1 / 1
◆◆五月の転入生
1
しおりを挟む
「単刀直入に言うと、私の目的は、『タカミネ ヒバナ』を探し出すことだ。それ以外に、目的はない。」
五月。青葉の茂る健やかなる季節。
春ほど空気がほんわかしておらず、厳しい夏の気配を徐々に感じ、半袖の服を着てくる子も出てくる時期。
六年生の五月なんて卒業が目前で、人間関係もとっくに出来上がっているし同じ学年のみんなが顔見知り。こんな時期に転入してくるなんてよっぽどの訳ありか。元ヤンとか、親が相当空気の読めないやばめな親なのか、みんなこぞっていろんな噂をしていたが。
想像を超えた。
六年一組の壇上で、みんなの注目を一気に引き受ける転入生――本城さんは、とんでもない発言をする。
クラス中が一瞬静まり返ったあと、ざわつき始める。タカミネってなんだ? と口に出す男子さえいる。
あのことを――知られるわけにはいかない。
わたしは口許を引き結ぶ。
みんなの騒ぎが落ち着かぬうちに、本城さんは発言を重ねる。
「タカミネ ヒバナさえ見つかれば、この学園に、用はない。卒業を待たずに消えるよ。――短い間だがどうぞよろしく。」
恭しく礼をするさまなんか、貴族みたいに優雅で。
本城さんの、ウェーブのかかったツインテールが揺れる。なにがなんだか分からないってみんなそんな顔をしているけど、担任のニシノンが、
「みんな拍手!」と促すのでひとまずみんな顔を見合わせつつも拍手をする。
ニシノンこと西野先生は、
「席は、恋糖さんの隣ね。恋糖さん、本城さんは、転入したばかりで、分からないこともあるだろうから、サポート役、頼んだわよ!」
ニシノンはにっこりと笑う。……うう。なんか面倒くさい役割押し付けられた。先生が言うなら仕方ない。引き受けるつもり、だったのだが。
「話しかけないでくれ。観察に集中したい」
朝のホームルームが終わって早速隣の本城さんを見ればそんな調子で。
なぁな、どっから来たのおまえ?
タカミネなんとかってうちの小学校にいた、伝説の小説家だよな?
質問攻めにあっているのだが、本城さんはすました顔で――そう、彼女、両目で色が違う。
片方がうす茶色い瞳なのに、もう片方は蒼眼で。
肌が白くて、西洋人形のような美しさ。
髪は明るめの茶色で、おそらく地毛。小学生で髪を染める子なんていないから。
身長は、わたしより頭はんぶんくらい小さい。わたしなんてお母さんの身長抜いちゃったもん! 手足が長くて、ふてぶてしい態度を取る割には、きちんと手も足もそろえていて。黒のレースのあしらわれたブラウスに、同じく黒のサスペンダースカートを合わせていて、全体的にゴシック調で彼女の雰囲気に非常にマッチしている。イギリスの緑豊かなお庭なんかでウサギを走らせて紅茶を嗜んでいそうだ。
「愚民どもめ。口の利き方を心得よ。」
しっしと片手で追い払う仕草をしつつ、英語の辞書を手に熟読するさまなんか、どこぞの受験生かいな。……本城さんがなにを目指しているのかが本気で分からない。
「やかましい。」
「初日は観察に専念させてくれたまえ。」
「きみ。花粉症がきついのなら、運動をするとよいよ。フィジカルに負荷をかけるんだ。」
「私は極端に足が遅いのでね。運動は不向きなのだ。どうか私のぶんまで楽しんでくれたまえ」
同じ小学六年生の女の子のはずなのに、探偵じみた話し方をし、次々に訪れる面々を追い払ううちに、……帰りの会が終わる頃には、本城さんに声をかけるひとは誰もいなくなっていた。
……が、悲壮感など皆無。むしろ周りを見て面白そうに笑っている。
ああ、彼が……なのだな。
そうか、そういうことか。……など小声でぶつぶつ言って、見た目が美少女じゃなかったらだいぶ怪しめのひとだ。
掃除が終わってから、果たして本城さんに校内を案内しなくていいものか? ……それに、誰も声をかけなくなって独りぼっちにさせるのはなんとも後味が悪い。
なので、がたがたわいわいと、みんなが後ろのロッカーにランドセルを取りに行ったり、騒いだりする、放課後の開放感に満ちた教室のなかで、勇気を出した。
「本城さん。一緒に帰ろうか」
既にランドセルを取りに行っていたらしい。いちいち行動が早い。……そういえば、本城さんは、転入初日にいきなり授業で先生に当てられたのに。すました顔ですらすら全部完璧に答えた。国語も社会も英語の時間も、それから音楽の歌のテストがあったのに、みんなの前で堂々と歌って。なんなのだ。
本城さんは、ちらとわたしを見ると、ランドセルの腕ベルトに手を入れて担ぎ、よ、と言い、
「恋糖くんか。……ふむ。頃合いか」
しかも、ランドセルは黒。男の子じゃあるまいし。
服もランドセルも黒で全身黒ずくめのゴシックロリータ風な本城さんは、
「よかろう。私との下校を許可する」
ホームズを小学生にしたらこんな感じ、かな。
