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20・護る、とは 下
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「今、エリスから連絡がありました。グリフと二人で町を案内しに出るそうです。当然、宿まで送りますからご心配なく」
カインの報告に、ルカは頷いた。
「……感謝する、カイン殿」
「ありがとうございます。―――で、お話しいただけるのですね?」
ルカは座り直し、カインの目を見つめる。
「先に言っておくが、この先話すことは他言無用だ。他の二人に話すかどうかはカイン殿の判断に任せるし、必要なら私から話してもいい」
カインも頷いた。
「分かりました。騎士カインの名にかけて、秘密は守ります」
「―――ミアは15歳になるより前に、私の元に来た。その時すでに、複数の属性の気配を感じ、魔力ももう私に迫るほどに高まって来ていた。……ところがミアは、いつになっても顕現しなかった」
顕現が遅かったことは、噂にもなっていた。
「19歳になる直前だったと聞きましたが」
「そうだ。……魔導師ソフィアの話を聞いたことは?」
「いいえ、存じません」
ルカは頷き、ソフィアの話から始める。
途中で、カインの目に理解の色が浮かんだ。
「ルカ師、では……ミア殿も……?」
「そうだ。私が抱いて顕現させた」
さすがのカインも、咄嗟に言葉が出なかった。ミアの陥っていた状況は分かるが、伝説的な名声を誇るルカが、いわば子供に手を出すという、外に漏れたらこの国ではすべてを失うような行動に出たのだ。
「あれは顕現が遅すぎるせいで婚約者にも捨てられてしまっていたし、顕現時に無意識でどんな魔法を放つかという恐れもあった。……私がすべてを負うのが最善だったのだ」
「ルカ師……」
「もし想像が外れていたら、私はすべてを捨てることになっても、あれを娶る覚悟だった」
「そんなに……それほどに彼女が?」
「ミアにとっては幸か不幸か、私はあれに対して師としての愛情しか持っていなかったよ」
ルカは自嘲するように笑った。
「だが、カイン殿、君も見れば分かったろう? あれだけの素質を、顕現できないまま眠らせてはおけなかった。私は自分のしたことを悔いてはいないよ」
そう言いきって長い息を吐いた。
「カイン、ちなみにこの件は、ルカと私、それに魔導長官の3人しか知らない」
黙って会話を聞いていた国王が口を開いた。
「顕現の事情を鑑みて、記録上はそのあたりをぼかしてあるし、公には『魔導師ミアのチャージ法は古い特殊な呪文』としてある。ルカにミア、また今後君たちが関係しても、何らかの罪に問われることはない」
「記録を? そこまでする理由は何故なのですか、陛下?」
「ミアのチャージ法を知られてはならないのだ。……国を守るためには、当然の措置だ」
さすがのカインも意味を理解しかねた。するとルカが説明する。
「ミアが例えどんな強力な魔法を持っていようとも、魔力が補給できなければ恐れる必要などない。反対に、無尽蔵に補給できるならば、この町を破壊し尽くすまで魔法を放ち続けることも可能になる。……つまり、ミアの魔法は、実は―――チャージさせる相手、つまり、ミアの選んだ男次第」
カインは唾を飲んだ。国王が、ルカがここまでミアを心配する本当の理由が分かってきたのだ。
「もちろんミアが、そんなことに加担する筈はない。だが人ひとりを言いなりにする方法などいくらでもある。百年前、魔導師ソフィアが王妃に迎えられた理由には、それもあると思う。対抗勢力に利用されないように、だ」
国王が横でほろ苦い顔で笑う。
「その通りだ。もし今私が独身なら、迷わずミアを妃に迎えねばならなかっただろう。ミアを手に入れたものこそが、強大な力を得るのだから。……だからと言って、7歳の皇子の相手にも出来ない。ルカのしたことは、ミアの為であると同時に、この国を守ることでもあったのだよ」
そこまで話した国王は、そこで威儀を正した。
「さて……その上で尋ねる、騎士カインよ」
カインはすっと背筋を正して王をみる。
