52 / 54
52-言葉を駆使しましょう。
しおりを挟む
「あ、そうだ。教えてくれたらお礼に食事をご馳走するわ。さっそくだけど、このあと時間空いてる?」
講義の記憶が薄れる前に教えてほしいの、とニッコリしながら女が大悟へと身を乗り出す。
何が、『あ、そうだ』だ。いま思いついたわけじゃないだろ、それ。
女の見え透いたセリフに、昨日の怒りまでがぶり返す。いっそ、昨日耳にした彼女たちの会話を、大悟本人の前で再現してやりたい。
いやダメだ。感情にまかせてそんな暴挙に出れば、大悟を巻き込むはめになる。彼女たちを怒らせて注目を集めるのは得策じゃない。これから四年も続く大学生活のためにも、自分たちがマイノリティだということは極力隠しておきたかった。
だけど……もし大悟が押されて流されるようなら、俺も手段を選んではいられない。大悟を死守するためならなんだってしてやる。
でもたぶん、大丈夫だよな。だって、大悟だ。
高校のときだって、告白してきた女子たちに大悟は首を振るばかりで、ついにひと言も返さなかった。今回も、きっと無口な変人で通すだろう。そのほうが今後も面倒がないんだから。
そうは思いつつも、俺が緊張に身を強張らせていると、大悟が俺の予想を裏切って口をひらいた。
「あんた、誰?」
大悟が女子に口を利いた。その事実に一瞬だけ気をとられる。けど、次の瞬間には笑いを堪えるのに必死だった。
だって、ぽかんと口をひらいた女の、まぬけ顔がっ。
まあ、世間基準で言えば美人の部類に入るんだとは思う。男なら誰だって、ましてや同じ講義を受けてるならなおさら自分を意識していて当然だ、とでも信じていたに違いない。例外が二人もいて、残念だったな。
「俺はあんたを知らないし、知らないやつに勉強を教えてやる義理もない。一応断っておくが、興味をもてない人間との食事は報酬にはならないぞ」
むしろ罰ゲームだと、見慣れたポーカーフェイスをした大悟が、聞いたこともない辛辣な言葉を吐いた。
大悟のひややかな声に、胸の奥がちくりと痛む。もしこの言葉を投げられたのが俺だったら、きっと世界の果てまで走って逃げて、干からびるまで泣き通すだろう。
少しだけ湧いてしまった同情心に、彼女は大丈夫だろうかと見遣れば、ショックに次ぐショックだったんだろう、フリーズしたように固まったまま動けずにいる。
その向こうには、たまたま大悟の言葉を耳にしてしまったらしい男子学生がホットコーヒーを片手に唖然としていた。美女(の類)をここまで痛烈に振った瞬間を目の当たりにしたんじゃ無理もないか。
「そろそろ帰ろう。立てるか?」
ひやりと静まった空気のなか、そんな空気の製造者本人が、俺に向けて殊更やさしい声音で話しかけてきた。
帰ろうと言うわりに、大悟自身は立ちあがる様子もない。ただうっとりとした笑みを浮かべて、俺の頬へと手を伸ばした。そのままふにっと頬を抓り、抓ったあとの頬を懐かしい感触ですいっと撫でる。さらには耳元にかかる髪の下にするりと指先を忍ばせて、悪戯な仕草で耳朶をくすぐった。
な、なんだっ? いきなりこんな、あからさまに甘い雰囲気を醸し出してっ。人前なのにっ。
じわりと頬に熱がのぼってくるのを感じながら、早く大悟の手を退けなきゃと思う。でも、周囲の反応が怖すぎて、もはや身動きもできない。
それでも、チラリと視線だけを走らせると、真っ赤になって俺を凝視する女と目があった。
……なんであんたが真っ赤になってるんだ?
