わがままお嬢と今日を供にする

TS娘める

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序章

異常気象

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 「異世界行きたいなぁ・・・・・・」
 曇り空の下、普段通り蓮花は憂鬱げに呟いていた。
 隣ではそんな蓮花を見て面白いのだろうか優がクスクスと笑っている。手を口に当てる仕草は彼女の容姿も相まって可愛らしい。
 だが彼女に向ける感情さえも今の蓮花にはどうでも良かった。蓮花は壁にもたれかかって目を閉じる。
 異世界に行きたいと現代の若者の何割がそう思うのだろうか。別に若者じゃなくても思うだろうが、今の若者の多くはそんな願望を持っていると思う。
 様々な娯楽である漫画とか小説なんかでしばしば目にするようになった異世界という言葉。異世界が現実世界の自分達と接点あるように書かれるものだから、異世界があるのではないかと思う人も増えているのだろう。
 そして、蓮花もその一人である。馬鹿馬鹿しいと思う人もいるかもしれないが、ないと断定する方が馬鹿馬鹿しいと蓮花は思う。
 今も考えている異世界に行きたいと。ここ最近この思いは強くなっているような気がする。異世界に行っている自分を思うと胸が裂けそうな程に気分が高まる時だってある。異世界で自分が活躍をしてるのを妄想している今だって気分は最高だ。
 そのように蓮花は異世界妄想をしていると急に辺りの空気が変化したのを感じた。妄想していても感じる急激な変化がそこにはあった。
 目を開けると先程まで見えていた光景とは全く違うことが見て取れる。空には紫色の禍々しい雲が巨大な渦を発生させて漂っている。
 蓮花は目を開けた瞬間、歓喜と言える感情を感じた。異常な状況に対して不似合いな感情かもしれない。
 しかし蓮花は何よりも先に思った、これは異世界に行く時が来たのかもしれない、と。
 「うぅ・・・・・・蓮くん・・・・・・」
 感情を高ぶらせていると優の呼びかける声が聞こえた。興奮しすぎて忘れかけていた。彼女を見ると綺麗な黒色の瞳から数滴と涙が零れていて、目の前の光景に体を震わせている。
 そんな彼女を見て蓮花は数秒前までの自分が恥ずかしくなった。異世界に行けるという考えは願望が前のめりに出たものであって、ただの空想である。今の状況はどう見たってそんな明るい妄想を打ち砕くような不気味な現象が起こっている。最悪死ぬかもしれない。
 蓮花はそこまで考えた時には身体をうごかしていた。
 「優、少し身体を触るからな」
 「きゃっ!蓮くん!?」
 優の軽い身体を持ち上げてすぐに扉の方へ向かった。
 今は廃校舎の屋上にいるのだが、中にいた方が安全な気がするという直感を信じて屋内へ入る。そして、優を抱えたまま階段を駆け下りる。
 蓮花は二階に繋がる階段を駆け下りている途中、優が顔を赤らめて自分の服をぎゅっと掴むのが見えた。
 「大丈夫か?」
 先程の現象を見て精神が不安定になっているのだろうかと、心配して声をかける。
 「う、うん、大丈夫」
 彼女の声が弱々しかったが蓮花は言葉通りに受け取る。
 一階まで降りると一番端にある部屋に入り、優を机の上に座らせてやる。部屋の中は埃まみれで机や椅子が雑然としていた。
 優を座らせると窓の方へ近づき、窓の外を眺める。屋上で見た時と変わらず紫雲が空に立ち込めている。ズボンのポケットに閉まっていた携帯を取り出すがアンテナが立っておらず情報を収集できない。
 何をすれば最善手かと考えようとした瞬間、事態は更に悪化した。
 無数の黒い雷が地上に落ち音が轟いたかと思うと周りがたちまちに暗くなる。
 優が「きゃっ!」と叫んだ声が聞こえる。
 すぐに明るくなったが、蓮花は目の前の光景に言葉を失った。
 窓と反対の教室一帯が隕石でも落ちたかのようにまるまる消えていて、穴が空いたすぐ近くでは胴体を綺麗に丸く貫かれた優が転がっていた。口や胴から大量の血が流れ出している。
 一瞬で蓮花は壊された。信じたくなかった。名前を呼びかけるが反応はない。泣き叫びたかった。自分を殴りたかった。
 だがそんなことでさえも神は許してくれなかった。
 また辺りが暗くなる。その瞬間に何とも言えない痛みが走った。
 あぁ死んだんだなと蓮花は悟った。
 蓮花はその日一瞬のうちに全てを失った。
 羽井蓮花が最後に見た景色は晴れ晴れとした青い空だった。
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