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14・即位の儀 後
しおりを挟む即位の儀と言っても、入場してしまえぱそれほど私のすることはない。だいたいは宰相のフィブリスが言ったりやったりしてくれるし、私は威厳を保って立っていればいい。
私の後ろにはガランとゴロンが、足を開いて前で手を組んで立っている。昔見たことのあるギャング映画みたいで、ちょっと楽しい。
そして私が着ているのは、艶やかな織り模様のある漆黒のローブ。私のイメージをシャリムが頑張って形にしてくれて、フードの縁と前の合わせにピンクのレースが幾重にも重なっている。縫い取りには太めの銀糸、できる侍女シャリムは同じ糸で袖口に刺繍も入れてくれた。私としては大満足の出来だ。
もっともフィブリスはピンクのレースに眉を顰めたし、この場の魔物たちにも奇異な姿だと思われるだろう。
でもドレスを着たって似合わないと言われるに決まってるし、どうせ叩かれるなら好きな格好をしたほうがいい。
型破りの魔王だと言うなら、型破りのままで行こうじゃないの。
そんなことを考えながら玉座の前で広間を見渡していると、最前列にいるモドンと目が合った。途端に牙をむき出して睨みつけるモドンから、私はすっと目を逸らす。
「ぐぅぅ……っ!」
無視されたとでも思ったのか、モドンがぎりぎりと歯を噛みしめた。別に挑発なんかしていないんだけど、まったく彼こそ脳みその皺まで筋肉で出来てるに違いない。
そのモドンが、急に小さくなった。どうやら将軍のガルグィードに睨まれたらしい。そのガルグィードはいたって冷静な様子で大広間を見渡している。
参謀長のベレスパードは口をへの字に歪め、筆頭魔導士のイルウィンは相変わらずの無表情。ある意味みんな分かりやすい。
ガルグィードが睨みをきかせ、フィブリスがサクサクと進行してくれたおかげで、儀式ももうあと少しになった。
「では陛下、どうぞ玉座へお進みください」
フィブリスの声に軽く頷き、私は振り向いて階に足をかけた。
「ぐぬうっ、させるかぁ!」
突然、大声が響き渡った。
驚いて振り返ると、青筋をたてて歯をむき出したモドンが、こちらに走り寄ってくるところだった。
「!? やめよ、モドン!」
ガルグィードとフィブリスが声を上げたが、階のすぐ下にいたガランとゴロンのほうが早かった。一人がさっと足を払い、バランスを崩したところをもう一人が抑え込む。
広間は騒然とし、ガルグィード将軍が真っ青な顔で駆け寄ってきた。
フィブリスが皆を静めたが、将軍は怒りで震えている。この場で騒ぎを起こされれば将軍の責任にもなるし、まして直属の部下では自分の進退にも関わってくるだろう。
「モドン、きさまという奴は……!」
モドンはがばっと顔を上げて私を睨み、さらに何か喚こうと口を開けた。
―――ああもう、面倒くさい。
私はぱちんと指を鳴らす。途端にモドンの目つきが変わった。
―――うわ、気持ち悪い。こいつにこんな目で見られたくないよぉ。
でもこの場を収めるには、これしかない。ガルグィード将軍は公平だから、出来れば辞めさせたくないんだもの。目を合わせるのも嫌だけど、私はさらに目力を込めた。
大広間に、モドンの調子はずれな大声が響いた。
「ミミィ陛下、ばんざーい!」
その場の全員が呆気にとられて凍り付いた。けれどすぐに、ガランとゴロンが合わせてくれる。
「新王陛下、ばんざーい!」
私の必死の目配せで事情をさとったフィブリスがそれに合わせる間に、私はそそくさと玉座に上り、王笏を天に向けて掲げる。宝玉が煌めいて大広間を照らし、私は無事に……、どうにか無事に儀式を終えた。
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