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15・大人か子供か 前
しおりを挟む「ぐぐぐぐぐぐ……」
ガランとゴロンに引き据えられて、モドンはさっきから真っ赤になって唸っている。その横にはガルグィード将軍が、剣に手をかけて仁王立ちになっていた。一見変わりない表情だけど、よく見ると額に青筋が浮いていてちょっと怖い。その後ろに、参謀長のベレスパードと筆頭魔道士のイルウィンが、なぜかいる。この二人、城内顔パスなんだろうか。後でフィブリスに聞いてみなくちゃ。
即位の儀は、私が王笏の光を掲げたことで無事成立した。最後はかなりぐだぐだになったけれど、フィブリスと将軍が強引に終了を宣言し、フィブリスが私を、将軍がモドンを連れてそそくさと広間を出た。広間はその後もざわついていたけど、気にしている場合ではない。
モドンにかけた魅了の術は、この部屋へ入った時には解けていた。ごくごく軽く術をかけたから、本人も自分が何をしたか、ちゃんと覚えている。怒りのあまり私が玉座に上るのを阻止しようとしたはずが、城中の魔物の面前で私に万歳を叫んだのだから……さぞや悔しいに決まってる。
もちろん、わざとそうしたんだけど。私はにっこり笑ってやった。
「まさか貴方が万歳なんて言ってくれるとは思わなかった。ありがとう、モドン」
「ぐぬぬ……! このガキが、馬鹿にしおって……!」
ぎりぎりと歯を食いしばり、モドンが私を睨む。その様子を見て、ガルグィードがはっとした。
「陛下、あの万歳はまさか」
「んー? 何のこと?」
私は無邪気そうに、こてっと首をかしげた。将軍の後ろからフィブリスがジト目で私を見ているけれど、王の私が言わないことを彼から言うことはできない。そういう真面目なところ、フィブリスは信用できる。
「……なるほど、分かりました。ご配慮感謝致します」
さすがに百戦錬磨の将軍だ。おぼろげながら、私がモドンを操ってあの場を収めたことを察したらしい。そして私がとぼけていることで、将軍に罪を問う気がないことも。
「だから、何言ってるのか分からないよ? フィブリス、私もう疲れたから、部屋に戻っていい?」
フィブリスは黙って頷き、ガランとゴロンに合図を送った。護衛の彼らは私について行くために、モドンを拘束していた手を離す。途端にモドンが跳ね起きた。
「このガキ……っ!」
今度はさすがに将軍にも、予想がついていたらしい。マントの裾を剣先で床に縫い留められ、モドンは顎から床に突っ込んだ。
「ぐっ……、なぜ止めるのです、将軍!」
これには私だけでなく、その場の皆がため息をついた。ベレスパードとイルウィンでさえも、憐れむような目でモドンを見ている。
「モドン、それ以上するなら私の部下を辞めてからにしてもらおうか」
いつも以上に低く抑えた将軍の声を、今になってやっとおかしいと思ったらしい。初めて不安そうな表情が浮かんだ。
「ガルグィード、あとは任せていい? ちゃんと説明してあげてね」
「はっ」
畏まった将軍に頷いて、私は床に這いつくばっているモドンに向き直った。
「その筋肉しかない頭で将軍の話が理解出来たら、今後どうするか、よーく考えるのね」
「……」
まだ将軍に押さえられているせいで、モドンは私を睨むだけだ。私は屈みこんで、モドンに囁いた。
「とりあえず、こんな子ウサギですけど、魔王に就任させていただきます」
「くそ……っ!」
私は立ち上がって、部屋を見回した。
ベレスパードとイルウィンの私を見る目が、少し変わっている。本当はここにあの二人がいなければ、もう少しモドンをとっちめてやりたかった。ああいう面倒くさい脳筋タイプ、好きじゃないんだもん。
でも、何考えてるか分からないあの二人には、まだ手の内を見せたくない。見た目通りのかよわい子ウサギ……って、思っててくれるほうが助かる。まあいいや、あとは将軍に任せよう。
ガランとゴロンを従え、ローブの裾をひるがえし、私は颯爽と(ちょこちょこ歩きで)部屋を出た。
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