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02-まずは軽くタッチから。

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 昂っていく身体をもてあましながら、抱きつく腕に少しだけ力を入れた。
 親友からいきなり迫られたのに、大悟は動じていないみたいだ。ピクリともしない。

 俺としては振り払われることも覚悟のうえでの暴挙だったんだけど……嫌じゃないんだろうか? それとも、こんなふうに先回りばかりしている俺の怯えまで『わかる』のか?
 ああ、いや。これは違うか。俺が『じっとしてろ』って、言ったからだ。

 無口すぎる大悟は言葉が足りないせいで、周囲の怒りを買ったり誤解させたりと、トラブルに遭うことが幾度かあった。俺は、そんな場面を目にするたびに、あいだに入っては通訳やアドバイスをして大悟をサポートしてきたんだ。そのせいか、大悟はいつしか、俺の指示には従ったほうがいいと思い込むようになっていた。

 だからって、こんな無茶な言いつけまで守らなくたっていいのに。こいつ、本当にわかってんのかな。いまから俺に何されるのか。
いや、わかってない可能性のほうが高いか。
 自分の性的傾向を隠したかった俺は猥談を極力避けてきたし、無口なだけじゃなく反応も皆無だった大悟にその手の話を振るような奴もいなかっただろうから。

 でも、大悟に経験や知識がないからって、ここで手は抜いてやれない。本気で切羽詰まってるんだ。悪いけど、きっちり喰わせてもらうから。


 大悟の首に抱きついていた右腕を緩め、背中から肩、腕へと、手のひらでゆっくりと撫でていく。僧帽筋に、三角筋。それから上腕三頭筋。熱い隆起とその弾力についうっとりしてしまう。

 大悟の身体って、こんなだったっけ?
 確かに以前から、Tシャツの上からでも引き締まった筋肉が見てとれるようなイイ身体をしてたけど、触れてみると見た目よりもずっと筋肉が厚くて重い。

 俺には、怪我のせいでバスケ選手ではいられないと知ったあと、スポーツトレーナーの勉強をしていた時期があった。
 バスケに必要な筋トレと、そのケア。加えて、大悟の苦手なプレイに合わせた自主トレメニュー。ほかにも、父子家庭で通いの家政婦さんには頼みにくいだろうからと、スポーツマンに適した食事の簡単レシピまで。

 あの頃は、大悟との繋がりはバスケだけだからと、ひたすら思い詰めていた。どんな形でもいい、大悟のそばに残れるようにと、我ながら必死だったんだ。
 でも結局は、それらを披露する前に退部してしまった。中学の三年間で築きあげてきた俺とのコンビネーションを、他のヤツとプレイする大悟を見るのがつらかったせいだ。

 大悟には、俺の退部理由はドクターストップがかかったとしか言っていない。本当は嫉妬からだなんて少しも知らないはずだ。
 まあ、でも、いまとなっては、どこまで秘密にできていたのか、怪しいものだが。


 大悟の手首まで辿り着いた指先を、大きな手のひらへと滑らせて、そっと重ね合わせた。
 相変わらず大きい。中学の頃も、何度かねだって手のひら比べをさせてもらったことを思い出す。

 大悟と出会ったのは、中学のバスケ部でだった。入学したての頃で、すでに一七〇センチ近くあった大悟は手もデカかくて、すごく羨ましかったのを覚えてる。

 俺はバスケをやめてから身長の伸びがとまっちゃったけど、大悟はいまどのくらいあるんだろう? 並んで立つと十二~三センチは差があったから、一八五は余裕で超えてるはずだ。

 そんなことを考えながら大悟の手のひらからするりと離れ、今度は難なく俺を乗せている太腿の上にそっと手を置いた。すると、大腿の筋肉がぴくりと反応して、その厚みがググっと増すのを内腿で感じる。

 男に太腿を触られるなんて、さすがに嫌悪感が湧いただろうか。
 そう思って膝の上から振り落とされやしないかと警戒してみたけど、大悟は変わらず何も言わないし、動かない。

 もう、嫌だって言うまで、やめないからな。
 その無口さに俺はずっと救われてきたけど、いい加減、お前も父親の呪縛から抜け出してもいい頃なんだから。


 親指をゆっくりとずらして、その硬い感触をジーンズの上から確かめると、やっぱり俺が知ってたときよりも筋肉が太く厚くなっている気がした。

 前に大悟に触れたのは、いつだったかな。
 高校に入学して、バスケ部入部初の練習試合で……あれが最後だったか。
 アキレス腱を切って立ちあがれないでいた俺を横抱きにして、救急車の到着も待ちきれずに校門まで走ってくれたときだ。

 あの頃の俺は、男の身体を意識しすぎる自分を隠すのに必死だった。
 お姫様抱っこへの羞恥心や、テーピング処置した足の痛みよりも、密着する大悟の力強い腕や硬い胸板に気を取られていたっけ。
 あのときから、もう三年も経ったのか。

 当時の懐かしくも幼い性衝動と、現在のリアルで淫らな性衝動がリンクする。
 知りたい。大悟は、どんな感じなんだろう?
 大悟の身体。大悟の反応。大悟の表情。大悟の汗。大悟の動き。大悟の……。

 想像するだけで喉が乾く。胃の裏がざわめいて、下腹の奥の奥がせがみ出す。堪らず大悟の肩口に顔を伏せて、大きくひとつ溜め息をついた。


 本当に、やるのか?
 少しだけ落ち着けたと思ったら、また堂々巡りが始まった。
 いや、やるしかないじゃないか。いまさら怖じ気づいてどうするよ。

 わかってる。大悟は、男漁りで捕まえた一夜限りの男たちとは違う。これからもずっと手を離したくない親友だ。
 だからこそ、失敗できないんだろ。俺は、この身体を絶対に籠絡してやると決めたんだ。
 大悟を繋ぎ止めるため、大悟を手に入れるためにも、ちゃんと先に進まないと。

 俺は覚悟を決めて、大腿に置いていた手のひらを大悟のウエストまでするりと引きあげて、前立てのボタンに指をかけた
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