そんな疑問に気を取られていたときだった。耳から離れた大悟の指先が、触れるか触れないかぎりぎりのラインで、俺の首筋をさわっとひと撫でしていった。
瞬間、淡くせつない快感の波が首筋を中心に背中や頭、毛先にまで、ぶわっと広がる。その波を追うようにして俺の頬がくくんっと傾き、大悟の手のなかへと収まった。かろうじて発音を免れた喘ぎ声は、喉奥にひっかかって籠ったままだ。
ああいやだ。大悟の指が肌に触れるだけで、あっという間にベッドの上へと感覚が舞い戻ってしまう。痛む腰の奥がぼんやりと熱をあげ、甘い余韻を思い出し、続きを寄越せと訴える。こんなのは、本当に困るのに。
反射で瞑ってしまった目をそっとあけ、なんてことをしてくれるんだと大悟を睨んだら、「ぅアッチっ」と小さな声が聞こえてきた。見れば男子学生がコーヒーを取り落としたらしく、茶色く濡れてしまったボトムを懸命に払っていた。
ついで、ハッと息を飲んだ女が突然立ちあがって、自分の頬をぱんぱんっと両手で叩きだす。
いったい何がどうしたのか。
俺に視線を固定したまま驚いた様子で停止している大悟も含め、あたり一帯が一気に挙動不審になってしまった。
「も、もういいわよッ。ほかを当たるからっ」
大悟に向かってそう喚き散らした女の声に、いまだ頬を預けたままだったことを思い出し、大きな手を慌てて振り払った。
相手は大悟を狙っている女だ。大悟を譲る気なんてさらさらないけど、目の前でいちゃついて下手に刺激するのもいただけない。ことをややこしくして、もし刃傷沙汰になんかになったら目も当てられないからな。
凶行に出るのではと俺に疑われたその女は相変わらず真っ赤なままで、ちらっと横目で俺を見るなりキツく口元を引き結んだ。
大悟に相手にされなかったのがよほど悔しかったんだろう。と、一度は思ったんだけど、なぜだか瞳だけが爛々と輝いていているから、よくわからない。
ふんっと鼻息も荒く出口へ急ぐ女を見送っていると、大悟が小さくつぶやいた。
「失敗だったか……」
「なんのことだ?」
と大悟に問いかけていたら、カフェテリアの出入り口から女たちの騒ぐ声が聞こえてきた。
「ねぇねぇ、どうだったぁ?」
「もー眼福……っ、じゃなくて。だめだめ、ここじゃ言えないわ」
「なにがなにがぁ?」
「ひとまず場所を移しましょう。お願い、急いでっ。顔が笑み崩れるっ」
笑み崩れる? なんでだ?
切迫したようなその言葉に首を傾げているあいだに、彼女たちの姿は見えなくなった。
間を置かず、外から「やっぱりそうだったッ!」とか、「応援よ! 秘密裏にねっ!」とか、興奮した叫び声が聞こえて遠のいていく。先ほどの女と声質が似てる気がしたけど、たぶん別人だろう。振られた直後の言葉とは思えないし。
「あー、セーフ、かな?」
大悟がまた意味不明の言葉をつぶやいた。失敗だの、セーフだの、まったくなんのことだか。ちゃんと俺にもわかるように説明しろよな。
そう思って、問い質してやるつもりで口を開いたのに、
「大悟が女子と会話するの、初めて見た」
その口が、まったく別のことを言いだした。しかも、明らかに拗ねてる口調だ。
そこまで気にしてたのかと自分でも驚くやら。嫉妬丸出しで恥ずかしいやら。とにもかくにも居たたまれない。
対して大悟は、俺のやきもちなんか毛ほども気にしていない様子だった。ひどくやわらかな表情で微笑んで、これまでしたことのなかった女子との会話の理由を教えてくれた。
講義の記憶が薄れる前に教えてほしいの、とニッコリしながら女が大悟へと身を乗り出す。
何が、『あ、そうだ』だ。いま思いついたわけじゃないだろ、それ。
女の見え透いたセリフに、昨日の怒りまでがぶり返す。いっそ、昨日耳にした彼女たちの会話を、大悟本人の前で再現してやりたい。
いやダメだ。感情にまかせてそんな暴挙に出れば、大悟を巻き込むはめになる。彼女たちを怒らせて注目を集めるのは得策じゃない。これから四年も続く大学生活のためにも、自分たちがマイノリティだということは極力隠しておきたかった。
だけど……もし大悟が押されて流されるようなら、俺も手段を選んではいられない。大悟を死守するためならなんだってしてやる。
でもたぶん、大丈夫だよな。だって、大悟だ。
高校のときだって、告白してきた女子たちに大悟は首を振るばかりで、ついにひと言も返さなかった。今回も、きっと無口な変人で通すだろう。そのほうが今後も面倒がないんだから。
そうは思いつつも、俺が緊張に身を強張らせていると、大悟が俺の予想を裏切って口をひらいた。
「あんた、誰?」
大悟が女子に口を利いた。その事実に一瞬だけ気をとられる。けど、次の瞬間には笑いを堪えるのに必死だった。
だって、ぽかんと口をひらいた女の、まぬけ顔がっ。
まあ、世間基準で言えば美人の部類に入るんだとは思う。男なら誰だって、ましてや同じ講義を受けてるならなおさら自分を意識していて当然だ、とでも信じていたに違いない。例外が二人もいて、残念だったな。
「俺はあんたを知らないし、知らないやつに勉強を教えてやる義理もない。一応断っておくが、興味をもてない人間との食事は報酬にはならないぞ」
むしろ罰ゲームだと、見慣れたポーカーフェイスをした大悟が、聞いたこともない辛辣な言葉を吐いた。
大悟のひややかな声に、胸の奥がちくりと痛む。もしこの言葉を投げられたのが俺だったら、きっと世界の果てまで走って逃げて、干からびるまで泣き通すだろう。
少しだけ湧いてしまった同情心に、彼女は大丈夫だろうかと見遣れば、ショックに次ぐショックだったんだろう、フリーズしたように固まったまま動けずにいる。
その向こうには、たまたま大悟の言葉を耳にしてしまったらしい男子学生がホットコーヒーを片手に唖然としていた。美女(の類)をここまで痛烈に振った瞬間を目の当たりにしたんじゃ無理もないか。
「そろそろ帰ろう。立てるか?」
ひやりと静まった空気のなか、そんな空気の製造者本人が、俺に向けて殊更やさしい声音で話しかけてきた。
帰ろうと言うわりに、大悟自身は立ちあがる様子もない。ただうっとりとした笑みを浮かべて、俺の頬へと手を伸ばした。そのままふにっと頬を抓り、抓ったあとの頬を懐かしい感触ですいっと撫でる。さらには耳元にかかる髪の下にするりと指先を忍ばせて、悪戯な仕草で耳朶をくすぐった。
な、なんだっ? いきなりこんな、あからさまに甘い雰囲気を醸し出してっ。人前なのにっ。
じわりと頬に熱がのぼってくるのを感じながら、早く大悟の手を退けなきゃと思う。でも、周囲の反応が怖すぎて、もはや身動きもできない。
それでも、チラリと視線だけを走らせると、真っ赤になって俺を凝視する女と目があった。
……なんであんたが真っ赤になってるんだ?
