本城さんは見ている

美凪ましろ

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◆◆五月の転入生

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「単刀直入に言うと、私の目的は、『タカミネ ヒバナ』を探し出すことだ。それ以外に、目的はない。」
 五月。青葉の茂る健やかなる季節。
 春ほど空気がほんわかしておらず、厳しい夏の気配を徐々に感じ、半袖の服を着てくる子も出てくる時期。
 六年生の五月なんて卒業が目前で、人間関係もとっくに出来上がっているし同じ学年のみんなが顔見知り。こんな時期に転入してくるなんてよっぽどの訳ありか。元ヤンとか、親が相当空気の読めないやばめな親なのか、みんなこぞっていろんな噂をしていたが。
 想像を超えた。
 六年一組の壇上で、みんなの注目を一気に引き受ける転入生――本城ほんじょうさんは、とんでもない発言をする。
 クラス中が一瞬静まり返ったあと、ざわつき始める。タカミネってなんだ? と口に出す男子さえいる。
 あのことを――知られるわけにはいかない。
 わたしは口許を引き結ぶ。
 みんなの騒ぎが落ち着かぬうちに、本城さんは発言を重ねる。
「タカミネ ヒバナさえ見つかれば、この学園に、用はない。卒業を待たずに消えるよ。――短い間だがどうぞよろしく。」
 恭しく礼をするさまなんか、貴族みたいに優雅で。
 本城さんの、ウェーブのかかったツインテールが揺れる。なにがなんだか分からないってみんなそんな顔をしているけど、担任のニシノンが、
「みんな拍手!」と促すのでひとまずみんな顔を見合わせつつも拍手をする。
 ニシノンこと西野先生は、
「席は、恋糖こいとうさんの隣ね。恋糖さん、本城さんは、転入したばかりで、分からないこともあるだろうから、サポート役、頼んだわよ!」
 ニシノンはにっこりと笑う。……うう。なんか面倒くさい役割押し付けられた。先生が言うなら仕方ない。引き受けるつもり、だったのだが。

「話しかけないでくれ。観察に集中したい」
 朝のホームルームが終わって早速隣の本城さんを見ればそんな調子で。
 なぁな、どっから来たのおまえ?
 タカミネなんとかってうちの小学校にいた、伝説の小説家だよな?
 質問攻めにあっているのだが、本城さんはすました顔で――そう、彼女、両目で色が違う。
 片方がうす茶色い瞳なのに、もう片方は蒼眼で。
 肌が白くて、西洋人形のような美しさ。
 髪は明るめの茶色で、おそらく地毛。小学生で髪を染める子なんていないから。
 身長は、わたしより頭はんぶんくらい小さい。わたしなんてお母さんの身長抜いちゃったもん! 手足が長くて、ふてぶてしい態度を取る割には、きちんと手も足もそろえていて。黒のレースのあしらわれたブラウスに、同じく黒のサスペンダースカートを合わせていて、全体的にゴシック調で彼女の雰囲気に非常にマッチしている。イギリスの緑豊かなお庭なんかでウサギを走らせて紅茶を嗜んでいそうだ。
「愚民どもめ。口の利き方を心得よ。」
 しっしと片手で追い払う仕草をしつつ、英語の辞書を手に熟読するさまなんか、どこぞの受験生かいな。……本城さんがなにを目指しているのかが本気で分からない。
「やかましい。」
「初日は観察に専念させてくれたまえ。」
「きみ。花粉症がきついのなら、運動をするとよいよ。フィジカルに負荷をかけるんだ。」
「私は極端に足が遅いのでね。運動は不向きなのだ。どうか私のぶんまで楽しんでくれたまえ」
 同じ小学六年生の女の子のはずなのに、探偵じみた話し方をし、次々に訪れる面々を追い払ううちに、……帰りの会が終わる頃には、本城さんに声をかけるひとは誰もいなくなっていた。
 ……が、悲壮感など皆無。むしろ周りを見て面白そうに笑っている。
 ああ、彼が……なのだな。
 そうか、そういうことか。……など小声でぶつぶつ言って、見た目が美少女じゃなかったらだいぶ怪しめのひとだ。
 掃除が終わってから、果たして本城さんに校内を案内しなくていいものか? ……それに、誰も声をかけなくなって独りぼっちにさせるのはなんとも後味が悪い。
 なので、がたがたわいわいと、みんなが後ろのロッカーにランドセルを取りに行ったり、騒いだりする、放課後の開放感に満ちた教室のなかで、勇気を出した。
「本城さん。一緒に帰ろうか」
 既にランドセルを取りに行っていたらしい。いちいち行動が早い。……そういえば、本城さんは、転入初日にいきなり授業で先生に当てられたのに。すました顔ですらすら全部完璧に答えた。国語も社会も英語の時間も、それから音楽の歌のテストがあったのに、みんなの前で堂々と歌って。なんなのだ。
 本城さんは、ちらとわたしを見ると、ランドセルの腕ベルトに手を入れて担ぎ、よ、と言い、
「恋糖くんか。……ふむ。頃合いか」
 しかも、ランドセルは黒。男の子じゃあるまいし。
 服もランドセルも黒で全身黒ずくめのゴシックロリータ風な本城さんは、
「よかろう。私との下校を許可する」
 ホームズを小学生にしたらこんな感じ、かな。
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