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最終話.あなたとともに歩む未来
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「ほんに、……いいひと選んだねぇあんた……」
お昼休憩中に、母に、電話をした。先日、大樹とZOOM面談をしたばかりだ。……大樹が一緒だと言えないこともあるだろうから。母の――本音が知りたかった。
「美紗。あんたは、離れておっても大事な娘やさけ……。いつでも相談なさいね。大樹さんは、あんたを『守る』言うてはったんやさけ。いまどき珍しい、男気のあるひとやわいね。……綺麗な目をしとる。あのひととやったら、あんたは、幸せになれる。……お母さんにそう断言して欲しくて、電話してんやろ?」
「――あ。え。まあ……」
母の笑顔が目に浮かぶようだった。「誰やって、……初めてなにかをするときは不安やわいね。ほんでも、『このひとと一緒におりたい!』って気持ちがあんねやったら、お母さん、どうにでもなると思うておるわ……。まあ」
母はすぅと息を吸い、「もしなんかあったら実家帰ってくればいいげやさけ。安心しましい」
「いやいやそんなことにはならないように。とにかく――幸せになるよ。ありがとうね。お母さん。わたしを産んでくれて……」
「いややわぁこの子。いますぐ嫁に行くわけやないがに」
「それでも、……ありがとう」
きっと母は泣いている。そう思いながら電話を切る――と、すぐそこに、深崎店長が立っていた。思い詰めていたかに見えた彼だったが、目が合うと、にこりと笑った。「……外堀は埋まったか」
スマホをポッケにしまい、「ええ。まあ……」
「これで安心しておまえのことを諦められる。……もしあいつに泣かされたら、真っ先におれに、言えよ」
「ええ……分かりました」
「そんなつもりはないくせに」くしゃっと笑う店長。不覚にも見惚れた。「肯定する辺りが、おまえらしいっつうか……幸せになれよ」
「はい。ありがとうございます……」
通りざま、あたしに触れようとしないあたりが、深崎店長らしいなと、思った。――彼のぶんも、幸せにならなくては、と、思いを新たにした。
* * *
「……え。こちらを。着ましょうって意味……?」
次の休みの日は、大樹とデートの約束だった。……が、何故か彼は朝早くに出かけ、あたしといえば、須賀ちゃんに、とある場所に呼び出されていた。場所も何も。須賀ちゃんの住むアパートだ。須賀ちゃんも、花見町在住である。因みに自転車通勤。
マネキン人形が、白いドレスを着ている。……美しい、レースのあしらわれた……。
「こないだ採寸したじゃないですか」と、おさげをおだんごに結わう須賀ちゃんは、スタイリストみたく、Uピンを口に挟むと、「……ていうか美紗さん。なにしにあたしが美紗さんの全身採寸したと思ってたんすか」
「や。……須賀ちゃん、時々服作るの知ってたけど……まさか。こんな豪華なものだとは……」
「ご安心ください」と須賀ちゃんは胸を張る。「メイクもわたしのほうでさせて頂きますので。……ああ、ご心配なく。わたしのような地雷メイクにはしませんので……」
言われ、着替え、メイクを施されると……
鏡のなかには、結婚式を控えた花嫁のように、美しい女性がいた。
「さて。行きましょう美紗さん」と須賀ちゃんはあたしの手を取り、「……外に車待たせてありますんで」
* * *
「……おう」
柄にもなくスーツ姿の店長が、運転席に座っていた。……てか、なんだこの事態は。いまだに、事情が飲み込めない。
うっふふ、と一緒に後部座席に座る須賀ちゃんは、なにも答えてくれない。……店長も然り。
それで。辿り着いた先は――
あの、公園、だった。
モネの睡蓮の絵画に描かれたような美しき並木と湖畔のワンセット。その、絵画のような風景に溶け込むように……
タキシード姿の、大樹が、立っていた。
戸惑いながらもあたしは、歩み寄る。「なにこれ、どういうこと……」
しかも、あたしは、どういうわけか、スリッパを履かされている。……ここ、笑うべき場面?
