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第十二章 もとの日々へ
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ーーなまえをよんで、ねえ、なまえを。
白く煙る視界の向こう、誰かの声がずっと聞こえている。悲しそうな、悔しそうな。
ーーおねがいだから、なまえを。
泣いているみたい、どうすれば泣き止むんだろう。名前を呼んだらいいんだろうか。
でも、誰の名前を?
ーーおもいだして、わすれないで。
あなたは誰?
◇◇◇
着信音が耳元で聞こえ、私は飛び起きた。
また机に突っ伏して寝ていたらしい。寝ぼけていた事を気づかれないようにと、できるだけ声を張り、通話を始める。
「はい、今日中にデータ送ります。大丈夫です、間に合わせます」
私は寝起きの頭をフル回転させ、必要な情報を引っ張り出してなんとかやり取りを終えた。
それから、ノートPCの横に置かれたマグカップを持ち上げる。中のコーヒーはすっかり冷めていたけど、目を覚ますには丁度いいか。
「美味しく無い……」
冷めたせいだけじゃなくて、なんだか最近、自分で淹れたコーヒーをあまり美味しいと感じない。ちょっと前までは、そんな事考えなかったのに。
「なんか調子でも悪いのかなあ」
今度、健康診断にでも行ってみようかなと思いながら、私は大きく伸びをした。その手が、背後のコルクボードに貼られた一通の手紙に触れる。
メールでもいいような内容。でもわざわざ手紙という手段で届いたそれを、私は椅子ごと向き直って眺める。
それは、以前所属していたデザイン事務所の同僚が、独立したという知らせだった。
『一緒に仕事をしてみないか?』
最後に書き添えられたその一言に、私は正直迷っていた。
一緒に、といってもオフィスがあるわけではなく、今まで通り自宅で仕事をするスタイルは変えなくて良いらしい。
でも、クライアントと直接話す機会は増えるんだろうし……。
「誰かのために作る、か」
そう思ってがんばった挙句に、提案したデザインを奪われた事を考えると、いまだに胸は痛い。でも、なんだろう、作ったもので誰かに喜んで欲しい。そんな気持ちが少しずつ戻ってきている気がして。
「時間だけが傷を癒すって事かな」
早期退職後に海外へ移住してしまった母も、時々心配してメッセージをくれている。そろそろ、安心できる材料があったほうがいいかもしれない。
「とりあえず、話だけでも詳しく聞いてみよう!」
コルクボードから手紙を剥がし、私はスマートフォンを手に持った。
白く煙る視界の向こう、誰かの声がずっと聞こえている。悲しそうな、悔しそうな。
ーーおねがいだから、なまえを。
泣いているみたい、どうすれば泣き止むんだろう。名前を呼んだらいいんだろうか。
でも、誰の名前を?
ーーおもいだして、わすれないで。
あなたは誰?
◇◇◇
着信音が耳元で聞こえ、私は飛び起きた。
また机に突っ伏して寝ていたらしい。寝ぼけていた事を気づかれないようにと、できるだけ声を張り、通話を始める。
「はい、今日中にデータ送ります。大丈夫です、間に合わせます」
私は寝起きの頭をフル回転させ、必要な情報を引っ張り出してなんとかやり取りを終えた。
それから、ノートPCの横に置かれたマグカップを持ち上げる。中のコーヒーはすっかり冷めていたけど、目を覚ますには丁度いいか。
「美味しく無い……」
冷めたせいだけじゃなくて、なんだか最近、自分で淹れたコーヒーをあまり美味しいと感じない。ちょっと前までは、そんな事考えなかったのに。
「なんか調子でも悪いのかなあ」
今度、健康診断にでも行ってみようかなと思いながら、私は大きく伸びをした。その手が、背後のコルクボードに貼られた一通の手紙に触れる。
メールでもいいような内容。でもわざわざ手紙という手段で届いたそれを、私は椅子ごと向き直って眺める。
それは、以前所属していたデザイン事務所の同僚が、独立したという知らせだった。
『一緒に仕事をしてみないか?』
最後に書き添えられたその一言に、私は正直迷っていた。
一緒に、といってもオフィスがあるわけではなく、今まで通り自宅で仕事をするスタイルは変えなくて良いらしい。
でも、クライアントと直接話す機会は増えるんだろうし……。
「誰かのために作る、か」
そう思ってがんばった挙句に、提案したデザインを奪われた事を考えると、いまだに胸は痛い。でも、なんだろう、作ったもので誰かに喜んで欲しい。そんな気持ちが少しずつ戻ってきている気がして。
「時間だけが傷を癒すって事かな」
早期退職後に海外へ移住してしまった母も、時々心配してメッセージをくれている。そろそろ、安心できる材料があったほうがいいかもしれない。
「とりあえず、話だけでも詳しく聞いてみよう!」
コルクボードから手紙を剥がし、私はスマートフォンを手に持った。
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