魔導師ミアの憂鬱

砂月美乃

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41・新たな依頼 上

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「よし、じゃあ行くか」
村長さんと村の人達に見送られ、私たちは王都へ戻るため出発した。

 今朝早く、王宮の連絡に使われる大きな白い鳥が村へやってきた。カイン様が陛下に願って使わせてもらったもので、至急戻るよう書いてあった。こちらのほうは、巡回の騎士を増やして注意させるから、と。

 見送る人影が遠くなると、私は魔法で追い風を使い、馬のスピードを上げさせた。2頭の馬は行きはまる1日かけた道のりを、文字通り風のように駆け抜け、午後には王都モルシェーンに到着していた。

 帰りはグリフ様の馬で戻った私に、町の人はまた騒いでいたけれど、のんびり応えてはいられない。カイン様がわざわざ使いをたてたということは、それ相応の理由があるはずだ。
 私たちはそのまま「勇者の館」へ戻った。


 館にはエリス様がいた。
「ああ、早かったね」
「ミアの魔法を借りてな……。で、どうした?」
「うん、すぐ次の討伐に出ることになりそうなんだ。……まあ、もうそろそろカインも戻るだろうから、話はそれからでいい。少し休んで?」


 ひとまずお茶をいれ、グリフ様達が防具を外したりしているうちに、カイン様が戻ってきた。早速話をきく。
「昨夜、ぎりぎりで陛下にお目にかかることができたんだ……」



 ◆◇◆

 もはや公務の時間は終えていたため、特に願い出て許された2人は、いつものサロンで国王と向かい合っていた。

「そうか、ギガントベアが14頭……」
カインから状況説明をうけた国王は、隅に控えていた男に何かを命じた。
「実はそのような不可解な大量発生が、最近多く報告されていてな……」
「本当ですか?」
すぐに男が戻ってきて、何か書き付けを手渡した。

「これだ。この1年と少しの間に、10件ではきかない報告が来ている。今回の討伐依頼も、わざわざそなたらに行ってもらうほどの内容ではなかったが、一度現状を見てもらいたかったのだ」
2人は頷いて書き付けに目を通した。

 特定の魔物の異常発生は、ここ1年3ヵ月ほどの間に、国の至るところで起きていた。その数、17件。魔物の種類もさまざまで、初めのうちは比較的小物が多いが、最近では大がかりな討伐隊が組まれる規模のものもあった。
 はっきり原因が分かるものは1件だけで、あとはすべて原因不明。一時的に大量に発生し、ある程度の期間が過ぎると潮が引くように数が減り、もとに戻る。

「町や村から遠いところで起きたものや、さほど害のない魔物の場合などは,報告されていない可能性もある。今回のギガントベアの場合も、もし村から遠ければ分からなかったかもしれない」
「ギガントベアはふつう森から出ませんからね」
「だが、行ってみて分かっただろう? 自然災害も、気候の変化も見られない。餌や天敵の数もとくに変わった様子もない」
「そうですね。……なのにいきなり特定の魔物だけが急増しています」
国王は深刻な顔で頷く。
「その通り。明らかに異常な事態だと言える」
2人も頷き、一礼して同意をしめす。

「そこで頼みたいのだ、カイン」
「はい、陛下」
「この件、そなた達に任せたい」
「任せる、とは……?」
カインは国王の言葉を待つ。エリスも黙ったまま謹聴の姿勢だ。

「この件について調べ、できることなら原因を突き止めて解決してほしい。それに伴って、今後新たにおきる異常発生にも、そなた達にあたってもらう。討伐に必要なら、城の騎士や魔導師を出して構わん。どうだ、受けてくれるか?」

 カインはエリスと顔を見合わせて頷く。姿勢をただし、カインが一礼する。
「確かに、承りました。カインと配下4名をもってこの任に当たらせていただきます」
国王は安心したように頷いた。



 ◆◇◆

「と、まあこういうわけだ」
カイン様は話し終えてお茶を飲んだ。私たちはカイン様が陛下に断って写しをとってきた、例の書き付けを覗き込む。

「シルキーモルモットからブラックサラマンダーまでか。……本当に、魔物の種類もレベルもばらばらだな」
「発生場所も、東西南北すべてに、国内まんべんなく散ってる感じだよね」
それぞれ思ったままを口に出していく。するとウェイン様が聞いた。

「おい、書き付けにはないが、それより前には一件も起きてないのか?」
「昔から、何年かに一度、何らかの原因があっての異常発生はあった。ただ、だいたい原因がはっきりしているものだけだ。今回のようなのが続きだしたのはここからだ」
「……何が起きてるんだ? お前ら、この中のどれか、討伐に加わってないのか?」

「……ああ、オレこれは行ったぜ? ゴーレムキャット。すげえ数だった」
グリフ様が顔をしかめた。
「思い出した。この時は、腕力自慢と魔導師ばかり、かき集めて連れて行ったんだよね」
「それでもあの数は尋常じゃなかったぜ。あの時の剣は使い物にならなくなった」

「ゴーレムキャットって、見たこと無いんですけど……。岩で覆われた、猫というより虎ぐらいの……ですよね?」
「そう! それが、岩山を埋め尽くすようにいるんだ。気持ちわりいの何のって……」
「……ちょっと待って、それ……変じゃない? ゴーレムキャットがそんな密度でいたら、普通はとっくに共食いが始まっていそうなものなのに……」
「あれ……? そういや、そんな様子はなかったよな……」

 エリス様が考えこんだ。
「群れないギガントベアが、2頭、3頭で襲ってきた。……共食いすることで知られたゴーレムキャットが、あり得ない密度で共存する……。何かがおかしいんだ」
カイン様がそれを聞いて、もう一度書き付けを見る。
「ゴーレムキャットの出た岩山はそれほど遠くない。明日、調べに行ってみよう」



 ◆◇◆

 王宮の北東側に、王宮専属魔導師の住む一画がある。1人に1戸ずつ与えられる寮のような部屋は、居間に寝室、小さいながら作業部屋つきで流石に待遇が良い。
 その奥まった一部屋の寝室で、昼間から男女が絡み合っていた。

「ああ、いい……! ねぇ、もっと激しく……!」
「……こうですか?」
男が腰を叩きつけるように振ると、女は派手に乱れる。
「あああ……! そう、そうよぉ、ああイクぅ!」
「うう! ああそんな、締め付けたら! 僕もイキますっ!」

 その瞬間、女の身体がふわっと光った。

 カーテンを閉ざした暗い部屋で、しばらく息遣いだけが響いて、やがて静かになった。
 女は艶然と笑う。
「とっても良かったわ、可愛い貴方。……また来て下さる?」

 男はまだ大人になったばかりのようで、女よりかなり歳下に見える。
「もちろんです! 貴女がそうおっしゃるなら、いつでも参ります、サラ様!」


 男が部屋を出ていった後、魔導師サラは一言、
「へたくそ……」
と呟いた。

  

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