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48・予定変更 下
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「カイン、ちょっといい?」
宿舎の小さな食堂で、エリスがカインを呼び止めた。
ミアはグリフが自分の部屋に連れていき……ミアに封じさせたのだろう、物音一つ聞こえない。気にならないと言えば嘘になるが、毎晩のこと、しかもお互い様なので仕方がない。いつかのように妬いてしまうのも格好悪いし、さっさと休もうと思っていたところだった。
「どうかしたのか?」
「ミアのことで、さ」
エリスにしては珍しく、カインの反応を伺うようにする。
「何だよ、改まって」
「うん、これは必要かも知れないから伝えとく。昨日、ミアに……口でしてもらったんだけど」
カインは天を仰いだ。
「おいエリス、勘弁してくれよ。いちいち内容を……」
「違う、最後まで聞けよ。僕だって騎士になりたてのガキじゃない。意味もなくそんなこと言うもんか」
「……悪い」
「まあ、そう思われても仕方ないけど。……うん、それでミアが、口に出したのを……飲んだんだ」
カインは眉を寄せる。ほんの一瞬、激しい嫉妬が胸に沸き上がったのを感じたが……抑え込む。
いったい何が言いたいんだ……?
「そうしたら、ミアの身体が、いつもみたいに光ったんだよ」
「! そういうことか。精を受ける、ってのは口からでもいいんだな?」
「そう。ただ、ミアが言うには完全にはならなくて……半分ちょっとじゃないかって」
「それでも、緊急手段としては使える」
「うん、さっきコカトリスの話聞いて思ったんだ。いくら小さな魔物でも、全部浄化させたら個体数だけでも相当になる。1体当たりの魔力が10だとしても、500体もいたらあっという間に削られるからね」
「分かった、覚えておこう」
そこでエリスはニヤっと笑う。
「でも、グリフは問題外としても、カインだってミアの口は無理なんじゃないの?」
カインはふてくされたように言った。
「……いきなりは無理でも、慣らせばいけるだろう」
エリスの奴め。……やっぱりとっとと寝ればよかった。
◆◇◆
メロール湖は、比較的浅い、湿原と言ってもいいような湖だった。メロール村の漁師は小さな手漕ぎの舟で沖へ出て、色鮮やかな淡水魚を捕ってくる。
ところがここ3日ほど、岸に突然サイクロプスが現れて漁師を襲い、魚を奪っていくようになった。そもそもサイクロプスは森の奥で暮らし、湖の方まで出てきたことなどなく、魚を食べるとも思われていなかったという。
「だいたいこの森のサイクロプスは、年に1度か2度目にするくらいで、こんなに沢山出てきたことなんかないです。しかも自分から襲ってくるなんて……」
村長も首をひねるばかりだった。
朝早く、さすがに村の漁師も今日は漁を休んだ。かわりに私たちが湖畔へ続く道を歩いていく。道が木陰に入ると、木々の向こうから重い足音が聞こえてきた。
「……来るね」
全員頷いて、打ち合わせた通りに散った。
サイクロプスの大きな足が、湖畔の道に踏み出した。身体はギガントベアよりひとまわり大きいくらいだけれど、ひとつ目ゆえか頭はさらに大きい。そのひとつ目をぎょろぎょろと動かしているのは、おそらく漁師の舟を探しているのだろう。
ゴオオッ!!
突然激しい風が吹いて湖畔の木々を揺らし、大量の木の葉がサイクロプスの目をめがけて飛んでいった。もちろん私のしたことで、大きな目を塞がれたサイクロプスは立ちすくむ。
その隙を逃さずにエリスとウェインが駆け出して、足の腱だけを切り裂いた。さすがの巨体もこれではバランスを崩し、膝をつく。
「よっしゃあ!」
そう言って跳んだのはグリフで、膝をついたサイクロプスの首をなで切る。同時にカインもその背にとび乗り、後ろから心臓を突き通した。
ズズ……ン!!
地響きをたててサイクロプスが崩れ落ちた。
湖畔から森の中を探索し、また湖畔へ戻り、今度は岸にそって移動した。その間倒したサイクロプスは12体。
漁師が狙われるので1体たりとも残したくないが、そろそろ時間も迫っていた。
「しばらく出てこないが……あれで最後でいいのか?」
「そう願いたいね」
「日没まで時間もない。このまま道に沿って戻ろう」
結局、それ以上のサイクロプスは出現しなかった。私達はメロール村へ戻って相談し、明日の朝出発して、コカトリスの発生したイガル平原へ向かうことにした。
その夜のカインがまた、ものすごく激しかった理由は……私には分かりません……。
◆◇◆
王宮の専属魔導師の住まう棟の奥まった一室、魔導師サラの部屋。その扉がそっと開いて、いつかの若い男が顔を覗かせた。辺りに人影がないのを確かめて、幸せそうな顔で足早に戻っていく。
部屋の中では、魔導師サラが早くも身仕舞いを整えて立っていた。その表情はとても、若い恋人と逢い引きをしたばかりのようには見えない。
「さあ、次は……、どこがいいかしら……?」
サラの机には、この国の地図が広げられている。そのところどころにはしるしがつけられていて、美しく整えたサラの指がたどっていく。
メロール湖、イガル平原ときて、その後サラの指が印をつけたのは……、海沿いの街、ナーシュだった。
◆◇◆
「カイン、ここからイガル平原は、どのくらいかかるの?」
4人に「様」をつけなくなったことと、移動や戦う時間が多くなったことで、いつの間にか私からも、敬語が減ってきていた。もちろん誰もそんなことは気にしていないけど。
「どうやっても明日いっぱいはかかるだろう。おそらく他の騎士に魔導師の到着も、早くてそんなものだろうから……そんなに急いでも仕方がない」
「馬のためにも少しゆっくり行くからね」
「はい」
メロール村を出発し、私達は南に向かって進んで行った。
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