と思ったら、大樹は、あたしに近づくと――あたしを、実にナチュラルな所作で姫抱きにし、すぐそばのベンチに座らせた。……一度、思い切り愛を確かめ合った。互いの舌が溶けるほどの甘い、熱い接吻を交わした場所だった。あの行為を思い返すと、あたしの中心がかーっと熱くなる。
大樹は、座ったあたしの前に跪くと、ベンチの下に置いてあったのだろうか。箱からパンプスを取り出し――
「……姫。ぼくと、……結婚してください」
うるんだ瞳であたしを見つめると、あたしに、丁寧に靴を履かせた。――風が、吹いている。恋人たちを祝福するように。
「……はい。喜んで……」
きゃーっ、と須賀ちゃんの悲鳴があがると、あたしは抱き上げられ、上半身をぴったりと重ね合わせたまま、ぐるぐると振り回されていた。あたしは、ちょっと、笑った。
止まると、大樹は、あたしにキスをした。店長がどうやら拍手をしている。須賀ちゃんが、鼻を、すすっている。店は――どうしたのだろうか。和泉くんの姿が見えないことからすると彼にメインを任せたということか。
「――おい。大樹」
店長が、花束を大樹に手渡す。大樹は、再びあたしを座らせると、またも、跪き、
「――Happy birthday。美紗。……早速だけど、今日、入籍しようっか」
「……おお。今日。今日ですか……」
「入籍届は用意してある。証人はおれたちでいーだろ」
……まったく。
どこまで用意周到なんですかこのひとたちは。
あたしは、――笑った。大樹も、笑っていた。みんな、笑顔だった。
外はちょっと、汗ばむくらいの陽気だったけれど、このくらいが、気持ちいい。幸せと、真っ向から向き合うくらいには、あたしは、覚悟が出来ている。
誕生日と、入籍日を、同時に迎えられるくらいには。
「……でも、うちの親や、大樹のご両親には」
「言っておいた」
「事後報告ですか」
花束ごとあたしを抱え上げると、大樹は、花のように笑った。「言っておくけど。……一生、離すつもりはないから」
「離れるつもりもございません。……大樹。大好きよ……」
「おれも」
花束さんちょっとごめんなさいね。あたし、大樹に、抱かれたい。
空はとても高く、相変わらず青かった。どこまでも、幸せな人間たちを祝福するかのように、遠く、輝いていた。
―完―
お昼休憩中に、母に、電話をした。先日、大樹とZOOM面談をしたばかりだ。……大樹が一緒だと言えないこともあるだろうから。母の――本音が知りたかった。
「美紗。あんたは、離れておっても大事な娘やさけ……。いつでも相談なさいね。大樹さんは、あんたを『守る』言うてはったんやさけ。いまどき珍しい、男気のあるひとやわいね。……綺麗な目をしとる。あのひととやったら、あんたは、幸せになれる。……お母さんにそう断言して欲しくて、電話してんやろ?」
「――あ。え。まあ……」
母の笑顔が目に浮かぶようだった。「誰やって、……初めてなにかをするときは不安やわいね。ほんでも、『このひとと一緒におりたい!』って気持ちがあんねやったら、お母さん、どうにでもなると思うておるわ……。まあ」
母はすぅと息を吸い、「もしなんかあったら実家帰ってくればいいげやさけ。安心しましい」
「いやいやそんなことにはならないように。とにかく――幸せになるよ。ありがとうね。お母さん。わたしを産んでくれて……」
「いややわぁこの子。いますぐ嫁に行くわけやないがに」
「それでも、……ありがとう」
きっと母は泣いている。そう思いながら電話を切る――と、すぐそこに、深崎店長が立っていた。思い詰めていたかに見えた彼だったが、目が合うと、にこりと笑った。「……外堀は埋まったか」
スマホをポッケにしまい、「ええ。まあ……」
「これで安心しておまえのことを諦められる。……もしあいつに泣かされたら、真っ先におれに、言えよ」
「ええ……分かりました」
「そんなつもりはないくせに」くしゃっと笑う店長。不覚にも見惚れた。「肯定する辺りが、おまえらしいっつうか……幸せになれよ」
「はい。ありがとうございます……」
通りざま、あたしに触れようとしないあたりが、深崎店長らしいなと、思った。――彼のぶんも、幸せにならなくては、と、思いを新たにした。
* * *
「……え。こちらを。着ましょうって意味……?」
