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「魔獣討伐の件は、領主との契約に則った正当なもの。不満があるならまず領主に陳情なさい」
大事なのは、彼がアレクにしたこと。
「そんな戯言はいいわ。まず、アレクに謝ってちょうだい」
痛い思いをさせたこと、それを正当なものだと信じ込ませたこと。それは絶対に許せない。
「誰が化け物とその手下に謝ったりするものか!」
「そう。謝る気はないのね?」
私は間近で声を張り上げるダビッドの目をじっと見た。そして続ける。
「それなら、化け物らしく報復しましょう。私の養い子に手をあげたのだから、覚悟はしているのでしょうね?」
どこまでもどこまでも冷たい声が出た。ダビッドは言葉を失い、次の瞬間、腰の剣に手を掛けた。
鞘から剣を引き抜く間に、私は手を振った。
「っ!」
風を切る音と共に、氷の刃が疾走った。ダビッドの手から剣が弾き飛ばされて地面に転がる。
「いやね、そんな物が私に通じると思ったの?」
続く氷の刃が彼の服を裂くと、ダビッドその場にへたり込み、すっかり動けなくなる。
この程度の腕で『王城へ出仕する騎士を何人も育てている』なんて大ボラもいい所。
「次はあなたよ」
目の前で氷の槍が形成されてゆく。それを握りしめて私は宣言した。
「さようなら」
私は彼の腕を貫くつもりで、氷の槍を振りかぶる。次の瞬間、槍はダビッドの頬を裂いて、地面に突き刺さり砕けた。
「う、うわあぁぁ!」
叫んでダビッドが逃げていく。
追いかけたかったがそれも出来ない。なぜなら、私の手にはアレクがぶら下がっていたから。
それで狙いが逸れてしまった。
「ユリア様、俺は、大丈夫ですから!」
息を切らせて、必死にアレクは言う。
「どうやってここへ?」
「ユリア様の魔法の痕跡を追いかけてきました」
え? アレク魔法が使えたの?
「すごいじゃない!」
私はアレクの両手を握る。アレクはちょっと赤くなって、照れたのか俯く。
城からただ追いかけただけじゃ、間に合うはずがない。ということは、
「魔力追跡と転移を使えるって、すごいことよ!」
「必死だったから、俺、どうやって使えたのかもよく分かってないんです」
「それでも、素質があるのは間違いないわ!」
私は嬉しくなって、アレクの両手を振り回す。
ウチの子、天才では!?
いや、ウチの子は、言い過ぎか。預かっている大事な子なのだし。
「ユ、ユリア様?」
「あ、ごめんなさい」
私は、スッと手を離して表情を取り繕う。
「あの男の事は許せないけど、アレクが魔法を使えた切っ掛けになったのなら……」
ブツブツ呟く私を前に、アレクは困ったような顔をする。
「とにかく、帰りましょうか?」
「はい」
手を握るとアレクが微笑みを返した。その掌からほんのりと魔力が伝わってくる。
これは幸先良いのでは、私は心の中では目一杯の笑みを浮かべながら、アレクを連れて転移の魔法を展開した。
大事なのは、彼がアレクにしたこと。
「そんな戯言はいいわ。まず、アレクに謝ってちょうだい」
痛い思いをさせたこと、それを正当なものだと信じ込ませたこと。それは絶対に許せない。
「誰が化け物とその手下に謝ったりするものか!」
「そう。謝る気はないのね?」
私は間近で声を張り上げるダビッドの目をじっと見た。そして続ける。
「それなら、化け物らしく報復しましょう。私の養い子に手をあげたのだから、覚悟はしているのでしょうね?」
どこまでもどこまでも冷たい声が出た。ダビッドは言葉を失い、次の瞬間、腰の剣に手を掛けた。
鞘から剣を引き抜く間に、私は手を振った。
「っ!」
風を切る音と共に、氷の刃が疾走った。ダビッドの手から剣が弾き飛ばされて地面に転がる。
「いやね、そんな物が私に通じると思ったの?」
続く氷の刃が彼の服を裂くと、ダビッドその場にへたり込み、すっかり動けなくなる。
この程度の腕で『王城へ出仕する騎士を何人も育てている』なんて大ボラもいい所。
「次はあなたよ」
目の前で氷の槍が形成されてゆく。それを握りしめて私は宣言した。
「さようなら」
私は彼の腕を貫くつもりで、氷の槍を振りかぶる。次の瞬間、槍はダビッドの頬を裂いて、地面に突き刺さり砕けた。
「う、うわあぁぁ!」
叫んでダビッドが逃げていく。
追いかけたかったがそれも出来ない。なぜなら、私の手にはアレクがぶら下がっていたから。
それで狙いが逸れてしまった。
「ユリア様、俺は、大丈夫ですから!」
息を切らせて、必死にアレクは言う。
「どうやってここへ?」
「ユリア様の魔法の痕跡を追いかけてきました」
え? アレク魔法が使えたの?
「すごいじゃない!」
私はアレクの両手を握る。アレクはちょっと赤くなって、照れたのか俯く。
城からただ追いかけただけじゃ、間に合うはずがない。ということは、
「魔力追跡と転移を使えるって、すごいことよ!」
「必死だったから、俺、どうやって使えたのかもよく分かってないんです」
「それでも、素質があるのは間違いないわ!」
私は嬉しくなって、アレクの両手を振り回す。
ウチの子、天才では!?
いや、ウチの子は、言い過ぎか。預かっている大事な子なのだし。
「ユ、ユリア様?」
「あ、ごめんなさい」
私は、スッと手を離して表情を取り繕う。
「あの男の事は許せないけど、アレクが魔法を使えた切っ掛けになったのなら……」
ブツブツ呟く私を前に、アレクは困ったような顔をする。
「とにかく、帰りましょうか?」
「はい」
手を握るとアレクが微笑みを返した。その掌からほんのりと魔力が伝わってくる。
これは幸先良いのでは、私は心の中では目一杯の笑みを浮かべながら、アレクを連れて転移の魔法を展開した。
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