1 / 3
序章
異常気象
しおりを挟む
「異世界行きたいなぁ・・・・・・」
曇り空の下、普段通り蓮花は憂鬱げに呟いていた。
隣ではそんな蓮花を見て面白いのだろうか優がクスクスと笑っている。手を口に当てる仕草は彼女の容姿も相まって可愛らしい。
だが彼女に向ける感情さえも今の蓮花にはどうでも良かった。蓮花は壁にもたれかかって目を閉じる。
異世界に行きたいと現代の若者の何割がそう思うのだろうか。別に若者じゃなくても思うだろうが、今の若者の多くはそんな願望を持っていると思う。
様々な娯楽である漫画とか小説なんかでしばしば目にするようになった異世界という言葉。異世界が現実世界の自分達と接点あるように書かれるものだから、異世界があるのではないかと思う人も増えているのだろう。
そして、蓮花もその一人である。馬鹿馬鹿しいと思う人もいるかもしれないが、ないと断定する方が馬鹿馬鹿しいと蓮花は思う。
今も考えている異世界に行きたいと。ここ最近この思いは強くなっているような気がする。異世界に行っている自分を思うと胸が裂けそうな程に気分が高まる時だってある。異世界で自分が活躍をしてるのを妄想している今だって気分は最高だ。
そのように蓮花は異世界妄想をしていると急に辺りの空気が変化したのを感じた。妄想していても感じる急激な変化がそこにはあった。
目を開けると先程まで見えていた光景とは全く違うことが見て取れる。空には紫色の禍々しい雲が巨大な渦を発生させて漂っている。
蓮花は目を開けた瞬間、歓喜と言える感情を感じた。異常な状況に対して不似合いな感情かもしれない。
しかし蓮花は何よりも先に思った、これは異世界に行く時が来たのかもしれない、と。
「うぅ・・・・・・蓮くん・・・・・・」
感情を高ぶらせていると優の呼びかける声が聞こえた。興奮しすぎて忘れかけていた。彼女を見ると綺麗な黒色の瞳から数滴と涙が零れていて、目の前の光景に体を震わせている。
そんな彼女を見て蓮花は数秒前までの自分が恥ずかしくなった。異世界に行けるという考えは願望が前のめりに出たものであって、ただの空想である。今の状況はどう見たってそんな明るい妄想を打ち砕くような不気味な現象が起こっている。最悪死ぬかもしれない。
蓮花はそこまで考えた時には身体をうごかしていた。
「優、少し身体を触るからな」
「きゃっ!蓮くん!?」
優の軽い身体を持ち上げてすぐに扉の方へ向かった。
今は廃校舎の屋上にいるのだが、中にいた方が安全な気がするという直感を信じて屋内へ入る。そして、優を抱えたまま階段を駆け下りる。
蓮花は二階に繋がる階段を駆け下りている途中、優が顔を赤らめて自分の服をぎゅっと掴むのが見えた。
「大丈夫か?」
先程の現象を見て精神が不安定になっているのだろうかと、心配して声をかける。
「う、うん、大丈夫」
彼女の声が弱々しかったが蓮花は言葉通りに受け取る。
一階まで降りると一番端にある部屋に入り、優を机の上に座らせてやる。部屋の中は埃まみれで机や椅子が雑然としていた。
優を座らせると窓の方へ近づき、窓の外を眺める。屋上で見た時と変わらず紫雲が空に立ち込めている。ズボンのポケットに閉まっていた携帯を取り出すがアンテナが立っておらず情報を収集できない。
何をすれば最善手かと考えようとした瞬間、事態は更に悪化した。
無数の黒い雷が地上に落ち音が轟いたかと思うと周りがたちまちに暗くなる。
優が「きゃっ!」と叫んだ声が聞こえる。
すぐに明るくなったが、蓮花は目の前の光景に言葉を失った。
窓と反対の教室一帯が隕石でも落ちたかのようにまるまる消えていて、穴が空いたすぐ近くでは胴体を綺麗に丸く貫かれた優が転がっていた。口や胴から大量の血が流れ出している。
一瞬で蓮花は壊された。信じたくなかった。名前を呼びかけるが反応はない。泣き叫びたかった。自分を殴りたかった。
だがそんなことでさえも神は許してくれなかった。
また辺りが暗くなる。その瞬間に何とも言えない痛みが走った。
あぁ死んだんだなと蓮花は悟った。
蓮花はその日一瞬のうちに全てを失った。
羽井蓮花が最後に見た景色は晴れ晴れとした青い空だった。
曇り空の下、普段通り蓮花は憂鬱げに呟いていた。
