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01 キスしてほしい場所を聞いてみましょう。
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「ほら、ゆきなり、こっち向いて。これじゃキスもできない」
うつ伏せたシルクガウンの背中を緊張が解れるようにと撫でながら、耳元へそっと囁いた。
けど、その程度では幸成の尖りきった神経を宥めることはできないらしい。羽枕に顔を埋めたまま一向に動こうとしない。
まあ、幸成だからな。こんな状況は恥ずかしくて耐えられないだろうと、この話を持ち掛けられたときから予想はついていた。
さて、どうするか……。
柔らかなシルクの布越しに、しなやかな背中の感触を堪能しながら暢気にも思考を巡らせる。
このシルクガウンは、俺が幸成の恋人になってから初めて彼にプレゼントしたものだ。父の会社から支払われた初給料で買った。
俺とのお揃いで、俺のはオフホワイト、幸成のは紺色だ。その濃い色合いが幸成の白い肌に映えて、本当によく似合っている。
幸成本人も「肌の上を滑る感触がエロい」と喜んでくれた。我ながらいい買い物だったと思う。
ガウンと合わせて買い替えたこのベッドも良品だった。とても寝心地がいいし、高さも広さもしっかりあるから、イロイロと重宝するんだ。
ただ、今日に限って言えば、このベッドを選んだのは明らかに失敗だった。
キングサイズのせいで、壁とのあいだはさほどあいていない。来客……というか、観客のために急遽ベッド脇に設置したダイニングチェアは、ベッドにほぼ接している。座り心地はさぞかし悪いだろう。
それに高さも問題だった。厚みのあるマットレスのせいで、その椅子に座っている人物との距離がより近く感じられてしまう。こんな日が来ると知っていたら、絶対に選ばなかったサイズだった。
案の定、その椅子に座る少年を見遣れば、身の置き所に迷うような複雑な顔をしていた。
俺たちと同じ大学一年のはずなのに、少年という形容がやけに似合う小さな身体を、さらに縮こませて座っている。
いや、これは座り心地がどうとかいう問題じゃないか。
まあ、座り心地が悪かろうが、居心地が悪かろうが、いまさら今回の限定公開プレイを中止する選択肢はない。
そういう意味では、このベッドでよかったんだ。彼がどんなに逃げ出したくなっても、椅子とベッドとに挟まれたその膝は、咄嗟には動かせないだろうから。
「ゆきなり? 日向も困ってるぞ。このままでいいのか?」
手のひらの下で張りのある筋肉がピクリと揺れた。日向の名前に反応したらしい。幸成が言いだしたことなんだから当然か。
俺のマンションの寝室に招かれ、ベッド脇の椅子にちんまりと腰掛けている少年、日向正樹は、俺たちのセックスを見学するためにここにいる。
それは確かに幸成が望んだことだったが、幸成自身に露出趣味があるというわけではもちろんない。むしろ、寝室以外ではセックスについての会話を極力避けるような恥ずかしがり屋だ。
ところが、今日。幸成は、「日向に俺たちのしてるところを見せてやりたい」と、俺に持ちかけてきた。
最初は、どういうことかと耳を疑ったが、以前から日向の悩み相談にのっていた幸成のことだ。何かしら事情があるに違いない。まあどうせ、日向の恋人である田崎が絡んでのことだろう。
この二人に関わろうとする幸成には、思うところがいろいろある。
自分の特殊性から人を遠ざける傾向のある幸成にとって、どうしても見過ごせない唯一の存在が日向なんだ。姿を見かけては自分から声をかけ、作り物ではない笑顔をいつも見せている。
「弟みたいで可愛いんだ」という幸成に、当然、恋愛感情なんてものはない。
それでも、できることなら俺以外の男をその懐に入れてほしくない。
それが俺の本心だったが、その願望はひた隠しにしている。独占欲も行き過ぎれば、嫌われかねないからな。
田崎にいたっては、幸成が男漁りをしていた頃の相手のひとりだった。幸成のほうは田崎とのことをよく覚えていないようだが、向こうは違う。一度きりのその夜が忘れられないらしく、俺たちが親友から恋人になったと知ったいまでも、「いいじゃん、俺も混ぜろよ」と複数プレイを匂わせてくる。
