碧の青春【改訂版】

美凪ましろ

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第二十六章 その、薄汚い京都弁をやめないか

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「ほなこのはしごでうえまで登って? したらついたてついとるほう顔向けて座って? 顔出さんようになあこっちこっち」
「え、え、え?」
「たのんますわ」

 四時ジャストどころか五分前に到着した。
 受験生のサガだ。
 想定の範囲内だったらしく「都倉はんおいでやすぅ」と無意味に京のイントネーションで坂田くんが出迎えた。

 出入口のついた立方体の建物をよじ登る。
 上面にはドラマの殺人事件で見かける青いビニールシートが敷かれていた。……不吉な。
「どや、眺めは」
「陸上自衛隊の気分」私はうつ伏せた。
 高い声で坂田くんは笑った。

 屋上にくるのは、あれ以来だ。

 思い出して顔を熱くするなんて……どうかしている。

「ほな。こっから絶対に声だしたらあかんでぇ。お客さんが来るさかいに」

 なんですと?

「坂田くん、いったいなに企んで」
「黙って見とき」
「あの」
「それ以上なんかゆうたらオレ都倉さんのこと死んでも離さへん」

 沈黙。

「イッツショータイム」

 カラスみたく動物的に笑った。

 ――眠く、なってきた。
 寝不足だったし。
 あくびが漏れる。押さえても誰も見てないし意味ないんだけど。
 コート教室に置いて来ちゃった。
 このままここにいると風邪引いちゃう――

「……さっすが、時間通りやんか」

 直下から伝わる衝撃で覚醒した。
 誰か、――来た。
 ゴム底がコンクリートを踏みつける独特の摩擦。怒ったようなリズムでそれを立てる、坂田くんが招待した相手とは――

「僕になんの用だよ」

 か――

 口に出しかけて慌てて押さえた。

「おいでやすぅー桜井はぁん」

 和貴だ。

 屋上で、坂田くんがあの彼の定位置に立つということは。

「質問に答えろよ。……屋上に呼びつけられる趣味はないんだけど」
「屋上、つうところにこだわりがあるようどすなあ桜井はんは」
「……いいから」

 こころのどこかで、あの彼が来ることを期待していた。

「まーそーかりかりせんと。せっかくのべっぴんさんが台無しやでえ」
「誰がべっぴんだ! 女扱いすんなっ」

 なにを、考えているのか。
 いま東京で私大を受験している。
 先ほどの連想も含めて、自分が恥ずかしい。

「はい深呼吸ぅーふかぁく息吸うてー落ち着きんしゃい。……オレと桜井の仲やないの」
「は? どういう」
「ずくっずくの友達」
「……信用ならないね。紗優にちょっかいかけたと思えば真咲さんにキスしたり」

 一瞬。
 この屋上でのあれが思い出されたが――そんなはずがない。
 いつのことを言っている。坂田くんにキス。ああ……

「ここ。……は、外しておいたで。見とったんならはよゆえや」
「見せつけていたくせによく言うよ」

 膝から上が寒くなった。
 スカートがめくれあがっていた。強い風に煽られ。
 急いで片手で押さえる。

「変な小細工ばっかするのなら――ひとを振り回して楽しんでいるのなら、僕はおまえを許さない」
「オレは愛の向くほうの味方やで」
「……意味分かんないよ」
「もうちょいオレんこと信用しいや。敵やないで。どちらかっつうと好意的に――」

 また風に吹かれる。
 いい加減にして欲しいよと思いながら再び押さえる。

 ずっと押さえっぱにしておけばよかったと後悔するのはこの数瞬後。

「そいつは、どうかな――」

 足音が狭る。
 こっちにだ。
 数段の階段を上がる気配。
 咄嗟に私は身を固くする。

「キミは、先客かな。それとも、坂田のお客さん? ――スカート二回も見えたから驚いたよ」

 さっきよりも明るく大きくした声は、明らかにうえに潜む私に向けられたものだった。
 あっちゃあーと坂田くんの嘆かわしいと言わんばかりに額だかをぺちんと叩く。 私は、両手を使い、上体を起こした。客観的にオットセイみたいな姿勢だと思った。
 のだが――

