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9・魔導師修行 上
しおりを挟むそれから10日ほど経った。
私はルカ様にかなりの時間を割いていただいて、魔法の習得と制御に励んでいた。顕現したときには分からなかった魔力の数値も、自分で視ることができるようになった。いまでは8200を超えている。そのわりには、まだ使える魔法が限られているせいか、さほど魔力が減ることもなかった。
この世界の魔法は6つの属性からなっている。
火、水、風、土。そして光と闇。
火は、もちろん炎。魔力に応じて熱も操る。
水は、水から派生するすべて……氷、雪、霧など。
風は、当然風。加えて雲から雷までも操ることができる。
土は、そのものに加えて、人によっては植物を。ルカ様に薬草の知識をいただいた私には、更に強力な力になる。
それから、光と闇。一般的には、光は白魔法、闇は毒や呪いのイメージで、確かにそれは正しいのだけど。どちらも使うものの魔力とイメージ次第で、幅広い効果を求めることができるらしい。
魔法を操るには、魔力の高さに加えて意思の力が重要で、より具体的に思い描いて魔法を放てば高い効果が得られる。
「強い意思の力と想像力があれば、詠唱なしで魔法を使うことも珍しいことではない」
ルカ様はそう言う。
反対にそういうことが不得意なものや、複雑な効果を求めるようなときは、あらかじめ呪文を用意しておけば、それを唱えるだけで常に同じ効果を出せる。
「魔力の少ない者は使う魔法の数も限られるからな。呪文をいくつか覚えるほうが効率がいい。だがミア、おまえはそれでは駄目だ。いずれ何百もの呪文を唱えることになる。それならはじめから、詠唱に頼らない方法を身につけろ」
反対に術を使うには、呪文のほうが楽なのだそうだ。
「ほとんど同じ効果を求めるものだからな。たとえば鍵をかけるのに強弱は必要ない」
ただしその呪文は、自分で編み上げないとならないそうだ。私はまだそこまで試みる余裕はないけれど。
この10日で、私は変わった。魔力が顕現して自信がついたのはもちろんだけれど、まず見た目が変わったのだ。
もともと私の髪は、ほんのり緑がかった淡い黄色だった。それが顕現以来、急に伸びてきて、肩くらいだった髪が腰に届くようになった。色も緑が濃くなって、エメラルドグリーンになりつつある。
ほんの少しだけど背も伸びた。そして、なぜか、胸まで大きくなって……。エリンに言わせると顔も大人っぽくなったとか……。
ルカ様はこの変化を「いままで顕現できない間に押さえつけられていたのだろう」と、あまり不思議がってはいない。
なにしろ何年も顕現しなかったと思ったら4属性持ちという異例ずくめなので、ルカ様がそう言うならそうなのだろう、と皆納得してしまうのだ。
そして、いよいよ魔物退治にも使えるような、強力な魔法を習得するための訓練がはじまった。
ルカ様と村を出て1時間ほど歩くと、大きな川のほとりへ出た。その両岸は広い草原になっていて、見渡す限り人はいない。
「いいか、ミア。強力な魔法ほど、短時間で集中してイメージを放たなくてはならない」
「はい、ルカ様」
確かにそうだ。魔物を前にして、悠長にイメージをふくらませている余裕はない。かといって、焦って中途半端な魔法を放っても逆効果になる。
「だから、日頃の訓練で想像力を働かせ、イメージをつくっておくんだ。そうすればそれを思い出すだけで、強力な魔法を放てるだろう」
そこでルカ様は少し考えて言った。
「例えば、竜巻をおこせ、と言われてできるか?」
「竜巻、ですか?」
私は戸惑う。竜巻というものが何かは知っている。でもそれは、本や人から聞いた話でしかない。精一杯のイメージをふくらませて、「竜巻」と言いながら放ってみたが、やはりほんのつむじ風くらいにしかならなかった。
「できません……」
ルカ様は頷く。
「当然だ。では見なさい」
ルカ様は一瞬遠い目をした。その直後。
ゴオオオオオォォォォッッ!!
俄に空が暗くなり、草原の真ん中に轟音とともに巨大な渦巻く風の柱が出現した。
「きゃあっ!」
思わずルカ様にしがみつく私を腕で庇いながら、ルカ様は何か唱える。すると竜巻は空に吸い込まれるように消えていき、もとの何もない草原に戻った。
「すごい……」
「分かるか?」
「ええと、見たことの無いものはイメージが難しいです」
「そうだ。絶対に出来ないわけではないが、何度も繰り返してイメージをつくっていかなくてはならないだろう。では、もう一度竜巻をやってみろ」
私はさっきの光景を思い出す。真っ暗になった空を、響きわたる轟音を、思わずルカ様にしがみついた猛烈な風を。
「竜巻!」
ゴオオオオォォォッッ!!
できた! ルカ様のほど迫力はないけど、最初のよりは竜巻になっている。
「よし、では消してみろ」
さっきのイメージを思い出す。空に吸い込まれるように消えた竜巻。
「空へ!」
消すほうはすんなりいった。
「できた……」
私はへなへなとその場に座り込む。
ルカ様は私に微笑んだ。
「よくできた。一度みてここまで出来るなら、何度も繰り返せばもっと大きなものも出せるだろう」
だいぶ暗くなってきた帰り道、ルカ様はと私はさらに魔法について話していた。
「私は火属性を持たないが、水属性で桶に水ではなく湯を入れることができる。何故か分かるか?」
「ええと……火で沸かすのではなくて……温泉のお湯、ですか?」
ルカ様は可笑しそうに笑う。
「それも一つの方法だ。私は、水が温まり蒸気になるまでをイメージして、その途中の良い温度を注ぐのだ。……では、同じく火属性なしで炎を得るには?」
「ええ? ……ルカ様、それは無理なのでは?」
「風属性があれば雷を落とせる。落雷でものを燃やせば炎がでるだろう。あと、おまえならば土属性から鬼火が作れると思うが」
「なるほど……」
「属性というのは、厳密に別れているようでそうではないのだ。自然界の力はそれぞれ関わりあい、影響しあっている。だからうまくイメージをつないでやれば、一見異なる属性を一つの魔法として使うことも不可能ではない」
ルカ様の話に不要なものはひとつもなかった。私はひとつも聞き漏らすまいと耳を傾けた。
さらに翌日も、私は草原で強力な魔法を練習した。いくつかは実戦で使えそうなレベルに達し、他にもだいぶイメージが固まってきて嬉しかった。
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