魔導師ミアの憂鬱

砂月美乃

文字の大きさ
20 / 104

20・護る、とは 下

しおりを挟む


 ◆◇◆

「今、エリスから連絡がありました。グリフと二人で町を案内しに出るそうです。当然、宿まで送りますからご心配なく」
カインの報告に、ルカは頷いた。

「……感謝する、カイン殿」
「ありがとうございます。―――で、お話しいただけるのですね?」
ルカは座り直し、カインの目を見つめる。

「先に言っておくが、この先話すことは他言無用だ。他の二人に話すかどうかはカイン殿の判断に任せるし、必要なら私から話してもいい」
カインも頷いた。
「分かりました。騎士カインの名にかけて、秘密は守ります」


「―――ミアは15歳になるより前に、私の元に来た。その時すでに、複数の属性の気配を感じ、魔力ももう私に迫るほどに高まって来ていた。……ところがミアは、いつになっても顕現しなかった」
顕現が遅かったことは、噂にもなっていた。

「19歳になる直前だったと聞きましたが」
「そうだ。……魔導師ソフィアの話を聞いたことは?」
「いいえ、存じません」
ルカは頷き、ソフィアの話から始める。
 途中で、カインの目に理解の色が浮かんだ。
「ルカ師、では……ミア殿も……?」
「そうだ。私が抱いて顕現させた」


 さすがのカインも、咄嗟に言葉が出なかった。ミアの陥っていた状況は分かるが、伝説的な名声を誇るルカが、いわば子供に手を出すという、外に漏れたらこの国ではすべてを失うような行動に出たのだ。

「あれは顕現が遅すぎるせいで婚約者にも捨てられてしまっていたし、顕現時に無意識でどんな魔法を放つかという恐れもあった。……私がすべてを負うのが最善だったのだ」
「ルカ師……」
「もし想像が外れていたら、私はすべてを捨てることになっても、あれを娶る覚悟だった」

「そんなに……それほどに彼女が?」
「ミアにとっては幸か不幸か、私はあれに対して師としての愛情しか持っていなかったよ」
ルカは自嘲するように笑った。
「だが、カイン殿、君も見れば分かったろう? あれだけの素質を、顕現できないまま眠らせてはおけなかった。私は自分のしたことを悔いてはいないよ」
そう言いきって長い息を吐いた。


「カイン、ちなみにこの件は、ルカと私、それに魔導長官の3人しか知らない」
黙って会話を聞いていた国王が口を開いた。
「顕現の事情を鑑みて、記録上はそのあたりをぼかしてあるし、公には『魔導師ミアのチャージ法は古い特殊な呪文』としてある。ルカにミア、また今後君たちが関係しても、何らかの罪に問われることはない」

「記録を? そこまでする理由は何故なのですか、陛下?」
「ミアのチャージ法を知られてはならないのだ。……国を守るためには、当然の措置だ」
 さすがのカインも意味を理解しかねた。するとルカが説明する。

「ミアが例えどんな強力な魔法を持っていようとも、魔力が補給できなければ恐れる必要などない。反対に、無尽蔵に補給できるならば、この町を破壊し尽くすまで魔法を放ち続けることも可能になる。……つまり、ミアの魔法は、実は―――チャージさせる相手、つまり、ミアの選んだ男次第」

 カインは唾を飲んだ。国王が、ルカがここまでミアを心配する本当の理由が分かってきたのだ。

「もちろんミアが、そんなことに加担する筈はない。だが人ひとりを言いなりにする方法などいくらでもある。百年前、魔導師ソフィアが王妃に迎えられた理由には、それもあると思う。対抗勢力に利用されないように、だ」

 国王が横でほろ苦い顔で笑う。
「その通りだ。もし今私が独身なら、迷わずミアを妃に迎えねばならなかっただろう。ミアを手に入れたものこそが、強大な力を得るのだから。……だからと言って、7歳の皇子の相手にも出来ない。ルカのしたことは、ミアの為であると同時に、この国を守ることでもあったのだよ」


 そこまで話した国王は、そこで威儀を正した。
「さて……その上で尋ねる、騎士カインよ」
カインはすっと背筋を正して王をみる。
「はい、陛下」
「そなた、それでも魔導師ミアを護る意志があるか?」



