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第三十五話 無双を楽しもう
しおりを挟む「おぉ……すごい数のリザードマンだな」
俺はグランディの西門に来ていた。
このまま道なりに行けば宿場町『イニスト』がある。
その方角から道を埋め尽くすほどのリザードマンの軍団がこちらに向かっていると、イニストの住人からの情報だった。
ディバイトから大量のリザードマンが進軍してきたとの冒険者から情報が入り、イニストの住人はいち早くこちらに避難してきた為、負傷者はいなかった。
「お前一人で大丈夫なのか?」
隣にいる大司教が言葉とは裏腹な表情で俺に聞いてくる。こいつ全く心配してないな。
「あぁ、多分な。それにここで俺が活躍しておけば、奴隷のイメージも魔族のイメージも上がるだろうと思ってね」
「まぁ、それはあるが……住人の意識は根深いぞ?」
「わかってる。ゼロよりイチだ。行動すれば必ず少しは変わるはずだ」
「そうか……そうだな」
「あぁ、じゃあ、あいつら倒したら、その足でサンクレテシアに戻るよ」
「そうか」
「色々と世話になったな」
仮面を解呪してもらった後、食事をしながら互いの話に耳を傾けた。何故か腹が減って仕方なかったのだが、ひょっとしたらマナ変換の食事には栄養がないのかもしれないな。そこまで考えて作ればあるいは……。
先にも聞いていたが、彼もそれなりの人生を歩んできたようだ。話が過熱し不幸自慢になりかけていた事に互いが気付くと、二人で笑い合った。
こいつとは気が合うのかもしれないな。
「ふん、俺は約束を守る男だ。それよりも本当にその姿で良いのか? こっちだと少々生き辛いぞ?」
大司教の闇魔法で容姿を人間に出来るらしいが、俺はそれを断った。
本音を言えば大変魅力的な提案だったが、どうしてだろう……レイラにはこの姿の俺を知ってほしいと思った。
この姿を見て怖がられるかもしれない。
嫌われるかもしれないし、最悪敵対することになるかもしれないが、それでも彼女には嘘はつきたくないと思った。
ありのままの俺を受け入れて欲しいと思った。
何故かは……まぁ分かるが。
「まったく問題ない……とは言えないが、まぁそれも含めて楽しむことにするよ」
「つくづく変わった男だ」
微笑を浮かべる大司教に別れを告げ、俺はリザードマンの軍団に走りだした。
近づいてみると分かる。リザードマンはアンデッドだった。
恐らくイフリータが全滅させた奴らが集まっているんだろう。
その数は確認できる範囲で数百体は居るだろう。
リタの目に余る行いに冷や汗が流れる。
それよりも、アンデッドのリザードマンが現れたという事は、同時期に仕留めたワイバーンもこの街に来る可能性があるな。
このアンデッドだが、大司教の話だと闇魔法にあるらしい。死者を生き返らせる魔法が。
ただ、大司教の使役している闇の精霊では扱えるものじゃないらしい。もっと上位の精霊や魔獣、それか闇神が関わっている可能性があるらしい。
一気に話の規模が広がり、予想以上の事案に首を突っ込んでいる事に不安を覚えたが、今できることはリザードマンを倒すことだけだと思いきかせ、それに集中することにした。
現実逃避だと自分でも分かっている。
「うおおぉぉ! 五十五! 五十六! 七、八、九! 六十匹目!」
うん、キリがない。頭を空っぽにして斬り進めたが、その景色に変わるものはなかった。
試してみたかった槍の威力は申し分ない出来だったが、この一対多数では分が悪すぎる。まぁ武器全般に言えることだが。なかなかに一騎当千は難しそうだ。
「よし、後はちゃっちゃと片付けるか」
ここからは殲滅魔法で一気に片付けよう。
槍をマナに戻す。一方通行かと思ったが、意外にすんなりと出来てしまった。その都度作るのも非効率かと思ったが、手ブラって楽でいいよね。
事後処理も楽な火の魔法で、対人相手には禁止したが、このシーンならこの魔法の右に出るものは無いだろう。
「炎霧」
対象はアンデッドリザードマン、威力は……炎の温度を高めに設定して、範囲は横は道幅、奥行きは視界に入る最後尾までとして魔法を放った。
結果は一言で言うなら圧勝。
炎を高温にしたお陰で、アンデッドリザードマンは死体も残らず塵と消え、これを三度おかわりした所で、打ち止めとなった。
