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第三十四話 野盗を楽しもう
しおりを挟むこれからするべき事を整理しよう。
まずはグランディに行き、約束通り司祭に解呪してもらう。
そしてすぐに街を出て、アンデッドオーガを探そう。
もしかしたら、グランディに行く途中に遭遇するかもしれないので、気を引き締めて進んでいこう。
捜索の理想は空からだ。
オーガは家や木より大きいので、居るなら嫌でも視界に入る。
その為には風魔法を練習する必要があるな。
俺は走りながら自分を浮かす練習を続けた。
上昇気流に自分を乗せてみたり、斜め後ろから突風を起こし自分を吹き飛ばしてみたりしたが、中々思うようにはいかなかった。
夜、日が暮れたので今日の移動は終了した。
月明かりだけの暗い夜にあの速さで移動するのは難易度が高すぎる。
スピードを落としたり、『炎輝』で前を照らしてもいいが、日中に風魔法の練習で魔力を使った為、ここは素直に休んでおく事にした。
俺は街道から少し離れたところに焚き火を起こし、生成した晩飯を堪能しながら魔力の回復に努めた。
「まさか、野郎一人だけか? ……まあいい。おい! すべてを置いていけ。へへっ、命だけは勘弁してやるよ」
急に後ろから声をかけられ、恥ずかしながらビクッとしてしまった。
それにしても、情けない。昼間気を引き締めて行こうと鼓舞したはずなのに、焚き火の温かさと満腹感に早々と負けてしまった。
寝起きになるが、状況把握に努めよう。後ろから声をかけてきたのは盗賊で間違いなさそうだ。
まだ振り返っていないので何人いるかとか、見た目的に強そうかとかは分からないが……それにしても盗賊との遭遇なんてレイラを助けた時以来だな。
あれから結構経って、色々あったなーなんて思考が脱線し感慨に耽っていると、そんな俺の態度に痺れを切らした一人が詰め寄ってきた。
「おい! てめぇ聞いてんのか!?」
立ちあがり振り向くと、盗賊の正装とも言えるのか、典型的な風貌をしたのが十五人程立っていた。
「おぁ!? な、なんだその仮面は……あぁ!?」
何だと聞かれても呪われた仮面ですと言えるわけもなく……というか、ビビってるのか?
確かに、ここまで長く旅をしてきたが、一人旅の人は誰も見た事がないな。
大体がパーティーの単位か、馬車を引き連れた大所帯だった。
その点、俺とレイラの二人旅やリタを含めた三人旅は珍しい。というか、魔物や魔獣、盗賊がいる中でのその行為は無謀とも言えるな。
そんな大人数での移動が当たり前の中で、一人旅をしている俺への不安は小さくないだろう。
一人で旅してるなんて、こいつメチャンコ強いんじゃねーのか?なんて考えてもおかしくないしな。
さてどうしようか。
ここは俺の槍捌きで、早々と退散してもら――槍無いわ。
すっかり忘れていた。槍無いわ。
「おい、こいつ丸腰だぜ」
(わお、気付かれた)
さすがに足元を見回したりすれば武器を探しているんだと、こいつらでも判断できたみたいだ。
「へっへっへ、ビビらせやがって!」
やっぱりビビってたのか。
さて、どうしようか。負ける気は更々ないが、殺す気もない。
魔法を……『炎纏鎧』で威嚇すれば逃げて行くか?
……人数が多いから効果は薄そうだな。赤信号も皆で――みたいな心理もあるからな。
ここは他の属性魔法を試してみるか?
突風で飛ばして星にするか、水を放って遠くに流すか……。
ここは土魔法で周りを固めて、閉じ込めておくのがいいかな。
土の硬度はどうしよう。
硬度が足りないと逃げてしまうし、硬すぎてもその後の処理が厄介そうだ。
あー、面倒くさいな。
「お、おい! なんとか言え!」
「もういい! 予定変更だ。こいつは殺すぞ! 一斉に行けば楽勝だ!」
全員が武器を構えてジリジリとにじり寄ってくる。
俺一人相手に大げさな気もするが、安全マージンと思えば頷ける。
盗賊たちの大半は剣を構えており、槍と斧が数人、弓や杖も後ろに見えるな。
どうするか。初撃を上手くかわして武器を奪うか?
一斉に来られたら危ないよな……あっ!
