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第三十二話 実験を楽しもう
しおりを挟む『マナ食べられるよー』
リタの何気ない一言に魔法の根源というか、核心に迫る思いを抱いていた。
そのため今日はギルドの依頼を二人に任せ、街を離れ、人目につかないここで一人特訓と決め込んだ。
(よし、やるか)
「私また、おまんじゅう食べたい!」
「私はケンタ様の作るものでしたら、何でもいいです!」
一人特訓と決め込んだはずだったのに……。
(何でいるんだよ! ここは料理教室じゃないぞ! それに気が散るんだよ!)
「ふっ、この程度で気が散るなんて、実際の戦場でそんな言い訳が通じるとでも思っているのか! このバカタレが! いいからおまんじゅう作れ!」
(なんのキャラだよ!)
ダメだ。構っていたら日が暮れてしまう。
気を取り直して、早速特訓に取りかかろう。
まずは昨日出した饅頭を生成する。
ぽよよん。
「わーい! おまんじゅうだー! おいしー!」
うん、問題無い。
この饅頭は、味と食感は饅頭そのものだが、色は無色透明で地面に落してしまうともう見つからないだろう。それと香りもない。
次は色と香り付きを想像して饅頭を生成する。
ぽよよん。
「!? 透明じゃないお饅頭が出てきました!」
色は白色で匂いは……無いな。
味は……。
「美味しいです! この白いお饅頭も美味しいです! ケンタ様おいし――」
味も問題ないみたいだ。
ここで問題が出たな。匂いが思い出せない。
というか、そこまで饅頭にこだわりがあったわけではない為、明確に思い描くことが難しい。
他のでチャレンジしてみるか。
果物で行こう。
ぽてっ。
「あ! なんか黄色いのが出てきたよ!」
(皮を剥いて食べてみて)
「おおぉぉ……。 身が十個に分かれてるね! はむっ――っすっぱぁい!?」
ミカンだ。酸っぱいのは饅頭を食べた後だからだろう。
試しに俺も食べてみたが、ちゃんと味は再現されていた。
それに、香りや食感、瑞々しさも完璧だった。
ただ、ミカンの白いスジみたいなものまでは再現できなかった。
しかし、これはこれで本物のミカンより食べやすいからいいか。
次は……よし。
トスン。
「あ! シャクの実ですよね?」
こっちの世界に来てから随分とお世話になった赤梨ことシャクの実だ。
随分と長い間主食として食べていたので、色、食感、香り、味、どれを取っても本物だった。
それから色々な食材を生成してみた。
好きな肉まん、一度しか食べたことがないが、とても美味しかったA5ランクの牛肉、苦手なレバニラ炒め、全く食べたことのないフォアグラ、チ○ルチョコなど様々だ。
その中で上手く創り出せるのは、その食材を明確に思い描くことが出来るものだけだった。
「美味しいのと不味いのとが交互に来るから……なんか疲れる」
「確かに。少々ワザとな気もしますけど……」
そしてここに来て、身体に変化が訪れた。
(あれ、この賢者モードっぽい感じは……)
「あら? ケンタ、あんた魔力がもう残り少ないわね」
そうだ、魔力が少なくなると気分が落ち込んでしまうんだった。
ここ最近そういった事がなかったので忘れていたが……この生成作業は意外と魔力使うんだな。
考えてみると、今回出した食べ物は、色、形、食感、香り、味と変換項目が多岐にわたる為、魔力の消費が激しいのだろう。
ちょうどいい時間だったので、昼食がてら一休みした。
(よし、再開するか。リタ! 今度はどんなのが出てくるか分からないから、無闇矢鱈に口に入れるんじゃないぞ!)
