魔導師ミアの憂鬱

砂月美乃

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10・魔導師修行 下

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 そして夜、部屋で魔力を視た私は考えこんだ。上限がまた上がって、8350。現在値が、3100。これは、そろそろチャージをしないといけないだろうか。でも、それにはまたルカ様に……。
 そこまで考えて私は、今まで自分のチャージ法のことを本当には理解していなかったことに、初めて気がついた。

 いくら私の魔力が高くても、私の場合、自分一人ではチャージすることができない。今の私にはその都度ルカ様にお願いするしか方法がない。だいたいそのお願いを、自分からルカ様にできる自信がない。
 それでは私はどこにも行くことができない。どこへ行くにもルカ様と一緒なんてあり得ない。

 誰かと結婚できれば、それが一番いいのはもちろん分かるけれど。それではせっかく手に入れた、魔導師としての人生を諦めることにもなりかねない。
 だからといって、まさか行きずりの相手と、なんてことができる訳がない。

 魔力を手に入れて舞い上がっていた気持ちが一気に覚めて、その夜私は眠れなかった。





 翌日。
 今日は草原ではなく、鬱蒼とした森の中に来ていた。ここには小さな魔物も出る。いよいよ実戦訓練、といったところだ。
 まずは森の中という環境を生かして、土属性の魔法を練習する。
「どうした、ミア? もっとしっかりイメージを固めて集中するんだ」

 ルカ様の言うとおり、今日の私は全く集中が出来ていなかった。
 土の壁はぐしゃっと崩れ、絡み付くはずの蔓草はぶちぶちと千切れる。ついに小さな鼠の魔物に逃げられた時、ルカ様が声をあげた。

「やめろ! 魔力の無駄だ」
ルカ様はつかつかと私の正面にやって来て言った。
「ミア、今の魔力はいくつだ」
黙っていたところで、もうルカ様には見えている。
「1600です……」
 ルカ様は頷く。
「ふん、そうだな。……何故私に言って来ない? いや、まだ魔力切れにもなっていない筈だ。ならばその精彩の無さはなんだ!?」

「……ゆうべ、ルカ様にお願いしなくては、と考えていたんです。でも恥ずかしくて、ためらっていて……。その時に気がついてしまったんです」
ルカ様は静かな声で「言ってみろ」と促す。
「私は自分一人では絶対に魔力をチャージできません。誰かと結婚できたとしても、相手に理解がなければ、魔導師にはなれません。魔導師として旅をしてみたかったけど、まさか誰でもいいからとか言う訳にはいきません。ルカ様、私はどうしたらいいんですか!?」

 ルカ様は私の頭をそっと撫でた。
「ミア、自分一人でそこまで考えが至ったことは誉めてやる。だが、目の前のことをしないうちに、その先のことを心配してはいけない。今できることをしない者に、それ以上の未来が来ると思うのか」

「今できること……?」
「そうだ。今おまえがいったことは、確かに未来に関わる問題だ。だが今なら、私が傍についている限り、魔力のチャージはいつでも可能だ。そしてまだ魔力切れになっていないのなら、心配にとらわれずに訓練すればその成果を得ることもできる。どちらも、今のおまえにできることだ」

 ルカ様は近くの草の上に座り、私も隣に座らせた。
「だが、今のおまえにできることを、おまえはしなかった。結果、下手をすれば魔力切れになって倒れたかもしれず、集中を欠いて下級の魔物にやられたかもしれない。できることをしておかなかったばかりに、未来はおまえの手から逃げていったかもしれないんだ」
「ルカ様……」
「分かるか。おまえには大きな夢ができた。夢や願いが大きなものであるほど、努力して自分を高める必要があるんだ。そうなって初めて、夢はおまえの手の届くところに近づいてくる」

「すぐではない。だがミア、探すんだ。魔導師のおまえを理解し、共に行動できる、そんな男がきっといる筈だ。逆に、そんな男に会えたとき、その目に今のおまえはどう映る? 魔法もまだろくに使いこなせず、小物にさえ逃げられる魔導師を、共に生き、支えよう……そう思ってもらえると思うのか?」

 ルカ様の言葉は、私の心に染み込んで、身体中を優しく撫でて行くようだった。私は座り直し、ルカ様に頭を下げる。
「すみません、ルカ様。私が未熟でした。もう一度練習させて下さい!」
ルカ様は笑って頷き、更にいった。
「帰ったらチャージもだな」

「ぅ……お願いします……」
やっぱり、恥ずかしいものは恥ずかしいのです……。





 ルカ様のお説教で気合いを入れ直した私は、その後は魔法を失敗することはなく、ルカ様も満足そうに笑って下さった。そして館に帰り、皆と食事を済ませ━━━私はルカ様の部屋にいた。


 ちなみにルカ様の館というのは、北側に森を背負った、村の外れに建っている古い大きな館で、3棟からできている。
 正面の一番大きな棟がルカ様のもともと住んでいたところで、魔法を教えるようになった今は、そのための部屋や食堂などになっている。その両脇に少し小さな棟が建っていて、片方は私たちが住む、寮のような小さな部屋が並んだ建物。

 そして一番奥まったもう1つが、現在ルカ様が暮らす棟。小さな子は入るのも恐ろしい、上から下まで重い本だらけの薄暗い図書室と(魔法や薬草の)作業部屋、そしてルカ様の書斎。書斎の奥に更に寝室。寮の棟からここまで来るには、正面の棟を通るか中庭をつっきる必要があって、実は意外に遠い。


 だから私がルカ様の部屋に入るところを見られる可能性は少ないけれど、私が顕現して大人としてみられるようになった以上、気をつけておく必要がある。

 ルカ様は私に1枚の布を貸して下さった。それはルカ様の術を施したもので、それを被っていれば姿が見えなくなるものだという。もっとも、ルカ様くらいの高魔力の人には効かないけれど。
「これで安心して来られるだろう。いずれ自分でもこういうものを工夫してみなさい」
 興味津々で布を巻き付けた私を、ルカ様は笑って。

 布ごと、私を抱き上げた。
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