「え、ま、真咲さんっ!?」

 私はすぐうつ伏せて彼の面食らった声を聞いた。

 まずい。

「なにしてんのそんなとこで」
「や、ヤボ用で……」声を出しても動悸がおさまらない。
「坂田に言われたん、だね」
「そんなとこ」
「おまえ、……よりによってあの場所連れ込むなんて。変なことしてないだろうな」
「えっなにぃっ、変なことぉー? いったいぜんたい変なことってなぁーにぃ? ねぇねぇアタシに分かるようにおせーておせーて桜井くぅーん」
「きっさまがあの場所に女連れ込んでることくらい知ってんだよっ」
「まそーかりかりせんと。腎臓に悪いでぇ」
「怒っても腎臓関係ないでしょ。だいたい誰から――ああ紗優か」
「そや。おまえ小学校んとき」
「黙れ」
「あの――」

 二人の注意がこちらに引きつけられた。
 しかし私は、

 これ以上ないみっともない姿を晒すこととなった。

「これ。どうやって降りたらいいのぉ」

 はしごの手前で座り込んでしまった。

 腰に力が入らない。手にもだ。
 たたん、と足音が動く。
「え。真咲さん、高いとこ駄目なの?」
 駄目なの、の一言で背筋に悪寒が走る。
 喉の奥が気持ち悪くなった。
 身長一四八センチの私の、倍の高さはあった。
 思考がまったく働かない。う、動けばいいのに動けない。

「待ってて――いま行くから」

 さっき、自分がのろのろとしていた行動を素早く彼がしている。

「ほら。おいでっ」

 顔を覆う手を退けた。
 和貴が、力いっぱい手を、伸ばしている。
 私は腰が、引けた。

 彼のしたの気持ち悪く世界は力いっぱい待っている。

「む、無理。ごめん。中高所恐怖症なの忘れてた……ど。どうやって行けばいいのぉ」
「僕を、信じて」
「和貴ぃ」
「真咲さん!」

 剣幕に押され、すこしずつ、彼のほうへと動く。
 ほかのことは見ないように彼のことだけを。
 そうすると這いつくばったまま動くこととなり――予言通りに自衛隊の匍匐前進をすることとなった。
「そう、いい子だ――おいで。ほら、捕まえた」
 言葉通り震える手を包まれていた。彼の肩の向こうの地上が瞬時、視界に入る。
 目を伏せた。「怖い……」
「大丈夫だよ、もう怖くない。僕がついてるから」
 頭まで撫でてくる行動にいったいどうしたらいいのか。
「僕のことだけを見ていて」
 顔をあげた。
 まっすぐ、微笑んで、肩をわずかにすくめる。「僕のことが分かるよね――子リスの和貴だよ。真咲さんのよく知ってる」
 私が吹き出すと、和貴は声を立てて笑った。
 笑いの消えないうちに、
「そのね。こっちは見なくていいから。あっちのほう見ながらすこしずつ、僕のほうまたがって」
「で。できないよ」恥ずかしい。
「できる。……いまだけ本当に着ぐるみの子リスだと思って。それか――」

 ピンクのくまさんでもいいから。

 早口に彼は付け足した。
 言われるとおりに、彼に背を向け、すこしずつ、コンクリートに触れる自分の手を離さないようにしながら、動くと、すぽっと彼の頭が股の間に入り、肩車状態となった。
「お、重くない?」
「ぜんぜん。すこしずつ動くから真咲さん、壁か、はしごか掴んでてね」
「こう」
「うん」
 和貴は器用に、私の背中や膝を押さえたりしつつ、はしごを降りていく。
 ちょっと進んで、気が楽になった。「あの。ある程度の高さなら平気だから」
 後ろを確かめて後悔した。
 まだ飛び降りられる高さになかった。
 慌ててはしごを掴み直した。
「そっちは見なくていい――」
 壁だけを見ていて。
 僕のことだけを考えていて。

