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30・カイン様と 下
しおりを挟む「ミア……」
カイン様が私に口づける。もう唇は腫れてはいないし、身体も動く。
「すごいな、チャージと同時に回復されるのか……」
そう、私が顕現したときに無意識に魔法を放ったと思っていたが、回復のほうはそれ以後もチャージの度に自動的に発動していた。おかげでカイン様にあんなにされても動けるのだけど……。
「便利だな、……これならもう一度いけるんじゃないか?」
「……絶対だめです」
「でも安心した。これなら少しくらい責めすぎても心配ないな」
「……カイン様」
涙目で睨むとカイン様が嬉しそうに笑う。
「冗談だ。もう今夜は何もしない。……このまま一緒にいていいか?」
カイン様は朝まで私を抱いていた……。
翌日。
カイン様は今日は「勇者」のさまざまな定めや恩恵などの確認や、王宮での書類仕事がたくさんあるのだとか。なのに朝からご機嫌で、エリス様とグリフ様の冷たい視線も一切無視して出かけていった。
ウェイン様がその様子を面白そうに眺めていた。
私は今日は、作業部屋を少し整えるつもりでいた。エリス様にお願いして揃えてもらった道具をならべ、窓際の植木鉢には昨日ルカ様にいただいた種を植え付ける。手をかざして引き上げると、鉢には何種類かの花が咲き揃った。
「へえ、すげぇな」
大した魔法は使わない予定だったので、扉は開け放っておいた。見るとグリフ様が覗きこんで笑っている。後ろにはエリス様もいた。
「少しいいか?」
「もちろんです。この部屋でいいんですか?」
私は机の上を空けた。
作業部屋なので、椅子は2つしかない。グリフ様は机に寄りかかって立ち、あれこれ珍しそうに眺めている。
エリス様が私を見て、決まり悪そうに言い出した。
「ミア、あの……真面目な話なんだ。……昨夜のカイン、どうだった?」
昨夜の……。
カイン様?
意味がわかったとたん、一気に顔に血が上った。
「な……」
一言発したきり、真っ赤になって固まった私に、エリス様もそれ以上言い出せない。グリフ様がため息をついて言った。
「待ってくれ、ミア。エリスもその言い方はないだろ?」
そして私の前にきて床に胡座をかいて座った。
「まずは聞いてくれ。ミア、オレたちはカインを心配してるんだ」
「カイン様を?」
カイン様を心配って……、あんなに立派な方の、何を心配するんだろう?
グリフ様はごく真面目に頷く。
「不思議に思うか? でもミア、考えてみてくれ。あいつはオレたちの中で一番歳下なんだ」
「……そうなんですか?」
「ああ。あいつは26歳、エリスが1つ上の27歳、オレが29歳。ミアは、オレたち騎士がどうやって集められるか知ってるよな? 13・4のガキの頃から王宮に来て教育を受けて、正式に騎士になるのは17歳だ。そこから10年足らずで全ての騎士を置いて勇者の称号を受ける……いくらモース殿の引退が重なったとは言え、どれだけすげえことか分かるだろ?」
私は頷く。ただ「すごい方だ」と思っていたけれど、言われてみれば、確かにそうだ。
エリス様も続ける。
「僕らはカインが王宮へ来たときから知ってる。身体こそ少年だったけど、あの頃からカインは、なんと言うか……完璧だった。こいつは手柄をたてる、いつかは勇者の称号を授かる奴だ。カインが15にもならないうちに、皆がそう噂したものだ」
「確かに才能はあるだろう」
グリフ様が身を乗り出した。
「だけど、そんな完璧な奴が普通いるか? ほとんど失敗もしねえ、オレら以外の前では馬鹿もやらねえ。……どっかに無理があるんじゃないか?」
「僕ら、3人が親しくなって、初めてカインにも馬鹿なとこや弱点があることを知ったんだ。それも騎士になってからのことだよ」
私にもなんとなく、2人が心配している意味が解ってきた。
「そんなカインが本当に勇者になった。才能も剣の腕も、もちろん誰も文句なんかつけられねえ。……だからこそ、オレたちは心配するんだ」
「カインは弱音をはくことが下手なんだ。何でも自分で背負って抱え込んで。……まあ大抵はそれで解決できちゃう奴なんだけど」
「で、さっきの質問に戻るわけだ」
グリフ様が座り直して、私と目の高さを合わせてくれる。
「別に、奴の性癖なんか聞く訳じゃねえよ。……まあそれでも聞きにくいか。昨夜、ミアと一緒にいる間、アイツの様子、特に変わったとこなかったか?」
少しだけ頬に熱を感じるけれど、なるべく冷静に考えてみる。
「……特には、分かりません。私には……いつもの自信と余裕のあるカイン様に見えました」
エリス様が頷いて言った。
「だと思ったよ。ミアには絶対に弱いとこなんか見せたくないだろうからね」
「ミアに見せられるようになったら、オレらが心配することもないんだけどな」
「本当に、いいお仲間なんですね……」
私は心から言った。
グリフ様が笑う。
「まあな。今となっては、家族みたいなもんだ」
「出来のいい奴だけにね、誰かが心配してやらないと」
エリス様も重々しく頷く。
うらやましいな、と思っていたら、グリフ様が立ち上がって、私の頭をぽんぽんと撫でた。
「おいおいミア、おまえももうその一員なんだぞ? 他人ごとみたいに聞いてるなよ」
「え?」
「そうだよミア。こうして1つ屋根の下に住んで、これからの運命を共にするんだ。他人ではいられないよ?」
エリス様もグリフ様も、真剣な目で私を見てくれる。
「はい!」
私も真剣に応えたい。
「ウェイン様も、一緒ですよね?」
「ウェインがそう言ってくれればね」
「さしずめ親父の役かねえ……」
その時にふと思った。
カイン様が、もしも疲れた時に。私が癒しになれたらいい、と。もちろんカイン様だけではなくて、エリス様、グリフ様も、もし必要として下さるならウェイン様にも。
そういう存在になれるように、私は努力する、そう決めた。
それなら、魔力のチャージのためだけでなく、3人が望んでくれるならば……私からも癒しをあげられる。
しばらくは、そう考えていこう。
顕現してからの迷いが、やっと少し軽くなった……。
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