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49・移動中のこと
しおりを挟むメロール湖からイガル平原まで、まる2日間。
そんなに長い時間をひたすら移動するのは初めてだった。打ち合わせや作戦を練ったりもしたけれど、基本的には、ひたすら黙々と馬を走らせて移動するしかない。カインのもとへ来てまだそれほどたっていないけれど、そんな沈黙も気にならなくて心地よい。
それでも、交代で馬に乗せてもらいながら、それに疲れたときはまた魔法で移動しながら、たくさん話をした。
外で火を起こしての食事も、さすがに皆慣れていて手早い。
「ミアは座ってていいよ」
と言われて、つい甘えてしまった。干した野菜や肉に大麦を入れたスープがとても美味しかった。そう言うと、騎士の野営で必ず作る料理だと教えてくれて、
「僕らは毎度同じで飽きてたりするけど、ミアが喜んでくれて嬉しいよ」
エリスが嬉しそうに笑った。
イガル平原へ向かう途中には、町や村はない。少し北へまわればあるけれど、幸い気候も良いので野宿となった。私にはテントを用意してくれて、4人は交替で番をしながら焚き火の周りで休んだようだ。
カインたち4人にとっては、いつもと同じ騎士の任務に過ぎないのかもしれない。けれど私にはすべてが初めてで楽しかった。
「もう2時間もすればイガル平原だが……。夜の到着は何かと問題だな」
翌日、木々がまばらで夕陽が差し込む林を抜けつつ、カインが提案した。
「今日はこの辺で休んでおいて、明日早めの出発で合流しないか」
全員が賛成し、野営の準備をした。近くに水場も見つけて、4人は交替で水を浴びにいく。私は昨夜も今日もテントの中で、魔法でお湯を使うので問題ない。
「ミア」
カインがそっと、私を呼んだ。他の3人に声が聞こえないよう、声を潜めて聞く。
「昨日と今日で減った魔力は……チャージしなくて問題ないのか? 」
「う……」
咄嗟に声が出ない私。移動もなるべく馬に乗せてもらって、お湯を使うとか最低限に抑えていたけれど……。それでも1000以上は減っている。コカトリスの話を聞けば、フルチャージしておきたいところだ。でも……。
「さすがにテントじゃ無理だよな?」
「や……、無理です、そんな」
思わず一歩後ずさり、首を左右にふる。カインはひとつ頷いた。
「ならいい。とりあえず飯にしよう」
食後、カインはエリスを呼んで、何かひそひそ話し合っていた。するとエリスが私を手招く。
「ミア、ちょっと付き合って?」
「え?」
「今日は月が明るいし、行ってみたいとこがあるんだ」
そして私を馬に乗せて走り出した。
ほんの数分だったけれどかなり速く走ったので、私はエリスにしがみつくので精一杯だった。エリスが私を下ろしたのはそれほど高くはない崖の下で、小さな洞窟が口をあけている。
「ここだよ」
エリスに手を引かれて入ってみると、中は別に探検するほど広くもなく、すぐに行き止まりになっていた。手前の方は月の光が入り、明かりがなくても思ったより見える。
「エリス、ここは……?」
「前にこの辺りに来たときに見つけたんだ。……ここならミアと二人きりになれるかと思って」
「……え?」
思わず振り仰ごうとするのと同時に引き寄せられ、エリスの腕に包まれていた。
「昨日も君に触れられなかったし、向こうへ着いてしまったらもっと分からない。……そんなにお預けされたら、僕がおかしくなるから」
「エリス……」
エリスが私の頬を両手で包んで、私を見つめる。そのまま顔を傾けると、月光を浴びて輝く銀の髪がさらりと私にかかる。
「ミア……」
優しく唇を噛むように、何度も何度も角度を変えて口づけられる。次第に深くなる口づけに、気がつけば夢中になってエリスにしがみついていた。
エリスがマントを外して下に広げ、私を座らせた。
「え、エリス……、あの、ここで……?」
「大丈夫、誰も来ないよ」
もうローブの上からやわやわと胸を揉みながら、エリスが私をそっと押し倒す。
「あん、でも……外、なのに」
「誰も来ないから……。だめ、もう我慢できない……ミアが欲しい」
