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第九章 スイーツには気持ちを込めて

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「もしかして、ツツジさん、ですか!?」
 絹糸のようなサラサラの長い黒髪。透明感のある白い肌。
 和装が似合いそうな、上品な美人がそこにいた。

 咲き誇る若い姿にもなれる、そう言っていたのを思い出す。
「よく分かったねー。さすがにバーに子供の姿だと入りづらいでしょー?」
 声質はしっとりとしているが、話し方はそんなに変わらないので、私はちょっと安心する。

 ただでさえ、柔からい雰囲気のルリが隣にいるだけで落ち着かないのに、完璧美人さんが来てしまうともう私がいっぱいいっぱいになってしまう。

「ツツジちゃんも、いらっしゃい。相変わらず強い酒が好きだよねえ」
 細身で背の高いグラスに氷と共に注がれていたのは、どう見ても紅茶に見えるけど。
 隣でこそりとルリが耳打ちしてくれた。
「度数25度はあるよ」
 その声まで柔らかいので、なんだかそわそわする。が、内容に目を丸くした。
「焼酎原液じゃないですか!?」

「いただきまーす」
 私の驚きの声をよそに、ツツジがグラスを呷る。するすると、紅茶色のお酒が消えてゆく。

 神様って、酔わないのかな。

 見ているだけで酔いそうだなあと思いながら、私もグラスに口をつけた。すっきりしたレモンの香りが、ジンジャーエールの刺激と一緒に広がる。
「美味しいです」
「それはよかった」

 キリカが笑みと共に、小さなお皿に入った色とりどりのチョコレート菓子を出してくれる。それから、私たちを見渡して、首を傾げた。
「ところで、相談があるって聞いたんだけど?」

「朝陽、キリカにあの絵を見せてほしいの」
「わかりました」
 私は、ツツジのその言葉に、バッグの中から大判の手帳を引っ張り出す。
「ざっと描いたもので、申し訳ないんですが」

 カウンターテーブルに広げると、キリカが真剣な顔で覗き込む。
「これは、寒ざらし?」
 横から見ていたルリに聞かれ、私はこくんと頷いた。

「そうです。白玉が雲、その中央に雲上の温泉地『雲仙』を表した氷を置いて、シロップに四季を表現するアイテムを浮かべるイメージです。表現したいのは春のツツジ、夏の若葉、秋の紅葉、冬の霧氷むひょう
「へえ……」

 ツツジとキリカが顔を見合わせる、ルリがちょっと悲しげな顔になったが、
「あと、夏の若葉と一緒に、青い鳥を入れられたらいいなーって」

 私が小さな声で付け足すと、ふわり微笑んだ。
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