21 / 53
7-2
(……ん?この本、なんかやけに既視感が)
ふと、通りすがりの本棚に目が留まった。派手めなピンクやブルーの書籍で彩られた本棚の中に、赤い背表紙が一つ。深紅に近い、どこか毒々しい色合いをした本だ。
(あ、このタイトルってそういえばこの前のお茶会で話題に出てたやつだ)
その時、つい魔が差したのだ。ルヴィエがこういう本読んでるところって見たことないよな、と。
だからちょっとした冗談のつもりで彼にこの本を手渡してみたのだが――
「ルヴィエ、本当にその本読む気……?」
「読む」
所変わって洗練されたティーサロンの中、おもむろに例の一冊をテーブルに乗せたルヴィエの様子を見て、僕は呆然としていた。数刻前のほんの出来心が思わぬ展開を招いていたのだ。
「うそぉ……えっ、ここで読むの?薦めておいてなんだけど、せめてここではちょっと……」
「なんで?」
「いやだから、それはご令嬢がたの間で流行ってる本であって、僕らが読むにはちょっとアレというか、その」
休憩のために立ち寄ったはずのティーサロンで僕は冷や汗をかいていた。何が言いたいのかよく分からないといった様子で首を傾げるルヴィエと堪えきれないとばかりに口元に手を当てて震えるハインリと三人でテーブルを囲んでいるが、心が全く休まらない。
それはひとえにルヴィエが今にも読み始めようとしている本のせいである。
優雅な茶器に上品な焼き菓子、そしてある意味この空間に相応しい一冊。
深紅のその本の表紙には、箔押しの金の薔薇と共に『ジュリエッタは二度微笑む』と刻まれている。
風変わりではあるものの、あきらかにロマンス小説といった雰囲気を醸し出すその本はどう考えても不愛想な少年が好んで読むような本には見えない。ミスマッチ感が半端ない。
(さすがに「その本は読まない」って言われると思って……ほんの冗談で薦めてみただけだったのに……!)
ド派手な本を手渡されて、ルヴィエが困惑する姿を見たかった。本当にただそれだけだった。なのに、『ジュリエッタ』を手渡されたルヴィエはというと、じっと表紙を見つめた後に「これも買う」と言って何食わぬ顔でスッと本を小脇に抱えたのである。
そして今に至るわけだが、さっきから周囲の視線が気になって仕方ない。この本の本来のターゲット層、つまりうら若き令嬢たちがこちらの様子をちらちらと伺っているのだ。ここはハインリに薦めてもらったティーサロンなのだが、格式高すぎず、気楽な雰囲気のところがいいとオーダーしたことがかえって仇になってしまっていた。
「ねぇ、あの男の子が持ってる本って……最近話題の……」
「そうよね……斬新だって噂の……」
「確か、実は……が本当の主人公だったって展開の……」
「それだけじゃなくて……が……になって……それで……」
「えっ、そういう話なの……?」
「だとすると、あんな歳の男の子が読むにはちょっと……」
ひそひそと話す令嬢たちの会話が時折漏れ聞こえてくる。案の定といった懸念を周囲から抱かれてしまい、居た堪れない思いに駆られた。
(ルヴィエ、ごめん……!)