このアンデッドリザードマンの大行進は、被害ゼロで事無きを得た。
その後、大司教の元へ一旦戻り、アンデッドのワイバーンが襲来する可能性があることを伝えた。
「それくらいどうにでもなる。俺が上に伸し上がるいい機会だ」
「そうか、死ぬなよ」
「ふん、俺は教皇になるまで死なん」
「……そうか」
若干死亡フラグな気もしないでもないが、その言葉を信じ早々と街を後にした。
帰りの道中は、主に空を飛翔して進む。
コツを掴めばあとは簡単で、ある程度スピードに乗ったら斜め下から押し上げるように風を起こす。
あとは高度を保つように定期的に同じような風を起こせば、魔力の節約にもなるし、身体の制御も簡単だった。
変化が見れたのは、アグコルトを過ぎた辺りだった。
サンクレテシアの方から煙が上がるのが見えた。
まだオーガの姿は遠すぎて見えないが、何かあったのは間違いないだろうと先を急ぐことにした。
ようやく街が一望できる所までやって来ると、俺は自分の目を疑うような光景が広がっていた。
サンクレテシアが燃えていた。
城に架かる桟橋にはオーガが犇めき合っており、城壁の外側からバケツリレーの要領で持ってきた大きな石や、巨木を休むことなく投擲していた。
レイラやリタがいてこの惨状は考えられない。
「レイラ! リタ!」
最悪なシナリオが頭を過り、自分がサンクレテシアに居なかった事に後悔が止まなかった。
今できる最高速度で街へ向かう。
少し進むと、先ほどの位置からは死角になっていた街の端で、二つの炎がぶつかり合うのが見えた。
反射的にそれがイフリータの炎だと理解し、足をそちらに向け突き進んだ。
その戦いの場は、地獄のような光景だった。
空は黒煙で覆われ、地面は所々炎の熱で液化しマグマのようになっている。
全身が焼けるような熱波が荒れ狂い、この場所に存在できる人間は居ないだろう。
自分も中々近づけないでいたが、風魔法を応用し、自分の前に真空の壁を作ることで熱を遮断し近づくことが出来た。
そこにはリタと……あれは魔獣か? 炎を纏ったバカでかい魔獣が対峙していた。
「リタ!」
「ケンタ! 仮面が取れたのね! 色々と話したいこともあるけど、今立て込んでるから後でね!」
「俺も加勢するよ」
「ダメよ! これは私と兄様の戦いなの!」
兄? アレがイフリートか。確かに俺の中でもイフリートといえばあんな感じだが、リタが人型だったので、てっきりこの世界のイフリートも人型だと思っていた。
騙されたような安心したような気持ちだ。
しかし、兄妹対決に水を指すわけにも行かないよな。
「わかった! レイラは?」
「レイラは母親を追ってる! レオノーラは兄様と一緒に居たの。私と兄様はすぐに喧嘩になっちゃったからそれ以降はわからないわ!」
「そうか……わかった。じゃあ俺は城壁外の魔物を倒して回るよ!」
「レイラはいいの?」
「……あぁ、まずはこの街の防衛が優先だ」
「……わかったわ! また後でね!」
俺の気持ちを察してくれたのか、それ以上何も言わずに送り出してくれた。
正直兄に対してイフリータに勝算があるのかどうか不安になったが、彼女が負ける場面を想像できなかったので彼女を信頼してこの場を後にした。
目指すは正門。相手が一種族なら炎霧のターゲット指定でいけるのだが、よく見るとオーガ以外にも見たことのない魔物が紛れていた。
まずは壁内への攻撃を止めさせなければ。
敵の大部分は正門の桟橋に集まっているが、その他の場所でも戦闘が繰り広げられている。
一つの戦闘に時間を掛けていられない。俺は的の大きい魔物にターゲットを絞り、炎輝を当てていく。
白く輝く炎輝は触れた部分を消滅させていく。炎輝が身体を通過し、上半身と下半身を別々にされた魔物たちは、さすがのアンデッドでも事切れるようだ。
「あとは大丈夫か?」
「は、はい! ありが……え? ま、魔族!?」
「俺は冒険者のケンタだ! あとは頼む!」
自分を売込むことも忘れない。こんなやり取りをしながら着いた正門は、予想以上の惨状に吐き気が込み上げてきた。
正門には生き残った兵士や冒険者は居なかった。
応援ありがとうございます!
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