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第二十七話 湖上都市を楽しもう
しおりを挟む俺たちはすぐに火を消し、木の影に隠れながらその集団が来るのを待った。幸い休憩していた場所は木が密集しており、外側からは中の様子が見づらくなっている。
地鳴りが段々と大きくなってくる。統率のとれている足音に、士気を高めるためか、音楽と掛け声が聞こえてきた。軍隊のような存在だろう。しかし、俺には軍隊だろうが魔物だろうが変わらない。グランディでの件もあるので、余計な事にならないよう、通り過ぎてくれるのを待った。
「その森に居る者達、出てきなさい」
思うようには行かないな。レイラと視線を合わすと「お任せします」と言わんばかりの表情が見て取れた。
どうしようか……俺だけ出て行くと――『何だコイツは! やっちまえ!』となりそうだな。
レイラだと――『こんな所に美人奴隷一人か! へっへっへ』これは絶対に無しだな。
リタなら――『こんな所に美少女が! へっへっへ』これもダメだ。
となると、やはり俺だけ出て行くのが良さそうだ。フレンドリーに行こうか、下に見られぬように威厳を持って行こうか迷っていると、痺れを切らしたかのように隊長格であろう人物が声を荒らげた。
「さっさと出てこないか! 何なら出てきやすいようにしてやろうか! おい、やれ!」
「はっ! 水の精霊ウンディーネよ、我が魔力を糧として、敵を滅する弾となれ!」
マズイ、魔法で俺たちをあぶり出す気だ。俺は二人に待機を命じ、慌てて外に飛び出した。
(ちょっと待った! 今出て行……おわっ!)
外に出ると、もう目の前にウォーターボールが迫っていた。俺は反射的に『炎纏鎧』を纏い、ウォーターボールに備えた。『炎纏鎧』も他の炎と同じく白濁色になっており、ウォーターボールはそれに触れる事なく蒸発した。
時が止まったかのように静まり返る。見渡せば百人以上の兵士たちが隊列乱さずに並んでいた。
騎馬隊、長槍、剣士、鼓笛隊、魔法使い、それぞれ装備は異なるが、同じエンブレムが付いた装備をしていた。来た方角から、サンクテレシアの兵士たちだろう。しかし皆表情は優れず、顔に生気がない。
「な、なんだ貴様は!! 魔獣……いや、魔族か!」
(え? いや違います!)
俺は慌てて『炎纏鎧』を解き、首を大げさに横に振った。そんな俺の行動も虚しく、兵士たちは次々に戦闘態勢に入っていく。
(ヤバイな。なんかいい手はないかな……)
正直戦っても勝てる自信はあるが、勝ったところで、その後の道のりが険しくなるのは、考えなくても分かる。このまま逃げてもいいが、根本的な解決じゃないから、後々面倒になりそうだし……。
などと悠長に考えていると、後ろから助け舟が到着した。
「申し訳ありません。この方は冒険者のケンタでございます。私はレイラ、ケンタ様の奴隷でございます。ケンタ様は仮面の呪いで声を発することが出来無くなっております。お返事が出来ず、ご迷惑をお掛けしましたことを、ここにお詫び申し上げます」
俺の隣で頭を下げるレイラは、何故か上着が少々乱れており、とても色っぽく見えた。
「ふむ、まぁ良い。すぐに出て来ればこのような事にはならなかったものの……」
「申し訳ありません。その……」
そういってレイラは上着を正すような仕草をした。あぁ、そういうことか。男女の戯れで、出て行くのが遅れたことにするつもりらしい。下手な言い訳より、こういった下世話な話の方が相手も勘ぐらず、すんなりと受け入れてくれるだろう。
「ふん、いい身分だな。こっちはこれからオーガ退治だというのに……」
「もしかしてアグコルトに現れたオーガですか?」
「あぁ、そうだ! お前たちアグコルトから逃げてきたのか? 街はどうだった? 犠牲者の数は? オーガは何体居た? 詳しく教えてくれ!」