次のお茶会あたりで「ねぇ、お聞きになられた?ルヴィエ様が人目も憚らずに『ジュリエッタ』を読んでいらしたそうよ」「まぁ、ルヴィエ様ったら!ロマンス小説まで嗜まれるの?」なんて噂されかねない。
そして、そうなったら今度は僕がルヴィエから不本意極まりないといった目つきで睨まれかねない。厨房爆破事件の時の皇帝のように。
せっかくルヴィエと少し仲良くなれた気がしているのだから、それだけは避けたい。そんな一心でどうにかルヴィエから本を取り上げようと椅子から腰を浮かせたその瞬間、思わぬ人物に名前を呼ばれた。
ふと、通りすがりの本棚に目が留まった。派手めなピンクやブルーの書籍で彩られた本棚の中に、赤い背表紙が一つ。深紅に近い、どこか毒々しい色合いをした本だ。
(あ、このタイトルってそういえばこの前のお茶会で話題に出てたやつだ)
その時、つい魔が差したのだ。ルヴィエがこういう本読んでるところって見たことないよな、と。
だからちょっとした冗談のつもりで彼にこの本を手渡してみたのだが――
「ルヴィエ、本当にその本読む気……?」
「読む」
所変わって洗練されたティーサロンの中、おもむろに例の一冊をテーブルに乗せたルヴィエの様子を見て、僕は呆然としていた。数刻前のほんの出来心が思わぬ展開を招いていたのだ。
「うそぉ……えっ、ここで読むの?薦めておいてなんだけど、せめてここではちょっと……」
「なんで?」
「いやだから、それはご令嬢がたの間で流行ってる本であって、僕らが読むにはちょっとアレというか、その」
休憩のために立ち寄ったはずのティーサロンで僕は冷や汗をかいていた。何が言いたいのかよく分からないといった様子で首を傾げるルヴィエと堪えきれないとばかりに口元に手を当てて震えるハインリと三人でテーブルを囲んでいるが、心が全く休まらない。
それはひとえにルヴィエが今にも読み始めようとしている本のせいである。
優雅な茶器に上品な焼き菓子、そしてある意味この空間に相応しい一冊。
深紅のその本の表紙には、箔押しの金の薔薇と共に『ジュリエッタは二度微笑む』と刻まれている。
風変わりではあるものの、あきらかにロマンス小説といった雰囲気を醸し出すその本はどう考えても不愛想な少年が好んで読むような本には見えない。ミスマッチ感が半端ない。
(さすがに「その本は読まない」って言われると思って……ほんの冗談で薦めてみただけだったのに……!)
ド派手な本を手渡されて、ルヴィエが困惑する姿を見たかった。本当にただそれだけだった。なのに、『ジュリエッタ』を手渡されたルヴィエはというと、じっと表紙を見つめた後に「これも買う」と言って何食わぬ顔でスッと本を小脇に抱えたのである。
そして今に至るわけだが、さっきから周囲の視線が気になって仕方ない。この本の本来のターゲット層、つまりうら若き令嬢たちがこちらの様子をちらちらと伺っているのだ。ここはハインリに薦めてもらったティーサロンなのだが、格式高すぎず、気楽な雰囲気のところがいいとオーダーしたことがかえって仇になってしまっていた。
「ねぇ、あの男の子が持ってる本って……最近話題の……」
「そうよね……斬新だって噂の……」
「確か、実は……が本当の主人公だったって展開の……」
「それだけじゃなくて……が……になって……それで……」
「えっ、そういう話なの……?」
「だとすると、あんな歳の男の子が読むにはちょっと……」
ひそひそと話す令嬢たちの会話が時折漏れ聞こえてくる。案の定といった懸念を周囲から抱かれてしまい、居た堪れない思いに駆られた。
(ルヴィエ、ごめん……!)
次のお茶会あたりで「ねぇ、お聞きになられた?ルヴィエ様が人目も憚らずに『ジュリエッタ』を読んでいらしたそうよ」「まぁ、ルヴィエ様ったら!ロマンス小説まで嗜まれるの?」なんて噂されかねない。
そして、そうなったら今度は僕がルヴィエから不本意極まりないといった目つきで睨まれかねない。厨房爆破事件の時の皇帝のように。
せっかくルヴィエと少し仲良くなれた気がしているのだから、それだけは避けたい。そんな一心でどうにかルヴィエから本を取り上げようと椅子から腰を浮かせたその瞬間、思わぬ人物に名前を呼ばれた。
あなたにおすすめの小説
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
【完結。一気読みできます!】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼不定期連載となりました。
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?
詩河とんぼ
BL
前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?
愛されることを諦めた途端に愛されるのは何のバグですか!
雨霧れいん
BL
期待をしていた”ボク”はもう壊れてしまっていたんだ。
共依存でだっていいじゃない、僕たちはいらないもの同士なんだから。愛されないどうしなんだから。
《キャラ紹介》
メウィル・ディアス
・アルトの婚約者であり、リィルの弟。公爵家の産まれで家族仲は最底辺。エルが好き
リィル・ディアス
・ディアス公爵家の跡取り。メウィルの兄で、剣や魔法など運動が大好き。過去にメウィルを誘ったことも
レイエル・ネジクト
・アルトの弟で第二王子。下にあと1人いて家族は嫌い、特に兄。メウィルが好き
アルト・ネジクト
・メウィルの婚約者で第一王子。次期国王と名高い男で今一番期待されている。
ーーーーー
閲覧ありがとうございます!
この物語には"性的なことをされた"という表現を含みますが、実際のシーンは書かないつもりです。ですが、そういう表現があることを把握しておいてください!
是非、コメント・ハート・お気に入り・エールなどをお願いします!
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!