隣ではそんな蓮花を見て面白いのだろうか優がクスクスと笑っている。手を口に当てる仕草は彼女の容姿も相まって可愛らしい。
だが彼女に向ける感情さえも今の蓮花にはどうでも良かった。蓮花は壁にもたれかかって目を閉じる。
異世界に行きたいと現代の若者の何割がそう思うのだろうか。別に若者じゃなくても思うだろうが、今の若者の多くはそんな願望を持っていると思う。
様々な娯楽である漫画とか小説なんかでしばしば目にするようになった異世界という言葉。異世界が現実世界の自分達と接点あるように書かれるものだから、異世界があるのではないかと思う人も増えているのだろう。
そして、蓮花もその一人である。馬鹿馬鹿しいと思う人もいるかもしれないが、ないと断定する方が馬鹿馬鹿しいと蓮花は思う。
今も考えている異世界に行きたいと。ここ最近この思いは強くなっているような気がする。異世界に行っている自分を思うと胸が裂けそうな程に気分が高まる時だってある。異世界で自分が活躍をしてるのを妄想している今だって気分は最高だ。
そのように蓮花は異世界妄想をしていると急に辺りの空気が変化したのを感じた。妄想していても感じる急激な変化がそこにはあった。
目を開けると先程まで見えていた光景とは全く違うことが見て取れる。空には紫色の禍々しい雲が巨大な渦を発生させて漂っている。
蓮花は目を開けた瞬間、歓喜と言える感情を感じた。異常な状況に対して不似合いな感情かもしれない。
しかし蓮花は何よりも先に思った、これは異世界に行く時が来たのかもしれない、と。
「うぅ・・・・・・蓮くん・・・・・・」
感情を高ぶらせていると優の呼びかける声が聞こえた。興奮しすぎて忘れかけていた。彼女を見ると綺麗な黒色の瞳から数滴と涙が零れていて、目の前の光景に体を震わせている。
そんな彼女を見て蓮花は数秒前までの自分が恥ずかしくなった。異世界に行けるという考えは願望が前のめりに出たものであって、ただの空想である。今の状況はどう見たってそんな明るい妄想を打ち砕くような不気味な現象が起こっている。最悪死ぬかもしれない。
蓮花はそこまで考えた時には身体をうごかしていた。
「優、少し身体を触るからな」
「きゃっ!蓮くん!?」
優の軽い身体を持ち上げてすぐに扉の方へ向かった。
今は廃校舎の屋上にいるのだが、中にいた方が安全な気がするという直感を信じて屋内へ入る。そして、優を抱えたまま階段を駆け下りる。
蓮花は二階に繋がる階段を駆け下りている途中、優が顔を赤らめて自分の服をぎゅっと掴むのが見えた。
「大丈夫か?」
先程の現象を見て精神が不安定になっているのだろうかと、心配して声をかける。
「う、うん、大丈夫」
彼女の声が弱々しかったが蓮花は言葉通りに受け取る。
一階まで降りると一番端にある部屋に入り、優を机の上に座らせてやる。部屋の中は埃まみれで机や椅子が雑然としていた。
優を座らせると窓の方へ近づき、窓の外を眺める。屋上で見た時と変わらず紫雲が空に立ち込めている。ズボンのポケットに閉まっていた携帯を取り出すがアンテナが立っておらず情報を収集できない。
何をすれば最善手かと考えようとした瞬間、事態は更に悪化した。
無数の黒い雷が地上に落ち音が轟いたかと思うと周りがたちまちに暗くなる。
優が「きゃっ!」と叫んだ声が聞こえる。
すぐに明るくなったが、蓮花は目の前の光景に言葉を失った。
窓と反対の教室一帯が隕石でも落ちたかのようにまるまる消えていて、穴が空いたすぐ近くでは胴体を綺麗に丸く貫かれた優が転がっていた。口や胴から大量の血が流れ出している。
一瞬で蓮花は壊された。信じたくなかった。名前を呼びかけるが反応はない。泣き叫びたかった。自分を殴りたかった。
だがそんなことでさえも神は許してくれなかった。
また辺りが暗くなる。その瞬間に何とも言えない痛みが走った。
あぁ死んだんだなと蓮花は悟った。
蓮花はその日一瞬のうちに全てを失った。
羽井蓮花が最後に見た景色は晴れ晴れとした青い空だった。
0
あなたにおすすめの小説
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる