ヤるしかないっ?

砂月美乃

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12・君としか

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 むっつりと黙り込んでいるジュリオ様が怖くて、おそるおそる話しかけてみる。

「……ジュリオ様は、どうしてここへ?」

 すると怒ったように歩いていたジュリオ様が、ようやく歩調を緩めてあたしの横に並んだ。

「僕だって、君に話したいことがあったんだよ。だけどローラン様のご病気が治るまでは、勝手に出歩くわけにいかないし。そのうち君が、野菜でも持って来てくれると思って、待ってたんだよ。だけど一向に来る様子がないし」
「……ごめんなさい」

避けていた身としては、とりあえず謝るしかない。

「で、昨日。床上げなさったローラン様に、事情を話したんだ。そうしたら、ローラン様も君に会わなくちゃって仰ったから、町の人に頼んでおいたんだよ。君が来たら教えてくれるようにって」
「……話したってジュリオ様、まさか!?」

 ―――あのことを話したの? 

 聞いてもジュリオ様は微笑むだけで、何も答えてくれようとしない。

「大丈夫だよ、ダリア。詳しい話は、ローラン様と一緒にね」



 ローラン様は少し痩せられたようだけれど、思った以上にお元気そうだった。
 今回のご病気であたしまで旅につき合わせたお礼やらお詫びやら、そんな話が出た後で、ローラン様がちょっと改まって言った。

「さてダリア、今回はわしのせいで済まなんだな」
「ローラン様、お詫びならもう……」

 するとローラン様は首を振った。

「それとこれとは別じゃ。儂がこやつに何も教えておらなんだせいで、えらい目に遭わせてしまったのう」
「え……」

 それがあの穴でのことだと分かって、あたしは思わず下を向く。
 どうしよう、ジュリオ様に余計なことを教えたって怒られるかしら。それとも「このふしだら娘が!」とか……?
 身の縮むような思いで次の言葉を待っていると、思いがけずローラン様は笑った。

「済まなかったなあ、そのくらい知ってるものと思っていたんじゃよ」


 聞けばローラン様はお若いころ、かなりの遊び人だったそうだ。「儂が弟子入りしたころには、とっくに女など知っておった」ので、ジュリオ様が成長のきざしを見せられたときも、「女に夢中になり過ぎて、勉強を疎かにするなよ」という意味で注意しただけだった……って。

「だからのう、今度の話を聞いて驚いたのなんの。まさか閨のことを何も知らなんだとは……。相手が嬢ちゃんでなかったら、あのまま生き埋めになっておった」

 褒められているとは思えないので何も言わずに黙っていると、ローラン様が心持ち声を低めた。

「それに、まさか子を孕みでもしたら……」
「……それは、大丈夫でした」

 下を向いたまま答えると、ローラン様がほっと息を吐く気配がした。そうだよね、大事な愛弟子にこんな虫がついたら困るに決まってる。それに、ジュリオ様だって……。
 そろそろお暇しよう。そう思って顔をあげたあたしに、ジュリオ様が上ずった声で言った。

「ダリア、結婚してくれ」
「……は?」

 一瞬呆気にとられたけれど、すぐに理解した。ローラン様もジュリオ様も、あたしがキズモノになったからって責任を取って下さるつもりなんだろう。でも今どき、みんなが処女でお嫁に行くとは限らない。

「そんな、心配していただかなくて大丈夫ですから」
「え、ダリア……!」

 あたしは何か言いかけるジュリオ様を制して、逃げるようにお屋敷を出た。そのまま走って町の門を抜けると、木陰にぺたんと座り込む。

「魔法のこと以外何にも知らないし、ひょろひょろで体力もない。ジュリオ様なんか、お断りよ。責任取られてお嫁に行ったって、嬉しくなんかない。やっぱり女は好きな人と結ばれて……」

ふうっと息を吐いて、膝に顔を埋めた。

「でも、ジュリオ様……優しいんだ。あんなに優しいなんて、知らなかったんだ。あんなこと、なければ良かったのにね、ジュリオ様……」
「……それは、喜んでいいのかな」
「え!?」

 慌てて顔を上げるとジュリオ様が、汗みどろで息を切らして立っていた。

「なんで……」
「何でって、当然だろう? 僕が求婚している途中で、逃げ出すなんてひどいじゃないか」
「だって……嫌々責任とられても……」
「違うから!」

 ジュリオ様はあたしの手を引っ張って立たせると、その手を握ってまくし立てた。

「違う。本当に、君が好きなんだ。あの時……あんなことになったのに、君は僕を責めも罵りもしなかった。とにかく前向きで、何も知らない僕をなんとかしようと頑張る君に、僕は……」

 そこまで言ったジュリオ様は、いきなりあたしを木に押し付けてキスをした。
 すると後ろから賑やかな拍手と歓声が沸き起こり、あたしたちは慌てふためいて身体を離した。

「おめでとう、ジュリオ様! 彼女を大切にするんだよ」
「ダリアちゃん、幸せにね!」

 ―――どうしよう、恥ずかしくて顔を上げられない。

「ジュリオ様、こんなところで……」
「ご、ごめん。夢中で……」

 町の人たちの囃し立てる声を聞きながら、ジュリオ様が耳元でさらに囁いて……。その瞬間、あたしは全身真っ赤になった。

「あの日のダリア、すごく綺麗だった。もう一生、君としかしたくない」

 あの日あたしが捕らわれたのは……、穴だけではなかったみたいです。

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