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15-2 東国の使者
先の戦以前、アスティリオン帝国とシリル王国は付かず離れずの関係だった。両国は隣国ながらも、大河川により明確に国土が分断されていることもあり、諍いが起きることは稀で、公式の使者や物好きな貿易商のみが往来する程度。そんな状態が長年維持されていた。
しかし、エレノア皇后の父にあたるシリルの先代国王は極めて強欲な男だった。過ぎた欲に溺れ、晩年は悪政を敷いた。
(で、いよいよ国が傾き始めた時に先の大戦。シリルはじきに滅びるだろうと噂されていた)
あの時のシリルには、戦禍を乗り切るほどの国力はもはや残されていなかった。少なくとも、東国の上層部はそう考えていたとリセイは記憶している。
だが、突如としてシリルの王女とアスティリオンの皇太子の婚約が成立した。そして、瞬く間にシリルの先代国王が崩御し、エレノアの弟が次の国王として即位したのだ。
そして、現在に至るまでエレノアの弟の補佐官にはアスティリオン出身者が登用されている。
(エレノア皇后は才色兼備と名高い。実際、政において見事な手腕を発揮していて帝国内では間違いなく権力者だ。だが――アスティリオンの実権を握るのはやはりユリウス皇帝)
その上で、国外の使節に対して”皇后の機嫌を損ねたらヤバい”なんて大仰に語るのはなんとも滑稽な話だった。いくら建前だとしても、こちらを舐めているとしか思えない。
東国は決して小国ではない。歴史で言えばアスティリオンよりも古くから存在する国で、版図も国力も並大抵のものではない。決して、軽んじられていい国家ではないのだ。
しかし、リセイたちは黙ってこうべを垂れることしか出来なかった。それほどまでに今は東国側の分が悪い――昨夜の一件のせいで。本題はまだこれからだというのに。
「さて、リセイ殿。真面目な話は一旦終わりだ。昨日到着したばかりで一行も疲れているだろう?続きは旅の疲れが癒えてからにしよう」
「……お心遣い感謝いたします」
「ああ。ただし、毎度のことで申し訳ないがリセイ殿は少し残ってくれ。此度も道中の国々の様子について聞かせてほしい。東王陛下のお墨付きなだけあってそなたの洞察力は相当なものだからなぁ。あ、皆は私たちのことは気にせずゆっくり休んでくれ」
「承知しました」
ユリウス皇帝の言葉にリセイはそう返事をした。そして、後方に控える部下たちに退出を指示する。同様に、ユリウス皇帝も臣下たちを謁見の間から退出させた。
謁見の間に残されたのはユリウス皇帝とリセイ、そしてもう一人。リセイの部下たちとそう変わらぬ装束を纏った男がこの場に留まっていた。
「はぁー、まったく。大人数での謁見は肩が凝る。やっと本題に入れるな、リセイ殿。それで、そちらの方は?」
前回の謁見内容からして、男の正体に予想がついているのだろう。質問を投げかけてきたものの、ユリウス皇帝の表情は変わらない。
「私の部下として内密にお連れいたしました。ご紹介いたします」
いよいよ、本題が始まる。緊迫感でリセイの胃がどうにかなってしまいそうなその時、背後に静かに控えていた男がリセイの前へと歩み出た。
「――リセイ、下がれ。ユリウス皇帝陛下、このような形での挨拶となり申し訳ない。我は東国の第一王子、シンリュ。東国を率いる後継者として、本国に座す東王に代わりアスティリオンの地へ馳せ参じた」
しかし、エレノア皇后の父にあたるシリルの先代国王は極めて強欲な男だった。過ぎた欲に溺れ、晩年は悪政を敷いた。
(で、いよいよ国が傾き始めた時に先の大戦。シリルはじきに滅びるだろうと噂されていた)
あの時のシリルには、戦禍を乗り切るほどの国力はもはや残されていなかった。少なくとも、東国の上層部はそう考えていたとリセイは記憶している。
だが、突如としてシリルの王女とアスティリオンの皇太子の婚約が成立した。そして、瞬く間にシリルの先代国王が崩御し、エレノアの弟が次の国王として即位したのだ。
そして、現在に至るまでエレノアの弟の補佐官にはアスティリオン出身者が登用されている。
(エレノア皇后は才色兼備と名高い。実際、政において見事な手腕を発揮していて帝国内では間違いなく権力者だ。だが――アスティリオンの実権を握るのはやはりユリウス皇帝)
その上で、国外の使節に対して”皇后の機嫌を損ねたらヤバい”なんて大仰に語るのはなんとも滑稽な話だった。いくら建前だとしても、こちらを舐めているとしか思えない。
東国は決して小国ではない。歴史で言えばアスティリオンよりも古くから存在する国で、版図も国力も並大抵のものではない。決して、軽んじられていい国家ではないのだ。
しかし、リセイたちは黙ってこうべを垂れることしか出来なかった。それほどまでに今は東国側の分が悪い――昨夜の一件のせいで。本題はまだこれからだというのに。
「さて、リセイ殿。真面目な話は一旦終わりだ。昨日到着したばかりで一行も疲れているだろう?続きは旅の疲れが癒えてからにしよう」
「……お心遣い感謝いたします」
「ああ。ただし、毎度のことで申し訳ないがリセイ殿は少し残ってくれ。此度も道中の国々の様子について聞かせてほしい。東王陛下のお墨付きなだけあってそなたの洞察力は相当なものだからなぁ。あ、皆は私たちのことは気にせずゆっくり休んでくれ」
「承知しました」
ユリウス皇帝の言葉にリセイはそう返事をした。そして、後方に控える部下たちに退出を指示する。同様に、ユリウス皇帝も臣下たちを謁見の間から退出させた。
謁見の間に残されたのはユリウス皇帝とリセイ、そしてもう一人。リセイの部下たちとそう変わらぬ装束を纏った男がこの場に留まっていた。
「はぁー、まったく。大人数での謁見は肩が凝る。やっと本題に入れるな、リセイ殿。それで、そちらの方は?」
前回の謁見内容からして、男の正体に予想がついているのだろう。質問を投げかけてきたものの、ユリウス皇帝の表情は変わらない。
「私の部下として内密にお連れいたしました。ご紹介いたします」
いよいよ、本題が始まる。緊迫感でリセイの胃がどうにかなってしまいそうなその時、背後に静かに控えていた男がリセイの前へと歩み出た。
「――リセイ、下がれ。ユリウス皇帝陛下、このような形での挨拶となり申し訳ない。我は東国の第一王子、シンリュ。東国を率いる後継者として、本国に座す東王に代わりアスティリオンの地へ馳せ参じた」
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ーーーーー
閲覧ありがとうございます!
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