そしてまた激しく口づけながら、胸元を開いていく。
「んん、んっふぁ……」
耳を甘噛みされ、唇が喉を伝い、首筋をなぞり……。毎夜抱かれることに慣れてしまった私も、すぐに快感に流されてしまう。
開いた胸に両手をかけて、エリスが聞いた。
「どうする、やっぱりやめる?」
ああ、その顔は知ってる。分かってるくせに……。
「……いや、やめないで……」
エリスが唇の端で笑った。
「喜んで」
そして胸に顔を埋める。
「ああ……っ、エリス……」
洞窟に、私の声が響いていた……。
◆◇◆
そのころ、焚き火の側では。
ウェインが先に休むことにし、カインとグリフが小声で話をしていた。
「……明日の様子によっては、さすがのミアでも魔力が切れるかもしれない。……他の魔導師も、まあ条件は同じだが……」
「だな。他の魔導師だって、皆が皆すぐにチャージできる奴とは限らないだろ?」
カインは頷く。
「呪文や食べ物とかですぐチャージできる奴はいい。何度でも回復してもらって、ひたすら働かせてやるさ。あとは、ミアじゃないが、人前ではできない奴と、チャージ方法が朝日とか雨とか、こっちでどうにもならない奴らだな。……そういう奴らは、逆に倒れないうちに止めてもらわないと、かえって面倒だ」
「王宮からきた魔導師は、大抵大丈夫だろ。なんたって自分が一番大事な奴ばっかりだからな。……オレが思うに、問題はミアだぜ?」
グリフが眉をひそめる。
「ミアはさ、おそらく現場の状況みたら手を抜けなくなっちまうと思うんだよな」
「俺もそれが心配だ。……だがおそらく、明日は俺達が全体の指揮もとることになるだろう」
「カインは無理だな。オレとエリスのどっちかだけでも……」
「だとするとエリスだ。明日はエリスにミアについてて貰うか」
そこでグリフが少しむくれる。
「なんでエリスなんだ? オレじゃなくて」
「あ」
カインがそこで初めて気がついた。
「すまん、言ってなかったことがある……」
そしてグリフに、メロール村で聞いたエリスの話を聞かせる。
「そうか……。口で……、クソ、それはオレとおまえには無理だな……」
「……俺は慣らせば何とかなるかと……」
グリフはむきになったようにカインを睨む。
「無理に決まってんだろ!? だいたい下のほうだってミアのキツいことといったら……」
「ああ、最初の晩は辛そうだったな」
「オレなんか見ただけで泣かれたぜ?」
「それはいつものことだろう」
話が妙な方向へズレかけたところで、もう1人の声がした。
「お前らなぁ……。毎晩そんな話しやがって、俺だってまだ枯れちゃいねぇんだぜ、まったく……」
ウェインが起き上がって、座り直しながら呟く。
「次の街寄ったら、娼館でも行くかな……」
「すまん、起こしちまったか? って、……どっから聞いてたんだよ、ウェイン」
「……『なんでエリスなんだ』のあたりか」
胡座をかいたウェインに、2人とも脱力する。
「ほとんど全部じゃないか……」
ウェインは残っていた酒をあおって、ニヤリと笑う。
「ま、聞こえちまったもんは仕方ねえ。ついでだから聞くが、仮に嬢ちゃんがお前らの言いなりになるとしても、そこまでしてチャージして、続けさせようってのか?」
言い終える時にはもう笑っていない。カインも真面目に答える。
「もちろんそんなつもりはない。今のは、むしろ俺達が止めそこなって、ミアが魔力切れになったら……の話だ」
「そういうことなら、理解した。……なら、明日は俺が嬢ちゃんについてやる」
「ウェイン?」
「聞け。指揮官としてのお前ら3人は、揃って戦ってこそなんだ。エリスの的確な状況分析をもとにカインが決断し、最善策を指示する。それをグリフが、全員の士気を高めて間違いなく実行させる。そのためには、嬢ちゃんにエリスをつけたんじゃ駄目だ。……たとえ任務が『コカトリス掃討』でもな」
「…………」
「心配するな、嬢ちゃんがやり過ぎるようならすぐ知らせるさ」
「分かった。……ありがとう、ウェイン」
「礼を言う必要はねえ。俺も嬢ちゃんも、チームの一員だ」
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