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8・魔力顕現 下
しおりを挟むドンドンドン!
「ルカ様、起きていらっしゃいますか!? ルカ様! 今のはいったい……!?」
扉を叩く音と、ルカ様を呼ぶ声に気がつくと、私はルカ様のベッドに一人で横たわっていた。
ルカ様は立ち上がってローブを着込んでいるところで、私を振り返って黙っているよう合図して、寝室を出ていった。
ルカ様が隣の書斎のドアを開ける音がした。
「ルカ様!」
聞こえてきたのはエリンの声で、私は思わず上掛けに潜り込んだ。
「ルカ様、今の光と……あ、あれはいったい何だったんですか!? 皆びっくりして……!」
「落ち着け、エリン。光は分かるが……あれ、とはなんだ?」
エリンの興奮はおさまらない。
「ご存知ないんですか? 鉢植えの花が全部咲いたり、石の隙間から蔓草が生えてきたり……暗いですけど、庭の木がみんな急に大きくなったみたいなんです! ほら、そこにも! ルカ様の薬草がみんな育ってます!」
驚いて見回すと、さっきルカ様が煎じた薬湯のポットからも、草花が花瓶のように伸びていた。
まだ騒ぎ続けるエリンをなだめ、ルカ様が言った。
「落ちつきなさい、エリン。大丈夫だ。もう収まっているから。皆には、明日説明するからと」
「ほんとですか? でも、あんなこと初めてで……」
ルカ様はひとつため息をついて続ける。
「今説明しても、夜中に混乱させるだけだ。皆にはとにかく『ルカが大丈夫と言った』とだけ言いなさい。もう何も心配いらないから」
「はい……、あ、でも! ルカ様、ミアが部屋にいないんです! どうしよう、あんなことがあってどこかに行っちゃったなんてことは……」
聞いている私はどうしたらいいか分からず、また上掛けに隠れて耳をそばだてていた。
ルカ様は声をひそめて言った。
「エリン、心配はいらない。実は、さっきの騒ぎは、ミアが魔力を顕現させたからなんだ」
「えぇ! ほんとですか? 良かった、ミア!!」
「その通りだ、エリン。ただ、私が言っていたように、やはりミアの魔力は大きすぎて、すぐにはコントロールできなかった。魔力が暴走して、ミアは倒れてしまってね。動かしては良くないので、そのまま寝かせている。でもこれ以上騒がれたくないから、皆にはさっきのように言っておきなさい」
ルカ様の説明にエリンはすっかり安心し、私のために喜んでくれた。そして皆をなだめるべく、部屋へ戻っていった。
「ミア、気分はどうだ?」
寝室にもどってきたルカ様は、私がベッドに身を起こしているのを見て聞いた。
「気分は……、いいです。ルカ様、私はいったい……?」
「分からないのか? ━━━魔力の顕現、おめでとう、ミア」
「本当、ですか?」
「嘘なものか、あの光、あれはおそらく全回復だ……気分がいいはずだ。それに……うむ、ここにもあるな、植物の成長……。ああ、その前に」
ルカ様は私に貸していたシャツを拾い、私に羽織らせた。感極まって泣きそうになっていた私は、慌ててルカ様に背を向けてボタンをとめる。
「さて、見てみよう。こちらを向きなさい」
この村では、魔力が顕現した子は必ずルカ様に見ていただいて、属性はもちろん魔力の量などを見極めてもらう。その後、自分に合った魔法が使えるように指導を受けるのだ。
ルカ様は私と向かい合って座る。
「うん、一番強いのはやはり光属性……白魔法だな。次が地属性、だからあの状態か……。あとは水と風だな。やはり間違いなく4属性だ」
そして私の額に手を当てて、
「すごいな……魔力は、まだ伸びるだろう。今は、8000ほどか?」
「8000!?」
そんなの信じられない。ルカ様が6500、それだって驚異的な数字だと聞いたのに。
「使いこなすにはまだ先は長いだろうが……。何はともあれ、本当に良かった……ミア」
「ルカ様……ありがとうございます……」
ルカ様は私を引き寄せて、そっと抱きしめた。私もルカ様の胸に頭を寄せて、今度こそ涙を流す。
「ルカ様……。本当に、もう私は……うぅ、顕現出来ないのかと思いました……、毎日、怖くて……でも……」
どうにかしゃべれたのはそこまでで、あとは手放しでわあわあ泣き出してしまった私を、ルカ様はそのまま抱いていてくれた……。
翌朝。ミアの魔力が顕現、しかも4属性を得たという知らせは、村中を駆け巡った。
普通は魔力が顕現すると、その子の両親にだけ知らせが行く。しかし魔導師クラスの魔力や複数属性持ちだった場合は、町や村の長を通し、必要に応じて上に報告されることになっていた。おそらく今の国内ただ一人となる4属性持ちの私も、当然国王様のところまで報告が行く……とルカ様は言う。
魔力の顕現を素直に喜んでいた私には、そこまでの実感はまだない。それに、使いこなして自分のものにするにはまだまだ課題も多いのだ。
一晩明けて、私とルカ様にはする事がたくさんあった。村長への報告(と言ってもルカ様のほうがこの村では立場が上なので、村長がこちらへ来るのだけど)と、館の皆への報告。昨夜の騒ぎの説明と、合間にあちこちで生えてきたり大きくなったりした草花の片付け……。
私はルカ様にお願いして、チャージ法のことだけは皆には伏せてもらった。さすがにルカ様もそこは理解して下さった。……言える訳がない。チャージ法『精を受ける』だなんて。そう、ルカ様に貫かれた最初のときに顕現しなかった理由がそれだった。
そういう訳で、皆にはルカ様が説明した。
「昨日リタが魔力を顕現したのは、もう知っているだろう」
食堂に皆をあつめ、ルカ様が話しはじめる。リタは一晩たって少しは反省したのか……は分からないけど、それでもちらりと得意気な表情がのぞいた。
「加えてもうひとつ知らせることがある。昨夜ミアは私と一緒に古い文献を調べていて……、そこにあった非常に複雑な呪文を口にしたとき、ミアの魔力が顕現した」
皆が歓声をあげて私をみる。エリンは黙っていたが、満面の笑みで私に頷いてくれた。
「過去にもあったのだが、非常に高い魔力が顕現したとき、自分では制御できずに魔法を放ってしまうことがある。昨夜の光と、植物の急な成長はミアの魔法によるものだ」
こんどは驚きの声があがる。
「それと、いずれ分かることだから言う。ミアは4属性を持っている」
驚きの声より、息をのむ音が響いた。エリンも目を丸くしている。
「そのぶん教えなくてはならないことも多い。だからといって、ミアを特別扱いするようなことはない。顕現が早かろうと遅かろうと、魔力がどうだろうと関係ない。皆、私の弟子に違いはない。そのあたりを勘違いしないように」
ルカ様が食堂を出ていくと、エリンが私に飛び付いてきた。
「ミア! 良かった、ほんとに良かったぁ!」
「うん……。ありがとうエリン」
「絶対大丈夫だっていったでしょ、あたし!?」
エリンが喜んでくれるのが嬉しくて、私も笑顔になれた。
「うん、エリンが励ましてくれたおかげだよ」
そこへ他の子たちも声をかけてくる。
「ミアさん、おめでとう!」
「4属性なんてすごいです、初めて聞きました」
その中には昨日私の噂をしていた子たちもいたけれど、私は素直にお礼を言った。
「ありがとう、みんな。昨夜は驚かせちゃってごめんね」
気まずかったのか、リタはいつの間にかいなくなっていたけど、私はもう気にしなかった。
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