恋人の望みを叶える方法

藍栖 萌菜香

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13 好きにさせてみるのも手です。

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 あの恥ずかしがり屋の幸成が、そんなことをするはずがない。
 そうは思っても、フェラチオをしている幸成の様子を見ていると、その考えが頭から離れなくなってしまった。

 日向の位置から見やすいようにと計算されたような手や顔の角度もそうだが、伏せがちな睫毛の先や、ときおり日向のほうへと流れる視線には、まるで『こっちを見ろ』とでも言わんばかりの強気な色っぽさが漂っている。

 まあ、そもそもが『日向に見せたい』と言い出したのは幸成だし、これまでだって恥ずかしがりながらも日向に見せてきたんだ。日向が見やすいようにと幸成が配慮をしたって不思議じゃない。
 だが、幸成のそこここに滲む挑発的な色気には、見やすいようにという気遣いよりも、もっと攻撃的な、見せつけたいという願望が込められているように思えてならなかった。


 そんなイメージに内心で首を傾げながら幸成の愛撫に耐えていると、ふいに、それまでの焦れったい刺激とは比べ物にならないほどの痺れに襲われた。
「んんッッ」
 鋭い刺激に堪えきれなかった声が鼻から抜ける。

 なんだ? いまの、何をされたんだ?
 思わず瞑ってしまった目を開けて幸成のほうを見てみると、俺のペニスから顔をあげた幸成が驚いた様子でこちらを見ていた。

「大悟の喘ぎ声……初めて聞いた」
 幸成の声が上擦り掠れている。どうやら感動しているらしい。喜びに輝く幸成の表情はじつに愛らしいが、やる気に満ちたその瞳には、はっきり言って嫌な予感しかしなかった。

「いや、そんなはずは」
 絶対にない。幸成の気持ちいい身体に、俺が声を堪えられないなんてことはザラだ。それを幸成が初耳のように感じているのは、おそらく俺が声を漏らすようなときには幸成自身が自分の快感に夢中なときで、聞き取る余裕がなかったせいだろう。

「いい声、もっと聞かせろよ」
 やや弾んだ声でそう言いながら、幸成がふたたび俺の股間へと身を伏せた。


 顔を横へと傾けた幸成が俺の裏筋に吸いついたかと思うと、先ほど感じたゴリゴリとした強烈な刺激が突き抜けていく。視覚的には何をしているのかわからなかったが、感触からするに、たぶんこれは歯だ。咬み合わせた前歯の表面を裏筋に押しあてて顔を振り、まるでペニスを歯ブラシに見立てて歯磨きでもしているような仕草で愛撫してるんだ。

「んッ、ゆきなりっ」
 これはヤバい。乱暴なようでいて、痛みはまったくない。唇でやわらかく吸いつきながらゴリゴリされると、ペニスの先から腰全体に鋭い痺れがびりびりと広がっていく。

 こんなテクを、いったいどこで? 以前幸成が関係を持った一夜限りの男たちの誰かが、幸成にしてみせたんだろうか。
 そう思い至った途端、腹の底からぶわりと湧きあがったドス黒い感情が、どろどろと波打って腹の奥に溜まっていく。


 幸成の男漁りについては、いつまでもぬくぬくと幸成のやさしさに甘え、自分を持てずにいた己が悪い。頭ではそう理解していても、こうして過去の男たちの幻影が透けて見えてしまえば、そんな理屈も通じなかった。

 ことあるごとに、嫉妬の汚泥をグツグツと煮立たせては、熱いの痛いのと騒ぐだなんて……こんなのは、あまりにもカッコ悪すぎだ。幸成とは、隠し事はなしだと約束してあったが、コレだけは見せられたものじゃなかった。

 この醜く情けない感情は、どうしたって避けようがなかった。もはや、一生の付き合いになると覚悟を決めるほかない。
 それでも幸成に知られたくないならほら、どうにかして自分を納得させろよ。なんでもいい。思い出せ。幸成が俺だけのものだと思える材料を探すんだ。

 そうだ。幸成は、『フェラはするのもされるのも好きじゃない。キスのほうがよっぽど感じる』んだった。これまで、どれだけフェラをさせてもらえなかった? どれだけ拙いフェラで焦らされた?

 一夜限りの男たちは、幸成の疼く身体を鎮めるための肉棒でしかなかった。幸成はきっと、我慢を要する行為など許さなかっただろう。それなら、フェラをするのもさせるのも、経験値は極めて低いに違いない。


 ということは、だ。
 幸成はいま、俺の声聞きたさに、好きでもないフェラをこんなにも熱心にしているということだ。しかも、これまで持ち合わせていなかったテクを試行錯誤しながら駆使してる。

 なかなか声をあげない俺に、ちらりと視線を寄越した幸成と目が合った。その視線は『どうだ? きもちいいか?』と問いかけている。
 その愛らしさに頬がゆるりと緩むと同時に、嫉妬がさらさらと霧散していった。汚泥が消えてなくなったそこに、愛しさが取って替わってふつふつと湧きでて満ちていく。

