王様の耳 ~誰にも言えない秘密たち~

藍栖 萌菜香

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第1章:友人に女装を咎められ押し倒されました。【男子高生:光希矢】

02-僕と気づかない薄情な友人に、

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 廊下を走り抜け、階段を下りて、上靴のまま外へと逃げました。
 途中まで、クラスの女子が追いかけてくるのが見えたので必死でした。隠れるところはないかと探しながら、部活で賑わうグラウンドまで逃げました。

 グラウンドの向こう側には、大きな樹が何本か植えてあります。そのせいで部活エリアとしては使えず、運動部員たちもあまり近づきません。
 隠れるのにはちょうどいいと、樹の陰に隠れながら移動して、数本目の樹の後ろに身を潜めました。


 そこからは、野球部がよく見えました。
 僕は、無意識に晴文に助けを求めていたのかもしれません。
 でも、この格好を晴文が見たら、どう思うでしょうか?

 女子の制服を着ている男子……。
 違和感がない程度の女装じゃ、きっと気持ち悪がられるに違いありません。

(絶対に見つかりたくない)
 そう思って、樹の根元にしゃがみ込みました。


 でもそうして怯えている最中でも、聞こえるんです。
 野球部員たちの掛け声が……。

 いつもは教室で聞いてる掛け声です。
 建物の中にいてもよく聞こえるその声は、隠れているその場所から聞くと、とても大きくて迫力がありました。


 以前に一度だけ、野球部の練習を……というか、晴文を観に、グラウンドのそばまで行ったことがありました。

 そのときのことは、いまでもよく覚えています。
 練習中の晴文が僕を見つけて、大きく手を振ってくれたんです。

 ちょっと気の緩んだその笑顔が妙に可愛くて……暢気に笑っていたら、それを野球部の三年生たちに見つかって、わらわらと取り囲まれそうになりました。
 小さな一年生が身の程知らずにも練習を見学してたのが物珍しかっようです。当然、慌てて逃げました。

 それ以来、晴文の練習姿は見ていません。


 隠れている僕の背後で、掛け声がひっきりなしに上がります。野球部が、すぐそばで部活をしているんです。

 僕は、樹の幹から顔を出して、晴文を探したい誘惑に駆られました。
 でも、いまのこの格好を見られたら、軽蔑されてしまいます。僕はさらに身を縮こまらせて誘惑に耐えました。

 それでも、すぐそばから聞こえる掛け声の中に、晴文の声を見つけたときには、我慢も限界でした。

 少しだけ……。
 そう思って、立ち上がったときです。


 僕が隠れていた樹のすぐ脇から白くて小さなボールが飛んできました。そして、僕の向かいにある塀に当たって跳ね返り、地面の凹凸に弾んで反転し……しまいには、塀の真下の溝の中へ、コトンと乾いた音を立てて落ちました。

 僕が呆然とその様子を眺めていると、聞き覚えのある声がすぐそばから聞こえました。
 頭のどこかでは、逃げなくちゃ、とわかっていたんだと思います。なのに、僕の足は少しも動こうとしませんでした。

 そうこうしているうちに、樹の脇からユニフォームに身を包んだ大きな背中が、塀へ向かって通り抜けて行きました。
 目当てのボールはすぐに見つかった様子で、すぐに身を屈めて溝から拾い上げました。

 その大きな背中が振り返る瞬間、僕は、見つかりませんようにと祈りながらギュッと目を閉じました。そのままここに居て、見つからないわけがないのに……。


 しばらくしても、静かなままでした。
 立ち去る足音もしないし、問いかけの声もありません。

 そのことを不思議に思って、そっと目を開くと、塀の前にはボールを手に振り返ったままの姿勢で、晴文がこちらを凝視していました。
 僕と目が合うと、晴文は目を見開いて、ひどく驚いたような顔になりました。


 その瞬間、『もう無理だ』と『僕』が思いました。
 同時に、『鏡の子』は、そう思っていないことに気がつきました。

 再び、(この子なら)という言葉が頭に浮かびました。

(この子なら、この窮地を脱出できるかもしれない)
 そう思って、まずはそっと息を吐き出しました。そして、背筋を伸ばしてしっかりと足を踏みしめました。

 『鏡の子』は僕とは違います。きっと姿勢もよく、凛として、落ち着いた立ち姿をしているに違いないと思ったんです。


 いまだ固まったままの晴文に向かって、軽く会釈して足を横へと踏み出します。すると、それまでひとつも動こうとしなかった足が、ちゃんと動いてくれました。
 助かった、このまま逃げてしまおうと、数歩進んだときでした。

 晴文に手首を掴まれ、止められてしまいました。
 ああ、バレてしまったんだと、竦み上がりました。手首を掴まれた格好のまま振り返ることもできませんでした。

 でも……。

「ねえ……きみ……」と、晴文が、そう声をかけてきたんです。


 僕の名前は光希矢です。いつも晴文は、僕のことを『ミキヤ』と呼び捨てにするか、ふざけて『ミ○キー』って呼んだりもします。
 でも、『きみ』だなんて呼びかけてきたことは一度もありません。


 僕は、僕の女装がまだバレてないことを知り、愕然としました。
 このときの感情をどう言えば上手く伝わるのか……ともかく愕然としたんです。

 晴文は、僕を見ていない。
 鏡の子を見ているんです。
 鏡の子の手首を掴み、引き留め、『きみ』と呼びかけ、なんらかの関わりを持とうとしている。

 そのことに、ひどいショックを受けました。
 そして、ショックを受けた自分に愕然としたんです。


 女装がバレなかったのなら、喜べばいい。適当にあしらって逃げれば済む話です。
 なのに僕は、そこまで晴文の関心を引きつけてしまった鏡の子に、嫉妬していました。

 こんな感情は明らかにおかしい……そう考えてもいいはずなのに、僕はすんなりとその感情を受け入れていました。
 きっと、これまで晴文と過ごす中で、納得してしまうような材料がたくさん散らばっていたからだと思います。

 晴文と一緒にいるときが一番楽しかった。
 晴文が笑うだけで嬉しくなった。
 晴文が言うから試験勉強も頑張れた。
 晴文に褒められるのが一番うれしかった。
 晴文の練習姿を見てみたくて堪らなかった……。

 そうして僕は、友人に恋をしている自分を知って、愕然としたんです。
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