 はしごを掴んでは離しては思うのは、
 ピンクのくまさんでも子リスでもなく、
 大丈夫だから。もうちょっとだから。
 と繰り返し安心させる言葉を紡ぎ続ける。

 本当に和貴のことだけだった。

 降ろされるなり後手をついた。腰が、……抜けた。
「大丈夫?」
「へ、平気。時間置けばぜんぜん――」
「顔が、真っ青だよ」
「それより、汚しちゃって、ごめん」
 屈みこむ和貴の肩を目で示した。ブレザーの肩が私のズックのせいで汚れていた。
「ああ――いいんだよこんなのは。どーせあと一ヶ月も着ちゃいない」
 払いもしない彼の傍には、いつ脱いだのか。例の真っ赤なダッフルコートが脱ぎ捨てられていた。
「堪忍な。都倉さん」
 やわらかないろを浮かべていた双眼がつよくひかり、
 怒りにまたたくのをこの目に見た。
「坂田ぁああっ」
「きょ、恐怖症なのを忘れてたの。あれ登り降りできるひとってすごいね」
 動きかけた彼を手だけで引き止めた。
 いくらやつれたといっても、彼の腕は男の子の太さだった。
「――そこは褒めるとこじゃない。目的のためなら手段を選ばないってだけだ」
 睨み据えた冷たい目で和貴はそのまま私を一瞥した。
「ほなお二人さん。ごゆっくりぃ」
 後ろにした扉から笑顔で出ていく。
 意表を突かれたのは和貴だ。
「坂田のやつ。――なにがしたかったんだ」
「さあ」
 ようやく。
 力が戻った感じがしたので、ぺたんこ座りから膝を立てる体勢に入る。
「血が出てる」
「あ――」膝頭に擦り傷が。「こんなの大したことないよ。放っておいても治るから」
「保健室行こ。傷口からばい菌でも入ったらどうするんだよ。早く」
 背を向けて彼はしゃがんだ。
 ん、と両手を上にして促す。
 流石にそれは……。
「い。いいよ別に。歩けるし」
「早くっ」
 急かす彼の背中に、言われる通り、――というよりおぼつかない足取りで、倒れこんだ。膝がまだ笑っている。でくのぼうな自分に気がついた。
「重くない?」
「いいから、行くよ」
 声をかけて彼は立ち上がる。
 ……こんな目立つ行動をして、

「また誰かになにか言われても知らないよ」

「かまうものか」

 ダッフルコートと自分のかばんとをマラソンの給水のごとく引っ掴み、彼は、ダッシュをかけた。

 背中の彼を感じる。えりあしの下の白さ。目の前で揺れるやわらかな、髪。
 小さな、耳のかたち。
 背中がすごく大きい。
 肩が硬い。筋肉の張りだろうか、勉強で疲れてるせいだろうか。
 彼が動くたびに彼の匂いとフローラルの微香が揺れる。
 気持ち悪さが消え失せて、私は、……彼の存在だけに気持ちを集中させていた。

 二度と触れることが、無い。

 俊足なのに、階段一段とばしでかっとばいてるのに、きっと、揺らさないよう気を遣っている。
 保健室への到着はすごく早かった。私が自分で行く場合の半分以下程度の時間で、