次の休みの日は、大樹とデートの約束だった。……が、何故か彼は朝早くに出かけ、あたしといえば、須賀ちゃんに、とある場所に呼び出されていた。場所も何も。須賀ちゃんの住むアパートだ。須賀ちゃんも、花見町在住である。因みに自転車通勤。
マネキン人形が、白いドレスを着ている。……美しい、レースのあしらわれた……。
「こないだ採寸したじゃないですか」と、おさげをおだんごに結わう須賀ちゃんは、スタイリストみたく、Uピンを口に挟むと、「……ていうか美紗さん。なにしにあたしが美紗さんの全身採寸したと思ってたんすか」
「や。……須賀ちゃん、時々服作るの知ってたけど……まさか。こんな豪華なものだとは……」
「ご安心ください」と須賀ちゃんは胸を張る。「メイクもわたしのほうでさせて頂きますので。……ああ、ご心配なく。わたしのような地雷メイクにはしませんので……」
言われ、着替え、メイクを施されると……
鏡のなかには、結婚式を控えた花嫁のように、美しい女性がいた。
「さて。行きましょう美紗さん」と須賀ちゃんはあたしの手を取り、「……外に車待たせてありますんで」
* * *
「……おう」
柄にもなくスーツ姿の店長が、運転席に座っていた。……てか、なんだこの事態は。いまだに、事情が飲み込めない。
うっふふ、と一緒に後部座席に座る須賀ちゃんは、なにも答えてくれない。……店長も然り。
それで。辿り着いた先は――
あの、公園、だった。
モネの睡蓮の絵画に描かれたような美しき並木と湖畔のワンセット。その、絵画のような風景に溶け込むように……
タキシード姿の、大樹が、立っていた。
戸惑いながらもあたしは、歩み寄る。「なにこれ、どういうこと……」
しかも、あたしは、どういうわけか、スリッパを履かされている。……ここ、笑うべき場面?
と思ったら、大樹は、あたしに近づくと――あたしを、実にナチュラルな所作で姫抱きにし、すぐそばのベンチに座らせた。……一度、思い切り愛を確かめ合った。互いの舌が溶けるほどの甘い、熱い接吻を交わした場所だった。あの行為を思い返すと、あたしの中心がかーっと熱くなる。
大樹は、座ったあたしの前に跪くと、ベンチの下に置いてあったのだろうか。箱からパンプスを取り出し――
「……姫。ぼくと、……結婚してください」
うるんだ瞳であたしを見つめると、あたしに、丁寧に靴を履かせた。――風が、吹いている。恋人たちを祝福するように。
「……はい。喜んで……」
きゃーっ、と須賀ちゃんの悲鳴があがると、あたしは抱き上げられ、上半身をぴったりと重ね合わせたまま、ぐるぐると振り回されていた。あたしは、ちょっと、笑った。
止まると、大樹は、あたしにキスをした。店長がどうやら拍手をしている。須賀ちゃんが、鼻を、すすっている。店は――どうしたのだろうか。和泉くんの姿が見えないことからすると彼にメインを任せたということか。
「――おい。大樹」
店長が、花束を大樹に手渡す。大樹は、再びあたしを座らせると、またも、跪き、
「――Happy birthday。美紗。……早速だけど、今日、入籍しようっか」
「……おお。今日。今日ですか……」
「入籍届は用意してある。証人はおれたちでいーだろ」
……まったく。
どこまで用意周到なんですかこのひとたちは。
あたしは、――笑った。大樹も、笑っていた。みんな、笑顔だった。
外はちょっと、汗ばむくらいの陽気だったけれど、このくらいが、気持ちいい。幸せと、真っ向から向き合うくらいには、あたしは、覚悟が出来ている。
誕生日と、入籍日を、同時に迎えられるくらいには。
「……でも、うちの親や、大樹のご両親には」
「言っておいた」
「事後報告ですか」
花束ごとあたしを抱え上げると、大樹は、花のように笑った。「言っておくけど。……一生、離すつもりはないから」
「離れるつもりもございません。……大樹。大好きよ……」
「おれも」
花束さんちょっとごめんなさいね。あたし、大樹に、抱かれたい。
空はとても高く、相変わらず青かった。どこまでも、幸せな人間たちを祝福するかのように、遠く、輝いていた。
―完―
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