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39・ベア討伐
しおりを挟む腰まであるエメラルドグリーンの髪を、邪魔にならないよう長い三つ編みにまとめる。ローブも腰にベルトを巻いて動きやすくし、首飾りはローブの下につけた。
そしてひとつ息を吐き、扉を開けた。すると向かいの部屋からちょうどカイン様が出てきたところだった。
「おはよう、ミア。体調は問題ないか?」
全くいつも通りのカイン様に、ほっとして答える。
「おはようございます、カイン様。大丈夫です」
「よし、行こう」
食堂には他の3人も揃って、村の人が差し入れてくれたスープとパンの朝食を食べていた。
「ようカイン、嬢ちゃんも」
ウェイン様は昨夜、村長さんを相手にずいぶん飲んでいたけれど、今朝は元気そのものだ。エリス様は静かにスープをすすり、グリフ様は豪快に流し込み、お代わりをしている。
早い話がいつもと変わらない風景。
私はカイン様のぶんもスープをよそい、席についた。
多少の緊張でざわめく胃をなだめ、ゆっくりスープを飲みはじめる。
「昨日聞いた話だと、森にいるのはギガントベアだ。デカいだけで特殊な能力はないから、巡回の騎士たちでやれるんだが……今回は数が異常だ」
カイン様が早くもスープを飲み干して言った。同じく食事を終え、優雅にお茶を飲んでいたエリス様も言う。
「普通、ベア系は群れないよね? 最低でも10頭はいるって……なら大量発生してるってこと?」
カイン様が頷く。3杯目のスープに4個目のパンを浸して、グリフ様も首をかしげる。
「この規模の森で大量発生ってのも聞いたことねえけどな……。原因は分からねぇのか?」
「天敵がいなくなったとか、エサの小物が大量発生したとかよ……その手の報告は来てねえのか、カイン」
ウェイン様がお茶にお酒を垂らしながら訊ねたが、カイン様は首をふる。
「この村は小さくて、あまり森の奥まで入る奴も多くないから……」
「ま、行ってみるしかねえか」
ウェイン様に頷いて同意し、カイン様は私に言った。
「ミアは打ち合わせ通り、なるべく奴らの足を止めてくれ。攻撃は余裕のある時でいい。……ギガントベアで1対1ならやられる心配はないはずだが、場合によっては回復が最優先だ。頼む」
「はい」
村の人達に見送られて、歩いて森へ向かった。
森へ入ってから暫くは明るいが、この森は深くなればなるほど鬱蒼として暗くなってくる。途中からは道もなく、時には繁みをかき分けないと進めないくらいだが、土魔法で植物をよけて道をつくり、ついでに帰りの目印に白い花を置きながら進む。
「便利だなぁ、助かるよ」
今までもっぱら切り開く担当だったというグリフ様が喜んで、私の頭を撫でてくれた。
さらにしばらく進んだとき、遠くから獣の咆哮が聞こえた。私はすぐに風の力を使って高い木の枝に上がり、これも風を使って方向を探る。
「南、風下の方向から……たぶん2頭。……来ます!」
ほぼ同時に、ひときわ大きな唸り声と地響きがして……、それが現れた。
ギガントベア。その名のとおり、とにかく巨大な熊の魔物。その巨体は立ち上がると2階家ほどの高さがあり、向かい合うグリフ様が子供に見えるくらいだ。大きすぎる身体ゆえに森の中ではスピードが出にくいが、力は強く、爪の一撃で大木を裂いて倒すという。
4人はすでに剣を構え、準備万端だった。
1頭は繁みから飛び出した瞬間に、エリス様の細身の剣で後ろ脚の腱を切り裂かれる。バランスを崩して倒れた頭を、大剣を振りかぶったカイン様が切り落とした。
もう1頭はグリフ様に正面から突っ込んだ。グリフ様も大剣遣いだけど、カイン様の剣とは違って、はるかに太く大きい。その剣を肩に構えて飛び上がり、2本脚で立ち上がりかけていたギガントベアの心臓めがけて突き刺した。すぐさま後ろへ飛びすさる。そこへギガントベアが血飛沫をあげて崩れ落ちてきた。
「よしよし」
手を出すことなく見ていたウェイン様が満足そうに笑う。確かにあっという間の、見とれてしまう早業だった。
しかしのんびりしてはいられない。
「次、来ます! 南からまた2頭……、西からも2……、いえ3頭です」
言い終わる頃には、南からはすでに地響きがしていた。
「これはやる! ウェイン、ミア、そっち頼む!」
「おう、任せろ」
「はい!」
私は西に集中して探る。
「ウェイン様、先に1頭、少し遅れて2頭です!」
「よし嬢ちゃん、後ろのを頼んだぜ」
すでに地響きと咆哮が近づいている。
私は目をこらし、3頭が見えたところで、後ろの2頭に向けて魔法を放った。
「雷(いかづち)!」
それはギガントベアの脳天を直撃し、そのまま動かなくなった。
振り返ると、先頭のは既にウェイン様が倒したところで、カイン様たちもこちらを見ている。
「あと2頭は?」
「雷で動けないと思います」
「よし、行くぞ」
3人が駆け出して行き、すぐに戻ってきた。
「流石だね、ミア。1頭は雷だけで倒してた。もう1頭も当分動けそうになかったから、トドメを刺すのも楽だったよ」
エリス様が嬉しそうに言ってくれる。
「さて嬢ちゃん、ひとまず7頭、処理頼めるか?」
魔物討伐の際、倒した骸をそのままにしておくと、いずれ霧散する。しかしそれまでに他の魔物を呼んでしまうし、散った魔物はまたいずれ凝(こご)って新たな魔物のもとになる。
だから可能な限り、浄化したり燃やしたり、魔法で骸を片付けることになっている。大量に討伐するときは、そのために魔導師を増員したりするのだ。
私は浄化の呪文を口の中で唱えながら、掌を上に向ける。飴玉ほどの小さな光の珠が7つ浮かび上がって、ギガントベアの骸に向かって飛んで行き、吸い込まれるように消えた。骸はカッと光を発し、地面の血だまりと一緒に消えていった。
「早ぇ……」
グリフ様が呟いた。見ると、他の3人も驚いた顔で私を見ている。
「グリフ様?」
「いや、7体をいっぺんに、こんなに早く処理したのは初めて見たぜ」
「……そうですか?」
エリス様が頭を振って言った。
「グリフ、もう慣れよう。ミアの魔力は桁が違うんだ。いちいち驚いてたら僕らが疲れるだけだ」
カイン様もウェイン様も深く頷く。
自覚のない私だけが首をかしげていた……。
その後もギガントベアは何頭か現れた。単独で現れる限りは騎士様達があっという間に倒してしまうので、私は方向を察知して、後は処理をするだけだった。
ちなみに初めてウェイン様が剣を遣うところを見た。派手さはないけれどひとすじの無駄もない、最小限の動きで見事に急所をつく、そんな剣さばきだった。
「これで14頭か? 確かに多すぎるぞ」
「このくらいの森で、やっぱり異常だよ」
新たな2頭を私が浄化している間に、カイン様達が話し合う。
朝一番で森へ入ってから既に14頭を倒し、そろそろ日が傾いてきた。もう森を出るべき時間が迫っている。
「でもなんかすっきりしねえな……」
「ああ、原因らしいものがないんだよな」
カイン様が辺りを見回して決断した。
「どっちにしても、今日はこれで撤収する。森を出てから話し合おう」
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