王様の耳 ~誰にも言えない秘密たち~

藍栖 萌菜香

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第1章:友人に女装を咎められ押し倒されました。【男子高生:光希矢】

01-クラスの女子たちに、なぜか女装させられて、

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 僕はいま、とても幸せです。
 この幸せを誰かに自慢したくて、でもできなくて……。
 だから、ここに来ました。

 今日は、僕の彼、晴文はるふみと、僕、光希矢みきやの馴れ初めを聞いてください。


 それは、高校一年の九月の初め、まだ暑い日が続くある日のことでした。
 僕は、友達の晴文が部活を終えるのを、いつものように教室で待っていました。


 晴文とは、高校になってからの付き合いです。
 きっかけは、最初の席で隣同士だったことと、先生に隠れてやってたスマホゲームを横から覗き込まれたことでした。
 以来、一緒にゲームしたり、無駄話したりする仲になり、教室ではたいてい一緒にいるようになりました。

 何事にも一生懸命で、真っ直ぐな性格の晴文は、僕とは正反対の好青年です。
 夢中になれるものなんてゲームくらいしかない僕は、晴文からしてみればたいして面白い相手ではないように思うんですが……。

 背も低く痩せていて、スポーツとは無縁の僕は、背も高くがっしりとした体格で、野球に熱心に取り組む晴文に、少し憧れていました。


 晴文が所属する野球部は、けっこう遅い時間まで部活があります。
 僕はたいてい、先生が教室を閉めに来るギリギリまでを教室で過ごし、あとは野球部が終わるまで自転車置き場でゲームをしながら時間を潰します。

 晴文と落ち合って、晴文の家で一緒に過ごすためです。
 一緒に過ごすといっても、やることと言えば、ゲームか宿題か、晴文の趣味の映画鑑賞くらいで、特に変わったことはしませんでした。

 その日までは……。


 そのころ、学校では、文化祭へ向けてクラスの出し物を決めないといけない時期でもありました。

 準備は大変だけど当日は店番のローテーションだけでいい展示即売会を推す『やるきなし派』と、文化祭をガッツリ楽しみたい舞台演劇を推す『思い出づくり派』とに、僕のクラスは分かれていました。

 僕は当然『やるきなし派』で、熱血集団からは一歩離れて他人事のように過ごしていました。
 晴文は、野球部での出し物もあるから、みんなの決定に文句を言わないと決めた『中立派』でした。


 その日の放課後も、いつものように教室の隅でスマホを弄りながら晴文の部活が終わるのを待っていると、いつもと違ってなぜか女子に声をかけられました。

 僕は愛想がいい方ではありません。
 男子でも女子でも、ほぼ初対面の人とはろくに口も利けなくなります。
 晴文との初会話でスムーズに話せたのは、話題が好きなゲームだったのもあるけど、晴文の笑顔が、僕をまったく威嚇してなかったのがよかったんだと思います。

 でも、他のクラスメートには、誰が相手でも萎縮してしまうんです。


 そのときも、突然の声掛けに驚いて、見事に固まってしまいました。
 話しかけられているのは分かってるんですが、顔を上げることもできません。もし顔を上げたら、何かよくないことが起こりそうな気がして……。

 僕の無反応に業を煮やしたのか、席の前にしゃがみ込んだ女子が、僕の顔を覗き込んできました。
 恐ろしいことに、女子は一人じゃなく複数いました。よく見ると『思い出づくり派』の主要メンバーです。

 彼女たちは、口々になにかを言いはじめましたが、同時に喋られるせいで、よく聞き取れませんでした。
 かろうじて、「試しに! お願い!」という言葉だけが聞き取れて、たぶん文化祭のことだろうなと予想がつきました。

 できれば協力なんてしたくなかったんですが、断ったあとのことを思うと怖くなって、「少しだけなら」と、つい答えてしまいました。

 途端に、耳をつんざくような歓声がして、驚いているうちに腕を引っ張られ、教室の後ろへと連れていかれました。
 そこで、さらに多くの女子に囲まれ、服を剥ぎ取られて、何やら着せつけられました。

 僕は、アンダーシャツを死守するのに必死で、何を着せられているのかわかっていませんでした。
 気がついたときには、僕は女子の制服を着ていました。


 いったい誰の制服なんだろうと考えて、一瞬、気持ち悪くなりました。
 でも、視界の端にクリーニングの袋が放り出されていて、制服からもクリーニング上がりの独特な匂いがしたので、少しホッとしました。

 どこから持ってきたのか、教室の隅に設置してあった細長い姿見の前に押しやられて驚きました。
 姿見のなかを覗く前は、きっとみっともない男子高生の無理ある女装姿が映っているんだろうと思っていました。

 それが、制服のサイズはピッタリだし、夏前に切った髪が少し伸びてきていて、まったく違和感がありませんでした。
 顔も身体も、男である自分のものだとわかっているのに、その鏡に映った人物はショートヘアの、ちょっとボーイッシュな女の子で、自分ではありませんでした。

 自分なのに、自分じゃない。
 それは、不思議な感覚でした。


 僕は自分が好きじゃありません。
 男らしくないし、情熱を傾けるようなものも持っていない。人見知りが激しく、コミュニケーションも下手。
 シングルマザーの母も、行く末が心配だと嘆く始末の男子高生です。好きになれるわけがありません。

 でも、その鏡の中の女の子は、僕じゃない。
 僕じゃないという時点で、好感が持てました。


(この子なら……)

 そんな言葉が頭に浮かびました。
 でも、(この子なら)どうだというのか……続きの言葉は浮かんできません。
 当たり前ですよね。見た目は僕じゃなくても、頭の中身は僕なんですから。


 そもそも、なにをしたいのかさえ、僕にはわかっていなかったんです。
 自分は、なにをしたいのか。
 それは、見た目が変わったくらいで見つかるような簡単なものじゃないんでしょう。

 僕にはできないことが、僕じゃなければできるかもしれないという考えは間違いでした。
 せっかく好感の持てた鏡の中の子が、しょんぼりと悲しそうな顔になるのが見えました。


 そのとき、鏡の隅にスマホを構える女子の姿が映りました。
 写真を撮ろうとしてるんだと、すぐに気づきました。

 鏡の子は、女の子に見えるけど、中身は男です。写真を撮られて喜ぶとは思えませんでした。

(守ってやらなきゃ!)

 僕は咄嗟に廊下へと走り出しました。
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