「田中ちゃんっ急患っ!」
「あらあら桜井くん大きな声出してここ……保健室ながよ。――都倉さん?」
「……大したことはないです」
 屈んだ彼の背中に手を添えながら、私は床に降りた。
「どこ怪我したの?」
「膝をちょっと」すりむいただけなんですが。
 のんびりした口調の田中先生が入り口にからだを向ける。ワンピースのターコイズ地に赤い蟹が、白衣から透けて見える力強さだった。
「そこ、座りなさい」
 歩いてみると痛さなどより残存する悪寒のほうが強い。すぐに座れるのは助かった。……たぶん歩いてここに自力で来るとしたら、三十分くらい時間を置いてからだった。
 田中先生が治療道具一式を手にこちらに近づく。丸椅子ってこういうとき便利だ。いやこのためのものか。
「僕、真咲さんの荷物取ってくる。教室に置いてあるよね」
 自分のコートを肘から下げた、かばんを片手で持つ和貴が訊いた。
 突然彼の後ろの入り口が開き。
「とっくらさぁーん、おっとどけものでぇーすっ」
 ……先見の明をお持ちの彼が現われた。
 ち、と舌打ちをしたのはどちらか。……和貴でなければいいんだけど。
「こっち置いとくなぁ。ほなっ」
「ありがとう坂田くん」
「礼なんか言うことないぜこいつに」
「けっ。オレは都倉さんと話しとんのや。入ってくんなバーカ」
「なんだと貴様っ」
「ふったりとも静かに、ぃ、いぃいい!」
 焼け付くような痛みが走った。
 膝頭だ。
 ひとを叫ばせておいて平然と田中先生は治療を施していた。「……前にも塗ったやつやないの。そんな騒ぐほどのものじゃないわよ」
 脱脂綿でやわらかなタッチで叩く。
 どんな劇薬なんですかこれ、
「染み、染み、るぅ」
「あとにでも残ったら大変やからね、しっかり塗っておかんと」
 思うに医者や保健室の先生、……特に歯医者さんという人種は、S要素が強い。
 田中先生は最後に白くて大きな絆創膏を貼り、手際よく処置を完了した。
「包帯巻かんでもいいわよね。二三日はマキロン塗って消毒してな」
「はい」
「都倉さんは受験生なんやから……足元。気ぃつけなならんよ」
 滑る、という言葉を回避した。
 その気遣いに私は胸を張って答えた。
「先生、もう大丈夫です。大学には合格しました」
「ほんとっ?」
 入り口で息を潜めていた和貴が反応した。
「良かったわねえ。おめでとう」
「はい」
 頭を下げたときに、
 急いで手で支えた。
 座ったままぐらり目眩がした。ちょっと鼓動が……落ち着かない。ちょっと真咲さん大丈夫っ!? という声がやけに鼓膜に響いた。
「……具合悪いんなら休んでから帰りなさい」
 支えられ身を起こす。間近に見る和貴は、目を丸くし、
「田中ちゃんどっか行くの?」
「宮本先生のところへね」
「あ」
 ――言ってなかった。
 見越して田中先生は首を傾げ笑う。「その調子やと……まだやろ? 職員室に用事もあるから、行ってくるわ。お昼食べたときにな、宮本先生、都倉さんのことずいぶん気にしておったし」
「先生。すみません」
 微笑みで返すのは私の知らない大人の女性の余裕だった。
 頭を下げるのは自粛した。
 小さな音で戸を閉めて田中先生が出ていくと――

「歩ける?」

 背中から肩に手を回し、私の、利き腕を掴んでくれてる彼が無垢な目で私を覗きこむ。

「あ、あ、歩けるっ」

 顔から火を噴きそうになる。
 その意識する自分の情けなさに。

「――ブレザーちょうだい。ハンガーかけちゃうね」
 通常は皺にならないようスカートを脱ぐのだが、この状況ではそうも行かない。
 和貴は、入り口に置かれていた私のコートをブレザーに重ねて吊り下げ、かばんをその下の机に置き、自分はベッドの傍に丸椅子を寄せて座った。
「それで寝苦しくないの」
「いつもこういう寝方だから」
「あそ?」
 頭まで掛け布団をかぶった。
 じゃなきゃどうしようもない。
 私は和貴探知機でもあるのか。
 いつも、和貴を見つけるたびに鼓動が速まる。
 しかもこんな、ふたりきりという状況下では強烈に。
 苦しい。
 苦しい胸を押さえ、窓のほうにからだを傾けた。