そんな疑問に気を取られていたときだった。耳から離れた大悟の指先が、触れるか触れないかぎりぎりのラインで、俺の首筋をさわっとひと撫でしていった。
瞬間、淡くせつない快感の波が首筋を中心に背中や頭、毛先にまで、ぶわっと広がる。その波を追うようにして俺の頬がくくんっと傾き、大悟の手のなかへと収まった。かろうじて発音を免れた喘ぎ声は、喉奥にひっかかって籠ったままだ。
ああいやだ。大悟の指が肌に触れるだけで、あっという間にベッドの上へと感覚が舞い戻ってしまう。痛む腰の奥がぼんやりと熱をあげ、甘い余韻を思い出し、続きを寄越せと訴える。こんなのは、本当に困るのに。
反射で瞑ってしまった目をそっとあけ、なんてことをしてくれるんだと大悟を睨んだら、「ぅアッチっ」と小さな声が聞こえてきた。見れば男子学生がコーヒーを取り落としたらしく、茶色く濡れてしまったボトムを懸命に払っていた。
ついで、ハッと息を飲んだ女が突然立ちあがって、自分の頬をぱんぱんっと両手で叩きだす。
いったい何がどうしたのか。
俺に視線を固定したまま驚いた様子で停止している大悟も含め、あたり一帯が一気に挙動不審になってしまった。
「も、もういいわよッ。ほかを当たるからっ」
大悟に向かってそう喚き散らした女の声に、いまだ頬を預けたままだったことを思い出し、大きな手を慌てて振り払った。
相手は大悟を狙っている女だ。大悟を譲る気なんてさらさらないけど、目の前でいちゃついて下手に刺激するのもいただけない。ことをややこしくして、もし刃傷沙汰になんかになったら目も当てられないからな。
凶行に出るのではと俺に疑われたその女は相変わらず真っ赤なままで、ちらっと横目で俺を見るなりキツく口元を引き結んだ。
大悟に相手にされなかったのがよほど悔しかったんだろう。と、一度は思ったんだけど、なぜだか瞳だけが爛々と輝いていているから、よくわからない。
ふんっと鼻息も荒く出口へ急ぐ女を見送っていると、大悟が小さくつぶやいた。
「失敗だったか……」
「なんのことだ?」
と大悟に問いかけていたら、カフェテリアの出入り口から女たちの騒ぐ声が聞こえてきた。
「ねぇねぇ、どうだったぁ?」
「もー眼福……っ、じゃなくて。だめだめ、ここじゃ言えないわ」
「なにがなにがぁ?」
「ひとまず場所を移しましょう。お願い、急いでっ。顔が笑み崩れるっ」
笑み崩れる? なんでだ?
切迫したようなその言葉に首を傾げているあいだに、彼女たちの姿は見えなくなった。
間を置かず、外から「やっぱりそうだったッ!」とか、「応援よ! 秘密裏にねっ!」とか、興奮した叫び声が聞こえて遠のいていく。先ほどの女と声質が似てる気がしたけど、たぶん別人だろう。振られた直後の言葉とは思えないし。
「あー、セーフ、かな?」
大悟がまた意味不明の言葉をつぶやいた。失敗だの、セーフだの、まったくなんのことだか。ちゃんと俺にもわかるように説明しろよな。
そう思って、問い質してやるつもりで口を開いたのに、
「大悟が女子と会話するの、初めて見た」
その口が、まったく別のことを言いだした。しかも、明らかに拗ねてる口調だ。
そこまで気にしてたのかと自分でも驚くやら。嫉妬丸出しで恥ずかしいやら。とにもかくにも居たたまれない。
対して大悟は、俺のやきもちなんか毛ほども気にしていない様子だった。ひどくやわらかな表情で微笑んで、これまでしたことのなかった女子との会話の理由を教えてくれた。
13
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる