Marry Me?

美凪ましろ

文字の大きさ
34 / 34

最終話.あなたとともに歩む未来

しおりを挟む
「ほんに、……いいひと選んだねぇあんた……」

 お昼休憩中に、母に、電話をした。先日、大樹とZOOM面談をしたばかりだ。……大樹が一緒だと言えないこともあるだろうから。母の――本音が知りたかった。

「美紗。あんたは、離れておっても大事な娘やさけ……。いつでも相談なさいね。大樹さんは、あんたを『守る』言うてはったんやさけ。いまどき珍しい、男気のあるひとやわいね。……綺麗な目をしとる。あのひととやったら、あんたは、幸せになれる。……お母さんにそう断言して欲しくて、電話してんやろ?」

「――あ。え。まあ……」

 母の笑顔が目に浮かぶようだった。「誰やって、……初めてなにかをするときは不安やわいね。ほんでも、『このひとと一緒におりたい!』って気持ちがあんねやったら、お母さん、どうにでもなると思うておるわ……。まあ」

 母はすぅと息を吸い、「もしなんかあったら実家帰ってくればいいげやさけ。安心しましい」

「いやいやそんなことにはならないように。とにかく――幸せになるよ。ありがとうね。お母さん。わたしを産んでくれて……」

「いややわぁこの子。いますぐ嫁に行くわけやないがに」

「それでも、……ありがとう」

 きっと母は泣いている。そう思いながら電話を切る――と、すぐそこに、深崎店長が立っていた。思い詰めていたかに見えた彼だったが、目が合うと、にこりと笑った。「……外堀は埋まったか」

 スマホをポッケにしまい、「ええ。まあ……」

「これで安心しておまえのことを諦められる。……もしあいつに泣かされたら、真っ先におれに、言えよ」

「ええ……分かりました」

「そんなつもりはないくせに」くしゃっと笑う店長。不覚にも見惚れた。「肯定する辺りが、おまえらしいっつうか……幸せになれよ」

「はい。ありがとうございます……」

 通りざま、あたしに触れようとしないあたりが、深崎店長らしいなと、思った。――彼のぶんも、幸せにならなくては、と、思いを新たにした。

 * * *

「……え。こちらを。着ましょうって意味……?」

 次の休みの日は、大樹とデートの約束だった。……が、何故か彼は朝早くに出かけ、あたしといえば、須賀ちゃんに、とある場所に呼び出されていた。場所も何も。須賀ちゃんの住むアパートだ。須賀ちゃんも、花見町在住である。因みに自転車通勤。

 マネキン人形が、白いドレスを着ている。……美しい、レースのあしらわれた……。

「こないだ採寸したじゃないですか」と、おさげをおだんごに結わう須賀ちゃんは、スタイリストみたく、Uピンを口に挟むと、「……ていうか美紗さん。なにしにあたしが美紗さんの全身採寸したと思ってたんすか」

「や。……須賀ちゃん、時々服作るの知ってたけど……まさか。こんな豪華なものだとは……」

「ご安心ください」と須賀ちゃんは胸を張る。「メイクもわたしのほうでさせて頂きますので。……ああ、ご心配なく。わたしのような地雷メイクにはしませんので……」

 言われ、着替え、メイクを施されると……

 鏡のなかには、結婚式を控えた花嫁のように、美しい女性がいた。

「さて。行きましょう美紗さん」と須賀ちゃんはあたしの手を取り、「……外に車待たせてありますんで」

 * * *

「……おう」

 柄にもなくスーツ姿の店長が、運転席に座っていた。……てか、なんだこの事態は。いまだに、事情が飲み込めない。

 うっふふ、と一緒に後部座席に座る須賀ちゃんは、なにも答えてくれない。……店長も然り。

 それで。辿り着いた先は――

 あの、公園、だった。

 モネの睡蓮の絵画に描かれたような美しき並木と湖畔のワンセット。その、絵画のような風景に溶け込むように……

 タキシード姿の、大樹が、立っていた。

 戸惑いながらもあたしは、歩み寄る。「なにこれ、どういうこと……」

 しかも、あたしは、どういうわけか、スリッパを履かされている。……ここ、笑うべき場面?
 
 と思ったら、大樹は、あたしに近づくと――あたしを、実にナチュラルな所作で姫抱きにし、すぐそばのベンチに座らせた。……一度、思い切り愛を確かめ合った。互いの舌が溶けるほどの甘い、熱い接吻を交わした場所だった。あの行為を思い返すと、あたしの中心がかーっと熱くなる。

 大樹は、座ったあたしの前に跪くと、ベンチの下に置いてあったのだろうか。箱からパンプスを取り出し――

「……姫。ぼくと、……結婚してください」

 うるんだ瞳であたしを見つめると、あたしに、丁寧に靴を履かせた。――風が、吹いている。恋人たちを祝福するように。

「……はい。喜んで……」

 きゃーっ、と須賀ちゃんの悲鳴があがると、あたしは抱き上げられ、上半身をぴったりと重ね合わせたまま、ぐるぐると振り回されていた。あたしは、ちょっと、笑った。

 止まると、大樹は、あたしにキスをした。店長がどうやら拍手をしている。須賀ちゃんが、鼻を、すすっている。店は――どうしたのだろうか。和泉くんの姿が見えないことからすると彼にメインを任せたということか。

「――おい。大樹」

 店長が、花束を大樹に手渡す。大樹は、再びあたしを座らせると、またも、跪き、

「――Happy birthday。美紗。……早速だけど、今日、入籍しようっか」

「……おお。今日。今日ですか……」

「入籍届は用意してある。証人はおれたちでいーだろ」

 ……まったく。

 どこまで用意周到なんですかこのひとたちは。

 あたしは、――笑った。大樹も、笑っていた。みんな、笑顔だった。

 外はちょっと、汗ばむくらいの陽気だったけれど、このくらいが、気持ちいい。幸せと、真っ向から向き合うくらいには、あたしは、覚悟が出来ている。

 誕生日と、入籍日を、同時に迎えられるくらいには。

「……でも、うちの親や、大樹のご両親には」

「言っておいた」

「事後報告ですか」

 花束ごとあたしを抱え上げると、大樹は、花のように笑った。「言っておくけど。……一生、離すつもりはないから」

「離れるつもりもございません。……大樹。大好きよ……」

「おれも」

 花束さんちょっとごめんなさいね。あたし、大樹に、抱かれたい。

 空はとても高く、相変わらず青かった。どこまでも、幸せな人間たちを祝福するかのように、遠く、輝いていた。

 ―完―
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜

いろは
恋愛
20歳ラノベ好きの喪女の春香。いつもの週末の様にラノベを深夜まで読み寝落ちし目覚めたら森の中に。よく読むラノベの様な異世界に転移した。 突然狼に襲われ助けてくれたのは赤髪の超男前。 この男性は公爵家嫡男で公爵家に保護してもらい帰り方を探す事に。 転移した先は女神の嫉妬により男しか生まれない国。どうやら異世界から来た春香は”迷い人”と呼ばれこの国の王子が探しているらしい。”迷い人”である事を隠し困惑しながらも順応しようと奮闘する物語。 ※”小説家になろう”で書いた話を改編・追記しました。あちらでは完結しています。よければ覗いてみて下さい

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

逢いたくて逢えない先に...

詩織
恋愛
逢いたくて逢えない。 遠距離恋愛は覚悟してたけど、やっぱり寂しい。 そこ先に待ってたものは…

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

わたしの正体不明の甘党文通相手が、全員溺愛王子様だった件

あきのみどり
恋愛
【まじめ侍女と、小悪魔系王子、無自覚系ツンデレ王子、寡黙ぼんやり系王子、三人の甘党王子様たちによるラブコメ】 王宮侍女ロアナは、あるとき思いがけない断罪にみまわれた。 彼女がつくった菓子が原因で、美貌の第五王子が害されたという。 しかしロアナには、顔も知らない王子様に、自分の菓子が渡った理由がわからない。 けれども敬愛する主には迷惑がかけられず… 処罰を受けいれるしかないと覚悟したとき。そんな彼女を救ったのは、面識がないはずの美貌の王子様で…? 王宮が舞台の身分差恋物語。 勘違いと嫉妬をふりまく、のんきなラブコメ(にしていきたい)です。 残念不憫な王子様発生中。 ※他サイトさんにも投稿予定

処理中です...