 大学合格は確かに、喜ばしいことだった。
 だがこの心臓に訊いてみると、……答えは複雑だった。
 四年間、この緑川を離れる。大学院にも行きたい、なら六年間。
 就職が厳しい業界だ。
 ていよくこの緑川にUターンできるとも限らない。
 一方。
 和貴はこの町で生きていくのが決定事項だ。大切な、たったひとりの家族が居る。
 つまりは。
 私の生きる道は和貴の道と別れた。
 卒業すれば、二度と、交わることが無い。
 重苦しい息が漏れる。
「――眠れない?」
 頭上から声が降ってくる。
「和貴……帰ってて平気だよ。そのうち田中先生が戻ってくるから」
「ひとりになんかさせらんないよっ」
 子どもみたく甲高い声が場違いにも可愛らしかった。
 私は笑みのままに、
「もしかして――私のこと、心配してくれてる?」
 布団をまくり、彼のことを振り仰いだ。
 以前はマキにときどき言ったこと。
 たちの悪い冗談。
 彼ならば「そんなはずないじゃんよ」なんて流すと思っていた。それか「その通りだよ」なんて余裕の華のある笑みをこぼすか。
 なのに。

「当たり前、……だよ」

 胸を、突かれた。
 不安げに揺れる瞳のかがやきに。
 切迫する影を落とすその表情に。
 
 息を吐き、顔を伏せ、和貴は膝を叩く動きを利用し腰を浮かせた。「僕が、ここにいて邪魔だったら……向こうに行ってる」
「待ってっ」
 その腕を引き止めていた。
「居て……欲しいの。和貴に……」
 咄嗟とはいえなんてことを言ってしまったのか。
 嫌がってるからこそ、和貴も頭をぐしゃぐしゃにかき回しているじゃないか。
「ごめん。いまの無し……」
「前にもこういうことが、あったね」
 私の手を握り返しながら、彼は、再び座った。
 お互いは右と左を入れ替えた位置だが、
「夏祭りの、日?」
「そ」
 手が、重なる。私の手に。
 激しい切なさが胸に去来する。
 でもそれとは裏腹に、
「なんか……和貴の顔見たら、眠く、なってきた」
 まぶたの重たい世界で和貴は吹き出した。
「僕の、手には睡眠作用でもあるのかな」
「さ、ね……」
「これ。手首も擦ったんだね。気づかなかったの」
 和貴がくるりと私の手首を返す。
「ぜんぜん……」
「屋上で、僕のとこ来るときにやっちゃったんだね。まったく……」
「へーき」
「それしか言わないんだから」
 和貴の声のリズムが好き。
 安心感を与えるその抑揚が。
 骨っぽくてほどよくあったかいその感じが。
 私はまぶたをおろしていた。
「あそこのはしご、外したほうがいいよね。ま僕もたまにのぼんだけど」
「和貴も、……誰か、女の子連れ込むの……」
「なわけないじゃん。真咲さんにとって僕ってどういう位置づけなんだよ。それにね、あそこは隠れ覗き見スポットなんだよ。下から見えないけど上からは下の様子が見える」
 位置づけ――?
 友達。
 知り合い。
 でも本当は――
 まあるい感覚を包み込む手触り。
 現実感が、浮遊する。
 ぱちぱちストーブの火が炊かれる音。
 こころの底で燃え続ける炎を重ねた。
 和貴の、皮膚。
 声の、余韻。
 骨のかたち。
 あの笑顔。
 私――

「ねえ真咲さん。もし、僕が――」

 私は和貴のことが好き。

「もし、『見ていた』と言ったら、――どうする」

 湖面を揺さぶる声が響く。
 誰の奥底までも届かなかった。

 けぶる霧雨のなか、
 ガラス窓に一筋のしずくが垂れる。
 土に染みこむグラウンドの匂い。
 離れない彼の感触、
 消せない彼への、想い。

 真実を聞く機会は、知らないうちにこうして雨と共に失われていった。
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