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第五章 作戦会議

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「私、一番大事な所を聞いてなかったんですよ」
 私は、ずい、とローテーブルにぶつかる位に膝を詰める。ルリが気圧されたようにちょっと肩を引いた。
「なぜ、妖を集めなくてはいけないんでしょう?」

 そう。母が立てた誓約が『千の妖が神に成る手伝いをする』だったから、『集客』しなきゃ! って事だけに気を取られていたけど、じゃあなんで妖を集めないといけないのか、という根本の理由については知らないまま。
「これが普通の温泉街なら、人が集まれば集まるほど、経済が活性化……平たく言えば『お金たくさん、みんなにこにこ』です。でも、妖や神様にとっての価値は違うかもしれないじゃないですか」
「確かにそこからが必要な説明だな、それを借りても?」

 ルリは、私の手元にあるペンと手帳を指して問う。
「どうぞ」
 手渡すと、ルリはサラサラと手帳にペンを走らせる。山と、人と、妖……かな?

「あまり絵は得意じゃないんだ」
 もしかしたら照れているのかもしれない、ルリの耳がほんのり赤らんでいる。

「まず、この山全体を司るのが主だ。主の神気は山々に満ち、それを分け与えられ私やツツジを含む眷属は『神』としての格を保っている」
 山の絵からマルに手足がちょんと描かれた妖らしい物に向かって矢印が追加された。
「元々、雲仙山自体が山岳信仰の対象だったこともあって、主の神格は高く、神気も豊富で一時はたくさんの眷属がこの山に存在した。……人に信仰される事が神の力を保つ方法の一つなんだと思ってくれればいい」
 今度は棒人間……多分、人を表した絵から山に矢印がすっと向けられる。

「ところが時が移ろい、人の信仰は形を変えて行った。主はまだ十分に力ある神だが、それでも最盛期に比べれば眷属も減って行っている。各地の古い神々も状況は似たり寄ったりという所だ。そこで神々は『妖』に目をつけた」
「妖からも信仰してもらおう、ってことですか?」
「そこは少し説明が難しいな」
 ルリは、ペンの後ろでコンコンと手帳を叩き、小さく唸る。その手の横に、とん、と何かが飛び乗った。
 私の膝を掠める、ふわり、とした感触。
「さっきの……」
 
 優雅に尾を立てこちらをふり仰ぐキジ猫は、地獄茶屋まで案内してくれた猫だった。
 なんでこんな所にと思うのと、声がしたのは同時だった。

「相変わらず、ルリは説明が下手ね~」
 その毛並みと同じく上品な声はキジ猫から聞こえた。私は、目を瞬く。
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