魔導師ミアの憂鬱

砂月美乃

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59・クラーケン討伐 上

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 翌朝。
「!!」
目が覚めたら、グリフの上に乗っていた。

 宿舎のベッドは当然一人用のサイズで、グリフは自分だけでも既にいっぱいだ。昨日私の部屋に来たグリフは、終わっても戻らないと言って、狭いベッドに無理やりくっついて寝た。
 で、たぶん無意識に、私を潰さないようにしてくれたんだ……とは思うけど。いくら体格差があるとはいえ、さすがに重いんじゃ……? 下りようか、でも動いたら起こしてしまうかも? 

 いかついグリフだけど、目を閉じていると厳しい表情が和らいで、整った顔立ちがはっきり分かる。
 そんな寝顔に見とれていると、一瞬瞼が震え……、グリフが目を覚ました。琥珀色の瞳が私を見て、ふっと細められる。
「おはようございます、グリフ」
「ああ……、おはよう」
そしてそのまま引き寄せて口づけられる。軽い口づけが何度も繰り返され、心地よさに吐息をもらすと、下のほうに違和感が……。

「!」
それが何か分かって顔を赤らめた私を口の端で笑い、寝衣の裾をさらりと捲りあげられた。ちなみに私は寝衣を着てから寝たけれど、グリフは全裸のままだ。
 捲った手がそのままお尻を撫で回し、腰を掴む。
「え、グリフ!? や、待ってダメ!」
何をするつもりか分かって、慌てて身を捩るもかなう筈もない。あっさり腰を持ち上げられ……グリフのものが入ってきた。

「あぁっ!」
口づけだけで、半分くらい準備が出来てしまっていた私だけど、さすがに少し苦しくて、眉を寄せてしまう。
「悪い、キツかったか?」
「あぁ……、もう、グリフ……。朝なのに」
「まだ大丈夫だろ」
「あ、だめ……、はぁん……!」
グリフが私をゆっくりと揺らしはじめ、私はもう何も言えなくなってしまった……。





 身支度を済ませて食堂へ行くと、ウェインがこの町の魔導師、ヒューリ様と話していた。
 見たところウェインと同じくらいの年配だろうか、日に焼けた肌とたくましい体で、魔導師というよりは漁師さんのようだ。後で聞いたら、暇な時は本当に船に乗っているという。

 カインとグリフも加わって、朝食を取りながら話しあう。
 ヒューリ様が張っている結界は、町全体を覆うものではなく、魔物が入り込みそうな部分に線を引いているようなものだとか。だから、岬からは魔法が使えたが、結界を解除してもらわないと、湊や浜辺からは使えない。

 とりあえず昨日のように、岬から魔法で攻撃することにした。
「クラーケン本体に、魔法で止(とど)めができればそれで問題ないんだがな。最悪の場合、周りのやつらを一掃してから船を出してもらわなくてはならない」
するとヒューリ様がこともなげに言った。
「わけもないことです。皆さんが来てから、漁師たちの士気は上がりっぱなしですからね。船の一艘や二艘、すぐに出せますよ」

 それからヒューリ様は私に聞いた。
「ミア殿、もし差し支えなければ、貴女が魔法を放つところを見せていただきたいのです。私も岬へ同行して構いませんか?」
ちらりとカインを見ると、頷いてくれた。
「ヒューリ師がよろしければ、どうぞご一緒においでください。私はあまり他の魔導師の方と交流がないので……、ぜひご指導をお願いします」


 通り道なので、まずは湊に寄って様子をみていくことになった。
 町長を通して、町の人には岬へは来ないでくれるよう頼んであったせいか、かなりの人が湊で私達を待ち受けていた。
「ミア様、頑張ってください!」
「勇者様、よろしくお願いします!」
そんな声があちこちからかけられる。それをヒューリ様がうまく捌いてくれた。

「うーん、やっぱり増えてるかね」
「ああ、でも昨日ほどの数ではないだろう」
湊から見た限りでは、昨日のように海面が黒くなっているということはなさそうだ。
「ヒューリさんよ、もしここから船を出すと、クラーケン本体まではどのくらいだ?」
ウェインが訊ねると、ヒューリ様は近くにいた屈強な男性を手招きした。
「この辺りの漁師の親方です。エド、質問に答えてやってくれ」
エド親方の話によると、親方の船なら半時間ほどでいけるという。
「うちの若い奴らを呼んで、力一杯漕がせますよ。そうすりゃあんな化け物にも負けませんて」
力強い親方の言葉に、カインはもしもの場合に備えて、人を集めておいてくれるよう頼んでいた。


 岬へ向かう道で、私はヒューリ様に相談する。
「雷を直撃と思っていますが……。それとも風の刃で切れるでしょうか?」
「……私の属性ではないので、定かではありませんが。やはり最初は雷のほうが効くのではありませんか? そして弱って防御力も下がったところでなら、切れるのでは?」
「ああ、確かにそうですね……」

 ヒューリ様の属性は光。荒くれ漁師の多いこの町では、医者に行くか、軽い怪我ならヒューリ様に回復してもらうか、なのだという。

 岬の上から見下ろすと、昨日減らした後よりも、また4割ほど増えたように思われた。
 本体は後回しにして、また周りの小クラーケンから攻撃する。ヒューリ様は私の魔法を妨げないようにと、数歩下がって見ていたけれど、金色の光の珠が大量の小クラーケンを攻撃し浄化させるのを見て、言葉もない様子だった。そんなに驚かれるとは思わなかったが、今はそれよりもクラーケンだ。私はカインと相談して範囲を絞り、本体以外をなるべく効率よく倒していった。


 数回の魔法で、クラーケン本体の周りがかなり空いた。コカトリスの時ほど乱発していないので、魔力もまだまだ大丈夫だ。
「ミア、頼む。思ったようにやってみてくれ」
「はい!」
小クラーケンがほぼ片付いたいま、私に見えるのは……黒い小島のようなクラーケン。海上に出ている部分には特に弱点もないらしいので、私はまず、敢えてさほど大きくない雷を落としてみた。

 一転、暗雲が立ち込めて雷鳴が轟く。
 ビシャーン!!
 稲妻はクラーケンのど真ん中に突き刺さった。クラーケンの体がわずかに跳ね、8本の触手が揺れる。海面は大きく波立った。
「……効いてますね、確かに」
後ろからヒューリ様に言われ、私は頷いた。

「……ヒューリ師、湊の結界は高波も防ぐことができますか?」
「……は?」
私の問いの意味をつかみかねて、ヒューリ様が口を開けた。
「あの、今もああして波立ってますよね? さらに攻撃を重ねて、もっとクラーケンが暴れたり、ひょっとして湊に近づきすぎたりしたら、と思ったんです」

「……ああ、なるほど。おっしゃる通りです、結界も強化できますが、それよりもその可能性を知らせておきましょう」
そう言ってヒューリ様が身軽に下りて行こうとするのを、グリフが制した。
「いや、オレがひとっ走りして、湊から離れるよう言ってきます。ヒューリ師はここで、ミアを見てやって下さい」
そして大きな体で軽々と駆け下りていった。

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