後ろの兵士たちもざわつき始めた。無理もない。あのオーガ相手だ。一介の兵士が束になり、ようやく倒せるかどうかのレベルだろう。オーガが少なく被害が少なければ闘志になり、オーガの数が多く、街が壊滅していたりすれば、それは絶望に変わるからだ。
兵士は皆、固唾を呑んでレイラの言葉に耳を傾けた。
「オーガは全て討伐されました。街の住人と街内すべてを回ったので間違いないと思います。全部で何体いたかは分かりませんが、十体以上は居たと思います。死者はおりません。けが人は数人居ましたが、全員が回復しております」
兵士たちを沈黙が支配した。
一番理想的な答えが帰ってきたのだが、兵士たちは疑心暗鬼だ。自分の目で見ていないものを手放しでは喜べないのだろう。
「おい、それは本当か? 嘘なんか付いていないだろうな?」
「もちろんです」
「……よし、騎馬隊長! 数名を連れて先にアグコルトに行き、状況を確かめろ!」
「はっ」
「よし、二日で帰って来い! 他の兵士たちは念の為に、このまま南下する!」
「はっ」
兵士たちは揃ってまた移動を始めた。心なしかその表情には先程よりも生気が戻りつつあるように見えた。
「……また会おう」
そう言って兵士たちはアグコルトへと続く道を進んでいった。
(すげー! 湖の真ん中に城が! 街がある!)
高台から見下ろした首都『サンクテレシア』は、大きな湖の中心にあり、陽の光を映す水面に彩られ、とても美しい街だった。
外周は高い壁で護られており、首都らしい巨大な城が中心にある。その城を中心に市街地が円形状に建ち並んでいる湖上都市だ。あまりの絶景に思わず声を上げてしまった。
街から南方向に巨大な石橋が架かっており、多くの人の行き来がこの高台からでも見て取れる。
俺たちはさっそく街に入った。人の多さ、建物の立派さに目が回ってしまう。
これだけ人が多いと、俺の容姿を気にする人もほとんどいない。それにここには奴隷が多く生活しているようだ。初めてあったレイラと同じような、みすぼらしい格好をしている者や、冒険者風の装備をしている者、首輪が無ければ見分けがつかない程、貴族っぽい服を着ている者さえいる。奴隷同士、屋台で楽しく談笑している光景も見れた。
いまいち奴隷の扱いが良く分からないな。まぁ端的にいえば奴隷の主人によるんだろうが……。
まず最初に向かったのはギルドだった。まずは誰もが思わず二度見してしまう程の、大量の素材を買い取って貰うためだ。
「すみません、素材の買取をお願いします」
「分かりました。少々お待ちください」
ここサンクレテシアのギルドは本部ということもあり、かなり立派な造りになっている。
受付カウンターも五ヶ所あり、買取カウンター、新規登録カウンター、相談カウンターもある。
また、地下には訓練場、二階には食堂も完備しており、美味しい料理を格安で提供しているらしい。
そんな話を聞いた俺たちは、リタの強い押しに白旗を上げ、二階にある食堂で、早めの夕食を済ませる事にした。
食事を堪能し一階の買取カウンターに戻ると、すでに査定が終わっておりお金を受け取るだけになっていた。
「合計で、金貨7枚、銀貨42枚、銅貨11枚になりました。詳細はこちらの紙に書いてあります」
「ありがとうございます。この金額でよろしくお願い致します」
「ありがとうございます。ではこちらの金額でご用意させていただきますので、もうしばらくお待ちください」
かなりまとまった金額になったな。これで手持ちは約金貨21枚弱になった。奴隷解放に金貨5枚使っても残りは金貨16枚もある。これなら当面の間は問題なく生活して行けそうだ。
お金を受け取ると、俺たちはさっそく奴隷商の元に行くことにした。
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