なんとも腹立たしいばかりだが、その執着は俺にも理解ができた。
幸成はエロいんだ。
恥ずかしがり屋なのに、何よりもセックスが好きで、最中の幸成は見てるだけでも相当クる。
表向きはガードが固く、普段は澄ました顔しか見せないくせに、ベッドの上では触れる前からトロトロに蕩けて凄艶な顔を見せる。それをさらに悦楽の中へとグズグズに浸していく醍醐味は、実際の快感を軽く上回って脳を揺さぶられてしまうほどだ。
幸成を一度でも抱いたら、きっと忘れられないだろう。
現に、田崎は忘れていない。
過去に幸成を抱いた男は、田崎以外にも複数いるが、幸成から聞き出した限りでは、従兄以外は皆、一夜限りだったという。今後、ほかの男に幸成を抱かせる気などさらさらないが、二度と手にできないものを永遠に忘れられないでいる彼らを、同じ幸成に触れた男として気の毒に思ってしまうのも事実だった。
「あの……村谷くんがつらいなら、僕……」
ふいに、日向が小さな声でそんなことを言い出した。
枕に顔を埋めたまま動けずにいる幸成を気の毒に思ったんだろう。日向の前ではいつも兄か先輩かといったふうにしゃんとしている幸成だから。
「それで本当にいいのか? 田崎先輩の浮気をやめさせたいんだろ?」
同じ大学に通う一つ上の田崎は、俺と幸成の高校の先輩でもある、腐った縁のある人だ。
高校でバスケ部にいたとき、怪我で退部した幸成と入れ替わりに、編入したての田崎が入部してきた。その関係で、あいにくといまでも俺は先輩呼びだ。
出会った当初から、田崎とはあまり馬は合わなかった。調子のいい軽い性格が、どうにも俺には受入れ難かったんだ。
田崎本人は、ムードメーカーとしてすぐにチームに受け入れられた。後輩の面倒見もよく、気配りも上手い。洞察力にも優れていて、努力もきっちりできる人だ。
でも、いかんせん軽すぎる。
田崎は、可愛い子が好きだと言っては男女関係なく秋波を送る。女子が本気になりそうになると、ゲイだと公言して予防線を張る。まれに寄ってくる男子相手には、遊びを前提とした刹那的なセックスしかしない。
しかも、それを恋人である日向にも隠さないんだ。
どれだけ本人が優秀でいい人だとわかっていても、その節操のなさだけはいただけなかった。
それは当然、遠い地元から田崎を追いかけてきた日向にとっても同じことだ。
見れば、田崎の浮気を思い出したのか、小さく顔を歪めてしまっている。
いまにも泣き出しそうなその表情に、一瞬、言葉を選び間違えたかとヒヤリとしたが、悪いのは田崎だと思い直すことにした。
日向の顔をじっと見つめ、視線が合ったのを確認してから力強く頷いてやる。
すると、日向がスッと背筋を伸ばし、唇を引き締めて大きく頷き返してきた。
「村谷くん、ごめんなさい。教えてください。僕も、ちゃんとエッチができるようになりたいです」
幸成じゃないが、震え声を抑えながらそう言いきった日向を褒めてやりたい。
正直、助かった。いまここで中止の方向へと傾かれたら元も子もない。俺の目論見が水の泡だ。
悪いが、どんなに良心が疼いても、免疫がなくて逃げ出したくなっても、日向には最後まで付き合ってもらう。
当然、幸成にもだ。
幸成の背中を、もう一度ゆっくり撫でおろす。先ほどより強張りが強いところを見ると、どうやら日向の意思表明が効いてるらしい。あと一押しだ。
「ゆきなり、どうする? 日向はこう言ってるぞ?」
自分から言いだした手前、逃れられないことはおそらく百も承知なんだろう。ただ、自分から顔をあげるきっかけがつかめないだけなんだ。
「エッチの仕方を教えてくれって言っても、まずはキスからだと思うけど……」
そう言いながら、背中を撫でていた手のひらをするりと幸成の尻へと滑らせる。
ガウンの下に下着の感触はない。薄いシルクを一枚めくってしまえば、そこには幸成の生尻があるんだ。
はやる気持ちを抑えて、
「ゆきなりが、どうしても日向の前ではキスできないって言うなら、俺の好きなところに……キスしていいか?」