「わ、わかってるわよ」
次の特訓……というか実験は、抽象的に思い描いてみるとどうなるか、だ。
まずは甘いもの。次に辛いもの。苦いものに、美味いもの。
ぽて、ぽてててん。
見た目は饅頭と変わらないんだな。一口かじってみる。
味の結果は、それぞれ砂糖の甘さ、唐辛子の辛さ、ゴーヤの苦さ、俺の好きなチキンソテーの味がした。
抽象的に思い描くと、それに因んだ強く印象に残っているものが生成されるみたいだ。
「かっ! からっ! レ、レイラ水ぅ―!」
「え!? ウ、ウンディーネお願い!」
「がぼぼぼぼぼっ……」
(……レイラ、直で水をぶっかけるのは、どうかと思うぞ)
次は食べ物以外の、堅いもの、柔らかいもの、綺麗なもの、臭いものだ。
ガンッ、パリンッ、ベチャ……ふさっ。
今度は見た目からして違うのが出てきた。
堅いものは重量もあり、金属製の球体だった。見た目は砲丸だ。
柔らかいものは綿毛っぽく、本当に柔らかくて気持ちがいい。
綺麗なものはガラス細工だったのか、地面に落ちて割れてしまった。
臭いものは……牛乳雑巾を丸めたような物が出てきたようだ。
「なにこれ!? フワッフワで、すっごいきもちいいー」
「くちゃいです」
(……)
鼻を摘みながら報告してくるレイラが可愛いかった。
「くちゃいです」
さて、次は火以外の属性魔法だ。
土は土壁をモリモリと生成し、水は手からバシャーと滝のように流れ、風は女性陣のスカートをめくり上がらせる。
リタはモンロー気取りでキャッキャ言っており、時折見せる白い太ももが眩しいぜ。
皮のスカートの下にズボンを履いているレイラは、特に反応はない。
いや、蔑んだ目でこちらを見ているようだった。
すまんレイラ。俺だって男の子だもん。
気を取り直して、右手からバチバチと雷を出し、左手からは氷塊を生成する。
光はレイラの見せてくれた光源魔法を再現したが、闇はいまいちピンと来なかったので、今はまだ出来なかった。
とりあえず属性魔法が使えるようになった。
あれほど欲してやまなかった火以外の属性魔法だが、今では割りとどうでも良くなっていた。
今回の特訓の目玉はこれじゃない。
先程検証した抽象的な描出こそが、魔法の真髄だと思っている。
俺はそこを再度検証実験するため、この日、太陽が傾き落ちるまで特訓に明け暮れた。
夜、街に戻ってきた俺たちは、夕食を食べるために食堂に入った。
この街には食堂が何店舗か有り、リタの強い希望で毎日違う店を巡り回っている。
「このお店は落ち着いた雰囲気ですね」
「ええとね、このお店で美味しいのは、モンテカプラの香草焼きだって」
いつの間に調べあげたのか、リタの持つ紙にはこの街をはじめ、近隣の街の美味しいお店と、その名物料理が書き綴られていた。
「うぅ……食べ過ぎちゃいました」
(うーん、リタが調べただけあって、ここも美味しかったな)
「でしょでしょ! ここはあの冒険者ランドのイチオシなんだから!」
あのランドさんがどのランドさんかは分からないが、美味しかったのは間違いないので素直に頷いておこう。
「でね、ケンタ、レイラ。 ここからすぐ近くに、美味しいお菓子のお店があるんだけど……」
「それは……今後の為にも是非行きましょう!」
(レイラ、食べ過ぎたんじゃないのか……。俺は遠慮しとくわ。二人で行ってきてよ)
今後の為って、お菓子がどういう役に立つのか聞いてみたいが、女子のいわゆる『スイーツは別腹』に付き合える胃袋も無く、俺は一人宿屋に戻ることにした。
俺は俺で、これからの戦い方を考えるいい時間になりそうだ。
一足先に店を出る二人を見送り、俺は自分で生成した食後のコーヒー飲みながらアレコレ思案していると……。
「いやー、本当に居たよ。私の事覚えているかい?」
向かいに腰を下ろした女性に目をやると、フードを深く被って居るが、その褐色の肌と首元に見えるプラチナカラーの髪に見覚えがあった。
(たしか、ダークエルフのレオノーラだよな)
久しぶりと頷き手を上げると、フードの中の彼女は嬉しそうな表情を見せていた。
「あら、嬉しい。ちゃんと覚えてくれていたみたいね」
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