(そうか、槍作ればいいんだ)
武器はまだ作ったことは無いが、金属や木材などは昨日の特訓で生成できたので、多分行けるだろう。
思い出せ。ずっと使っていた槍だ。その重さ、感触、質感に切れ味。
あ、切れ味はちょっと鋭くしておこう。
俺は前にアニメで見たちっちゃい錬金術師のマネをして、胸の前で両手を合わせる。
徐々に手を開いていき、その間にイメージした槍を生成していく。
「ひ、ひぃぃ!? や、槍が……!」
「どうなってるんだ!?」
「魔獣か!? 魔族か!?」
「馬鹿野郎! 今が無防備だ! 行くぞ!!」
「くそっ! おりゃー!」
(おぉ、やるじゃん)
生成中を好機と捉えた盗賊たちを少し見直しつつ、俺は全身に炎を纏った。久しぶりの『炎纏鎧』だ。
盗賊たちの反応は予想通りで、それぞれが散り散りに逃げてしまった。
(やっぱり『炎纏鎧』だけで良かったのか……)
軽い自己嫌悪と、手には作りかけの槍が……いや、『炎纏鎧』の影響を受け、炭化した物体があった。
しまった……炎の対象を指定し忘れた。
だがしかし! 今回の騒動で武器の生成に行きついたので良しとしよう!
その後の道中は至って平和だ。
魔物も盗賊も、他の冒険者や商人なども一切見かけない。
俺は周りを警戒しながら走りつつ、どんな武器を作るか考えている。
慣れた槍か、憧れの刀か。
二日目の夜、俺はとりあえず使い慣れた槍を作ることにした。
すぐに刀に持ち替えるつもりだが、せっかくの刀だ、より優れた物を作りたいのでもう少し練ることにした。
槍は切れ味を鋭くし、持ちての部分も木製から軽くて丈夫なものに変更した。抽象的なイメージなので、材質は分からない。
道中は三日目、ここにきて今まで感じていた違和感が、惨事の始まりだと確信した。
グランディ側から誰一人として人が来ない。
これはグランディで何かあったか、もしくは現在進行形で何か起こっている可能性がある。
思い当たる節と言えば、俺たちが倒した……いや、俺がトドメを刺したワイバーンだ。
こいつがアンデッド化し、俺を追ってグランディに行ったとすれば……。
あそこは高い城壁があるが、ワイバーンには翼がある。もし空から襲撃されれば街中は大惨事になるかもしれない。
でも、街には兵士たちも居る。ムカつくが、出来そうな大司教もいる。
大丈夫だと思いたいが、アンデッドボアーから連想出来るアンデッドワイバーンの脅威は深刻だ。
俺のこの考えが杞憂であってほしいと願うばかりだ。
そして、街に着いた俺は、ほっと胸を撫で下ろした。
門から見える街の中は、賑わいを見せており、兵士たちも通常体勢で勤めているようだ。
(いやはや、注目されてるな)
大聖堂に向かって歩いているのだが、その周りを取り巻きのように住人たちが囲んでいる。
俺の奴隷の首輪を見て怒鳴り散らそうと思ったが、なんか仮面付けてヤバそうな雰囲気してるし……とりあえず付いていこう的な考えなのか、それとも、こいつ、この前食堂で暴れてた奴だな。また暴れられたら面倒だから監視しよう的な考えか……。
誰も一言も言ってこないので詳細は分からなかったが、面倒事になる前に大聖堂に入ることが出来た。
「意外と時間がかかったじゃな……なんでお前が奴隷になってるんだ?」
(これには……ふ、深い訳が)
人払いを済ませた大司教の部屋で、俺は奴隷商のタルマに書いてもらった一筆と、レイラの首輪を渡した。
「ふん、まぁいいだろう。約束通り呪いを解いてやるよ」
(おぉ! よし! ありがとう!)
タルマの手紙を読み終わると、つまらなさそうに呟き、手紙を放り投げた。
「ふん、まぁお前なら大丈夫だとは思うが、これから起こる事に対して驚くんじゃないぞ」
(痛くはしないでね?)
「……なぁ、闇魔法の呪いはどうやって解くと思う?」
(……? 光魔法で浄化とかするんじゃないのか?)
「大抵のやつ、いや……ほぼ全ての奴は光魔法で解くと思ってやがる」
(違うのか?)
「闇の呪いに光魔法を使う事は、簡単に言えば鍵を破壊するのと一緒だ。上手く行わないと中身まで壊してしまったり、鍵を破壊しても歪んで開けられなくなったりする可能性がある」
(……闇魔法を解くのは、闇魔法だけ?)
「闇魔法で呪いという鍵をかけたのなら、それを開けるのもまた闇魔法だ」
大司教はにやりと笑みを浮かべると、羽織っていたローブを脱ぎ捨て俺から距離を取った。
「闇の精霊シェイドよ。来い!」
大司教の周りを闇が疾走る。
その時、彼の髪は黒から白へと変色していき、白い肌は紫色へと変化していった。
この容姿を俺は知っている。
大司教の闇が仮面を覆い、どんなに引っ張っても剥れなかった仮面は、いとも簡単にその役目を終え、乾いた音と共に地面に転がった。
呪いが解けて、真っ黒だった俺の全身も、彼と同じように色が戻ってきた。
その様子に驚きを見せる司祭。
俺の久しぶりの一声は奇しくも彼と同じ言葉になった。
「「お前、魔族だったのか!?」」
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