悪役令息、皇子殿下(7歳)に転生する

めろ

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「そろそろ日も高くなってきましたし、お二人とも日陰へ入ってください」

「はーい。今日は図書館にもいかなきゃだしね。ほら、ルヴィエも立って」

「うん」

 ハインリの言葉に僕とルヴィエは地面から立ち上がった。軽く手をはたいて、砂を振るい落とす。
 
「それにしてもお二人とも、絵がお上手ですねぇ。ルヴィエ殿は写実的ですし、殿下はヘタウマ……もとい、特徴を捉えるのがお見事です」

「ハインリ?」

「いえ、本心ですって。少ない線でこんなにもよく伝わる絵ってそうそうないですよ。ほら、このゾラの表情とか本当に絶妙ですよ」

「まぁね?我ながらこのままにしておきたいくらい上手く描けたけど、僕らの名誉に傷が付きそうだから消しておかなきゃ。ルヴィエ手伝って。こんな感じで足で消してくと楽しいよ」

「なるほど」

 砂埃を立てながら端から絵を消していく。真面目な顔つきながらもルヴィエの表情がいつもよりなんとなく明るく見えて僕も嬉しくなった。

 類まれなる才に恵まれながらも、家族がいないルヴィエ。
 ルヴィエの生い立ちを知って以来、彼とは何度か話をしているが僕と違って彼には前世の記憶もない。どういう経緯で皇帝と出会うことになったのかは彼自身もよく分からないらしいが、僕の予測では……彼は孤児なのだろう。それもおそらく、先の戦火に巻き込まれたせいで記憶を失っている。

 この煌びやかな皇城の中、ルヴィエは今までどんな気持ちで生きてきたのだろうか。
 
「皇宮図書館さぁ、もう少し狭くても良いと思わない?せめて何個かの建物に分けるとか。広すぎて行くたびに迷子になってる気がするんだけど」

「ですから、司書と一緒に回りましょうよ。そうすれば迷うことはありませんって」

「いや、でも最近は迷子になるのもあの図書館に行く醍醐味な気がしてきてね?本だけじゃなくてやたら休憩スペースも多いし、探索し甲斐があると思わない?ねぇ、ルヴィエ?」

「たしかに」

「ルヴィエ殿?最近すっかり殿下のイエスマンになっていませんか?」

「はっ、あの図書館でかくれんぼしたら楽しいんじゃ……!」

「楽しそう」

「意気投合しないでください!ダメですからね?あの広大な図書館でかくれんぼだなんてさすがに護衛騎士として許可できませんからね!?」

 半分冗談、半分本気でそんなことを話しながら僕たちは皇宮図書館へと向かっていた。子供らしい遊びづくめの毎日は気楽だが、頭が鈍りそうでちょっと怖い。せっかくの休暇なのだからわざわざ机に向かってゴリゴリ勉強する気はないが、いずれ再開される授業に備えて本を読んでおくぐらいの自習はしておこうかなと思い、何日か前から図書館に通うことにしたのだ。
 そんな訳でルヴィエがいつも本を読んでいる窓際の定位置に僕用の一人掛けのソファとお茶や栞を置くための小さなテーブルを追加して、二人で読書を楽しむようになったのだが……残念ながら『ジュリエッタ』は積読となりつつある。ルヴィエは理解することに、僕は説明することに挫折感を感じ、日に日に読み進めるペースが落ちて、とうとうド派手なあの本は僕の執務机の引き出しに仕舞われてしまった。結局、イザベラに教えてもらった序盤部分すら読み終えられていないという有様だ。

(まぁ、ロマンス小説は僕らにはまだ早かったということで……今日は何の本を借りようかなぁ)

 無難に帝国史か経済学か。統治論や哲学なんかもいいかもしれない。ルヴィエのことを馬鹿にできないくらい、自分も大概小難しい本ばかり読んでいる気がする。

 そんな時、不意に前から帝国軍の制服を身に纏った女性が歩いてきた。その姿を見て、たまには軍事戦略の本もいいかもしれないと呑気なことを考えながら僕は横を通り過ぎようとしたのだが、なんと相手に跪かれてしまった。皇子としての振る舞いも板についてきたため、会釈程度であればそれとなく受け流せるようになってきたのだが、跪かれるとなると無視するのは気が引ける。さすがに立ち止まって相手の様子を伺わざるをえない。
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