 ◆◇◆

 魔導師のローブのままでは目立ってしまうから、とエリス様に言われた私は、一度宿に寄って村から着てきたワンピースに着替えた。ルカ様にいただいた首飾りは服の下に着けている。グリフ様がワンピース姿を気に入って、ものすごく誉めて下さったのが恥ずかしいけれど、昨日と違ってなぜか少し嬉しい。

 王宮の中と違ってお二人が自然にしているからなのか、私も緊張することなくお話しできた。
「ではミア殿、どこから行きますか?」
エリス様のこの口調はほとんど地なんだ、とグリフ様が言ったので、気にしないことにした。でもひとつ、気になることは……ある。
「見たいものがあれば言ってくれよ、ミア殿?」
「あの、お願いがあるのですが……」
思いきって言ってみることにする。

「あの、私……今はこんな格好してますし……、ミア殿、は止めていただけると……」
するとお二人が揃ってこちらをむいた。
「お二人とも歳上でいらっしゃるし、どうぞミアとお呼び下さいませんか?」
 エリス様が声は潜めつつも、若干焦りぎみで言う。
「し、しかしミア殿、貴女は仮にも魔導師で……」
「では公の場ではそれで。今は却って目立ってしまいそうで……ダメですか?」
 お二人とも背が高いので、下から見上げてお願いするかたちになってしまった。これでは失礼かな?と思っていたら、上からグリフ様の大きな手が、私の頭をぽんぽんと叩いた。

「うん、あんたのいう通りだ、ミア。じゃあ今だけそう呼ばせてもらうよ」
ニコニコ笑うグリフ様の後ろで、エリス様は何故か赤くなってぶつぶつ言っている。
「エリス様……?」
やっぱり駄目だろうか、心配になって声をかけると、エリス様は観念したように息を吐いた。
「わかりました。……ミア、ですね」
「ありがとうございます!」


「よし、じゃあ、ミア? まずは冷たいものでも飲まないか? オレは訓練の後なんで、喉が渇いてるんだ」
「はい! ここは何が美味しいんですか、グリフ様?」
あっという間に馴染んだグリフ様の後ろからついて歩きながら、エリス様がまたひとつ息を吐いたことは、私は知らない。



 ◆◇◆

 魔導師ミアを護る、とは。

「それは、ルカ師のかわりにミア殿を……ということなのですか……?」
「そのとおりだ。同じ魔導師の、しかも師である私が、あれがいくところ全てに共に赴くなど不自然すぎる。そもそも私は村から離れる気はない」
「その点、騎士の私達となら、魔導師が一人同行してもごく当然、ということなのですね」
ルカは頷く。
「嫌なら断ってくれても良い。秘密さえ守ってもらえれば構わん。陛下が昨夜のような形をとられたのも、命令されることなく判断をして欲しかった……できれば自然に知り合い、理解を深めて欲しかったからだ」


 カインはしばらく考えこんだ。
「……やはりエリスとグリフにも、話をしたいと思いますが」
「先に言ったとおりだ、問題ない。信じ難ければ私に直接聞けと言え」
「わかりました。ルカ師、明日の朝早くにもう一度お目にかかれますか?」
またルカが頷く。そこへ国王が言った。
「その時はまたここを使え。……それと、カイン?」
国王にしては躊躇うようなその言い方に、カインは不思議そうに、続く言葉を待つ。

「昇進で縛ろうとする……と誤解されるかもしれぬが……。場合によっては、そなたの『勇者』の称号を早めても良いと思う。称号を受ければ、そなたは王の命令を待つことなく、選び抜いた小隊を持って動くことができる。そこに魔導師を加えることも自在にできる。……全てに都合が良いと思うが……、これも考えてみてくれ」
 カインは一礼して退出しようとし、そこで立ち止まった。


「陛下、ルカ師。ミア殿の意向は如何なのでしょう?」
国王は答えようとはしない。ルカが低い声で言った。
「正直、あれを泣かせることはしたくない。だが、あれの気持ちなど無視しても、おまえ達に押し付けてしまいたい……それも本当だ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された皇后を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...