Marry Me?

美凪ましろ

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Vol.20.病的なまでに

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 ――時々、大樹との会話を振り返って噴き出してしまうことがある。例えば、こんなとき。

 お昼休みに、サンドイッチを片手に、携帯でメッセなんかチェックしていると――

『おれの美紗。こんにチワワン』
『おつかれサマンサ♪』
『今回のコーデも超絶美味だナンタコス』
『うめえ。美紗の美味さが画面からひしひしと伝わルンバ』
『おまえはおれをどんだけ悩殺すれば気が済むんだーいし』
『暴力的なまでに綺麗なんだけドーナツ』
『ここまで来ると美の暴力だ戦慄く』
『じゃ。美の下僕は仕事に戻るワッショイ』
『今夜のおかずを当てたら舐めてやルルルン♪』
『ところでおまえが〇パン履いてるの気づかないとでも思うな用事』
『桜色の、ふりっふりの、おリボンついたあれな』

『えっろ』

『おれに、ほどかせろよ』

『絶対な』

 ……仕事中は、必要なとき以外は一切携帯を見ないので。休憩時間などにこれらのメッセを一気に読むことになり、正直、サンドイッチを吹きそうになる。そのタイミングで、和泉くんが入ってきた。在庫整理だ。棚から服を取り出しながら、和泉くんは、

「……美紗さん。相変わらず、彼氏さんと、ラッブラブなんすねえ」

 なんとなくアプリを閉じてあたしは答える。「……なんで分かるの」

「美紗さん」得意げに和泉くんが言う。「彼氏さんのこと考えてるとき、鼻の穴、膨らむんすよ。……自覚しといたほうがいいっすよ」

 あー。なー〇……。下ネタ厳禁。全年齢。

 なるほどなるほど。ふふん、と鼻を鳴らしてあたしは応じる。「ご心配なく。マスクを外すのは、食事以外なら、彼と一緒のときだけだから。鼻の穴なんか膨らみ放題にございますの」

 なんなら他の穴も、と付け足そうと思ったが自粛自粛。セクハラだ。

「まー……。上手くいっているようで何よりす。……ご両親に会ったりとか、されてるんすか? 秒読み段階だったりして」

「あーうん」あたしは、トマトジュースのパックをストローでちゅーちゅーすすり、「この状況下なので。うちの親はZOOM面談かな。……んで、彼のご両親は、近距離なもので。……PCR検査受けたうえで、いずれご挨拶に伺おうかと……」

 にやり、と、マスク越しでも分かるくらいに、和泉くんは振り返ると、大きく笑った。「――緊張、してます?」

「掃除機」YES、とあたしは首肯した。「ダイ〇ンの掃除機って重ためだね。ドライヤーはクオリティが高くて好きなんだけど。……彼氏の親に会うなんて初めてだし、どんな格好したらいいのやら……はてさて……」

 ふはっ、と和泉くんが破顔した。「……天下のカリスマ店員、ミサミサ69♪ さまがなにを仰いますか。……こちらの新作など、いかがです?」

「……あ」

 和泉くんが手に取るのは、夏の新作。紫色で、袖が膨らみ、ウエストは高い部分でシェイプ。斜めにフリルの入った、ドレッシーなサマードレスだ。……おおお。これ、関東限定カラーで、一目惚れだったんだよね。勿論買いました。買いましたとも。

「……派手過ぎない?」と上目遣いであたしが聞いてみれば、「この服着て好感度抱かないわけないじゃないですか。自信持ってくださいよ」と和泉くんは言う。

「ほんじゃー、ごゆっくり美紗さん。おれ、戻ります。……なんかまた相談事でもあったら、容赦なく言ってくださいね」

 あたしは苦笑いを漏らした。「……なんで大樹の口癖が職場に浸透しているんですか」

「……それだけ美紗さんが、うちの店で愛されているっつうことですよ。……お先です」

「うん。……お疲れ」

 手を振り、支度にかかる和泉くんを見送る。……彼も、シュッとしてて、スタイルがいいんだよね。やー。CD買ったことないって言ってたからおねえさんびっくらぽんだったわ。ぎりぎりあたしの世代で、レンタルか、どうにかお小遣いの範囲内で買ってたもん。もんね。みのもんた。お嬢さん。……どんな年齢の女性が相手でも、必ず相手を『お嬢さん』呼ばわりする彼の真性は、かつて、『BOSS』シーズン2ご出演時に、我らが女神天海祐希さまを『お嬢さん』扱いした古谷一行さまの紳士っぷりに通じるものがある。個人的にあれは神回だったわ。……志田未来がクレバーなJKでぶっ壊れてく回もたまんなかったけど。毎回脚本の林宏司さまが戸田恵梨香さまをいじり倒す……シーズン2でもその性癖は健在で。なにかの掛け持ちでフルで出られなかった戸田恵梨香さまをしっかりイジり倒すのは流石だったわ。さっすが林さん。絶対ドSだわ林さん。大みそかに月亭方正をいじり倒す蝶野さまに通じる鬼畜っぷりだわ。ガッ……デム!!

 さて。

 ひとり、部屋の片隅で、再び、彼のメッセを読み返す。……うっふふ。うふふ。うふふ……。きゅふふ……っ。
 
 ってこんなエモポエミーメッセ喜ぶあたり、あたしも変態? 変態だよ。変態でごわんす。変態上等ッ! 奇跡の四段活用☆彡

「――ふぅ」

 あーむらむらする。大樹としたい。……などと考えている場合ではなく。

 げふん、と咳払いをする。……性欲と食欲が比例すると例えたのは誰だったか。フロイトあたりか。……確かに。食欲のある人間は性欲も強――

 と、考えたところでまたも、咳ばらいをする。……どうにも、大樹と出会ったせいで、完全にエロ成分が開発されまくって、どうにも、いちいちそっち方向で考えてしまう性癖がある。なんなら、サンドイッチを貪る自分の唇がいやらしくさえ思える。……ってまじ、これ、重症だわさ。

 ともあれ。――性も欲も超えたところで、深く――繋がりあえている。

 そんな、自信を持てる相手は、勿論、大樹が初めてだった。……彼に会うたび、あたしは、恋をしている。

 こうして、狭い七畳ばかりの部屋で、愛を、あたためあい……。いずれ、こんな日々が、懐かしく思える日も来るだろう。

 気前のいい、大樹のお父さんは、『人生は、思い出作り』だと言う。名言だ。……大樹は、いつも、いつ、なにが起こっても後悔がないように。極端な話、明日死んでも後悔のないように、……行動しているそうだ。

 それで。あの、唐突なお姫様抱っこ……に繋がったそうな。

 しかし。あたしは、覚えている。出会ったあのとき。彼は、あたしの靴を取り返し、あたしにパンプスを履かせると、くるりと背を向けたではないか。……あれは、別れのサイン? あたしが、もし、声をかけなかったら、どうなっていたか。

 つん、と画面のなかの大樹に指先で触れ、ひとり、つぶやく。

「……考えるだけ、無意味かな」

 それとも、大樹のことだから。わざと、押しを強くしといて引いたのかな。彼、策略家だから。

 なーんてことを思いながら、彼のメッセを何度も何度も読み返し、むふふとほくそ笑むほどにはあたしは――

 病的なまでに、彼に、恋をしている。

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