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分厚い背表紙が並ぶ本棚の前で、じっと吟味を重ねる小さな背中に問いかける。
「ルヴィエ、どう?気に入ってくれた?」
「とても」
道中の馬車の中での様子とは打って変わって、ルヴィエは嬉しそうな雰囲気を漂わせている。表情自体は相変わらず乏しいので、何となくといった程度ではあるが。
先日食事中に晒した醜態(寝落ち)のお詫びとして、ルヴィエに本を贈ろうと考えた僕は皇都中心地にある大きな書店を訪れた。いつも窓際で本を読んでいるルヴィエに何か贈るなら、間違いないのは本だろうと安直に考えた訳だ。
実はお茶会の時に、それとなく行き先について令嬢たちに相談した甲斐もあり、どうやらルヴィエは気に入ってくれたらしい。評判通り、想像以上に見事な品揃えの書店だ。本棚の前で会話をする僕とルヴィエを後方から見守るハインリも何度か来たことがあるといっていた。
もちろん皇城には立派な図書館があるし、それこそ普段僕たちが過ごしている皇子宮にもそれなりの蔵書はあるのだが、どうしても内容が偏っているというか、難しい内容の本ばかりなのだ。一方、この書店は庶民向けの大衆紙や娯楽本なんかの普段皇城ではお目にかかれない書籍も取り扱っているのでルヴィエの目には新鮮に映るのではないだろうか……と、思っていたのだが結局、政治や歴史関係の本が置かれた一角に僕たちは留まっていた。ルヴィエが立ち止まったのがこの棚の前だったので、僕とハインリも立ち止まった訳だが、この辺りに置かれている本は皇城内でもお目に掛かれるものばかりなので正直、僕は若干落胆していた。まぁ、ルヴィエがいいのであれば、別にそれでいいのだけど。
「おや、ずいぶん小さなお客様方だね。子供向けの本は奥の方にあるよ」
そんなことを考えていると、不意に店員と思しき眼鏡を掛けた老夫人に横から声を掛けられた。”子供”という言葉に僕とルヴィエが顔を見合わせる。正直、聞きなれない言葉だ。ハインリやゾラはまだしも、僕らは普段基本的に子供扱いされることがないので、なんだかソワソワしてしまう。
そんなことを預かり知らぬ老婦人はというと「今のうちから大人びた本を読むのも悪くないけどねぇ、今だからこそ楽しめる本もきっとあるから行っておいで」と、笑顔で僕らを見送ろうとしてきた。どうするのかとルヴィエの反応を窺うと、彼は真面目な顔つきで老婦人の言葉に頷いて移動を始めた。
そろりとハインリが僕に近づいてきて耳打ちする。
「ルヴィエ殿って意外なほど素直ですよね」
「だよね。人の話なんて聞いてませんけど?みたいな顔してるわりに従順というか、こだわりがないというか」
ルヴィエはマイペースながらも指示されればその通りに行動するし、質問されればちゃんと答える。多少感情の起伏を読み取れるようになってきたものの、ルヴィエが誰かを無視したり怒ったりした場面はいまだ見たことがない。
(だからこそ親しくなりにくいというか……何考えてるのかよく分かんなかったんだけども)
普段の何気ないやり取りがどれほど彼の心に響いているのかは未知数だが、打っても何も響かない訳ではないらしい。快不快はさておき、厨房爆破事件の話のように彼の心の琴線に触れる話題もあるのだ。
さて、ところで今、おそらくルヴィエは機嫌がいい。彼の心に響くような何かをぶつけるなら、今は結構いいチャンスかもしれない。
子供向けの本が置かれた場所へ大人しく向かうルヴィエと一緒に歩きながら、何かいい話題はないかと僕は考えを巡らせる。
「ルヴィエ、どう?気に入ってくれた?」
「とても」
道中の馬車の中での様子とは打って変わって、ルヴィエは嬉しそうな雰囲気を漂わせている。表情自体は相変わらず乏しいので、何となくといった程度ではあるが。
先日食事中に晒した醜態(寝落ち)のお詫びとして、ルヴィエに本を贈ろうと考えた僕は皇都中心地にある大きな書店を訪れた。いつも窓際で本を読んでいるルヴィエに何か贈るなら、間違いないのは本だろうと安直に考えた訳だ。
実はお茶会の時に、それとなく行き先について令嬢たちに相談した甲斐もあり、どうやらルヴィエは気に入ってくれたらしい。評判通り、想像以上に見事な品揃えの書店だ。本棚の前で会話をする僕とルヴィエを後方から見守るハインリも何度か来たことがあるといっていた。
もちろん皇城には立派な図書館があるし、それこそ普段僕たちが過ごしている皇子宮にもそれなりの蔵書はあるのだが、どうしても内容が偏っているというか、難しい内容の本ばかりなのだ。一方、この書店は庶民向けの大衆紙や娯楽本なんかの普段皇城ではお目にかかれない書籍も取り扱っているのでルヴィエの目には新鮮に映るのではないだろうか……と、思っていたのだが結局、政治や歴史関係の本が置かれた一角に僕たちは留まっていた。ルヴィエが立ち止まったのがこの棚の前だったので、僕とハインリも立ち止まった訳だが、この辺りに置かれている本は皇城内でもお目に掛かれるものばかりなので正直、僕は若干落胆していた。まぁ、ルヴィエがいいのであれば、別にそれでいいのだけど。
「おや、ずいぶん小さなお客様方だね。子供向けの本は奥の方にあるよ」
そんなことを考えていると、不意に店員と思しき眼鏡を掛けた老夫人に横から声を掛けられた。”子供”という言葉に僕とルヴィエが顔を見合わせる。正直、聞きなれない言葉だ。ハインリやゾラはまだしも、僕らは普段基本的に子供扱いされることがないので、なんだかソワソワしてしまう。
そんなことを預かり知らぬ老婦人はというと「今のうちから大人びた本を読むのも悪くないけどねぇ、今だからこそ楽しめる本もきっとあるから行っておいで」と、笑顔で僕らを見送ろうとしてきた。どうするのかとルヴィエの反応を窺うと、彼は真面目な顔つきで老婦人の言葉に頷いて移動を始めた。
そろりとハインリが僕に近づいてきて耳打ちする。
「ルヴィエ殿って意外なほど素直ですよね」
「だよね。人の話なんて聞いてませんけど?みたいな顔してるわりに従順というか、こだわりがないというか」
ルヴィエはマイペースながらも指示されればその通りに行動するし、質問されればちゃんと答える。多少感情の起伏を読み取れるようになってきたものの、ルヴィエが誰かを無視したり怒ったりした場面はいまだ見たことがない。
(だからこそ親しくなりにくいというか……何考えてるのかよく分かんなかったんだけども)
普段の何気ないやり取りがどれほど彼の心に響いているのかは未知数だが、打っても何も響かない訳ではないらしい。快不快はさておき、厨房爆破事件の話のように彼の心の琴線に触れる話題もあるのだ。
さて、ところで今、おそらくルヴィエは機嫌がいい。彼の心に響くような何かをぶつけるなら、今は結構いいチャンスかもしれない。
子供向けの本が置かれた場所へ大人しく向かうルヴィエと一緒に歩きながら、何かいい話題はないかと僕は考えを巡らせる。
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