五月。青葉の茂る健やかなる季節。
春ほど空気がほんわかしておらず、厳しい夏の気配を徐々に感じ、半袖の服を着てくる子も出てくる時期。
六年生の五月なんて卒業が目前で、人間関係もとっくに出来上がっているし同じ学年のみんなが顔見知り。こんな時期に転入してくるなんてよっぽどの訳ありか。元ヤンとか、親が相当空気の読めないやばめな親なのか、みんなこぞっていろんな噂をしていたが。
想像を超えた。
六年一組の壇上で、みんなの注目を一気に引き受ける転入生――本城さんは、とんでもない発言をする。
クラス中が一瞬静まり返ったあと、ざわつき始める。タカミネってなんだ? と口に出す男子さえいる。
あのことを――知られるわけにはいかない。
わたしは口許を引き結ぶ。
みんなの騒ぎが落ち着かぬうちに、本城さんは発言を重ねる。
「タカミネ ヒバナさえ見つかれば、この学園に、用はない。卒業を待たずに消えるよ。――短い間だがどうぞよろしく。」
恭しく礼をするさまなんか、貴族みたいに優雅で。
本城さんの、ウェーブのかかったツインテールが揺れる。なにがなんだか分からないってみんなそんな顔をしているけど、担任のニシノンが、
「みんな拍手!」と促すのでひとまずみんな顔を見合わせつつも拍手をする。
ニシノンこと西野先生は、
「席は、恋糖さんの隣ね。恋糖さん、本城さんは、転入したばかりで、分からないこともあるだろうから、サポート役、頼んだわよ!」
ニシノンはにっこりと笑う。……うう。なんか面倒くさい役割押し付けられた。先生が言うなら仕方ない。引き受けるつもり、だったのだが。
「話しかけないでくれ。観察に集中したい」
朝のホームルームが終わって早速隣の本城さんを見ればそんな調子で。
なぁな、どっから来たのおまえ?
タカミネなんとかってうちの小学校にいた、伝説の小説家だよな?
質問攻めにあっているのだが、本城さんはすました顔で――そう、彼女、両目で色が違う。
片方がうす茶色い瞳なのに、もう片方は蒼眼で。
肌が白くて、西洋人形のような美しさ。
髪は明るめの茶色で、おそらく地毛。小学生で髪を染める子なんていないから。
身長は、わたしより頭はんぶんくらい小さい。わたしなんてお母さんの身長抜いちゃったもん! 手足が長くて、ふてぶてしい態度を取る割には、きちんと手も足もそろえていて。黒のレースのあしらわれたブラウスに、同じく黒のサスペンダースカートを合わせていて、全体的にゴシック調で彼女の雰囲気に非常にマッチしている。イギリスの緑豊かなお庭なんかでウサギを走らせて紅茶を嗜んでいそうだ。
「愚民どもめ。口の利き方を心得よ。」
しっしと片手で追い払う仕草をしつつ、英語の辞書を手に熟読するさまなんか、どこぞの受験生かいな。……本城さんがなにを目指しているのかが本気で分からない。
「やかましい。」
「初日は観察に専念させてくれたまえ。」
「きみ。花粉症がきついのなら、運動をするとよいよ。フィジカルに負荷をかけるんだ。」
「私は極端に足が遅いのでね。運動は不向きなのだ。どうか私のぶんまで楽しんでくれたまえ」
同じ小学六年生の女の子のはずなのに、探偵じみた話し方をし、次々に訪れる面々を追い払ううちに、……帰りの会が終わる頃には、本城さんに声をかけるひとは誰もいなくなっていた。
……が、悲壮感など皆無。むしろ周りを見て面白そうに笑っている。
ああ、彼が……なのだな。
そうか、そういうことか。……など小声でぶつぶつ言って、見た目が美少女じゃなかったらだいぶ怪しめのひとだ。
掃除が終わってから、果たして本城さんに校内を案内しなくていいものか? ……それに、誰も声をかけなくなって独りぼっちにさせるのはなんとも後味が悪い。
なので、がたがたわいわいと、みんなが後ろのロッカーにランドセルを取りに行ったり、騒いだりする、放課後の開放感に満ちた教室のなかで、勇気を出した。
「本城さん。一緒に帰ろうか」
既にランドセルを取りに行っていたらしい。いちいち行動が早い。……そういえば、本城さんは、転入初日にいきなり授業で先生に当てられたのに。すました顔ですらすら全部完璧に答えた。国語も社会も英語の時間も、それから音楽の歌のテストがあったのに、みんなの前で堂々と歌って。なんなのだ。
本城さんは、ちらとわたしを見ると、ランドセルの腕ベルトに手を入れて担ぎ、よ、と言い、
「恋糖くんか。……ふむ。頃合いか」
しかも、ランドセルは黒。男の子じゃあるまいし。
服もランドセルも黒で全身黒ずくめのゴシックロリータ風な本城さんは、
「よかろう。私との下校を許可する」
ホームズを小学生にしたらこんな感じ、かな。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる