魔導師ミアの憂鬱

砂月美乃

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31・流石です

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 エリス様とグリフ様が、私の作業部屋へ来てカイン様の話をしたその後。2人は王宮の訓練場に出かけ、私は1階の食堂で昼食をとっていた。


 ちなみにここ「勇者の館(と呼ばれるらしい)」には、モース様の時から続けて働いてくれる、通いの女性がいる。私の母と祖母の中間くらいの歳で、アンナさんという優しい方だ。

 アンナさんは朝10時頃に来て、館内の1階、共有部分のお掃除と騎士様達のお洗濯(私は魔法を使って自分でします)をし、夕食を用意して5時頃帰る。昼食は頼めば作ってくれるそうで、ウェイン様は時々食べているようだ。

 基本的に、朝食と昼食はそれぞれ勝手に作ったり買ったりすることになった。いずれ訓練や討伐で帰らない日も多くなるし、もともと騎士の寮ではそうだったようで、皆慣れている。アンナさんがスープなどを作り置いてくれることも多く、それで充分だった。


 ちょうど食べ終えてお茶を飲もうとした時、ウェイン様が帰ってきた。
「よう、嬢ちゃん。ついでに俺にももらえるか?」
ウェイン様はにっこり笑って、私の斜向かいに座った。
「お帰りなさい、ウェイン様」
私も笑って、すぐにウェイン様のぶんもカップを出してお茶を淹れる。

「昨日は大丈夫だったかい? 初めてのことばかりってのは疲れるもんだよな」
ウェイン様と話をするのは、とても楽しい。私のことを気遣ってくれているのに、それを感じさせない軽妙な話しぶりで、話しやすいのだ。

「確かに疲れましたけど……、でも一生の記念ですし」
ウェイン様が頷いてくれる。
「ま、たまにゃ俺みたいに2度目の式典に出る奴もいるがな」
「そうですね。やっぱりさすがの余裕でしたよね、ウェイン様。あの後飲みに行かれたんでしょう?」
「ああ、まあな。……ところで嬢ちゃん、カインと寝たんだろう?」

 げぇほ、げほげほっ!!
 さらりと笑いながらウェイン様が落としてくれた爆弾のおかげで、私はお茶を吹かずにはすんだものの、激しく噎せてしまった。
「おいおい、大丈夫か嬢ちゃん?」
「うぅ……げほっ、大丈夫、です……」
噎せたせいと、さらにそれとは別の理由で赤くなって涙目な私をみて、ウェイン様が苦笑する。

「その反応……。ほんとに嬢ちゃんは初心うぶだなあ」
「……どうして?」
「分かったのか、ってことか? ……見てりゃ分かるだろ、それくらい」
「……見て分かるんですか?」

「最初から分かったよ、あいつら3人の目を見てりゃな。3人とも、雄が雌を欲しがる目をしてる」
ウェイン様はお茶をひとくち飲んでニヤリと笑う。
「で、今朝のあの様子だ。一目瞭然だろ? あんなに上機嫌になるなんて、あいつにも可愛いとこがあるんだな」

 ……流石です、ウェイン様……。

「ただよ、他の2人も分かってるんだよな? あいつらのことだから心配ないとは思うが、それで仲違いなんてことは……」
そこまで言いかけたウェイン様は、私の顔を見て他にも何かあることに気がついたらしい。
「……どうした? ……おい、まさか……嬢ちゃん……?」

 どうしよう。僅かに躊躇ったけれど、今朝の話を思いだし、私は勇気を出してウェイン様に切り出した。
「ウェイン様、聞いていただきたいことがあります」


 カイン様が留守なので、隣の、事務所として使う予定の部屋を借りることにする。ウェイン様に断って、封の術をかけて部屋を閉ざし、音も漏れないようにした。別にアンナさんを信用しない訳ではないけれど、聞いてほしい話ではない。

 そしてすべて打ち明けた。私の魔力顕現のいきさつから、3人のものになれと言われたこと。そして今朝の話と私の思いまで……全部。
 ウェイン様はほとんど口を挟まず、最後まで聞いてくれた。

「これで全部です、ウェイン様」
 ウェイン様は一言も口をきかない。
 どうしよう、やっぱり軽蔑されただろうか。それとも甘いと思われただろうか?
 心の中は不安が渦をまいているのに、私も口をきけない。

 下を向いて座っている私の肩に、ウェイン様が手をかけた。
「嬢ちゃん……」
はっと顔をあげた私が見たのは、微笑むウェイン様。
「ウェイン様!?」
「偉い、嬢ちゃん。よく決心した。……それに、よく打ち明けてくれた……うん、あんたは人を見る目があるぜ」
ウェイン様は私の両肩をつかんで、何度も頷く。
「大丈夫だ、あんたは間違ってないさ。ちょっとぐらい世間と違ったって気にするな。もともと勇者なんて、常識の外の話なんだ」

 よかった、ウェイン様にお話ししたのは間違いじゃなかった。そう思って顔を綻ばせる私を押さえるように、ウェイン様がまた言い出した。


「ただな嬢ちゃん。ひとつだけ覚えておいてくれ。男と女の仲にはいろんなことがある。一人とつき合うんだって、思い通りにはいかない。嬢ちゃんはあの個性の強い3人と付き合っていくんだからなおさらだ。……しかも嬢ちゃんも3人も、距離が近すぎる」
「距離、ですか?」

 ウェイン様は笑いを消して頷く。
「そうだ。同じ家に住んで、同じ職場にいるようなもんだろ? 普通の恋人達なら、喧嘩したって3日も会わなきゃ頭が冷えてくる。嬢ちゃんにはそれが出来ない。……それに場合によっちゃ、3人の間で板挟みになることもあるかも知れない。これは結構キツいもんだぞ?」
まだそこまで考えてはいなかった。そういうものなのだろうか?

「ま、俺の考えすぎってこともある。だが言っておくぞ。もし、本当にそんなことになったら、辛くなりすぎる前に俺を頼ってくれ。嬢ちゃんは俺を家族みたいだと言ってくれた。……親父かじいさんか知らねえが、可愛い娘なら守ってやらねえとな」
ウェイン様は最後は照れくさそうに笑った。




 ウェイン様と話しおえて事務所の扉を開けると、食堂に3人が揃っていた。
「あ、お帰りなさい。カイン様、エリス様、グリフ様」
私が声をかけると、3人が微笑んでくれる。

「2人で何の話してたんだ?」
カイン様が少し心配そうに聞いた。
「なに、ちょっと嬢ちゃんを口説いてただけさ。な、嬢ちゃん?」
ウェイン様の答に目を剥く3人の視線が、そのまま私に移る。私も微笑んで答えた。
「はい。王都一の騎士様に迫られてました」
言いながら、ウェイン様と笑いだしてしまった。


 ウェイン様は部屋に上がり、今度は4人で事務所へ入り、ウェイン様に自分のことを話したと伝えた。

「さすがに、あの陛下の下で長年やってきただけはある……。『酒呑みウェイン』侮れないな……」
「ウェインも若い頃は、相当遊んでたらしいからね」
「やっぱ年の功ってやつか? 敵わねぇな……」

 3人は、ウェイン様に完全にばれていたことがショックだったみたいだけど、私がウェイン様に話せたこと自体は良かったと言ってくれた。ただし、最後に言われたことは伏せてある。ウェイン様にもそう言われたから。


 話し終えて一度部屋に戻ろうとした時、階段でエリス様に呼び止められた。
「今日は僕の番だからね?」
エリス様は私の耳元で囁いて、そのままにっこり微笑んで行ってしまった。


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