「はい、陛下」
「そなた、それでも魔導師ミアを護る意志があるか?」
◆◇◆
魔導師のローブのままでは目立ってしまうから、とエリス様に言われた私は、一度宿に寄って村から着てきたワンピースに着替えた。ルカ様にいただいた首飾りは服の下に着けている。グリフ様がワンピース姿を気に入って、ものすごく誉めて下さったのが恥ずかしいけれど、昨日と違ってなぜか少し嬉しい。
王宮の中と違ってお二人が自然にしているからなのか、私も緊張することなくお話しできた。
「ではミア殿、どこから行きますか?」
エリス様のこの口調はほとんど地なんだ、とグリフ様が言ったので、気にしないことにした。でもひとつ、気になることは……ある。
「見たいものがあれば言ってくれよ、ミア殿?」
「あの、お願いがあるのですが……」
思いきって言ってみることにする。
「あの、私……今はこんな格好してますし……、ミア殿、は止めていただけると……」
するとお二人が揃ってこちらをむいた。
「お二人とも歳上でいらっしゃるし、どうぞミアとお呼び下さいませんか?」
エリス様が声は潜めつつも、若干焦りぎみで言う。
「し、しかしミア殿、貴女は仮にも魔導師で……」
「では公の場ではそれで。今は却って目立ってしまいそうで……ダメですか?」
お二人とも背が高いので、下から見上げてお願いするかたちになってしまった。これでは失礼かな?と思っていたら、上からグリフ様の大きな手が、私の頭をぽんぽんと叩いた。
「うん、あんたのいう通りだ、ミア。じゃあ今だけそう呼ばせてもらうよ」
ニコニコ笑うグリフ様の後ろで、エリス様は何故か赤くなってぶつぶつ言っている。
「エリス様……?」
やっぱり駄目だろうか、心配になって声をかけると、エリス様は観念したように息を吐いた。
「わかりました。……ミア、ですね」
「ありがとうございます!」
「よし、じゃあ、ミア? まずは冷たいものでも飲まないか? オレは訓練の後なんで、喉が渇いてるんだ」
「はい! ここは何が美味しいんですか、グリフ様?」
あっという間に馴染んだグリフ様の後ろからついて歩きながら、エリス様がまたひとつ息を吐いたことは、私は知らない。
◆◇◆
魔導師ミアを護る、とは。
「それは、ルカ師のかわりにミア殿を……ということなのですか……?」
「そのとおりだ。同じ魔導師の、しかも師である私が、あれがいくところ全てに共に赴くなど不自然すぎる。そもそも私は村から離れる気はない」
「その点、騎士の私達となら、魔導師が一人同行してもごく当然、ということなのですね」
ルカは頷く。
「嫌なら断ってくれても良い。秘密さえ守ってもらえれば構わん。陛下が昨夜のような形をとられたのも、命令されることなく判断をして欲しかった……できれば自然に知り合い、理解を深めて欲しかったからだ」
カインはしばらく考えこんだ。
「……やはりエリスとグリフにも、話をしたいと思いますが」
「先に言ったとおりだ、問題ない。信じ難ければ私に直接聞けと言え」
「わかりました。ルカ師、明日の朝早くにもう一度お目にかかれますか?」
またルカが頷く。そこへ国王が言った。
「その時はまたここを使え。……それと、カイン?」
国王にしては躊躇うようなその言い方に、カインは不思議そうに、続く言葉を待つ。
「昇進で縛ろうとする……と誤解されるかもしれぬが……。場合によっては、そなたの『勇者』の称号を早めても良いと思う。称号を受ければ、そなたは王の命令を待つことなく、選び抜いた小隊を持って動くことができる。そこに魔導師を加えることも自在にできる。……全てに都合が良いと思うが……、これも考えてみてくれ」
カインは一礼して退出しようとし、そこで立ち止まった。
「陛下、ルカ師。ミア殿の意向は如何なのでしょう?」
国王は答えようとはしない。ルカが低い声で言った。
「正直、あれを泣かせることはしたくない。だが、あれの気持ちなど無視しても、おまえ達に押し付けてしまいたい……それも本当だ」
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