 許さなかったものを許してくれる。自分の快感だけじゃなく、俺の快感を優先してくれる。これまでとは違う幸成だ。
 何が幸成をそうさせているのか。
 それは、長すぎた触れ合えない日々かもしれないし、いつもは存在しないはずの闖入者の存在かもしれない。
 そう思えば、受け入れがたい日向の存在も、いくらかは受け入れられそうな気がしてきた。


 幸成が裏筋から唇をずらし、顔を横向きに構えたまま下へと沈んでいく。口を大きく開き、今度はハーモニカを吹くようにペニスの胴へ唇と舌を滑らせていく。
 歯をあてながらしているのもわざとだろうか。ぬるい刺激のなかに、ときおり鋭い刺激が見え隠れして、さらに期待が高まった。それまでも、ズキズキと疼いてならなかったペニスが痛いほどに滾りだす。

 根元まで辿り着いた幸成にそこをはむはむと甘噛みされた。甘い圧迫を受けて、とぷりと先走りが溢れだす。たらたらと滴ったその汁を舐め辿りながら幸成の舌が亀頭まで戻ってきた。鈴口を舌先でちろちろと責められて、射精してしまわないようにと腹の底に込めていた力が、どうしようもなく緩んでいくのがわかった。

「っ、やめろゆきなり、ギブだ」
 口早に訴えた嘆願は逆効果だったようだ。焦りを含んだ俺の声音に瞳をいっそう輝かせた幸成が亀頭を口に含む。そのまま上下に揺れだした小さな頭に、思わずシーツを握りしめた。

 もしかして幸成は、俺がイクまでフェラチオを続けるつもりなんだろうか。
 そんな疑問が頭を掠めた瞬間、脳裏に、溜まりに溜まった俺の精液を飲み込みきれずに顔へと浴びる幸成が浮かんでしまった。

「くッ」
 俺はバカか。ただでさえ幸成に極限まで追い詰められているのに、自らの妄想で追い打ちをかけてどうする。
 自分の馬鹿さ加減に呆れ返るものの、脳裏に居座っている幸成が顔に浴びた精液を舐めようと舌や指を伸ばして、壮絶な色気を撒き散らすのをやめてくれない。半ば惜しいと思いながらも、ぶんぶんと頭を振り、その危険な妄想を追い払った。


 限界が差し迫る俺の様子に気をよくしたのか、幸成が俺にもっと声をあげさせるべく夢中になってペニスをしゃぶる。もはや日向に見せつけたがるような気配など欠片も漂わせていなかった。
 こんな切羽詰まった状況にもかかわらず、幸成の意識が第三者よりも俺へとあることに、ことさら愛しさが込みあげてくる。そのあたたかな感情が、さらに下腹から力を奪っていった。

 これは本気で幸成をとめないと本当にヤバい。禁欲のせいでいつもより決壊ラインがかなり低いという自覚はあった。このまま続けられてしまえば、いくらも持たずにイカされてしまうだろう。

 動きに合わせて揺れる前髪に手を伸ばす。それをやさしくかきあげると、小さな頭がとまって、幸成がこちらへと視線を寄越した。
「ゆきなり。俺、ゆきなりのなかでイキたい」
 瞳に求心力を込め、わずかに震える掠れ声でせつなく訴えた。本心からの言葉だ。演じずとも自然とそうなる。

「ゆきなりのなかを俺でいっぱいにしたいんだ」
 幸成の瞳がうるりと揺れた。どうやら迷っているらしい。俺の精液を口で受けとめるか、アナルで受けとめるか、その二択で。

「久しぶりだからな。かなり濃いのを溢れるくらい……ゆきなりの奥にぶちまけたい」
 わざと煽るような言葉を選んで、潜めた声に乗せた。
 その瞬間を想像したのか、幸成の喉がごくりと鳴る。ペニスを咥えたまま生唾を飲み込まれて危うくイキかけたが、奥歯を食い縛ってなんとか踏みとどまった。


 濃い精液を腹の奥に打ち込まれる感覚は、幸成にとって陶酔を誘う特別なものだ。それさえ思いださせれば、すぐに飛びつくかと思ったのに、幸成はなかなかペニスを離そうとしない。
 おそらく、いろんなことが頭のなかを錯綜しているんだろう。挿入へと移るのに気がかりがあるとすれば、主に日向に関連したことに違いない。

 心配か、羞恥か、それとも別の何かか……。
 そうして悩んだところで、ここまで来ておきながら挿入せずには終われないことくらい、幸成が一番よくわかっているだろうに。
 やはり、そんなことなど気にならないくらい、幸成から求めさせるしかないな。

 ……果たして、俺がそれまで持つかどうか。
 そんな不安を抱えながらも、俺は次の作戦に移ることにした。

「どうしてもフェラをしたいなら続けててもいい。そのかわり尻をこっちに向けてくれ。アナルの解しが足りてないだろう。もう少しマッサージしておこう」
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