低くひそめた声でそう囁きながら、指先を幸成の尻の割れ目に沿わせ、シルクごとその奥へとそっと滑らせた。
うつ伏せたシルクガウンの背中を緊張が解れるようにと撫でながら、耳元へそっと囁いた。
けど、その程度では幸成の尖りきった神経を宥めることはできないらしい。羽枕に顔を埋めたまま一向に動こうとしない。
まあ、幸成だからな。こんな状況は恥ずかしくて耐えられないだろうと、この話を持ち掛けられたときから予想はついていた。
さて、どうするか……。
柔らかなシルクの布越しに、しなやかな背中の感触を堪能しながら暢気にも思考を巡らせる。
このシルクガウンは、俺が幸成の恋人になってから初めて彼にプレゼントしたものだ。父の会社から支払われた初給料で買った。
俺とのお揃いで、俺のはオフホワイト、幸成のは紺色だ。その濃い色合いが幸成の白い肌に映えて、本当によく似合っている。
幸成本人も「肌の上を滑る感触がエロい」と喜んでくれた。我ながらいい買い物だったと思う。
ガウンと合わせて買い替えたこのベッドも良品だった。とても寝心地がいいし、高さも広さもしっかりあるから、イロイロと重宝するんだ。
ただ、今日に限って言えば、このベッドを選んだのは明らかに失敗だった。
キングサイズのせいで、壁とのあいだはさほどあいていない。来客……というか、観客のために急遽ベッド脇に設置したダイニングチェアは、ベッドにほぼ接している。座り心地はさぞかし悪いだろう。
それに高さも問題だった。厚みのあるマットレスのせいで、その椅子に座っている人物との距離がより近く感じられてしまう。こんな日が来ると知っていたら、絶対に選ばなかったサイズだった。
案の定、その椅子に座る少年を見遣れば、身の置き所に迷うような複雑な顔をしていた。
俺たちと同じ大学一年のはずなのに、少年という形容がやけに似合う小さな身体を、さらに縮こませて座っている。
いや、これは座り心地がどうとかいう問題じゃないか。
まあ、座り心地が悪かろうが、居心地が悪かろうが、いまさら今回の限定公開プレイを中止する選択肢はない。
そういう意味では、このベッドでよかったんだ。彼がどんなに逃げ出したくなっても、椅子とベッドとに挟まれたその膝は、咄嗟には動かせないだろうから。
「ゆきなり? 日向も困ってるぞ。このままでいいのか?」
手のひらの下で張りのある筋肉がピクリと揺れた。日向の名前に反応したらしい。幸成が言いだしたことなんだから当然か。
俺のマンションの寝室に招かれ、ベッド脇の椅子にちんまりと腰掛けている少年、日向正樹は、俺たちのセックスを見学するためにここにいる。
それは確かに幸成が望んだことだったが、幸成自身に露出趣味があるというわけではもちろんない。むしろ、寝室以外ではセックスについての会話を極力避けるような恥ずかしがり屋だ。
ところが、今日。幸成は、「日向に俺たちのしてるところを見せてやりたい」と、俺に持ちかけてきた。
最初は、どういうことかと耳を疑ったが、以前から日向の悩み相談にのっていた幸成のことだ。何かしら事情があるに違いない。まあどうせ、日向の恋人である田崎が絡んでのことだろう。
この二人に関わろうとする幸成には、思うところがいろいろある。
自分の特殊性から人を遠ざける傾向のある幸成にとって、どうしても見過ごせない唯一の存在が日向なんだ。姿を見かけては自分から声をかけ、作り物ではない笑顔をいつも見せている。
「弟みたいで可愛いんだ」という幸成に、当然、恋愛感情なんてものはない。
それでも、できることなら俺以外の男をその懐に入れてほしくない。
それが俺の本心だったが、その願望はひた隠しにしている。独占欲も行き過ぎれば、嫌われかねないからな。
田崎にいたっては、幸成が男漁りをしていた頃の相手のひとりだった。幸成のほうは田崎とのことをよく覚えていないようだが、向こうは違う。一度きりのその夜が忘れられないらしく、俺たちが親友から恋人になったと知ったいまでも、「いいじゃん、俺も混ぜろよ」と複数プレイを匂わせてくる。
なんとも腹立たしいばかりだが、その執着は俺にも理解ができた。
幸成はエロいんだ。
