることができるんだってわかってクラスメイトとも話せるようになった。

「難関じゃん。でもみやっち頭いいかんね」
「いやー正直ギリギリ……でも自宅通学がいいし」

 あと丸一年はこんな話をし続けないといけない。落ちたら就職。将来のこと。

「あーもうほんと受験やだ」




「なんか、正月開けからもう先生たちがずっと受験受験言うから。滅入るわ……」
「そら、あの人たちはそれが仕事だからさ」
「くおんはヨユーて感じだった?」
「いや全然。俺、理系はまだしも社会と国語ダメで。ここ受けたの、二次が理数英だけだったからだよ」
「そんな理由で!」
「まー工学部、そこら中にあっから」

 なにしろ得意科目がないから、そういう発想すら出てこない。

「はあー。俺理数系がんばらないと……そっちがすごい得意なヤツばっか受けんだろーし」
「共通は取れるだろ、そういうやつらより。理数系は教えてやれるよたぶん」
「え!ほんと?」
「たぶんな、忘れてるかも知れないけど。てか、ちょっと出ね?」



「歩きだよなー」
「一回チャリ取ってくる?」
「いやいいわ。二ケツして行くべ」
「えー……」
「もう暗くなるよ」

 くおんが冬の早い夕暮れの中で笑って言った。どこに行くのかと思ったら、自転車で五分ほどのバッティングセンターだった。

「来たことある?」
「ない!」
「えー地元民が……」
「野球もまともにやったことないよ」
「打ちゃあいいんだよ。ホレやってみ。空いてる」

 一番遅いのを選んだら、最初のうちは全然当たらなかったが次第に当たるようになった。当たるようになると楽しい。

「いった!」

 カーンと澄んだ音がして、ホームランのライトが付く。

「すごい。あと9本ホームラン出すとなんかもらえるらしい」
「無理でしょ!」




「楽しかった!てかバッティングセンターってあんな感じなんだー」
「俺も全然あそこにあんの気づかなかったんだけど。こないだ大学の友達と来てさ」

 帰りはずっと登り坂なので、二人で並んで歩いた。くおんが自転車を押して行く。

「少しすっきりした?」
「……した!」

 くおんが自分のために連れ出してくれたことに気づいた。愚痴を言い過ぎた。

「俺受験嫌がりすぎだよな……」
「いやなもんは嫌だよ。俺だって嫌だったよ」

 でも落ちるともっとしんどいだろ、とくおんは続けた。

「今年はがんばれ。また息抜きしよう」
「……うん」

 誰に受験受験と言われるよりずっしり来た。
 とっぷりと日が暮れた空っ風の中を黙って歩いていると、くおんはくしゃくしゃとエンマの頭を撫でた。 






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