竜の末裔と生贄の花嫁

砂月美乃

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15・図書室で 後

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「わあ……! すごいご本ですね!」

 膨大な量の本が書架に整然と並べられ、広い図書室を埋め尽くしていた。歴代の「竜」達は基本的に城の中で一生暮らすので、だいたい皆読書好きになる。代々集められてきた本は、王宮の図書館にも匹敵するかもしれない。

「本が好きか?」

「はい。ですがあまりたくさん読ませてはもらえなくて……」

 嫌な思い出でもあるのか目を伏せるアメリアを見て切なくなり、ヴィルフリートの声は自分でも驚くほど優しくなった。

「いつでも好きな本を読んで構わない」

 高い書架を見上げていたアメリアは、それを聞いて思わず振り返る。

「本当ですか?」

「ああ。手の届かない本があれば、私に言うといい」

「ありがとうございます! 嬉しいです」

 アメリアが初めて笑顔を見せた。ヴィルフリートにはそれがたまらなく愛おしい。
 その後ヴィルフリートは、図書室の中を興味深げに歩くアメリアに、貴重な古書や珍しい図版などを示してやった。


 アメリアはヴィルフリートの説明を聞きながら戸惑っていた。
 夫となる「竜」と聞いていたものは、心配していたよりもずっと感じの良い方だった。恐ろしい相手だったらどうしようかと、ずっとそれを心配していたのに。不安でたまらなかった「竜の特徴しるし」も、少なくとも服の上からは分からないし、態度も優しい。

 ―――私が心配しすぎたのかしら?

 緊張のあまりそれまでは会話らしい会話にならず、どうしようかと思っていたが、図書室と聞いて、思わず声をあげてしまった。果たして図書室は素晴らしく、義父にあまり本を読ませてもらえなかったアメリアは胸が弾んだ。
 そんな彼女にヴィルフリートは、いつでも読んで良いという。そして今も彼女が目を留めた本や、珍しい古書について教えてくれている。しかも彼の声もさっきより楽しそうに聞こえるのは、気のせいではないだろう。
 ようやく相手のことを見られるようになったアメリアは、思い切って聞いてみた。

「ヴィルフリート様……も、本がお好きなのですか?」


 大量の本に興奮気味だったアメリアがふとヴィルフリートを見て聞いたので、彼は西の窓辺に置いた長椅子にアメリアを掛けさせた。
 そして自分は座らずに、アメリアの前に跪く。

「え、あの!?」

 驚いたアメリアは、さらにヴィルフリートに両手を取られて何も言えなくなった。
 淡い金色の瞳が彼女を見上げる。

「アメリア……、そう呼んでもいいか?」

「は、はい。ヴィルフリート様」

 頬を真っ赤にしたアメリアが呼びかえすと、ヴィルフリートの目が細められる。

「アメリア、本当に……よく来てくれた。君に会えて嬉しいよ」

「ヴィルフリート様……」

 柔らかく微笑んで、ヴィルフリートは続けた。


「ギュンター子爵から、少しは私のことを聞いているか? 私は『竜の特徴しるし』を持って生まれた」

 その瞬間、思わずびくりと震えてしまったのを、ヴィルフリートに隠すことは出来なかった。

「ああ、聞いているんだね」

「すみません、私……」

 気を悪くしただろうか。そっと身をすくめるアメリアに、ヴィルフリートは言った。

「いいんだ、アメリア。……私はここで暮らしている。庭へは出られるが、外へは出かけられない。だから、代々の「竜」は本好きが多いんだ。時間はたっぷりあるからね」





 夕食がすむと、アメリアはレオノーラに促されて湯浴みを済ませた。案内されたのは昼間「夫婦の寝室」だとヴィルフリートが言っていた部屋。レオノーラはドアの前で言った。

「中でお待ちください。ヴィルフリート様は後からいらっしゃいますから」

 そして一瞬気遣うような笑みを浮かべると、ドアを開けた。中には灯りが用意されているようで明るい。
 一気に心細くなり、アメリアはレオノーラを振り返った。だが優しく微笑みながらも、レオノーラはそれ以上何も言う気はないようだ。
 仕方なく、躊躇いながらもアメリアが部屋へ進むと、後ろでそっとドアが閉められた。


 部屋の中央に大きな寝台が置かれており、アメリアは見てはいけないものを見たような気になって、慌てて目を逸らす。
 寝台のほかに、長椅子と小さなテーブル、年代ものの大きな家具もいくつかあるようだ。
 気が付くと部屋の両側に、ひとつずつ別のドアがあった。片方は位置からして、さっきアメリアが身支度をした部屋と通じているようだった。ならばもう一方は……。

 その時まさにそのドアが開き、アメリアはびくりと身を震わせる。

 ヴィルフリートがそこに立っていた。


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