恥ずかしがり屋なのに、何よりもセックスが好きで、最中の幸成は見てるだけでも相当クる。
表向きはガードが固く、普段は澄ました顔しか見せないくせに、ベッドの上では触れる前からトロトロに蕩けて凄艶な顔を見せる。それをさらに悦楽の中へとグズグズに浸していく醍醐味は、実際の快感を軽く上回って脳を揺さぶられてしまうほどだ。
幸成を一度でも抱いたら、きっと忘れられないだろう。
現に、田崎は忘れていない。
過去に幸成を抱いた男は、田崎以外にも複数いるが、幸成から聞き出した限りでは、従兄以外は皆、一夜限りだったという。今後、ほかの男に幸成を抱かせる気などさらさらないが、二度と手にできないものを永遠に忘れられないでいる彼らを、同じ幸成に触れた男として気の毒に思ってしまうのも事実だった。
「あの……村谷くんがつらいなら、僕……」
ふいに、日向が小さな声でそんなことを言い出した。
枕に顔を埋めたまま動けずにいる幸成を気の毒に思ったんだろう。日向の前ではいつも兄か先輩かといったふうにしゃんとしている幸成だから。
「それで本当にいいのか? 田崎先輩の浮気をやめさせたいんだろ?」
同じ大学に通う一つ上の田崎は、俺と幸成の高校の先輩でもある、腐った縁のある人だ。
高校でバスケ部にいたとき、怪我で退部した幸成と入れ替わりに、編入したての田崎が入部してきた。その関係で、あいにくといまでも俺は先輩呼びだ。
出会った当初から、田崎とはあまり馬は合わなかった。調子のいい軽い性格が、どうにも俺には受入れ難かったんだ。
田崎本人は、ムードメーカーとしてすぐにチームに受け入れられた。後輩の面倒見もよく、気配りも上手い。洞察力にも優れていて、努力もきっちりできる人だ。
でも、いかんせん軽すぎる。
田崎は、可愛い子が好きだと言っては男女関係なく秋波を送る。女子が本気になりそうになると、ゲイだと公言して予防線を張る。まれに寄ってくる男子相手には、遊びを前提とした刹那的なセックスしかしない。
しかも、それを恋人である日向にも隠さないんだ。
どれだけ本人が優秀でいい人だとわかっていても、その節操のなさだけはいただけなかった。
それは当然、遠い地元から田崎を追いかけてきた日向にとっても同じことだ。
見れば、田崎の浮気を思い出したのか、小さく顔を歪めてしまっている。
いまにも泣き出しそうなその表情に、一瞬、言葉を選び間違えたかとヒヤリとしたが、悪いのは田崎だと思い直すことにした。
日向の顔をじっと見つめ、視線が合ったのを確認してから力強く頷いてやる。
すると、日向がスッと背筋を伸ばし、唇を引き締めて大きく頷き返してきた。
「村谷くん、ごめんなさい。教えてください。僕も、ちゃんとエッチができるようになりたいです」
幸成じゃないが、震え声を抑えながらそう言いきった日向を褒めてやりたい。
正直、助かった。いまここで中止の方向へと傾かれたら元も子もない。俺の目論見が水の泡だ。
悪いが、どんなに良心が疼いても、免疫がなくて逃げ出したくなっても、日向には最後まで付き合ってもらう。
当然、幸成にもだ。
幸成の背中を、もう一度ゆっくり撫でおろす。先ほどより強張りが強いところを見ると、どうやら日向の意思表明が効いてるらしい。あと一押しだ。
「ゆきなり、どうする? 日向はこう言ってるぞ?」
自分から言いだした手前、逃れられないことはおそらく百も承知なんだろう。ただ、自分から顔をあげるきっかけがつかめないだけなんだ。
「エッチの仕方を教えてくれって言っても、まずはキスからだと思うけど……」
そう言いながら、背中を撫でていた手のひらをするりと幸成の尻へと滑らせる。
ガウンの下に下着の感触はない。薄いシルクを一枚めくってしまえば、そこには幸成の生尻があるんだ。
はやる気持ちを抑えて、
「ゆきなりが、どうしても日向の前ではキスできないって言うなら、俺の好きなところに……キスしていいか?」
低くひそめた声でそう囁きながら、指先を幸成の尻の割れ目に沿わせ、シルクごとその奥へとそっと滑らせた。
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